「入籍はしていないが、20年以上一緒に暮らしてきた」——このような内縁関係(事実婚)のパートナーが亡くなったとき、残された方に相続権はあるのでしょうか。この記事では、内縁配偶者の相続をめぐる法律上の扱いと、生前にできる備えを解説します。
1. 内縁配偶者には、相続権が一切ない
結論から言うと、内縁関係のパートナーには、法律上の相続権が一切認められていません。民法上の「配偶者」とは、婚姻届を提出した法律婚の配偶者のみを指すためです。同居期間の長さ、生計を共にしていた実態、周囲からの認識など、実質的に夫婦同然の生活を送っていたとしても、婚姻届を出していない以上、相続人にはなれません。
2. 「財産分与」を請求することもできない
離婚の場合、内縁関係の解消であっても、財産分与の規定が類推適用され、財産の清算を求められる場合があります。そのため、「死亡による内縁解消の場合も、同じように財産分与を求められるのでは」と考える方もいます。
しかし、最高裁判所は、生存している内縁配偶者から、死亡した相手の相続財産について財産分与を求めることはできないと判断しています(最高裁平成12年3月10日決定)。財産分与はあくまで離婚(生前の解消)の場面での規定であり、死亡による解消の場面では、相続に関するルール(内縁配偶者には相続権がない)が優先されるという考え方です。
つまり、内縁配偶者は、相続権もなく、財産分与請求権もないという、法律上は二重に保護されない立場に置かれています。何も備えをしていなければ、長年連れ添ったパートナーであっても、財産は一切渡らないという事態になりかねません。
3. 生前にできる4つの備え
① 遺言による遺贈
もっとも確実な方法です。遺言書に「内縁の配偶者である〇〇に、財産の一部(または全部)を遺贈する」と明記しておけば、相続人でなくても財産を受け取れます。ただし、他に遺留分を持つ相続人(子や親)がいる場合、遺留分侵害額請求を受ける可能性がある点には注意が必要です。
② 生命保険の受取人に指定する
生命保険金は、受取人固有の財産として扱われ、遺産分割や遺留分の対象になりにくいという特徴があります。内縁配偶者を受取人に指定しておくことで、確実にまとまった金銭を残すことができます。
③ 死因贈与契約を結んでおく
「自分が死んだら、この財産をあなたに贈与する」という契約を、生前に交わしておく方法です。遺言と異なり、契約という形を取るため、双方の合意があったことが明確になるという特徴があります。
④ 特別縁故者としての財産分与を申し立てる(相続人が誰もいない場合)
被相続人に法定相続人が一人もいない場合に限り、特別な縁故があった人として、家庭裁判所に財産分与を申し立てることができる制度です。内縁配偶者は、この「特別縁故者」の典型例とされています。ただし、これはあくまで相続人が全くいない場合の救済制度であり、申立てをしても認められるとは限らず、確実な方法とは言えません。事前の備え(①〜③)の方が、はるかに確実です。
4. 住んでいる家についての注意点
内縁配偶者と同居していた住居が、亡くなった方名義の持ち家や、亡くなった方が契約者だった賃貸住宅だった場合、残された内縁配偶者が住み続けられるかどうかも重要な問題です。
- 持ち家の場合:相続人が家の名義を引き継ぐため、内縁配偶者は法律上、退去を求められる可能性があります。遺言で居住を認める内容を残しておく、あるいは家自体を遺贈しておくといった備えが必要です
- 賃貸住宅の場合:契約者である内縁配偶者が亡くなった場合、残された内縁配偶者と大家との間で、あらためて新たな賃貸借契約を締結することが可能です。すでにそこに居住している実績があれば、大家がこれに応じてくれる可能性は高いと考えられますが、法律上当然に契約上の地位が引き継がれるわけではないため、亡くなった後はできるだけ早く大家や管理会社に相談し、契約の締結手続きを進めることをお勧めします
5. 連れ子についても、同様の注意が必要です
内縁関係に子(連れ子)がいる場合、その子と、内縁のパートナーとの間には法律上の親子関係が当然には生じません。連れ子にも財産を残したい場合は、養子縁組をするか、遺言で遺贈する必要があります。詳しくは「養子は相続人になれる?」もご覧ください。
6. まとめ
内縁関係のパートナーには、相続権も財産分与請求権もなく、何も備えをしていなければ、財産が一切渡らない可能性があります。遺言による遺贈、生命保険の受取人指定、死因贈与契約といった生前の備えが不可欠です。特別縁故者制度は、あくまで最後の救済手段と位置づけ、確実な備えを早めに進めることをお勧めします。








