財産分与

離婚したい方、離婚したくない方、いずれもが知っておくべき離婚の財産分与

離婚というのはニュースにもよく出てくる言葉ですが、離婚したら慰謝料を必ず女性がもらえるとか誤解もたくさんされているようです。特に、財産分与という制度はどういう制度であるのか、なかなか一般の方は知っていません。しかし、家事実務ではかなりルールが明らかになっており、調停でも訴訟でもしっかり立証することで正当な財産分与の支払いをしたり、受けたりという結果となります。そのルールについて判例を交えて弁護士が説明します。

よくあるご相談内容例

  • 離婚を切り出されて財産分与を請求されて・・・どうしてよいかわかりません。
  • 妻(夫)とは共有できるものがなく早く財産をもらって離婚したい・・・
  • 子どもが小さいのですが、財産分与はもらえるのか知りたい

Advantage | 財産分与における東京ジェイ法律事務所の強み

Advantage.01

離婚における財産分与で納得できる結果を実現しないと後悔します

結婚も離婚も、民法の制度で、実現するには手続法(家事事件手続法とか人事訴訟法です。)に従う必要があります。その制度の中で判例実務の積み重ねによって、公平な財産分与がなされる必要があります。公平な結論に至るには、双方が立証活動をする必要がありますが、そのお手伝いを経験豊富な弁護士がいたします。

Advantage.02

離婚の財産分与は、公平の観点からなされます

離婚についての財産分与の実務は、判例の積み重ねで作られています。よって、法にはほとんどルールは書いてありません。そのために、証拠による立証を丁寧に行ったり、証拠の開示を相手にさせたり、不動産関係の複雑な事案などは判例を参考にしたりして、公平な解決を目指していきます。専門的知識のある弁護士が代理人にならないと不利な結論になってしまうこともあります。

依頼者様との5つのお約束
  • Promise.01 解決したい方向に沿った財産分与
  • Promise.02 不利なこともお伝えします
  • Promise.03 離婚の財産分与の実務を説明
  • Promise.04 人生を決めるサポートをします
  • Promise.05 和解的解決でスピーディに解決

1 財産分与とは? 離婚するとき財産分与をもらえるといいますが、どうしてですか?

これについては、法制審議会の決定が現在の実務の考えをあらわしています。

実際には、法改正はされていませんが、「民法の一部を改正する法律案要綱」の関係でなされた、1996年2月26日法務省法制審議会の総会での決定が、以下のように財産分与についての考えを明らかにしました。

「家庭裁判所は,離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため,当事者双方がその協力によって取得し,又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度,婚姻の期間,婚姻中の生活水準,婚姻中の協力及び扶助の状況,各当事者の年齢,心身の状況,職業及び収入その他の一切の事情を考應し,分与させるべきかどうか並ぴに分与の額及び収入方法を定めるものとする。この場合において,当事者双方がその協力により財産を取得し又は維持するについての各当事者の寄与の程度は,その異なることが明らかでないときは,相等しいものとする。」という決定内容です。

現状の家庭裁判所の実務での財産分与の関す考え方はここによく表れているといえるでしょう。

つまり、その目的は「夫婦の財産上の公平のため」なのです。

たとえば、別居したとき預金がたまたま妻名義であったからといってそれを分けないのは不平等でしょうし、夫の名義で住宅ローンを組んでいて不動産は夫名義だがこれを売れば6000万円になり残ローンは2000万円以下である、というようなとき、夫がこのまま不動産をもらってしまってローンを払い続ければよい、というのも不公平ですよね。

つまり、夫婦が協力で得た財産を夫婦の寄与に応じて、いろいろな事情を加味して分けていきましょう、そのとき公平になるように分けましょう、という制度が離婚時の財産分与です。

実際には、検討される事情としては、債務の状況、夫婦の財産の利用状況、子の状況、離婚までの経緯も検討される事情となっています。

2 財産分与の意味

財産分与には、以下の3つの意味があります。

1)夫婦の協力で形成した財産の清算
2)離婚後の扶養の目的
3)慰謝料的意味

しかし、現状の実務での中心は清算的財産分与です。つまり、夫婦の協力で得られた財産をわけるというものです。

よって、今後夫が高い収入を得られるから、そこからお金をもらいたいと思っても、それは養育費という形でしかもらえません。

2番に書いた扶養目的というのは、離婚後に困窮する妻を経済的に扶養で助けるというもの、離婚の後の扶養義務があれば妻はかなり助かるでしょうが、日本ではこれは法的義務として認められていません。

そのため、財産分与においては、単に分けると不公平となるような場合には、扶養的な財産分与を認めて、妻に50%以上のものを与えるというようなことが、なくはないので、扶養が目的となることもあります。

しかし、これは判決・審判でそのような結果になることはまれで、むしろそのような妻にとって酷となる場合、離婚が認められない可能性があります。

代理人弁護士がいるような場合、夫の方に離婚が認められにくい場合に和解的に扶養的財産分与を提案して、裁判所の和解勧告がされるというように使われることが多いでしょう。

不動産の財産分与では。居住している住居を単独で取得させようとして、これら三種を一括して認めるような判決もありますが、例外的です。

慰謝料的財産分与は、現在の実務ではあまりみられません。

破綻の原因については、別途、離婚慰謝料が認められますので、財産を公平に分配するという財産分与制度とは別に考えるのが通常です(東京高裁 平成3年7月16日)。

判例では財産分与において慰謝料的な支払があれば重ねて慰謝料を払わなくてよいというものも、古い最高裁判例ですが、ありますので、ご紹介しておきますね。

これは、「裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては,当事者双方におけるいっさいの事情を考慮すべきものであるから,分与の請求の相手方が離婚についての有費 の配偶者であってその有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには,右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。」としています。

つまり、財産分与に慰謝料を含めてよいといっているのです。そしてそうしたときには、「さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰謝料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたっては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならない」としていて、二重取りにならないように気をつけないといけないということを「重ねて慰謝料の請求を認容することはできない」という言い方で説明しています(最高裁判所の判決 昭和46年7月23日)。

しかし、弁護士がいるような事案では慰謝料の請求はその立証をしつつ個別に損害賠償としてしますので、財産分与に含める必要がなく、含めてしまうといくらの損害賠償を求めるのかも不明となりますので、不適切でしょう。

もっとも、和解的解決の中では、慰謝料が本来あるので不動産全体を分与するべきである・・・など代理人弁護士が裁判所を説得する材料にはなりえると考えられます。

3 どうやったら、財産分与をしてもらえるのか(財産分与の手続)

財産分与って「どうやったらもらえるの?」と思っている方もいるでしょう。

まず、離婚調停で合意をして分与を決める方法がありますが、財産が多くて複雑な場合には離婚訴訟において判決で分与について決めてもらう、和解離婚の中で財産分与を合意するという二種が多いかと思います。

個人的には、財産が複雑である場合、調停か離婚訴訟において、きちんとお互いの主張を出し、担当裁判官の意見も聞きつつ調停離婚か和解離婚をするというのが最もよい方法だと思います。

しかし、離婚調停ではなかなか財産分与については整理して議論ができないことが多いので、どうしても複雑な事件は離婚訴訟で解決せざるを得ないでしょう。財産分与のために離婚訴訟になってしまう・・・・これは仕方がないことかと思います。

もっとも、財産分与は、離婚後の場合には、独立した「調停」(または「審判」)として申し立てをする方法もあります。離婚だけ先にしたい、子どもの親権のことを先に明確にしたい、財産分与の資料などは複雑になるので、離婚という争いのない問題を先に解決しておきたい・・・というような場合には、離婚を先行させて財産分与は審判で行うのもよいでしょう。

ただし、妻が夫より年収がかなり低いような場合、婚姻費用が養育費より高いことが通常なので、その妻としてのデメリットについては、きちんと検討が必要です。

まとめると、こうなります。

<財産分与の方法>

離婚前なら
1) 離婚調停(夫婦関係調整調停申立事件(離婚))において、付随事項として財産分与を請求する
2) 離婚訴訟を提起して、その訴訟に附帯して申し立てる

離婚後なら
財産分与の調停を申し立てる

4 離婚訴訟での附帯申立てとしての財産分与、いつまでできるのか

離婚訴訟で財産分与を求める場合には、「附帯申立」が必要です。

男性がどうせ自分はもらえないと思って、申し立てをしようとしていないことがあるのですが、よく聞いていると妻の預金のほとんどは夫婦のものであるというようなこともありますので、相手が財産分与の申し立てをしていないとき、自分がするべきかどうか、代理人弁護士ときちんと検討をしておくべきです。

最高裁判例(昭和58年3月10日)では、口頭弁論の終結までこの申し立てができるとされていますが、控訴審からの審理となると、家庭裁判所での時間をかけた丁寧な主張の整理や証拠の吟味ができませんので、おすすめできません。

また、審級の利益を失うという不利益もあります。どうしても高裁の審理段階で財産分与をもとめたくなっても、別に調停・審判の申し立てができるので、どうするのがよいのか、代理人の弁護士にアドバイスを求めるべきでしょう。

5 離婚訴訟で負けてしまうときに備えて、財産分与を求められるか?

