父が亡くなったとき、「すべての財産を妻に相続させる」という遺言がありました。母のことを思えば、当時は何も言いませんでした。その母が亡くなり、今度は兄が全部を受け取ることになっている。このご相談は、実際に多くあります。今から何ができるのかを整理します。
1. よくあるのは、この形です
次のような経過をたどるご相談が、繰り返し寄せられます。
父が亡くなり、すべてを母に相続させるという遺言がありました。子どもたちは、母の生活を考えて、そのときは何も請求しませんでした。
その後、母と同居していた兄が母の面倒を見るようになりました。母が亡くなり、遺言が出てきました。母の財産は、すべて兄に相続させるという内容でした。
このとき初めて、他の子どもたちは、父の財産も母の財産も、すべて兄に渡ることに気づきます。
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2. 父の相続について、今から請求できますか
父の相続についての遺留分は、原則として請求できません。
請求できるのは、相続の開始と、遺留分を侵害する遺言や贈与があったことを知ったときから1年です。父が亡くなり、遺言の内容も知っていたのであれば、その時点から1年で期間は過ぎています。
相続の開始から10年を過ぎているときも、請求はできません。
「母のために遠慮した」という事情があっても、期間が延びることはありません。この点は、厳しいようですが変わりません。
だからこそ、最初の相続のときに、金額の請求までは求めなくても、請求の意思表示だけはしておくべきなのです。
3. 父の相続のときに、請求の意思表示をしていた場合
一方、父の相続のときに内容証明郵便を送っていた方もいます。その場合は、話が変わります。
意思表示をした時点で、母に対して金銭の支払を求める債権が発生しています。母に配慮して、その後の請求をしないまま置いていた、という状態です。
そして母が亡くなると、この債権は、母の相続人が承継する債務になります。請求していたご本人も、母の相続人の一人です。つまり、債権を持っている立場と、その債務を承継する立場の両方になります。
ご自身の相続分にあたる部分は、債権者と債務者が同じ人になりますので消滅します。残りの部分を、他の相続人に対して請求することになります。
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ただし、注意が必要です。この金銭債権にも時効があります。権利を行使できることを知った時から5年です。父の相続のときに意思表示だけして長く置いていた場合、母が亡くなって動き出したときには、すでに期間が問題になることがあります。
4. 母の相続については、これから請求できます
母が「すべてを兄に相続させる」という遺言を残していた場合、他の子どもたちは、母の相続について遺留分を請求できます。期間は、母が亡くなり遺言の内容を知ったときから1年です。
母の相続で問題にできるのは、母が遺した財産だけではありません。母が生前に特定の子へ贈与していた財産も、計算に加えられます。
同居していた子が、母から住宅の資金を援助されていた、生活費を超える金銭を継続して受け取っていた、といった事情があれば、相続開始前10年以内のものは計算の基礎に入ります。
母の預貯金の取引履歴を調べることで、こうした動きが見えてくることがあります。
5. 父から兄への贈与は、母の相続の計算に入りません
ここは間違えやすい点です。
父が生前に兄へ贈与していた財産は、母の相続の遺留分の計算には入りません。被相続人が違うからです。父の相続で問題にすべきことであり、その期間はすでに過ぎています。
ただし、例外があります。父から相続した財産を、母がそのまま兄に贈与していた場合です。この場合は、母から兄への贈与ですので、母の相続の計算に入ります。
「もとは父の財産だった」という事実ではなく、誰から誰への贈与だったかで決まります。母の預貯金や不動産の動きを確認する意味は、ここにあります。
6. 父の遺産分割が終わらないうちに母が亡くなった場合
遺言がなく、父の遺産の分け方を決めないまま母が亡くなる、ということもあります。この場合、父の遺産分割の話し合いには、母の相続人が加わることになります。相続人の数が増え、話し合いは複雑になります。
遺留分は、父の相続と母の相続で、それぞれ別に考えます。ひとまとめにして計算することはできません。
この形は、時間が経つほど関係者が増え、解決が難しくなります。早い段階で手をつけるべき類型です。
7. 早めにご相談ください
二次相続の事案には、共通する難しさがあります。
期間の判断が要ります 父の相続について何ができるか、母の相続はいつまでかを、まず確定させる必要があります。ここを誤ると、できたはずの請求を逃します。
古い資料を集めることになります 母の生前の贈与を調べるには、預貯金の取引履歴を長期間さかのぼる必要があります。金融機関の保存期間には限りがありますので、早く動くほど資料が残っています。
兄弟の関係が固まっています 最初の相続のときから何年も経ち、それぞれの言い分が固まっています。当事者だけの話し合いでは動かないことが多く、家庭裁判所の調停に進むほうが早く解決します。
当事務所では、遺留分に関する無料相談を行っています。夜間のオンライン相談にも対応しています。父の相続のときの経緯がわかる資料があれば、あわせてお持ちください。
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8. 2019年より前に始まった相続について
2019年7月1日より前に開始した相続については、改正前の民法が適用され、「遺留分減殺請求」という制度になります。この場合は金銭の支払を求めるのではなく、贈与や遺贈の効力そのものが失われ、不動産などが共有になることがあるという違いがあります。二次相続の事案では、父の相続が旧法、母の相続が現行法という組み合わせになることもあります。







