大切な方が亡くなった直後は、悲しみの中で、同時にさまざまな手続きにも向き合わなければなりません。しかも相続には、それぞれ期限が決まっている手続きが複数あります。この記事では、相続が発生してから何をどの順番で進めるべきか、全体像を整理します。
1. まず知っておきたい、相続の全体像
相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産を、相続人が受け継ぐことを意味します。財産には、預貯金や不動産のような「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も含まれます。プラスの財産だけを受け継いで、借金だけ放棄する、ということは原則としてできません。
相続の手続きは、大きく分けると次の3つの軸で進んでいきます。
- 相続人を確定させる(誰が相続人か)
- 相続財産を確定させる(何を相続するのか、プラスかマイナスか)
- 相続財産をどう受け継ぐか決める(相続する・放棄する、誰がどう分けるか)

2. 期限つきの手続き一覧(時系列)
相続には、下記のように期限が決まっている手続きが複数あります。期限を過ぎると選べる選択肢が減ってしまうため、まずこの全体像を把握しておくことが重要です。
| 期限 | 手続き | 内容 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出 | 市区町村役場へ提出(通常は葬儀会社が代行してくれます) |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の判断 | 借金の方が多い場合、相続放棄や限定承認を検討する期限 |
| 4か月以内 | 準確定申告 | 被相続人の所得税の確定申告(生前に一定の所得があった場合) |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納税 | 相続財産が基礎控除額を超える場合に必要 |
| 3年以内 | 相続登記 | 2024年4月から義務化。不動産を相続した場合、期限内の登記が必要 |
| 1年以内(注) | 遺留分侵害額請求 | 遺留分を侵害する遺言・贈与があった場合の請求期限(遺留分侵害を知った時から1年) |
このように、最初の3か月と、その後の10か月がとりわけ重要な節目になります。特に3か月以内に判断すべき相続放棄は、財産調査が終わらないうちに期限が来てしまうことも多く、最も見落とされやすいポイントです。
3. 具体的に何をすべきか、ステップ順の解説
ステップ1: 相続人を確定する
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて収集し、法定相続人が誰なのかを確定させます。前妻・前夫との間の子、認知した子、あるいは孫が相続人になる「代襲相続」など、想定していなかった相続人が見つかることもあります。
ステップ2: 相続財産を調査する
預貯金、不動産、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金などのマイナスの財産も含めて、財産の全体像を洗い出します。通帳、権利証、郵便物などを手がかりに調査を進めます。
ステップ3: 相続放棄・限定承認を検討する(3か月以内)
財産調査の結果、マイナスの財産(借金)の方が多いことが分かった場合、相続放棄や限定承認を検討します。この判断は、原則として相続開始を知った時から3か月以内に行う必要があります。
ステップ4: 準確定申告を行う(4か月以内、対象者のみ)
被相続人に一定の所得があった場合、相続人が代わりに確定申告(準確定申告)を行う必要があります。
ステップ5: 遺産分割協議を行う
遺言書がない場合、相続人全員で、誰がどの財産をどれだけ取得するかを話し合います。合意した内容は「遺産分割協議書」にまとめ、相続人全員が実印で押印します。
ステップ6: 相続税の申告・納税(10か月以内、対象者のみ)
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要です。
ステップ7: 相続登記・財産の名義変更
不動産があれば相続登記を、預貯金があれば金融機関での払い戻し・名義変更の手続きを行います。相続登記は2024年4月から義務化されているため、期限を意識して進める必要があります。
4. 実務でよくある「つまずきポイント」
制度としては上記の流れですが、実際に相続を担当していると、教科書通りには進まないことが数多くあります。
財産調査に想定以上の時間がかかる
通帳を見つけても、それがすべての口座とは限りません。ネット銀行や、生前にあまり使っていなかった口座は見落とされがちです。金融機関ごとに残高証明書の取得を依頼する必要があり、金融機関数が多いほど、この調査だけで数週間~数か月かかることもあります。3か月という相続放棄の期限は、この調査期間の途中で来てしまうことが実務上非常に多いため、間に合わない場合は早めに家庭裁判所へ期間伸長の申立てを検討する必要があります。
「何から手をつければいいか分からない」まま時間だけが過ぎる
複数の手続きが同時並行で進むため、当事者だけで整理しようとすると、どれから着手すべきか分からなくなり、結果的に何も手をつけられないまま時間が過ぎてしまうケースが少なくありません。全体のスケジュールを俯瞰し、誰が何を、いつまでにやるかを整理する役割(指揮者)が、実務上は非常に重要です。
相続人同士の温度差
「早く進めたい人」と「まだ気持ちの整理がつかない人」との間で、手続きを進めるペースにずれが生じることもよくあります。特に遺産分割協議は相続人全員の合意が必要なため、一人でも足並みが揃わないと、そこで足踏みしてしまいます。
遺言書の有無で、進め方が大きく変わる
有効な遺言書がある場合とない場合とでは、必要な手続きがまったく異なります。遺言書があれば遺産分割協議は不要になることが多い一方、遺言の内容によっては遺留分の問題が生じることもあります。まずは遺言書の有無を確認することが、全体の進め方を左右する最初の分岐点です。
5. 弁護士に相談すべきタイミング
「まだ揉めていないから、弁護士に相談するのは早い」と考える方も多いのですが、実務上は早い段階で相談する方が、結果的に負担が少なく済むケースがほとんどです。
- 相続人・相続財産の調査は、弁護士会照会などの制度を使うことで、当事者だけでは追跡できない情報にたどり着けることがあります
- 期限のある手続き(相続放棄、相続税申告)は、判断が遅れるほど選択肢が狭まります。早期の相談は、単なる紛争対応ではなく、期限管理という意味でも重要です
- 相続登記が必要な場合、当事務所には司法書士も在籍しているため、遺産分割の相談から登記の実行まで、窓口を一本化してご依頼いただけます
6. まとめ
相続は、「誰が」「何を」「どう分けるか」という3つの軸を中心に、複数の期限つき手続きが並行して進む複雑なプロセスです。特に最初の3か月(相続放棄の判断)と、10か月(相続税申告)は重要な節目になります。何から手をつければよいか分からないという段階でも、早めに専門家に相談することで、期限に追われることなく、落ち着いて手続きを進めることができます。









