※本記事は、実際のご相談内容ではなく、よくあるご相談を元に構成した仮想の事例です。あくまで一般的な法的知識にもとづく「考えられる解決の道筋」を示すものであり、実際の結論は個別の事情によって異なります。
ご相談内容
相談者:Bさん(40代・会社員)
母が先日亡くなりました。相続人は、私と姉の2人です。
母の預金通帳を確認したところ、母が入院する前後から、ATMでの出金がほぼ毎日のように続いており、合計で約3,000万円が引き出されていました。母は入院後、外出できる状態ではなかったので、姉が引き出したとしか考えられません。
遺産には、この預金のほかに株式と不動産があります。不動産については、もともと母と姉の共有名義になっており、姉はすでに持分を持っています。この状況、どう整理して解決すればいいでしょうか。
1. 弁護士の整理
このご相談には、大きく3つの論点があります。
- ①使い込みが疑われる預金3,000万円を、どう遺産分割に反映させるか
- ②遺産の全体像(株式・不動産)をどう調査・評価するか
- ③もともと姉が持分を持っている不動産を、どう扱うか
順番に整理します。
2. 考えられる対応
① 使い込みの証拠を集める
入院前後から出金が続いている、母が外出できない状態だった、という時期の一致は重要な間接証拠になります。まず、金融機関から過去の取引明細を取り寄せ、出金の日時・場所(ATMの設置場所)を確認します。あわせて、入院期間や病状が分かる診断書・看護記録なども、母がATMを操作できる状態になかったことを示す証拠として重要です。
② 遺産分割の中で清算する(民法906条の2)
使い込みが確認できれば、姉の同意がなくても、Bさんを含む他の相続人の同意があれば、この3,000万円を遺産に含めて計算し、遺産分割の中で一括して清算できます(民法906条の2)。今回は相続人がBさんと姉の2人なので、Bさんが「含める」と意思表示すれば足り、姉の同意は不要です。姉が「その分を既に取得していた」ものとして扱い、実際の遺産分割では、その分を差し引いた財産を姉に取得させる形になります。
姉が使い込みの事実自体を争う場合は、遺産分割の手続きになじまず、別途、不当利得返還請求の訴訟で決着をつける必要が出てくる可能性があります。
③ 財産の全体像を確定させる
株式は証券会社からの取引残高報告書、不動産は登記事項証明書・固定資産評価証明書などで評価額を確認します。財産調査の具体的な進め方は「相続財産調査・財産目録の作り方」の記事もご覧ください。
④ 共有名義の不動産の扱いを整理する
ここが今回のケースで特に注意すべき点です。母が持っていた不動産の持分は、紛れもなく遺産であり、遺産分割の対象になります。 一方、姉がもともと個人として持っていた持分(母からもらったものではなく、姉自身の財産としての持分)は遺産には含まれません。つまり、この不動産については「姉個人の持分」と「母の持分(=遺産)」の2つが混在している状態であり、遺産分割で扱うのは、あくまで後者の「母の持分」部分だけです。
母の持分について、Bさんと姉のどちらが取得するか、あるいは代償金を支払って一方が取得するかを決めることになります。姉がもともと個人の持分を持っていることを踏まえると、実務上は、母の持分についても姉が取得し、姉から代償金をBさんに支払う形(代償分割)で解決するケースも多くあります。ただし、これはあくまで一つの選択肢であり、Bさんが母の持分を取得することも、共有のままにすることも可能です。分割方法の選択肢については「代償分割・換価分割・現物分割の違いとは?」の記事で詳しく解説しています。
3. その後の流れ(一般的なシナリオ)
- 証拠収集(預金取引明細、診断書などの取り寄せ)
- 財産調査(株式・不動産の評価額確定)
- 使い込み分の清算方法の検討(民法906条の2による遺産分割内での解決、または別訴訟)
- 遺産分割協議(不動産の持分をどう扱うかを含めた全体の分割案の提示)
- 交渉がまとまらない場合は、遺産分割調停へ
使い込みが絡むケースは、感情的な対立が特に強くなりやすい分野です。当事者同士では「疑っている」「疑われている」という関係のまま話が進まなくなることも多いため、早い段階で弁護士が間に入り、証拠にもとづいた冷静な整理をすることが解決への近道になります。
まとめ
使い込みが疑われる場合でも、民法906条の2により、遺産分割の手続きの中で清算できる可能性があります。あわせて、もともと共有名義になっている不動産がある場合は、遺産分割の対象がどこまでかを正確に切り分けることが重要です。複数の論点が絡むケースこそ、早期に専門家に相談し、全体像を整理してから進めることをおすすめします。












