相続人に成年後見人がついていると、遺産分割はどうなる?弁護士が解説

相続人の中に、認知症などで判断能力が低下した方がいる場合、遺産分割の進め方が大きく変わります。「家族の関係は良好だから、話し合いですぐにまとまるはず」と思っていても、後見制度が関わると想定外に手続きが長引くことがあります。今回は、その仕組みと注意点を整理します。

1. 判断能力が不十分な相続人は、協議に参加できない

遺産分割協議は、法律行為の一種であり、相続人全員が意思能力を持った状態で参加する必要があります。認知症により判断能力が失われている相続人がいる場合、そのままでは有効に協議に参加できません。本人が形だけ協議書に署名・押印しても、その協議は無効と判断されるリスクがあります。 後から他の親族や、選任された後見人によって協議のやり直しを求められる可能性もあるため、判断能力に不安がある場合は、自己判断で進めないことが重要です。

2. 成年後見人の選任が必要になる

判断能力が不十分な相続人がいる場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、選任された後見人が、本人に代わって遺産分割協議に参加することになります。申立てができるのは、配偶者、4親等内の親族などです。申立てから選任まで、数週間から数ヶ月程度かかることが一般的です。

なお、後見人には必ずしも親族が選ばれるわけではありません。財産の内容や、相続人間の関係性によっては、弁護士・司法書士などの専門職が選任されることもあります。

3. 後見人がつくと、遺産分割の自由度が下がる理由

ここが、多くの方にとって意外に感じられるポイントです。成年後見人は、民法858条にもとづき、本人(被後見人)の利益を最優先に行動する法的義務を負っています。そのため、次のような「家族としては自然な希望」であっても、後見人が同意できないことがあります。

  • 「本人(認知症の親)の取り分は少なめでよいので、介護をしてきた他の相続人に多く譲りたい」
  • 「不動産は分けにくいので、本人の取り分をゼロにして、その代わり生活費は家族が面倒を見る」

このような、法定相続分を下回る内容での合意には、後見人は原則として同意できません。 後見人は、本人にとって法定相続分と同等かそれ以上の遺産を確保できる内容でなければ、遺産分割協議に応じないのが基本的な立場です。相続人同士の関係が良好で、多少の融通を利かせたいと思っていても、後見人が入ることで、その柔軟性が失われる点はあらかじめ理解しておく必要があります。

4. 話し合いより「審判」に進みやすくなる

後見人がついたケースでは、当事者間の協議だけで決着せず、最終的に遺産分割調停・審判に進むことが比較的多くなります。理由は、後見人自身の立場にあります。後見人は、遺産分割協議の内容について、家庭裁判所への報告義務を負っており、本人に不利益な内容ではなかったかを厳しく問われる立場にあります。

特に、非上場株式や、評価額に幅が出やすい不動産が遺産に含まれる場合、後見人としては、当事者間の裁量に委ねた協議による解決よりも、家庭裁判所の審判という「お墨付き」を得た形で決着させる方が、本人保護の義務を果たしたと説明しやすく、安全という実務的な判断が働きやすくなります。「対立がないから、すぐに話し合いでまとまるはず」と考えていても、後見人が関わることで、想定より時間がかかる可能性がある点に注意してください。

5. 事前にできる対策

相続が発生する前の段階であれば、次のような対策を検討することもできます。

  • 家族信託:判断能力が低下する前に、財産の管理を家族に託しておく仕組みです。うまく活用すれば、後見制度に頼らずに財産の管理・処分を進められる場合があります。詳しくは「財産の管理に便利な家族信託は弁護士に依頼」の記事をご覧ください
  • 任意後見契約:本人の判断能力があるうちに、将来の後見人をあらかじめ自分で選んでおく契約です。ただし、判断能力を失った後に開始するものであり、既に判断能力を失っている場合には利用できません

いずれも「事前の備え」が前提となる制度のため、既に判断能力が低下してしまった後では選択肢になりません。相続が起きてから慌てないためにも、早めの対策が重要です。

6. 弁護士に依頼するメリット

後見制度が絡む遺産分割は、通常の手続きに加えて、後見開始の申立てというもう一つの手続きが必要になり、全体のスケジュール管理が複雑になります。また、後見人との交渉では、法定相続分を意識した提案でなければ話が進まないため、感情的な希望と、制度上通る内容とのすり合わせが必要です。弁護士に依頼することで、後見開始の申立てのサポートから、後見人を交えた遺産分割協議、必要に応じた調停・審判までを一貫して進めることができます。

  • 遺産分割協議とは?進め方と成立させるためのポイントを弁護士が解説
  • 遺産分割調停の完全ガイド|流れ・必要書類・審判との違いを弁護士が解説
  • 財産の管理に便利な家族信託は弁護士に依頼
  • 相続財産調査・財産目録の作り方

7. まとめ

相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合、成年後見制度の利用が避けられません。後見人は本人の利益保護を最優先するため、法定相続分を下回る合意には応じられず、結果として話し合いより審判に進むケースが多くなります。相続人同士の関係が良好であっても、この制度上の制約は変わらないため、早い段階で弁護士に相談し、見通しを立てておくことをおすすめします。

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作成者: 弁護士 松野 絵里子

📝 監修者(最終更新日:2026年7月)

松野絵里子 弁護士|東京ジェイ法律事務所
国内最大手の渉外法律事務所にて20年以上経験を積み、離婚・財産分与・国際離婚・富裕層の資産分割など複雑案件を多数手がける。現在はオンライン対応・全国対応で離婚専門の法律相談を提供。費用の透明性にもこだわり、複雑な財産分与事案の和解的解決も得意な弁護士。共同親権の推進でも経験が多く、知名度がある。

記事監修者: 弁護士 松野 絵里子

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