共同親権シリーズ第4回:共同親権になったら、日々の子育てはどう回す?行使方法の基本ルール(民法824条の2)

※本記事は法務省Q&A形式解説資料(民法編)をもとに、当事務所の弁護士松野絵里子が独自にかみ砕いて解説したり、意見や感想を加えたものです。個別の問題について意見を明らかにするものではありません。個別の事案については、ご自身の弁護士に確認してください。当事務所では、親権や監護権に関しての法律相談をお受けしております。

参考:

1. 「毎回サインが必要?」「返事が来ないときは?」共同親権の一番の不安はここにある

第1回 第3回では、共同親権を選べるかどうか、その判断基準や後からの変更について見てきました。しかし、実際に共同親権が始まった方から最も多く寄せられる質問は、もっと生活に密着したものです。「予防接種のたびに元配偶者の同意が必要なのか」「LINEを送っても返事が来ないとき、子どもの手続きを進められないのか」こうした日々の不安に答えるのが、新設された民法824条の2です。

この条文は、共同親権者となった父母がどのように親権を行使すべきかという「基本ルール」を定めたものです。今回は、その中でも土台となる考え方(法務省Q&A・Q4-1~Q4-9)を取り上げます。学校や医療の具体的な場面(習い事、ワクチン接種、転居など)については、次回以降でさらに詳しく解説する予定です。

2. 法務省Q&Aコメンタリー:親権行使の基本ルール(民法824条の2関係)

3. 「急迫の事情」のメルクマールを考える 親権行使者指定制度の創設が持つ意味

ここからは、法務省Q&Aや国会答弁を離れ、当職自身の見解を述べます。子の連れ去りに関するご相談をお受けする中で考えるようになった視点として、824条の2第3項の親権行使者指定制度が新設されたことが、「急迫の事情」の当てはめにどう影響し得るかについて、一つの考え方を提示したいと思います。

「急迫の事情」とは「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時に親権を行使できず」子の利益を害するおそれがある場合をいう、とされています。ここで見落とされがちなのは、比較対象となる「家庭裁判所の手続」の中身です。通常の本案審判だけを念頭に置くのか、それとも審判前の保全処分のような迅速な手続まで含めて考えるべきなのかによって、「急迫」のハードルの高さは変わってきます。

824条の2第3項による親権行使者の指定は、家事審判事項である以上、理論上は審判前の保全処分の対象になり得ると考えられます。だとすれば、「急迫の事情」の有無を判断する際のメルクマールは、単に「父母間で話し合う時間的余裕があるか」ではなく、「親権行使者指定の保全処分の申立てをして、その結果を待つだけの時間的余裕すらないか」という、より高い水準で捉えるべきではないか、というのが当職の見立てです。

この視点に立つと、実務上の行動指針として一つの示唆が得られます。緊急性の評価が微妙な場面、典型的には、DVや虐待からの避難が客観的に明白とまでは言い切れないケースにおいて、それでも子を連れて別居しようとする親は、自らの判断だけで「急迫の事情」に当たると決めつけて実行するのではなく、まずは親権行使者の指定(必要であれば保全処分も併せて)を申し立て、司法の判断を経たうえで実行に移すという選択肢を、真剣に検討すべきではないかと見受けられます。疑わしい場合に裁判所の判断を仰いでおくことは、後の親権者変更や損害賠償の場面で、自らの行動の正当性を裏付ける重要な材料にもなり得ます。

ただし、この考え方には明確な限界があります。現に差し迫ったDVや虐待からの避難が必要な場面は、この規範の対象外です。命や心身の安全に関わる急迫性が客観的に認められる、あるいは被害者本人が身の危険を強く感じている場合にまで、事前に裁判所の手続を経ることを求めるのは、被害者の安全を危険にさらしかねず、法の趣旨にも反します。当職がここで述べているのは、あくまで緊急性の評価が微妙で、当事者自身にも本当に「急迫」といえるか確信が持てないような境界的な事案において、単独での実行に踏み切る前に、迅速な司法判断を求める選択肢を検討すべきだ、という限定的な提案です。

もう一点、行使の「態様」に関する論点も付け加えておきます。急迫の事情による転居が正当化される場面であっても、その後の別居の在り方、特に、相手方に一切の連絡を絶ち、子の在学先や居所などの情報を完全に秘匿し続けるような対応が、常に無条件に許容されるとは限らないのではないかと思われます。第1回で見た通り、DVや虐待からの避難自体は人格尊重・協力義務違反にはなりません。しかし、安全確保のために真に必要な範囲を超えて、情報を一方的に遮断し続けるような対応は、避難という正当な行為とは別の問題として、817条の12の人格尊重・協力義務との関係で評価される余地があるのではないかと考えられます。「安全のために必要な秘匿」と「それを超えた一方的な関係遮断」は、区別して考えるべき別の問題です。

この分野は、824条の2第3項という制度自体が新設されたばかりであり、「急迫の事情」との関係整理について、法務省Q&Aや国会答弁でも明確な言及はありません。当職の見解も、現時点では一つの解釈の提示にとどまります。この論点は、今後まさに様々な審判例・裁判例が積み重なっていく分野になると見ており、当事務所としても引き続き注視していきたいと思います。

4. まとめ

共同親権になったからといって、日々の子育ての一つひとつに相手の署名や同意が必要になるわけではありません。日常的なことは引き続き単独で行えますし、緊急時には「急迫の事情」による単独行使という選択肢もあります。一方で、どこまでが「日常」でどこからが「共同で決めるべきこと」なのかの線引きは、次回以降で扱う学校・医療などの具体的な場面でこそ悩みが生じやすいところです。ご自身のケースでの判断に迷われた場合は、お早めに無料相談をご利用ください。

参考文献

共同親権シリーズ

  1. 第1回:父母の責務と人格尊重・協力義務(民法817条の12)
  2. 第2回:単独親権か共同親権か、裁判所の判断基準(民法819条7項)
  3. 第3回:親権者変更が認められるケース(民法819条6・8項)
  4. 第4回:共同親権になったら、日々の子育てはどう回す?行使方法の基本ルール(民法824条の2)
  5. 第5回:「日常の行為」とは何か?転居・旅行・日々の世話の線引き(民法824条の2)
  6. 第6回:学校行事、入学手続、緊急連絡 共同親権と学校対応の線引き(民法824条の2)
  7. 第7回:手術、ワクチン、服薬 医療の場面での共同親権の線引き(民法824条の2)
  8. 第8回:「監護の分掌」とは?習い事・宗教教育・財産管理と、監護者指定・親権行使者指定との使い分け(民法824条の2・766条)
  9. 第9回:「面会交流」から「親子交流」へ今回の改正で何が変わったか

📝 監修者(最終更新日:2026年8月)

松野絵里子 弁護士|東京ジェイ法律事務所
国内最大手の渉外法律事務所にて20年以上経験を積み、離婚・財産分与・国際離婚・富裕層の資産分割など複雑案件を多数手がける。現在はオンライン対応・全国対応で離婚専門の法律相談を提供。費用の透明性にもこだわり、複雑な財産分与事案の和解的解決も得意な弁護士。共同親権の推進でも経験が多く、知名度がある。

記事監修者: 弁護士 松野 絵里子

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