遺産にアパートや自宅がある場合、その不動産をいくらと見るかで、受け取れる金額が大きく変わります。相続税の申告で使った金額をそのまま使うわけではありません。評価の決め方と、亡くなった後の家賃をどう扱うかを説明します。
1. 評価額の差が、そのまま金額の差になります
遺留分の計算は、基礎となる財産に割合をかけて求めます。不動産が遺産の大部分を占めている場合、その評価額が動けば、請求できる金額もそのまま動きます。
たとえば、自宅の評価が6,000万円か8,000万円かで意見が分かれているとします。遺留分の割合が8分の1であれば、請求できる金額は250万円変わります。
相手方が提示してきた金額をそのまま受け入れる前に、検討する価値があります。ここは、遺留分の事件で最も争いになる部分です。
2. 遺留分では「時価」で評価します
不動産の価額には、複数の基準があります。
- 公示価格 国が公表する標準的な価格
- 路線価 相続税や贈与税の計算に使うもの。公示価格のおおむね8割程度
- 固定資産税評価額 固定資産税の計算に使うもの。公示価格のおおむね7割程度
- 実勢価格(時価) 実際に売買される価格
遺留分の計算では、実勢価格(時価)を用います。相続税の申告で使った路線価や、固定資産税の通知に書かれた金額ではありません。
そのため、相続税の申告書に書かれた不動産の金額と、遺留分の計算に使う金額は食い違います。相手方が「申告書ではこの金額だった」と主張してくることがありますが、それは相続税の計算のための金額です。
3. いつの時点で評価するか
相続が開始した時点、つまり被相続人が亡くなった時点の価額で評価します。遺言が書かれた時点でも、現在の時点でもありません。
生前に贈与された不動産についても、贈与された当時の価額ではなく、相続開始時の価額に引き直して計算します。20年前に贈与された土地であれば、当時の価格ではなく、亡くなった時点でいくらだったかを見ます。
4. 物件の種類によって、評価の難しさが違います
自宅 取引事例の多い住宅地であれば、複数の不動産会社の査定を取ることで、おおよその幅がつかめます。比較的、争いになりにくい類型です。
賃貸アパート・貸家 賃借人がいる物件は、自由に使える物件より売買価格が下がるのが通常です。空室の状況、家賃の水準、建物の老朽化の度合いによって、評価は大きく動きます。収益をもとに評価する方法もあり、当事者の主張が食い違いやすい類型です。
借地権・底地 借地の上に建物が建っている場合、借地権と底地に分かれます。それぞれの価格の割合は地域によって異なり、判断には知識が要ります。
共有になっている不動産 持分だけを売ることは事実上難しいため、単純に全体の価格を持分で割った金額にはなりません。
老朽化した空き家、山林 需要が乏しくても、評価額が0円になるとは限りません。固定資産税評価額などを参考に協議します。解体や撤去に費用がかかる場合には、その分を考慮します。
5. 相手方が低い評価を出してきたとき
相手方は、支払う金額を抑えるため、低い評価額を主張してくるのが通常です。次の順で対応します。
複数の査定を取る 不動産会社の査定書を複数取り寄せます。1社だけでは根拠として弱く、複数を並べることで幅が見えてきます。
取引事例を示す 同じ地域で、条件の近い物件がいくらで取引されたかを示します。
不動産鑑定士の評価を得る 当事者の主張が大きく食い違い、話し合いで埋まらない場合には、不動産鑑定士による評価を求めます。調停の中で鑑定を行うこともあれば、訴訟の手続の中で行うこともあります。
鑑定には費用がかかりますので、評価の差がどの程度あるか、鑑定によって取り戻せる金額がその費用に見合うかを見極めたうえで判断します。差が小さければ、鑑定をせずに折り合ったほうが合理的です。
なお、鑑定の結果が出ると、最大の争点が定まりますので、その段階で和解が成立することが多くあります。
6. 亡くなった後の家賃はどうなるのか
遺産にアパートや貸家がある場合、よくご質問をいただく点です。
相続が開始した後に発生した賃料は、遺産そのものとは別に扱われ、各相続人が相続分に応じて取得するのが原則です。
そのため、遺留分の計算の基礎に入るのはアパートという不動産であり、亡くなった後の賃料は、別に精算することになります。遺産を分けるときに、一緒に清算されるものではありません。
ただし、遺言で特定の相続人にアパートを相続させている場合には、賃料が誰のものになるかについても争いが生じます。
また、賃貸物件を管理していた相続人が、固定資産税や修繕費を負担していることがあります。賃料の精算をする際には、これらの費用も考慮することになります。
賃貸物件がある事案では、不動産の評価と賃料の精算という2つの問題が同時に生じます。早めにご相談ください。
7. 住宅ローンが残っている場合
不動産に住宅ローンが残っている場合、時価からローンの残額を差し引いて評価するのではありません。
不動産は時価で評価し、ローンの残額は債務として、計算の基礎となる財産の全体から差し引きます。結論が近くなることもありますが、考え方が異なりますので、計算の過程を確認してください。
なお、団体信用生命保険によって死亡時にローンが完済される場合には、控除すべき債務は残りません。
→ 計算の基礎に何が含まれるかは、別の記事で詳しく説明しています
8. ご相談ください
不動産が遺産に含まれる事案では、評価の見極めが結果を左右します。
- 相手方が提示した評価額が妥当かどうか
- 査定を取るべきか、鑑定まで進むべきか
- 鑑定の費用に見合う差があるか
- 賃料の精算をどう求めるか
これらの判断には、実際の事件の経験が必要です。当事務所では、遺留分に関する無料相談を行っています。夜間のオンライン相談にも対応しています。不動産の登記事項証明書や固定資産税の納税通知書があれば、お持ちください。
遺留分の事件では、着手金はご依頼をお受けするときに、報酬金は解決して金銭をお受け取りになった後にお支払いいただきます。相手方から回収して初めて支払の原資ができるという事件ですので、費用の立て方についても、ご相談の際にあわせてご説明しています。
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9. 2019年より前に始まった相続について
2019年7月1日より前に開始した相続については、改正前の民法が適用され、「遺留分減殺請求」という制度になります。この場合は金銭の支払を求めるのではなく、不動産が共有になるのが原則です。共有になった不動産をどう分けるかという問題が別に生じますので、対応の考え方が変わります。







