生前贈与(特別受益)は、遺留分の金額に大きく影響します。ただし、「特別受益がどう扱われるか」は、実は場面によってルールが異なり、これを正しく理解していないと、想定と違う金額になって驚くことがあります。今回は、この「算入」と「控除」という2つの場面の違いを整理します。
1. 特別受益が遺留分に関わる2つの場面
「特別受益」とは、生前に特定の相続人が受けた、生計の資本となるような贈与のことです(詳しくは「特別受益はなぜ認められ、どうあつかわれるのでしょう?」の記事をご覧ください)。この特別受益は、遺留分の計算において、次の2つの異なる場面に登場します。
- 場面①:遺留分を算定するための基礎財産に「算入」する場面(財産の総額を増やす方向)
- 場面②:遺留分侵害額を計算する際に、請求者自身が得た特別受益を「控除」する場面(請求できる金額を減らす方向)
そして、この2つの場面では、特別受益として考慮できる期間の制限が異なります。 この違いを知らないと、「古い贈与だから関係ないはず」と誤解してしまうことがあります。

2. 場面①:遺留分の基礎財産への「算入」(10年以内に限定)
遺留分を計算する際、まず「遺留分を算定するための財産の価額(基礎財産)」を確定させる必要があります。この基礎財産には、被相続人の死亡時の財産に加えて、生前贈与も加算されますが、相続人に対する特別受益にあたる贈与は、原則として相続開始前10年以内のものに限って算入されます(民法1044条3項)。つまり、10年より前の贈与は、この基礎財産の計算には含まれません。
3. 場面②:遺留分侵害額からの「控除」(期間制限なし)
一方、実際に「自分がいくら請求できるか(遺留分侵害額)」を計算する最終段階では、請求する本人が過去に得た特別受益を差し引く必要があります(民法1046条2項1号)。この控除については、10年という期間の制限がありません。 何十年前の贈与であっても、金額が判明すれば、その全額が差し引かれます。
4. 具体例で見る違い
たとえば、相続人が長男・長女の2人で、長男が20年前に3,000万円の特別受益(住宅購入資金の援助など)を受けていたケースを考えます。
- 基礎財産の計算(場面①):20年前の贈与のため、長男への3,000万円は基礎財産には算入されません
- 長女の遺留分侵害額の計算:長女自身は特別受益を受けていないため、通常どおり計算されます
- 仮に長男自身が遺留分を主張しようとした場合(場面②):長男が得た3,000万円は、期間の制限なく全額が長男の遺留分侵害額から控除されます。その結果、本来の計算上の遺留分額から3,000万円を差し引くと、長男が実際に請求できる金額は大きく減る、あるいはゼロになることもあります
このように、「算入されない=関係ない」というわけではない点に注意が必要です。基礎財産の計算には反映されなくても、請求者自身の取り分を減らす方向では、古い贈与であっても影響してきます。
5. 実務上の注意点
- 請求する側:自分が過去に受けた贈与を隠しても、後で判明すれば控除の対象になります。正確に把握した上で、実際に請求できる金額を見積もることが重要です
- 請求される側:相手(請求者)が過去に特別受益を受けていないか確認することで、支払うべき金額を適切に抑えられる可能性があります。古い贈与であっても、証拠があれば主張する価値があります
- 不動産や事業資金など高額な贈与ほど影響が大きい:金額が大きい特別受益ほど、算入・控除いずれの場面でも遺留分の金額に与える影響が大きくなります
6. 弁護士に依頼するメリット
特別受益と遺留分の計算は、算入と控除という2つの異なるルールが絡み合うため、当事者だけで正確に金額を算定するのは容易ではありません。過去の贈与の調査(証拠収集)から、正確な金額の算定、相手方との交渉まで、弁護士が一貫してサポートすることで、見落としのない解決につながります。
7. まとめ
特別受益は、遺留分の「基礎財産への算入」では原則10年以内という制限がありますが、「請求者自身の遺留分侵害額からの控除」では期間の制限がありません。この非対称性を理解していないと、実際に請求できる金額を見誤ることがあります。生前贈与が関わる遺留分の請求・防御は、早い段階で弁護士に相談し、正確な金額を把握することをおすすめします。










