遺留分がいくらになるかは、何を計算に入れるかで大きく変わります。亡くなった時点の財産だけを見ればよいわけではなく、生前の贈与も加え、債務は差し引きます。一方で、遺産のように見えても計算に入らないものもあります。この記事では、何が含まれ、何が含まれないのかを整理します。
1. 遺留分の計算の全体像
遺留分の金額は、次の順で計算します。
- 計算の基礎になる財産を確定する
(亡くなった時点の財産 + 加算される生前贈与 $2212 債務) - その金額に、ご自身の遺留分の割合をかける
- ご自身が受け取ったものを差し引く
(遺言で受け取った財産、ご自身が受けた生前贈与、遺産分割で取得する分)
この記事で扱うのは、主に1の部分です。割合については、早見表の記事をご覧ください。
2. 計算に含まれる財産
亡くなった時点で被相続人が持っていた財産は、原則としてすべて含まれます。
- 不動産(自宅、賃貸物件、土地)
- 預貯金、現金
- 株式、投資信託などの有価証券
- 自動車、貴金属、美術品
- 貸付金などの債権
- ゴルフ会員権、事業用の資産
遺言によって特定の人に渡ることになっている財産も、計算には含まれます。遺言で誰かのものになったから計算から外れる、ということはありません。
3. 計算に含まれない財産
遺産のように見えても、計算に入らないものがあります。
死亡保険金 保険金は、受取人として指定された人が、自分の権利として受け取るものです。被相続人の財産ではありませんので、原則として計算には含まれません。
ただし、保険金の額が遺産の総額に比べて著しく高額で、相続人の間の不公平が大きい場合には、例外的に特別受益に準じて扱われ、計算に含まれることがあります。金額の大きい保険がある場合は、検討の余地があります。
死亡退職金 勤務先の規程によりますが、受取人が定められている場合には、その人固有の権利とされ、計算には含まれないのが通常です。
香典 喪主に対する贈与とされ、含まれません。
祭祀に関する財産 墓地、仏壇、位牌などは、通常の相続財産とは別に承継されますので、含まれません。
遺族年金 受給権者固有の権利ですので、含まれません。
4. 加算される生前贈与
ここが、遺留分の計算で最も争いになる部分です。亡くなった時点の財産だけでなく、生前に渡された財産も加えます。
相続人以外への贈与 相続開始前の1年間にされたものが対象です。
相続人への贈与 相続開始前の10年間にされた、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本としての贈与が対象です(民法1044条3項)。住宅の購入資金の援助、事業資金の提供、不動産の贈与などが典型です。
期間の制限を受けない場合 当事者の双方が、遺留分を持つ人に損害を加えることを知って行った贈与は、この期間の制限を受けません。
著しく低い価格での売買 実際の価値より著しく低い価格で財産を譲った場合、当事者の双方が損害を加えることを知っていたときに限り、贈与とみなされて計算に含まれます。
「もう何年も前のことだから関係ない」とは限りません。預貯金の取引履歴を長期間さかのぼることで、贈与が見えてくることがあります。
5. 差し引く債務
被相続人が負っていた債務は、計算の基礎から差し引きます。
- 借入金、住宅ローン
- 未払いの医療費、施設の利用料
- 未払いの税金
注意していただきたいのは、債務は個別の財産から差し引くのではなく、基礎となる財産の全体から差し引くという点です。たとえば自宅に住宅ローンが残っている場合、自宅は時価で評価したうえで、ローンの残額は債務として全体から控除します。
なお、葬儀の費用は、被相続人の債務ではありませんので、差し引きません。相続が始まった後に生じた費用だからです。ここは誤解の多い点です。
6. ご自身が受け取ったものは差し引かれます
計算の最後に、ご自身が受け取ったものを差し引きます。遺言で受け取った財産、ご自身が生前に受けた贈与、遺産分割で取得する分です。
ここで注意が必要なのは、基礎財産に「加える」場面と、ご自身の取り分から「差し引く」場面とで、期間の制限が違うという点です。加える場面では相続開始前10年という制限がありますが、差し引く場面にはこの制限がありません。何十年前の贈与であっても、金額が判明すれば差し引かれます。
→ この違いについては、特別受益の記事で詳しく説明しています
7. 評価はいつの時点で行うか
財産の価額は、相続が開始した時点で評価します。遺言が書かれた時点でも、現在の時点でもありません。
不動産については、相続税の申告で使う路線価や固定資産税評価額ではなく、実際の取引価格(時価)で評価します。この違いによって、相続税の申告書に記載された金額と、遺留分の計算に使う金額が食い違うことがあります。
生前に贈与された財産も、贈与された当時の価額ではなく、相続開始時の価額に引き直して計算します。
8. ご相談ください
何を計算に入れるかで、請求できる金額は大きく変わります。特に、生前の贈与を見落とすと、本来受け取れるはずの金額を取り逃がします。
相手方が財産を把握していて資料を出さない場合でも、預貯金の取引履歴の取り寄せ、不動産の名寄帳、弁護士会を通じた照会など、調べる方法はあります。
当事務所では、遺留分に関する無料相談を行っています。夜間のオンライン相談にも対応しています。
9. 2019年より前に始まった相続について
2019年7月1日より前に開始した相続については、改正前の民法が適用され、「遺留分減殺請求」という制度になります。この場合は金銭の支払を求めるのではなく、贈与や遺贈の効力そのものが失われ、不動産などが共有になることがあるという違いがあります。なお、相続人への贈与について10年という期間の制限が設けられたのは改正後の制度ですので、旧法が適用される場合は扱いが異なります。
遺留分の事件では、着手金はご依頼をお受けするときに、報酬金は解決して金銭をお受け取りになった後にお支払いいただきます。相手方から回収して初めて支払の原資ができるという事件ですので、費用の立て方についても、ご相談の際にあわせてご説明しています。
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