離婚訴訟で被告となっている場合、離婚したくないけれど、もし離婚が認められたら財産分与や慰謝料がほしい・・・・ということはありますよね。

そういうときには、大丈夫な方法があります。予備的財産分与の申し立てという方法があるのです。

仮に離婚請求が認容される場合に備えて、予備的に申し立てをしておきますという方法です。

離婚の認容はされない!という自信がある人は、これを申し立てていないことが多いようですが、よくよく代理人弁護士とこの予備的申し立てをしないのが、訴訟戦略としてよいことなのか、検討をするべきです。

あくまで離婚を争いたい、離婚したくない・・・・という人は多いのですが、いつか再度の離婚訴訟が提起される可能性が高いですし、財産分与に関連する取引履歴などの資料が金融機関から取れないこともあるので、予備的申し立てがご本人にとって有益ということはあります。

もっとも、代理人弁護士としては、離婚が認容をされない方向で活動をしてくれと依頼されて、そのために訴訟活動をしており、それに加えて財産についても弁護活動をすることは負担でもありますので、ご本人が望んでいることとは異なるわけですし、こういう申し立てをしてくれないことが多いようです。

しかし、資料がなくなってしまうというリスクが深刻なので、弁護士とよく相談しましょう。

また、心理的に予備的にでも財産分与の申し立てをすることは、離婚を覚悟しているように見えてしまう!ということから、「嫌だ」というご本人の場合もあります。ですので、心境・気持ちとの兼ね合いもよく考えて進めないといけない点でしょう。

なお、財産分与の場合遅延損害金を請求しておく方が有利ですが、裁判例(京都地裁 平成5年12月22日)では、予備的財産分与の申し立ては、訴えではなく損害賠償を求めるのは訴えの提起によるべきことを理由として、反訴の提起がない場合に損害賠償としての遅延損害金を認めないとしたものがあります。

そうすると反訴を予備的に提起しつつ、財産分与も求めるというのが、もっとも安全な方法だといえそうです。

6 どのように、財産分与の申し立てをするか?何が欲しいと明記が必要か?

法的には離婚時の財産分与は、「審判事項」であり「非訟事件」というものです。

これの意味は、裁判所の裁量を使って形成的判断ができるということなのです。形成的判断というのは、結論を合理的に決めてしまうというような意味です。裁判官がいろいろな事情から妥当な結論を決めることができるので、財産分与では、裁判官の裁量が大きいといえるのです。

たとえば、100万円の貸金があるから100万円の返済をもとめる訴訟であれば、貸金の消費貸借契約が有効であって、返済が全くされていなければ、判決は誰が書いてもほぼ同じようなものになります。それはこれが訴訟事件であるからです。

しかし非訟事件では、裁判官によって結論が異なることがありえます。裁量が用いられるからです。

そのような訴訟のタイプであるので、財産分与を申し立てる場合、 分与を求める金額とこれがほしい!というようなことは特定をしなくてよいとされています。
「相当な財産分与をせよ」といった抽象的な申立てをしておけばよいということになっています(最高裁 昭和41年7月5日)。

そもそも、原告としては財産の資料をもっていないこともありますし、訴訟の中で、調査嘱託等で、資料が集まってくることが多いので、申し立て時点でこれとこれがほしいというようなことを書いてもあまり意味がありません。

いくらの金額がほしいというのも同様で、ローン金額とか預金額がわからないといくらが相当な分与になるか、わかりません。

なお、申し立てでは「マンションと200万円がほしい」という主張がされていても、裁判所はそれに拘束されずに、「3000万円を払え」という判決を下すこともできます。

法的にはこれは、「処分権主義が妥当しない」という言い方をします。

7 財産分与と不利益変更禁止原則

7-1 不利益変更ができるのか?

通常の訴訟では、第一審で1000万円を払えという判決で、被告が控訴しなければ、被告には不服がないので、被告にこれ以上有利な判決になりえません。控訴していない被告には不服がないので、原告にとってこれ以上不利益な変更ができないというルールがあるのです。

しかし、財産分与ではそのルールがありません。

控訴審判決では、被控訴人からの不服申し立てがないのに 1審よりも多額の財産分与を被控訴人に払うように命じることができるのです。

「裁判所は申立人の主張に拘束されることなく,自らその正当と認めるところに従って,分与の有無,その額および方法を定めるべきもの」であるというのが判例の考えです。これを、財産分与について「不利益変更禁止の原則の適用がない」といいます。最高裁がこれはすでに判断を下しております(最高裁 平成2年7月20日 )。

ですから、自分がすでに出された判決に納得していても、控訴されたとき、きちんと代理人弁護士を付けて相手の言い分に対して反論をだしたり、証拠を出しておくと、もっと有利な結果もありえるのです。妥当な結論にいたるまで裁判所は裁量をつかえるので、当事者にとっては終わるまで息を抜けない訴訟である、といえそうです。

7-2 申し立てた方の保有財産が多い場合にはどうなるのか?

財産分与を申し立てたけれど、相手方名義の形成財産が申立人名義の形成財産を下回る場合には、財産分与の申し立てが認められないだけなのでしょうか?

通常は弁護士がついていれば相手方が申し立てをするので、お互いが申し立てをすることになりますので、この問題はありません。

しかし、裁判所は、審理をつくせば、申し立てをした方に分与を求めることもできます。ですので、裁判所は誰が申立人でも審理を尽くして公平な分与を命じるというわけです。

7-3 分与しますという申し立てができるのか?(分与義務者からの申し立て)

「分与します」という申し立てができるかという点は、論点となっています。たとえば夫からしたら離婚訴訟ですべて解決したいので「相手方に分与する」と申し立てをしたいことがありますよね。後で、財産分与だけ申し立てられては面倒ですから。

これについて、裁判例は分かれています。人事訴訟法 32条1項の附帯申し立ては 訴訟事件とは異なって、分与の額および方法を特定する必要がないため、形成権限の発動を求めるものといわれていますので、財産分与をする者に対してその具体的内容は裁判所の裁量に委ねる趣旨で、分与する方からの申し立てを許してもよさそうです。

しかし、認めない判例が多いです。なぜ、認めないかという理由についてですが、それは、

① 財産分与の申し立ては、分与の具体的内容の形成を求めるものであるから財産分与を請求する者を申し立て権者として予定している
② その場合、分与の対象となる財産の内容・総額や財産の形成・維持に対する当事者の貢献の内容については、権利者から積極的主張・立証活動が期待できず、義務者が分与について不利な主張・立証はしないものと予想される
③ 裁判所が職権でそれを探知することは困難である

といった理由からです。

実際には、必要な場合には裁判官が示唆して権利者からの申し立てを促すことがされています。

7-4 有責性がある方が支払い額を明示するのはなぜ?

有責配偶者からの離婚請求という判断がされるかもしれないという場合に、原告が敢えて準備書面の中で、財産分与としてこれを分与するという記載をしたり、財産開示をすることがあります。

これは、原告にとっては離婚請求が信義則に反するものではないことのひとつの事情とするためであり、実効性があります。被告にとっても、離婚条件が示されている方が離婚について応じるかどうかの判断がしやすいことになります。

また、そういう記載があると和解勧試がされることも多く、円満解決がしやすいといえるでしょう。

8 いつまで財産分与は請求できますか?

財産分与ができるのは、離婚の時から2年以内です(民法768条2項ただし書)。これは、除斥期間といわれるものです。

ですので、何度払うように請求していても、そういう経緯に関係せず、2年で請求できなくなるので、その間に調停の申し立てをしておく必要があります。

離婚における慰謝料請求はこれとは別で、不法行為に基づく損害賠償請求ですので、消滅時効期間は3年です(民法724条前段)。

もっとも、財産分与の合意が錯誤無効であるような場合、新たに財産分与の調停・審判を申し立てることになろうが、そうなるとすでに2年経過しているということになってしまうでしょう。

そういうときには、時効の停止に関する民法161条を類推適用する余地があるといわれており、そのような判例も高裁ではだされています(東京高裁 平成3年3月14日)。

よって、10年のうちに支払いがなく執行もできないでいると、相手に時効の援用をされると権利の行使ができなくなります。もっとも、あまりに不当な相手で執行を逃れていたような場合、時効の援用が権利の濫用となって認められない可能性があります。

9 財産分与の対象となる財産とは?

