共同親権シリーズ第1回:父母の責務と「人格尊重・協力義務」とは(民法817条の12)

※本記事は法務省Q&A形式解説資料(民法編)、および参議院法務委員会調査室がまとめた国会論議の記録をもとに、当事務所の弁護士松野絵里子が独自にかみ砕いて解説したり、意見や感想を加えたものです。個別の問題について意見を明らかにするものではありません。個別の事案については、ご自身の弁護士に確認してください。国会答弁の引用部分は特に、原典(国会会議録検索システム等)との照合をお願いします。当事務所では、親権や監護権に関しての法律相談をお受けしております。

参考:

1. この条文が新設された背景

2026年4月施行の改正民法では、「親権は父母の権利である」という従来のイメージを転換し、親権は義務としての性質も持つことを明確にする条文が新設されました(民法817条の12、818条1項)。これは単なる言葉の整理ではありません。国会審議の過程で、ある議員は、日本では毎年約20万人の子どもが親の離婚に直面しており、非同居親との関係が希薄になったり、経済的に困窮したりするケースが少なくないと指摘したうえで、離婚後も父母がともに子を養育する責任を果たすべきだという考え方を、この改正の理念として説明しています(第213回国会衆議院本会議、2024年3月14日)。

2. 条文本文(民法817条の12)

第1項 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。

第2項 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。

条文自体は著作権の対象外なので、正確に全文を引用しています。以下、この条文について法務省が示しているQ&Aを1問ずつ取り上げ、当事務所の見方を加えていきます。

3. 法務省Q&Aコメンタリー:親の責務等(民法817条の12関係)

4. 「扶養」だけでなく「養育」も見落とされがちな条文のもう一つの意味

ここからは、法務省Q&Aの解説から少し離れ、当職自身の見解を述べたいと思います。

条文本文をもう一度見てください。817条の12第1項は、「その子を養育しなければならず」という部分と、「その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない」という部分の、2つの義務を並べて規定しています。この2つは、法文上明確に別の言葉で書き分けられています。

これまでの離婚後の実務では、子と離れて暮らす親(別居親)の責任は、ともすれば「養育費を払うこと」に矮小化されて語られがちでした。もちろん養育費は重要ですが、それはあくまで扶養(経済的な支援)の話です。しかし今回の条文は、経済的な扶養とは別に、子を「養育する」つまり実際に子どもの成長に関わり、育てるという、より能動的な義務を、婚姻関係の有無にかかわらず父母双方に課しています。この点は、法務省Q&Aでは直接掘り下げられていませんが、条文の構造上、看過できない重要な意味を持っていると当職は考えています。

ここで当然に出てくる疑問は、「子と離れて暮らす親が、実際に子を養育する義務を負うとして、その義務をどうやって現実に果たすのか」という点です。答えは明らかで、親子交流(面会交流)という実際の関わりの機会がなければ、この養育義務は実質を伴わない空文になってしまいます。経済的な扶養だけを果たしていれば足りるのであれば、あえて「養育」という言葉を扶養と並べて規定する必要はなかったはずです。

比較法シリーズで取り上げたドイツの共同配慮(gemeinsame elterliche Sorge)、アメリカのフレンドリーペアレントルール、イギリスのレジデンスオーダーは、いずれも制度の細部は異なるものの、離婚後も双方の親が子の養育に実質的に関与し続けることを前提とした設計になっています。これに対し、日本の家庭裁判所の従前の実務は、他の先進国と比較して、親子交流の頻度や時間について消極的な運用がされてきたとの指摘が、研究者や実務家からしばしばなされてきました。月1回数時間程度の交流にとどまるケースが典型例として語られることも少なくありません。

今回の改正で、父母双方に対して条文上明確に「養育」義務が課された以上、この義務を絵に描いた餅で終わらせないためには、その義務を果たすための基盤となる親子交流の在り方についても、今後の家庭裁判所の実務に一定の変化が生じることを、当職としては期待したいと思います。養育義務を課しながら、それを果たす手段である親子交流を制限的にしか認めないというのは、制度の整合性という観点からも本来望ましくないはずです。

ただし、これはあくまで当職の見解であり、法務省Q&Aや国会答弁がこの点を明示的に述べているわけではありません。実際に家庭裁判所の実務がどう変化していくのか、あるいは変化しないのかは、今後の審判例・裁判例の集積を見ていく必要があります。この点は、当事務所として今後も注視し、機会があれば改めて発信していきたいと思います。

