※本記事は、実際のご相談内容ではなく、よくあるご相談を元に構成した仮想の事例です。あくまで一般的な法的知識にもとづく「考えられる解決の道筋」を示すものであり、実際の結論は個別の事情によって異なります。
ご相談内容
相談者:Cさん(40代・会社員)
父が亡くなりました。父はかつて、叔父(父の弟)と2人で会社を興し、現在はその会社を叔父が経営しています。父は経営から退いていましたが、株式の38%を保有したままでした。
遺産には、預貯金・不動産・投資信託のほか、この非上場株式38%が含まれています。相続人は私と弟の2人で、どちらも経営には関わっていません。この株式、どう扱って遺産分割を進めればいいでしょうか。
1. 弁護士の整理
このご相談の難しさは、株式が「単なる金融資産」ではなく、「経営権と結びついた財産」である点にあります。整理すべき論点は次の3つです。
- ①この非上場株式を、いくらと評価するか
- ②株式そのものを相続人が取得するのか、それとも金銭に換えるのか
- ③会社側(叔父様)の意向や、会社の定款の内容によって、選べる選択肢が変わってくる
2. 考えられる対応
① 非上場株式の評価
上場株式と違い、非上場株式には市場価格がありません。評価方法には、類似する業種の上場企業と比較する「類似業種比準方式」、会社の純資産をもとに算定する「純資産価額方式」、将来のキャッシュフローから逆算する「インカムアプローチ(DCF法)」など複数の手法があり、どれを用いるかによって評価額が大きく変わります。
この評価は、実務上かなりの確率で対立の火種になります。 理由は単純で、双方の立場によって「望ましい評価額」が正反対だからです。
- 株式を取得する側(叔父様・会社側) は、代償金として支払う金額を抑えたいため、会社の含み損や将来リスクを強調し、より低く評価される純資産価額方式や、保守的な将来予測に基づくDCF法を主張する傾向があります
- 株式を手放す側(Cさんたち) は、受け取る代償金を増やしたいため、会社の収益力や将来性を強調し、より高く評価されやすい類似業種比準方式や、楽観的な将来予測を主張する傾向があります
さらに、経営に関与していないCさんたちは、そもそも会社の決算書や事業計画といった評価の前提資料そのものにアクセスしにくく、「そもそも正確な情報が開示されているか分からない」という不信感が対立を深めることもよくあります。会社の業績が実際より低く申告されているのではないか、簿外の資産や負債があるのではないか、といった疑いが生じやすい場面です。
対立を解消するための実務的な進め方
- 双方が別々の税理士・公認会計士に評価を依頼すると、評価額が大きく食い違ったまま平行線になりがちです。可能であれば、双方が合意できる中立的な専門家(公認会計士等)に評価を一本化して依頼する方が、早期解決につながりやすくなります
- 決算書だけでなく、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、直近の資産評価(特に不動産を保有している場合)まで開示を求め、evaluationの前提資料を精査することが重要です
- 話し合いでの合意が難しい場合、最終的には遺産分割調停・審判の中で、裁判所が選任する鑑定人による評価が行われることもあります。また、後述する売渡請求が絡む場合は、会社法上、非訟事件手続として裁判所に価格決定を申し立てる手続き(会社法177条2項)も用意されています
評価をめぐる対立は、感情的な不信感と結びつきやすいため、早い段階で弁護士が窓口になり、必要な資料開示を適切に求めていくことが、結果的に早期解決への近道になります。
② 株式をどう分割するか
経営に関与しないCさんと弟さんが、そのまま株式を取得しても、配当が出ていなければ経済的な実利は少なく、株主としての権利行使も実際には難しいことが多いのが実情です。そのため、実務上は、株式を叔父様側(会社または叔父様個人)に取得してもらい、その対価として代償金を受け取る「代償分割」で解決するケースが多く見られます。分割方法の考え方については「代償分割・換価分割・現物分割の違いとは?」の記事もご覧ください。
③ 会社法上の「売渡請求」に注意する
会社の定款に「相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる」という定め(会社法174条)がある場合、相続によって株式を取得したCさんたちに対し、会社側から株式の売渡しを強制的に請求される可能性があります。この場合、売買価格について会社と協議し、まとまらなければ裁判所が価格を決定する手続きに進みます。まずは会社の定款を確認し、この規定の有無を把握することが重要です。
④ 38%という数字の意味
実務上見落とされがちですが、38%という保有割合には重要な意味があります。会社法上、株主総会の特別決議(定款変更、事業譲渡など重要な決定)には、原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。逆にいえば、3分の1(約33.3%)を超える議決権を持っていれば、単独で特別決議を否決できる「拒否権」に近い立場になります。父が保有していた38%の株式を誰が承継するかによって、会社の意思決定に対する影響力が大きく変わるため、単なる資産価値だけでなく、この点も踏まえて叔父様側と話し合う必要があります。
3. その後の流れ(一般的なシナリオ)
- 会社の定款・決算書の確認(売渡請求条項の有無、株式の評価に必要な資料の取得)
- 税理士と連携した株式の評価
- 叔父様側との交渉(代償分割による解決を軸に、金額や進め方を協議)
- 合意できない場合は、遺産分割調停へ(売渡請求がある場合は、価格決定のための別途の裁判所手続きが必要になることもあります)
経営に関与していない相続人にとって、会社の内部情報は本来アクセスしにくいものです。弁護士が窓口になることで、必要な情報開示を適切に求めつつ、感情的な対立を避けながら交渉を進めやすくなります。
まとめ
非上場株式が絡む遺産分割は、評価方法の専門性に加え、会社法上の制度(売渡請求など)や、議決権割合が持つ意味まで理解した上で進める必要があり、通常の遺産分割よりも一段階複雑です。経営に関与しない相続人であっても、保有株式の割合次第では強い交渉材料になり得るため、自己判断で安易に手放す前に、専門家に相談することをおすすめします。