日本の民法では、「夫婦別産制」が採用されています。よって、夫婦は各自の所得およびそれにより購入した不動産・預金などの資産、同居中自己の名で得た財産はすべて夫婦それぞれの一方の財産となります(762条)。そして、第三者との関係では、その名義人に帰属するものとされます。これを特有財産ということがあります。

ただ、離婚の実務では、分与対象とならない財産、相続財産などを「固有財産」とか「特有財産」と呼んでいます。財産分与において特有財産という場合、夫婦の共有財産として分与の対象から外れる財産のことです。

財産分与では、夫婦のいずれの名義であっても、同居中に夫婦が協力して形成した財産を実質共有財産と考えて、それを公平に清算します。

別居後に増えた財産は、夫婦の協力によるものではないので、清算の対象になりません。

特有財産の典型例は、親族から贈与された財産、相続財産、婚姻前から保有していた資産です。

珍しい判例がありますが、これは夫婦それぞれが作家、画家として活動していたケースです。ご紹介します。

各自の収入や預貯金を管理して、それぞれが必要な時に夫婦の生活費用を支出するという形態をとっていたことが認められ、一方が収入を管理するという形態や、夫婦共通の財布というものがなかったことから、婚姻中からそれぞれの名義の預貯金や著作物の著作権については、それぞれの名義人に帰属させる合意があったとされた事案です(土地建物があり、建物は共有であったが、土地建物は共有財産と認定されています。)(東京家裁 平成6年5月31日)。

ギャンブルで儲けた場合はどうでしょう?婚姻中に自分の小遣いで買った馬券が万馬券となってそれで不動産 (8000万円)を購入したという事案。財産分与対象がこの不動産しか存在しない、小遣いは生活費の一部として家計に含まれたもので、万馬券で購入した不動産を夫の特有財産とみるのは相当でない。その維持・管理に妻が寄与し、妻の扶養的要索を考慮して、不動産の売却代金の3分の1を分与させた例があります(奈良家裁 平成13年7月24日)。

不貞の慰謝料のようなものとして妻に渡された金員は、贈与税免除規定を用いており妻の特有財産となったとされています(大阪高裁 平成23年2月14日)。

10 著作権などの知的財産権も分与対象財産なのか?

著作権は著作者たる夫婦の一方の特有財産ともいえそうですが、清算的財産分与の対象としてよいのは、夫婦の一方の著作権の形成、創作活動に他方が寄与している場合であると、いえそうです。

他人の著作物の創作に際して「創作的に」寄与した者は、やはり著作者として疑いなく著作権の共有者となるのですが、経済的あるいは物理的に寄与した者は著作者にはなりません。特に、専業主婦の妻に夫の財産は著作権しかないというような場合には、算的財産分与の対象に著作権も入れるべきでしょう。

著作権の分与の方法をどうするかは、清算の対象として著作権の全部を譲渡する、一部を譲渡して共有としたり、支分権(著作権法21条以下)を譲渡する方法がありえます。

一部譲渡で著作権が共有となった場合には、共有者全員の合意によらなければその著作権を行使することができない(著作権法65条2項)ため、著作者たる分与する側の当事者にとって不利です。自己の創作した著作物の著作権を離婚した相手と共有することには精神的抵抗もあるでしょうから、これに代わる金銭を分与する方法が考えられます。

この場合は財産分与の判断の基準時は、財産分与の基準時となるでしょうが、著作者の生存中はまったく売れなかったがその死後ブームが訪れるということもあるので、その評価は簡単ではないでしょう。

11 夫婦が寄与している財産は、特有財産になるのか?

夫婦の協力によって形成された財産ではない場合、特有財産となりますが、他方配偶者がその財産の価値の滅少を防止したり、その維持に一定限度寄与した場合には、一定割合が分与されることが多いです。

夫が実父から贈与された借地権について、妻がその維持に寄与したとされて、その価格の1割につき分与の対象とした判例があります(東京高裁 昭和55年12月16日) 。

また、夫が自分の相続分を円満な夫婦関係を維持するため、遺産分割協議により妻に取得させた事案では、夫は自分の法定相続分の持分権を妻に贈与することによって妻の財産形成に寄与していたことから、夫の相続分を夫婦の財産分与での対象としたという珍しい事案もあります(東京高裁 平成5年9月28日)。

12 財産分与の対象財産をどうやって知るか?

財産分与の対象財産は、現金、預金、株式等、投資信託、不動産、債権、ゴルフ会員権など、解約返戻金のある生命保険、自動車、骨董品などのあらゆる種類の財産です。海外の資産なども含まれます。

通常、離婚訴訟では表計算ソフトで財産の一覧表にして整理していきます。

財産分与については職権調査主義が認められているので、裁判所が職権で調査をすることもできますが、夫婦の財産を裁判所が把握することは事実上不可能ですので、互いに夫婦が財産を開示していく方法がとられています。

正直に開示されなければ公平な結果を得ることができないので、裁判所や当事者があるべき資産について資料を出すように促していきます。また、一方が開示しない資料については、代理人弁護士が23条照会という手続きで資料を集めたり、裁判所に調査嘱託を求めたりして開示を進めます。

13 財産分与の際の不動産・株式などの評価金額はどうする?

いろいろな財産があるとその評価額をどうするかという問題があります。株価とか土地の価額といった問題です。

判例は「訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態を参照して財産分与の額及び方法を定めるべきである」としています(最高裁 昭和34年2月9日)。

離婚時に財産の清算がされるので、離婚にもっとも近い「離婚訴訟の口頭弁論の終結時」において財産の価額を決めるというわけです。

14 いつの時点にあった財産を財産分与で分けるのでしょうか?

財産分与では、離婚までの一切の事情(民768条3項)が考慮されますので、 別居後離婚時までの事情も含んでいるのですが、分与対象となる財産は、普通は別居時に存在した財産になります。

別居してから夫が大きく年収を増やして預貯金が増えても影響がありません。夫婦が協力して得た財産ではないからです。夫婦の共同生活で形成した財産がその寄与の度合いに応じて分配されるべきであるというのが日本の財産分与の考えです。

離婚前に夫婦が別居した場合、特段の事情がない限りは、別居時の財産を基準にして分与をしていきます。かりに同居期間を超えて継続的に取得した財産が存在する場合には、適切な按分計算をして同居期間中に取得した財産額を推認していきます。

もっとも、特別事情としては、一方が保有資産を減少させたその理由が生活費や教育費用のためであるようなときです。この時は、減少後の資産を対象とする場合があります。

通常別居時に存在した財産を、一方が散逸させた場合にはそれは考慮されずに、あたかもその財産が今もあるかのような計算がされます。

もっとも、別居時にない財産が、あるかのように扱われることもあります。判例では、預金が300万円程度あったのに、 夫の不貞による示談金500万円の支払や、夫が約300万円の車を購入し保有して、生活費不払いのため別居時には預金がなかったという事件では、現存財産がなくても夫から妻に対する500万円の財産分与が認められたものがあります(浦和地裁 昭和61年8月4日)。しかし、これは非常に珍しい事案といえましょう。よほど、夫が裁判所に与えた心証が悪かった事案でしょう。

15 離婚の財産分与では、常に実質的な共有財産の50%がもらえる?