5. 法務省Q&Aコメンタリー:父母相互の人格尊重・協力義務(民法817条の12関係)

6. DV・虐待の被害者にとって重要なポイント(まとめ)

ここまでのQ&Aを踏まえると、この条文はDVや虐待の被害者に不利益を強いる趣旨のものではないことが、繰り返し確認できます。避難のための転居、相手への直接対応の拒否など、被害者として当然取るべき対応が、直ちに「義務違反」として不利に扱われることはない、という点は特に強調しておきたいポイントです。

7. 比較法的に見るとどう位置づけられるか

父母相互の人格尊重・協力義務(民法817条の12第2項)は、日本独自の発明というより、海外の法制度に類似の考え方を見出すことができます。

アメリカ:フレンドリーペアレントルール
裁判所が親権者を指定する際に、相手方と子どもの面会交流に協力的・友好的な親を優先するという考え方です。日本でも2016年、千葉家裁松戸支部がこの考え方に基づき、面会交流に積極的な姿勢を示した別居親(父親)を親権者に指定する判決を出し、大きな注目を集めました。ただしこの判決は控訴審で結論が覆り、最高裁でもその結論のまま確定しているため、日本の裁判実務でフレンドリーペアレントルールが確立した基準として採用されているわけではありません。

ドイツ:Wohlverhaltensklausel(善行条項)
ドイツ民法(BGB)1684条2項は、各親に対して、子と他方の親との関係を損なったり、養育を困難にしたりする行為を控えるよう義務づけています。学説上「Wohlverhaltenspflicht(善行義務)」と呼ばれるこの規定は、面会交流を子どもの権利として位置づけたうえで、親の側に、その実現を妨げないという消極的な義務を課すものです。

日本の新規定との関係
今回新設された817条の12第2項は、アメリカのように親権の判断基準として直接機能する規定ではなく、ドイツのように面会交流条項に付随するものでもありませんが、「相手方との関係を損なう行為を控え、子の養育に協力すべきである」という理念そのものは、これらの海外法制と共通する方向性を持っていると整理できます。国会審議でも、こうした義務違反があった場合には親権者指定・変更の判断で考慮され得るとされており、機能的には、フレンドリーペアレントルールやドイツの善行義務と同様に、「相手の親子関係を尊重する親であるかどうか」が間接的に親権判断に影響しうる仕組みになっている、と位置づけることができます。

なお、これは比較法的な整理であり、日本の改正法が特定の外国法を直接継受したものと国会で説明されているわけではない点には注意してください。

8. まとめ

「父母は協力しなければならない」という条文の言葉だけを見ると不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはDV・虐待の被害者に不利益にならないよう配慮された制度設計になっています。ご自身の状況でこの規定がどう影響するか気になる方は、お早めに無料相談でご相談ください。

参考文献

共同親権シリーズ

  1. 第1回:父母の責務と人格尊重・協力義務(民法817条の12)
  2. 第2回:単独親権か共同親権か、裁判所の判断基準(民法819条7項)
  3. 第3回:親権者変更が認められるケース(民法819条6・8項)
  4. 第4回:共同親権になったら、日々の子育てはどう回す?行使方法の基本ルール(民法824条の2)
  5. 第5回:「日常の行為」とは何か?転居・旅行・日々の世話の線引き(民法824条の2)
  6. 第6回:学校行事、入学手続、緊急連絡 共同親権と学校対応の線引き(民法824条の2)
  7. 第7回:手術、ワクチン、服薬 医療の場面での共同親権の線引き(民法824条の2)
  8. 第8回:「監護の分掌」とは?習い事・宗教教育・財産管理と、監護者指定・親権行使者指定との使い分け(民法824条の2・766条)
  9. 第9回:「面会交流」から「親子交流」へ今回の改正で何が変わったか

📝 監修者(最終更新日:2026年7月)

松野絵里子 弁護士|東京ジェイ法律事務所
国内最大手の渉外法律事務所にて20年以上経験を積み、離婚・財産分与・国際離婚・富裕層の資産分割など複雑案件を多数手がける。現在はオンライン対応・全国対応で離婚専門の法律相談を提供。費用の透明性にもこだわり、複雑な財産分与事案の和解的解決も得意な弁護士。共同親権の推進でも経験が多く、知名度がある。

記事監修者: 弁護士 松野 絵里子

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