15-1 寄与度は、原則は50%

離婚の財産分与の清算割合(すなわち寄与割合)は、原則は、22分の1とされていますが、かつては専業主婦の場合には妻の寄与度を4分の1から3分の1としていました、

これは、家事労働の過小評価として批判され、役割分業から生ずる夫婦間の所得獲得能力の不均衡を補うものとして清算を位置づける見解もあり、実務では 寄与割合は原則平等となっています。

15-2 特別の場合

配偶者の一方の特別の努力や能力により資産形成がなされた事案では、特別の事情があることから、寄与割合が修正されます。

平等原則は、夫が仕事・妻が家事や育児という典型的役割分業型の夫婦を基礎に、平等分割が公平であるとの考え方を背景にしているのですが、女性も仕事をすることが多く、平等原則がかえって公平ではない事案もあり、「夫婦ともに稼働し収入は同程度または夫はゼロ、しかし家事育児はほとんど妻」といった分担の場合などには修正がされます。また、一方の特別の能力による蓄財の場合も調整されます。

妻が家計を助けるために始めた石油の外交販売から自営業を発展させ、夫は酒色におぼれ暴力をふるって妻子を追い出したという事案では、妻に営業財産を含め財産の7割が分与されています(松山地裁 昭和50年6月30日)。

夫が、上場企業の代表取締役で婚姻中に約220億円の資産を形成した案件では、家庭裁判所は10億円のみ妻に分与を認めています(東京地裁 平成15年9月26日)。

家庭裁判所は、この事件では共有財産の原資はほとんどが特有財産であり、運用、管理に携わったのも夫であり、妻は具体的に、共有財産の取得に寄与したり、会社経営に直接的具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないということから、妻が共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いとは言い難いとして、共有財産の5%(10億円)の限度で財産分与を認めています(東京地裁 平成15年9月26日)。5%は非常に少なくみえますが、10億円ですから金額は高額です。特別の才能で夫が巨額財産を構築したという事案なので、この事案ならでは・・・と考えられます。

しかし、企業を上場させたとか、M&Aで売却益を得たというような夫の場合には、この判例は参考になりますね。

こういう判例を読むと、裁判官の裁量はかなり大きいことがわかりますし、控訴しても通常は家裁の裁判官の裁量は尊重されます。

16 離婚の財産分与の対象:土地と自宅、マンションなどのとき

16-1 不動産(土地と建物、マンションなど)

一般的には、不動産の時価を評価します。そのうえで、他の預金等の資産と合算し、互いの寄与度をかけて夫婦の各自の取得額を算出し、具体的分与方法を決めることになります。

不動産がたくさんあるようなときには、不動産だけを別枠で計算するような場合もあります。

夫婦のいずれが不動産を取得するかについては、まずは当事者の希望です。

例えば、マンションの評価額を5000万円で合意ができた場合には、妻がこれを欲しいと言い、夫婦の共有財産全体が1億3000万円であれば、それぞれの取り分は、寄与度が50%であれば6500万円になります。妻がマンションがほしいと言い、夫はいらないというのであれば、妻がマンションと現金1500万円をもらうというような解決になります。

しかし、ローンが残っている場合にはローン名義人が取得しないと、後で問題が起きますので、通常はローン名義人がもらいます。(よって夫名義なら、妻は明け渡しをしなければなりません。)

不動産についてどうしてもほしいものがあるときには、和解離婚をする方がよいとおもいます。代理人が互いについていれば訴訟の期日外でいろいろ協議が可能ですので、ローンを妻が完済してから全体の不動産を妻がもらうなどのいろいろな工夫が可能となります。

また、和解離婚してから1年で売却してローン完済して残りを合意した方法で分けることも代理人弁護士がいればできます。

また、財産分与としてではなく、単に不動産を協議の上で買い取ることもできます。

16-2 不動産の購入に対する親族の援助などがあるとき

不動産は高額ですので、購入資金の中に親族から贈与された(援助された)金員が含まれていること多いです。

また、妻が婚姻前に貯蓄していた1000万円を用いたというようなこともあるので、固有財産部分が不動産に含まれることがあり、それについては調整が必要です。

よく問題になるのは、親からの贈与、夫婦の一方が婚姻前に蓄えた預貯金、相続で得た資金、住宅ローン返済分のうち同居前に返済してあった金額がある場合などです。

婚姻してからそれぞれが蓄えた預金等を頭金に使った場合には、そのまま共有財産として計算します。ローン返済のうち、同居してから別居時までに返済した部分も、債務を減らしたというプラスの財産ですが、共有財産です。

通常は、財産一覧表を代理人弁護士がつくるとき、口頭弁論終結時の不動産の時価から別居時のローン残額を差し引いた残額を不動産の現在価値としています。同居期問中の住宅ローンの既払分はそれが夫の給与から控除されていても、夫婦が平等の割合で返済に貢献したと評価されています。

16-3 不動産の財産の計算はどうなるのか

具体的に事案で計算方法をご説明します。

マンション購入価格 5000万円で今の時価が4600万円の場合で、別居時のローン残1400万円であるとします。

そうすると、現在の不動産の実質価値である時価4600万円から別居時ローン残の1400万円を引いた、3200万円が、原則の共有財産部分になります。

しかし、購入資金に特有財産が入っている場合には、それが調整されます。

夫の婚姻前の保有投信を売って作った500万円を頭金にしていて、また、妻の父が贈与を800万円もしてそれも頭金にしていて、同居してからの貯蓄である妻名義預金500万円も頭金にしていたようなとき、どうなるでしょうか?

頭金は、1800万円ですね。(そもそものローン元本は3200万円です。)

このときは、同居中別居までのローン返済額(利息込み)合計額をまず、計算します。それが2200万円であったとしましょう。

財産分与におけるこの不動産の夫の寄与は、以下となります。

(頭金1800万十ローン返済合計額2200万円)の合計4000万円のうち、夫の特有財産による寄与の売却益の500万円部分と、婚姻中に形成された妻名義の預金の半分(250万円)とローン支払合計額の半分の1100万円。つまり、1850万円です。

妻の寄与分は、贈与された800万円と預金半分250万円とローン支払合計額の半額の1100万円であり、つまり、2150万円です。

よって、不動産の現在価値(ローン控除後)の3200万円を、1850対2150で割りつけることになります。

夫:3200×1850/4000 = 1480万円
妻:3200×2150/4000 = 1720万円

上の例では、利息込みのローン返済金で計算していますが、元本返済部分のみで合計を出す場合もあります。そこは、裁判官次第です。

金利を入れない場合の根拠は、「支払利息は金員借入のための対価であって、借主からみれば経費として非消しており資産として残存するものではないということでしょう。

17 借地権がある場合の離婚時の財産分与の問題

借地上の建物が財産分与の資産対象である場合には、複雑になります。

借地上の建物は、借地権評価額も含めて評価するという方法がとられることもあります(東京高裁 昭和57年2月16日)。

夫が父から贈与された借地権については、妻がその維持に寄与したとしてその価格の1割につき妻へ分与するとした判例もあります(東京高裁 昭和55年12月16日)。

借地権は財産価値がある権利ですので、それを設定してから家を建てたのであれば底地の価値と同じように借地権の価値も共有財産とするべきでしょう。

親族からの使用借権の場合には、また問題が複雑です。その価値がどのくらいあるかは、建物にもよりますし、事情にもよるからです。

配偶者の一方の親族が親子関係などの情義に基づいて貸したものであったということで、夫婦の協力により形成した財産とはいえず分与対象財産に含まないとした判例があります(東京地裁 平成5年2月26日)。

土地の使用貸借であればそれは利用権として認められており、その利用権がない建物は意味がない(価値としてむしろマイナス)となるのですから、利用権がついている建物として評価するべきであるように思います。そうしないと、古い建物であるがまだまだ使えるというような建物を一方(名義人)がゼロの計算上の価値で分与されて、棚ぼた状態となり、不公平となります。収益物件であれば、建物を共有とするという解決策もあるでしょう。

18 離婚時の財産分与では、不動産はどうやって評価するのでしょう?

不動産の時価の評価は、複数の不動産業者の無料の査定を入手して平均値とする方法がかなり一般的となっています。

しかし、双方が望めば不動産鑑定を実施することもあります。

あるいは、実際に不動産を売却することとする場合もあります。その場合には、譲渡所得税・登記費用・仲介手数料などの経費が発生するのでそれが考慮されますが、売らないで財産分与を決める場合、売った場合のこれらの経費を考慮しないのが実務です。

不動産の価格は「口頭弁論終結時の時価」で計算するので、不動産価格が高騰した場合、値上がり部分も清算の対象になります。

19 不動産を買い換えた場合には、財産分与はどのように計算しますか?

婚姻中に不動産を買い換えて元の不動産の売却代金を次の不動産の頭金とすることはよくありますね。その場合、資料をすべて出して経緯を明らかにして計算する必要があります。

元の不動産の売却により得た金額に対する双方の寄与をまず計算します。そしてそれが二番目の不動産の形成への寄与に使われていればそれを組み込みます。

つまり、共有財産の不動産の別居時における価値に対して、夫婦の特有財産が寄与している部分があるかを計算して確認することになります。エクセル表などで計算をすることが通常です。

20 どうしても取得したい不動産があるとき財産分与でどうやって確実に取得するのか?

通常は不動産名義人にその不動産が分与されますので、名義人ではない方がその不動産をもらうには相当な工夫が必要です。

不動産の名義人がそのまま取得する場合には、名義人から他方に対して財産分与相当額の代償金が払われることで、名義人は取得できます。4000万円が時価のマンション(ローン完済)であれば、2000万円を妻に払って名義人である夫がそれをもらうというわけです。

不動産名義が夫婦共有となっている場合、一方が単独の名義人となるには、その希望を示しておいて、他の持分を分与してもらい、それを失う側に対して代償金を払う形になります。3000万円が時価のマンションでローン残が1000万円であれば、2000万円の半分の1000万円を代償金として払うわけです。

この場合、代償金の支払と持分の移転登記手続の引換給付が命じられるのが通常で、お金を払うと登記が移転できることになります。

自分の名義ではないがその居住しているのでどうしても欲しいという場合、その希望を示しておいて、やはり引換給付の判決をもらうことになります。やはり、代償金の支払いが必要です。

代償金の支払いは実際に金銭でされないこともあります。夫婦の財産の預金などがあれば自分の寄与分を他方に分与する形で現実に調整することが可能であり、判決では裁判官がそういった工夫をして、実際に払わないといけないものを最小に調整します。

もっとも、どうしても不動産を確実にもらうには、和解離婚をした方がよいです。代理人弁護士に説明して、財産分与の和解案を作成して双方で合意を形成していってもらうという方法です。

21 ローンが残っている不動産の財産分与

夫婦の共有財産である不動産にローンが残っている場合、ローンの支払能力が考慮されて結論が出されます。

通常は、ローン名義人の単独所有にして、夫が名義人ならば妻には代わりに代償金を分与して、 ローンの支払は夫が継続します。

逆に妻に返済能力がある場合には妻に不動産を分与した例もあります。

しかし、ローンを実際に返済するのは名義人なので、妻が金融機関から債務引き受けをする承諾をもらうなどが必要でしょう。

不動産を妻が取得してローンを妻が返済し続けるという方法や、ローンの借り換えを行ってローン名義を夫から妻へ変更するようなことは、和解離婚でなければ実現ができません。

判決では、銀行を相手に、免責的偵務引受けを命じられないからです。妻が今後はローンを払うという予定でも実際に返済ができないと名義人である夫に対し銀行は請求してきます。

不動産が共有名義で、住宅ローンも双方が負担していることも多く、この場合、 名義を一方に寄せて単独所有とする判決は通常はでないものです。

こうした場合には、和解による解決がベストです。それができなければ、共有物分割請求の別訴を提起するしかないので、別に弁護士費用がかかるという結果になります。代理人弁護士は工夫して和解できる人を選んでおくべきでしょう。

不動産価格が購入時よりも下落して時価よりローン残高の方が大きいような場合は、オーバーローンといいます。

このような不動産については清算すべき財産がないとされてしまいます。マイナスの資産の資産分与は考えられていないからです。
もっとも、夫婦の共有財産が他にあれば存在する財産については、分与が行われその際に、オーバーローンを抱えている一方について考慮がされることもあるでしょう。

22 離婚して財産分与をしたあとも建物に住み続けられるか?

どういう工夫がありえるのか?

離婚してから今住んでいる建物に住み続けたいという方は多いですが、離婚時にその建物が財産分与でもらえないなら、住み続けることはできません。

しかし、工夫すると住み続けることができることも、かなりあります。代理人弁護士を通して、和解の交渉をしてその中で賃借権を設定してもらう方法です。

収入の少ない配偶者が、財産分与によって現金を得てもその後の生活に困窮することはありますし、東京ではそもそも住宅が借りられないこともあります。母子で、住むところがみつからないということもあります。

財産分与や慰謝料の額を評価して、その建物の価値より大きな価値があればそれで建物の分与ができることになるものの、ローンが残っていることもあります。事案によって、代理人弁護士が和解に向けて工夫をするべきですね。

なお、判決でも、賃借権や使用借権の設定で、子の養育を従前と同じ住居で続けることが可能になった事案もあります。ですが、裁判例は多くはないので、なるべく裁判所の和解勧告をしてもらって、代理人弁護士といろいろ工夫したうえで、和解を成立させることが最善であろうと思われます。

理論的には、なぜそのような賃借権の設定ができるのか、これはいろいろ説明が可能でしょう。所有権の一要素としての利用権を分与するものという考えができますし、婚姻財産に対する夫婦の各一方がもっている利用権が消滅することへの代替として認めるという説明もできましょう。しかし、判例は扶養的財産分与であるという説明をしていることが多いようです。

賃料を払う賃借権の設定にするか、無償の使用貸借権を認めるかは、裁判官次第です。具体的事情に応じて裁判官が公平の観点から決めるのです。

これは、借地借家法の適用を受けない、元配偶者の居住を保障する特別な権利となると思われます。もっとも、相場通りの適切な金額の賃料による賃借権が設定されているような場合は、通常の質貸借関係と同視されえるかもしれません。

<判例のご紹介>

浦和地裁:昭和59年11月27日
夫には離婚後建物に居住する意思がなかった事案で、賃借権を妻に設定した。その契約内容を判決主文に明記したうえで、権利設定の登記手続を命じています。

東京高裁:昭和63年12月22日
夫が相続した土地を売却して家屋(母家と店舗)を建築してから、妻名義にしてあった事案。家屋を妻に分与して敷地についての使用貸借権と店舗については賃借権を設定しています。

大阪高裁:平成3年3月10日
裁判所による事実上の和解勧告で、当事者間に合意が成立したので、期限を約9年とする使用貸借権を設定した。

名古屋高裁:平成18年5月3日
妻の持分を夫に分与した上で、扶養的財産分与として第3子が小学校を卒業するまでの使用貸借権を妻に設定しています。夫の持分が90%であったのでそれに対する家賃として4万円強(かなり低額)を設定しています。

この事案は、不貞が原因で夫に慰謝料400万円の支払が命じられています。清算的財産分与は、特段の事情がない限り別居時の財産を基準にしてこれを行うべきであるとしたが、不動産の夫の持分については「従前の紛争の経過に照らして、別居時に夫が妻に対して将来にわたりマンションの使用を許諾していたとは認められない」と判断しています。

しかし、別居が夫による悪意の遺棄に該当していること、将来における夫の退職金等を分与対象に加えることが現実的ではないこと、一部が妻の特有財産であるのがこのマンションであること、そういった事情から婚姻関係の破綻につき貢めるべき点が認められない妻に、「扶養的財産分与として離婚後も一定期間の居住を認めてその法的地位の安定を図るのが相当である。」と判断したものでした。

夫には、清算的財産分与として妻の持分を夫に取得させているので、夫としては権利関係が明確になっています。10年程度は一定の家賃で貸してあげないといけませんが、母子が住むマンションなので妥当な結果かと思います。

この案件では、妻が管理する資産が多かったので、現金は妻から夫に一定の支払いも命じられています。

ローン額と同額の家賃を認定しているので、それが扶養的であるということなのでしょう。15年後に払われる退職金を対象にすることについて消極的であった事案ですが、実務では別居時に退職した場合に取得できる退職金を基礎に計算することが通常です。

23 財産分与の際に建物を明け渡してもらいたいが、できるのか?

夫の名義の建物に妻が住んでいるが、離婚時に明け渡してもらえるのか?というご相談は多いです。

婚姻時に住居であった建物が、財産分与で妻が取得できない場合には、その後では占有する権原がありませんので、賃借権などの利用権が設定されない限り、家屋を明け渡す義務が生じます。

従前は、明渡について財産分与に伴った判決で一緒に命ずることが許されると考えられていたのですが、人事訴訟法では、離婚訴訟と併合審理できる民事訴訟を関連する損害賠償請求に限定してしまったことから、現在では認められないと考えられています。

よって、任意の明け渡しをもとめるか、それができないなら、明渡訴訟を起こさなければならないのです。代理人弁護士と和解の実現を目指すほうがよいでしょう。和解であれば、明渡を内容にできます。

24 共有物分割請求と財産分与(共有している不動産の問題)

夫婦の不動産が共有されているとき、財産分与で解決ができなかった場合には、共有物分割請求という方法があります。

オーバーローンの物件がある場合、財産分与で解決ができないためこれが利用されます。離婚訴訟では、オーバーローンの物件は剰余価値がないので財産として財産分与の対象とされないからです。

離婚してから、そこに住んでいた妻や夫に賃料が請求できるかについては、割と問題になることがあります。①所有権に基づく建物明渡請求②使用料相当の損害金を求めて、民事訴訟を起こすことがありえます。

東京地裁 平成24年12月27日の判例では、①は不動産購入および婚姻中の住宅ローン返済に際し元妻が固有財産から出捐していたことから、元妻の持分があったこと、 共有物の持分の割合が過半数を超える者であっても共有物を単独で占有する他の共有者に対しては、その占有する共有物の明渡しを求められないとされているので、明渡は認められないとしました。

しかし、 ②については建物持分3分の2は、元妻は権原なくして占有しているから不法行為が成立するので不法行為が成立するとしました。そこで損害金を認めております。

25 婚姻中であっても共有物分割請求ができるか?

婚姻中でも共有物分割請求の提訴は可能ですが、権利濫用とされる可能性があります。もっとも、相手が有責配偶者であるような場合には、認められる可能性はあります。

建物の一部に妻が居住して他は賃貸されているが、現物分割が困難であって、双方が価額を賠償する資金がないことから、判決で競売と売得金の分割が命じられた事案があります(東京地裁ができない場合に、夫婦の共有名義となっている財産の共有物分割は全く認められないということはありません。

場合によっては、権利濫用になるというだけです。

権利濫用とされた判例(大阪高裁 平成17年6月9日)をご紹介します。

夫は妻と精神疾患のある子をおいて別居していたが、前立腺癌に罹患し、妻子が居住する不動産は各2分の1ずつの持分を夫婦で有していました。夫は、これが担保となっているので不動産を競売に付して代金分割の方法による共有物分割を求めました。

原審は夫の病気から、権利濫用にはあたらないとしたのですが、控訴審判決は離婚に伴う財産分与であれば妻の単独取得となる可能性が高いこと、夫は相当額の収入を得ているにもかかわらず、妻と精神疾患のある子を置き去りにしたこと、夫の負債整理の必要があるとしても保有する事務所建物を売却することが考えられること等から、夫の請求を権利濫用と判断しております。

26 預金の財産分与の方法

一方がたくさんの預金を持っている場合、他方への財産分与が必要になります。

預貯金は、銀行や郵便局の預金明細や通帳で立証していきますが、本人が開示しない場合には、訴訟では「調査嘱託」で開示を銀行などに命じてもらうことができます。

合理的な開示がなされず、判明している預貯金額が低すぎる場合には、公平のために収入および支出から預貯金を推測して認定して、分与対象とする場合もあるが非常に稀です。

共働き夫婦で妻が自分名義の預貯金は残らなかったと主張した事案では、そうだとすると13年間で妻が1300万円の緊急の必要のない支出をしたことになるものとして、夫名義の9095万円の財産から1300万円を差し引いて、残額の2分の1の分与をするとしたものもあるようです(東京地裁 平成15年9月19日未公表)。

27 別居の際の預金の持ち出しがあるときどうするのか

別居時にかなりの預金を妻が持ち出したというようなことはよくあります。

裁判例では実質的な共有財産である2分の1までの持出しについては違法性を認めていないようです。

夫が妻の持ち出しについて、夫から不法行為による損害賠償を求めた事案では、最終的解決は財産分与でなすべきとして、損害賠償請求を否定している判例があります(東京地裁 平成4年8月26日)。

また、妻が持ち出した額が大きい事案で、持ち出した財産と財産分与相当額の差額相当分は、財産分与で妻から夫に分与された事案もあります(東京高裁 平成7年4月27日)。

28 贈与が夫からされていた場合の扱い

夫の収入を原資としていた預貯金などが妻名義となっているとき、これが贈与として財産分与の対象から除くべきかということが、問題になることがあります。

贈与税を払っているからといって、贈与された資産が妻の特有財産にはなるわけではなく、贈与がされた背景事情で判断されます。
子供名義の資産については、子に対する贈与として財産分与対象とならないとした判例があります(高松高裁 平成9年3月27日)。

夫が、不貞をわびて妻の不満を抑える目的で贈与税免税の制度を利用して妻に居住用財産を贈与した事案では、夫から妻に対し離婚時に不動産の評価額の2分の1の分与を求めたが、「確定的にその帰属を決めたもので、清算的要素をもち、そのような場合の当事者の意思は尊重すべきである」とされて、妻への贈与によりその不動産は妻の特有財産となったとされました(大阪高裁 平成23年2月14日)。

29 退職金・退職年金

退戦金は、勤務先の退職金規定に基づいて支給されるもので、労働の事後的対価の性格がありますので、給与と同様に配偶者の寄与により得られたものと評価されて、分与の対象になります。

既に払われた退職金は、預貯金・不動産等の他の資産に変化していますので、その資産として計算します。

配偶者の寄与は婚姻期間(同居期問)についてのみとされるので、同居期間に按分した額を対象とします。

その場合の按分額=退職金額x 同居期間÷勤務期間

退職金でも合併に伴う労働者の生活補償という支給の趣旨があるような場合、財産分与対象となる退職金とは言えないという判例もあります。

また、早期退職の手当金は、退職後に再就職した場合の賃金との差額を補填する趣旨のものもあることが多く、その場合、手当金の一部は共有財産とならないでしょう。

30 将来払われる退職金は財産分与で分与されますか?

将来の退職金は、事故や病気、懲戒解雇、勤務先の倒産とか経営不振などという将来の事象によって影響を受けます。

しかし、賃金の後払的性格から勤労世帯にとっては年金と同様に老後の生活保障として重要なものである。

また、大企業などではその支給を受ける蓋然性が高いものとなっています。

勤務先によって、支給の蓋然性が高い場合とそうではない場合がありますので、清算対象とするべきか、その場合の具体的な計算方法や支払時期等については、裁判所の裁量にゆだねられています。

実務的にかなり定着しているのは、別居時に退職したと仮定した場合の退職金を配偶者との同居期間に按分した額に修正してそれを折半するというものです。

現実の退職金額は当事者から証明資料が提出できない場合には、勤務先への調査嘱託をして開示を受けます。

退職金の受領方法が労働者に委ねられていて、退職時の選択で一部を一時金として、残部を企業年金として分割受領するような事案もありますが、いずれの場合も分与対象とされます。

将来の受給額がわかっている場合には、そこから中間利息を控除して計算することもあります。

婚姻期間26年で別居4年、夫が6年後に定年退職する事案では、「将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には将来受給するだろう退職金のうち、夫婦の婚姻期問に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直したうえ、清算の対象とすることができる」と判断して退職時までの勤務期間2711カ月のうちの実質的婚姻期間(別居期間を除いた期間)の147カ月に対する退職金について、中間利息(法定利率年5 %)を複利計算で控除して現在の額に引き直し、その2分の1に相当する額188万円の分与を認めた判例がその例です(東京地裁 平成11年9月3日)。

支給が将来である場合には、支払い時期も将来となる場合もあります。

支給が2年先という事案では、確実に取得できるかは未確定なことであると認定され、金額も確定されてはいないことから、「退職金を受領したときその受領金額の2分の1を支払え」とした判決もあります(横浜地裁 平成9年1月22日)。

離婚時に自己都合退職したものと仮定して取得できる退職金について、婚姻から別居までの期間に比例した部分(907万円)を対象として定年で退職した場合の金額との差額も事情として考慮し、夫が退職金を受領したときに支払うことを命じた判例もあります(名古屋高裁 平成12年12月20日)。

31 退職年金の財産分与はどのように、なされますか?

退職金の中には、大企業においては労慟者本人に全額一括で一時受領するか、退職金の一部を年金として受領するかを選択させる制度を採用しているところがあります。

これは、公的年金ではないので、年金分割制度とは無関係です。

社員と会社が掛金を拠出して、退職後に社員が毎月受給する企業年金を退職年金と呼ぶ場合もありますし、終身受給できる退職年金もありさまざまです。

将来一括受給する退職金よりもさらに内容が不確定であるが、退職金を受領していれば半分を受領できていたはずの権利者の利益も考慮して、判決が出されています。

勤務先から、一時金を選択していたら受領できるはずである金額の開示を受けて、同居期間に按分して計箕する方法が一般的な方法と思われます。

32 企業年金・確定拠出年金等の離婚時の財産分与はどうなりますか?

民間会社との契約による私的年金確定拠出年金や勤務先企業より支給される企業年金等は公的年金ではありませんので、離婚時の年金分割はされません。形成された財産の1つとして財産分与での清算の対象になります。

将来の受給期間・受給額も不明確な場合は多いので、将来の支給額が明確であれば中間利息を控除して算定することがありえます。金額によってはそれでも一括金支払を命じることは酷となることがありえ、長期間の分割支払となることもありえるでしょう。金額も不明であるような場合には、低めのざっくりした額を財産分与額に上乗せする程度となることもありえるところです。

33 保険金は、離婚時の財産分与ではどう扱われますか?

生命保険、医療保険、介護費用保険、学資保険等の保険で掛捨てではない貯蓄性のものは、預金のように財産分与の対象になります。

掛捨ての保険は、財産価値がないので対象となりません。

婚姻中に満期が来て支払われた生命保険金は、共有財産です。

保険契約期間中に離婚した場合、現在の実務では別居時に途中解約したと仮定した場合の解約返戻金を分与対象としています。

結婚する前に契約をしていたものは、別居時の解約返戻金を同居期間に按分して計算していきます。

別居後に現実に解約した場合はその解約返戻金を別居時に引き直した金額を計算します。

解約返戻金の額の証明は、保険の契約証書に年ごとの途中解約金が表記されている場合、それを使います。それでは判明しない場合には、保険会社に照会すれば教えてくれます。

34 学資保険は財産分与の対象ですか?

学資保険は積み立てている金額も低くないものですが、夫婦財産の1つとされています。

子どものために使うといっても夫婦で形成されたものに違いがないからです。

和解や調停では、財産分与の対象から除外して教育目的の費用として親権者名義とすることも多く、その場合には将来の学費に使うなどの合意をすることが多いです。

和解であれば、養育費との関係でどのような合意をするかは、しっかり代理人弁護士と相談して決めるべきでしょう。

35 保有している株式は分与されますか?

婚姻中の収入や給与等から得た株式、投資信託などの資産は一切が財産分与の対象となります。

上場会社の株式の価格は、日々変わりますが口頭弁論終結時の時価で計算します(実際には、口頭弁論終結時に接近した日を合意してそこで資料を出して計算します)。

非上場の会社の株式の評価は難しいので、公認会計士または税理士が過去の決算書類をもとに計算した評価書を作成したり、単純に株式を引き受けた時の価格で算定するなどします。

36 自動車も財産分与の対象ですか?

自動車も価値があるものであれば、時価で評価されます。別居時に存在した車が対象です。

評価額は土地などと同様で、現在時(口頭弁論終結時)に評価しますが、車の減価償却は早いため裁判が長引くと評価が減じてしまいます。売却されていればその代金をもらった方の資産として評価します。

37 夫婦で会社経営とかお店を経営していたとき、離婚時の財産分与はどうするのでしょうか? 会社に資産があるときもどうしたらよいでしょうか?

夫婦で会社経営をしていたような場合、お店を夫婦で経営していたという場合は、少なくありません。

そういった場合、資産が事業用資産で名義が夫になっていても、財産分与の対象となります。

家族経営により資産が夫の父などの名義となっていることもありますし、法人名義となっていることもありますが、夫婦の協力によって築いた財産については財産分与が認められます。

もっとも、その評価が困難なのです。つまりいくらの分与とするかです。

夫婦の同居中に増加した事業資産の半分とか何割という形で評価する方法がありえるでしょう。

法人の資産の評価は、上場企業でない場合、純資産方式(保有財産の価値そのもので評価する方法)や収益遠元法(法人の経常収益を市中金利などの期待利回りで割り返して、それを生み出す資本額を決めて評価する方法)等によります。

夫が医師として医療法人を経営し妻が手伝っていた事案では、同居期間中に増加した法人の現金および法人名で返済したローン元金の合計の2分の1である約156万円を夫から妻に分与することを命じています(小田原支部 平成13年11月16日 未公表)。

また、労働者の平均賃金を用いて解決した事案もあります。

夫婦である販売業を営んでいた場合に、販売業自体を実質的共有財産と認めて、営業用財産および営業権(得意先3000戸分)を金銭で評価して、 妻にその7割を分与した判例もあります(松山地裁 昭和50年6月30日)。

また、夫婦で飲食店を経営していた事案では、一人事業と同視できるとして、法人名義で登記している建物を清算対象として分与させている判例もあります(大阪地裁 昭和48年1月30日)。

家族経営の有限会社では、義両親と夫婦の共有財産であるとみなして、40%を夫婦の実質的共有財産としてその半分を夫から妻に分与するよう命じたものもあります(札幌高裁 昭和44年1月10日)。

また、夫が支配している又は支配できる法人の財産については、夫の潜在的な財産と認め、その価額を清算の対象に加えた判例もあります。この事案では、妻の寄与度を2分の1として、扶養的財産分与を加えて妻に対する1200万円の分与を認めた長野地裁の昭和38年7月5日の判例もあります。

夫婦の経営していた事業の資産には、いろいろな工夫がされて判決が出されています。

38 過去に払いすぎた婚姻費用は戻ってくるのでしょうか?

離婚に応じてくれると思ってとか、怖いから・・・などという理由で給与の大半を妻に別居しても渡しているような相談者は結構おられます。

婚姻費用は25万円程度のはずなのに、40万円を送金したり、賞与はすべて送金していたというような場合です。

婚姻費用の分担義務者である夫が相当な金額より多くの額を支払っていた場合、それは任意の支払いであるので、後で財産分与の前渡しであったという主張はまず認められないでしょう。

当事者が自発的に、あるいは合意によって婚姻費用分担をしている場合には、「その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合であれば格別、そうでない場合には、当事者が送金した額が、審判をする際の基準として有用ないわゆる標準箕定方式に基ついて算定した額を上回るからといって、超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない」とした判例があります(大阪高裁 平成21年9月4日)。

39 払ってもらっていなかった婚姻費用は後で財産分与としてもらえますか?

婚姻関係が破綻した後でも婚姻費用の分担請求は認められるというのが実務の考えですが、離婚に際しての財産分与においても払ってもらっていない「未払」の婚姻費用について考慮がされます。

妻が有責配偶者であれば、それは認められないこともあるかもしれません。

また、「もともと婚姻費用分担は婚姻関係を継続することを前提としたもの」であることから、破綻した夫婦関係においても全額を認めるのは相当でない」という考え方もあるので、財産分与においては全額が認められないことが通常です。

もっとも、事案によっては、満額の支払いも命じられます。

夫(医師)が女性と同棲し16年間の別居中に、夫は子の学費以外の婚姻費用を払っていなかった事案では、「夫は医師として標準的家庭以上の収入を得ていながら、別居期間中、妻子に要した婚姻費用につき我関せずの態度をとり続け殆どその分担義務を免れていた」という評価がされ、「低劣な生活環境に放置」してきたのであって、その資産は「妻子の犠牲の下に形成されたと評されてもやむを得ない」とされ、婚姻費用については清算が終わっていないことから財産分与の手続において清算をするべきであるとした判例があります。

その事案では、過去の婚姻費用の未払い額の482万円に慰謝料的要索の200万円を加えて、合計682万円の財産分与を命じられています(東京家裁 昭和48年8月1日)。

婚姻費用を後でまとめて請求されると、請求された方が支払いに困るようなこともあるので、そういう場合にはその点も加味され減額されるでしょう。

40 離婚時の財産分与では、債務をどう扱うのか?

清算的財産分与では、婚姻中に夫婦の協力によって形成した稼極的財産を清算することが目的です。

清算的財産分与は、公平な財産の清算なので、婚姻生活で夫婦の片方が負担した債務も名義にかかわらず清算されます。住宅ローン、学費のための借入などです。

全体として債務を上回る資産がある場合には、積極的な財産の合計額から債務の額を控除して、それに分与割合を乗じて各自の取得額を算出していきます。

既に、自分の名義となっている資産はそのままとして、取得額が不足する方が金銭の支払いを受けることになります。

もっとも、婚姻生活に関連しない遊興費のため、個人的な連帯債務などは対象とされません。

41 債務が多い場合、財産分与で解決できるでしょうか?

夫婦で債務超過となっている、借金が多いような場合、財産分与では何か調整ができるのでしょうか?

他方に債務を負担させるような分与を命じることが可能かという問題ですが、そもそも借り入れなどの負債は債権者が他にいるので、債務の弁済を夫婦の一方に命じても、債権者は契約上の債務者に請求することができるので、解決にならないという問題があります。

事案によっては住居の保護という目的を達せられることもあるので、認めるのが適切なこともあるでしょう。

判例は、履行引受けを命じた例があります(大阪家裁 平成17年6月28日 未公表)。妻が連帯債務者となっている場合に「原告妻の連帯債務者としての地位を消滅させるための手続きをXX銀行との間で行え」というような一定の行為を命じた珍しい判例もあります(東京地裁 平成11年7月12日 未公表)。

債務超過の場合には、財産分与はないというのが原則である、例外的事案では債務引受けが命じられる、ということかと思われます。

42 離婚時の扶養的財産分与とは?どうやったらもらえるのですか?

財産分与の目的の1つは「離婚後の扶養」です。離婚によって生活に困ることがないように、財産を分けるというわけです。
離婚時にはいろいろな事情、年齢とか心身の状況、職業や収入、稼働能力があるか、特有財産を含む財産状況などの事情が考慮されます。

乳幼児を養育したり、病気や高齢で経済的自立が不可能であったり困難である場合には、清算的な財産分与以外に扶養的財産分与が認められます。

しかし、これはあくまでも清算的財産分与や慰謝料では生活に困るような場合に、補充的に認められるのです。

判例では、一括の金銭の場合と、定期的に月額支払いを命じるものがあります。

2007年4月から、離婚時の年金分割制度が施行されましたので、厚生年金をもらえる夫の年金は分割されます。老後の生活の問題はかなりこれにより解決されているといえます。

年金分割がないとか、その金額が少なく老後の生活に不足するような場合には、扶養的財産分与はまだ重要でしょう。また、幼児の養育負担がある妻が病弱であったり、障害のある子の養育を続けないといけない場合、専業主婦として家庭に入ってしまったので離婚後に経済的自立の可能な収入を得られないような場合等は、弱者への配慮が必要ですので、事案によって扶養的財産分与はまだ役割を終えていません。

43 妻が高齢で専業主婦の場合の扶養的財産分与は?

清算的財産分与がない場合、離婚後の高齢な妻は生活の目途がたたない。妻が75歳で10年はあると推定される老後を生活の不安にさらされることとなるとして、不貞の慰謝料1000万円と不貞相手方に慰謝料500万円を認め、さらに扶養的財産分与として財産分与1200万円を認めた事案があります(東京高裁 昭和63年6月7日)。

東京高裁事案でも、妻が73歳で有責配偶者の夫との事案では、慰謝料1500万円のほかに扶養のために1000万円の財産分与を認めた(東京高裁 平成元年11月22日)判例もあります。

なお、これらの判例は夫婦財産がないが、夫に資力があった事案であり、離婚時年金分割の制度がなかった時代のものであるので、現在は離婚時の年金分割によりかなり保障がされることからこのような高額な分与は認められにくいと思われます。

44 病気の妻の離婚時の扶養的財産分与

妻が病気の場合、それは「一切の事情」の一つとして、考慮されています。

病気がちで職につけない妻に対し、夫の暴力やいやがらせによる慰謝料500万円に加えて、通常の財産分与を1170万円と扶養的財産分与を150万円分認めている判例が公表されています(東京地裁 昭和60年3月19日)。

妻が、障害者(右半身機能不全)である事案では、右手が使えず右足も利かないため歩行困難であることから、暴力や不貞といった夫の有責性もある事案でありましたが、不貞行為に対する慰謝料と将来の生活の不安が極めて大きい障害者である妻の離婚後の扶養が必要であることから、一切の事情を考慮したうえで「土地建物全部の分与」を認めている判例があります(浦和地裁 昭和60年11月29日)。

45 子の養育費が必要な主婦の場合の離婚時の扶養的財産分与

子が小さいと専業主婦の妻が経済的に自立することは容易ではないですよね。

保育園入所は容易でなく入所できたとしても、子の病気等により突然仕事を欠勤しなければならないなどハンディは通常の男性から比べて、大きいものです。

資格があればともかく、正規労働者としての採用は非常に困難であるので、そういった事情は判断の一要素とされています。

昭和61年の判例では、31歳の妻が3歳の子の病気(てんかん)のために就職できないが、就職できない期間が永続することはないので長期給付は認めず、夫に250万円の支払を命じています(東京地裁 昭和61年1月28日未公表)。

養育費と扶養的財産分与は別のものと考えられており、「財産分与の額を決定するについて離婚後の配偶者の扶養のみならず、監護養育者になるかどうかの点をも考慮するのは当然であるとしていますがそれは扶養料とは別であるので、離婚配偶者の扶養の必要と程度を決定するについての一要素にすぎない」と高裁は明言しています(福岡高裁 昭和52年12月20日)。

子を養育する母があまりに貧しければ、子の養育費だけでは子の生活を維持できませんので、そういった意味で扶養的財産分与が妻への分与を補完することがあるといえましょう。

もっとも、生活保護受給をしている場合には、それが継続できないこともあるので、注意が必要です。

46 妻が経済的に自立できない場合の離婚時の財産分与

収入がほとんどないような女性の経済的自立のため、一定の期間の支払いを命じるような財産分与もあります。

婚姻期間9年で別居2年の夫婦で、 夫の不貞により離婚に至った事案で、月収手取りの3分の1に該当する額を3年払うように命じた例があります(川崎支部 昭和43年7月22日)。

平成になってからの判例としては、婚姻4年の子のない夫婦で妻の婚姻前の収入が3万円を超えていなかった事案で、月3万円の6か月分の合計18万円を扶養的財産分与として通常の清算的財産分与に加えているものがあります(小田原支部 平成14年3月15日)。

また、妻が経営していた店舗が休業状態になっており就職することもままならない状況にあることから、離婚後の生活不安を財産分与算定の一切の事情の1つとして清算的財産分与を調整している判例もあります。東京地裁 平成5年2月26日の判例です。

<扶養的財産分与が認められる要件>

財産分与を与える方の義務者に資力や経済力がなければ、扶養的財産分与は認められません。

経済力は、婚姻前からもっている資産でもよいし、婚姻中に贈与や相続によって取得した特有財産でもかまいませんし、今後もらえるだろう退職金や年金があれば、それでもかまいません。

また、義務者の生活が成り立たないような分与は認められません。そういう視点から一定期間に限定するようなことが通常です。

また、義務者の有責性も一定程度は要素となるといえるようです。また、女性が養育しなければならない子がいることも経済的自立を阻むものであれば考慮されるでしょう。

しかし、扶養的財産分与はあくまでも、清算的財産分与だけでは不当であるような特別事情がある事例で、認められるといえるでしょう。

専業主婦の妻にも、財産分与で半分を渡さないといけませんか?

原則は半分の割合で分与します。例外もあります。

現在の離婚の財産分与の実務では、結婚してから別居するまでの期間に形成された財産を代理人弁護士で一覧表を作成する方法で夫婦財産を一円まで計算して、それを半分になるように分けます。しかし、年収が非常に高い方の場合はすべてを半分ということにならないこともあります。

夫が証券会社の口座にたくさんの株や投資信託を持っているようです。

離婚の財産分与では、調査嘱託により財産が開示されます。

夫が証券会社の口座にたくさんの株や投資信託をもっているようだが、詳細がわからないという奥さんは多いです。夫の口座のある証券会社に照会をして財産の内容を開示するよう裁判所が命じる制度がありますのでそれでわかるでしょう。

実家の親から1500万円もらって家を購入したのですが、財産分与の時、返してもらえますか?

そのようなお金はあなたへの贈与と認定されるのが通常です。

家を買うとき実家がお金を出してくれることはよくあり、離婚時にそれを返せという主張がされ、結果として通常は、金銭消費貸借契約書があるような場合以外はそれは一方に贈与したお金と判断されます。贈与された方はその分だけ、財産分与額が多くなります。

別居して8年がたちますが、私の年金だけで暮らすのは難しく財産分与がほしいです

弁護士をたてて、迅速に家庭裁判所に適切な申立てをしましょう。

別居しても離婚しないと、財産分与はもらえないのが日本の制度です。離婚となれば、同居していたときに形成された財産は夫婦の財産とされて、原則として、半分が分与されるのが実務です。財産分与は計算方法など技術的側面が多いので代理人弁護士が必要でしょう。

夫婦で離婚には合意しても、家を双方がほしがっています。どうしたら・・・

和解ならいろいろな方法で解決できます。

離婚の財産分与では家をだれがもらうかが大問題。すでに家から出ている方が名義を持ってないのにもらうのは離婚訴訟では難しいです。その場合家の価値の半分がお金で支払われることになります。しかし、弁護士が付けば和解での柔軟な解決が可能です。