※本記事は、実際のご相談内容ではなく、よくあるご相談を元に構成した仮想の事例です。あくまで一般的な法的知識にもとづく「考えられる解決の道筋」を示すものであり、実際の結論は個別の事情によって異なります。
ご相談内容
相談者:Dさん
姉が亡くなりました。姉は夫と2人で会社を経営しており、株式は半分ずつ保有していましたが、夫の浮気がきっかけで夫婦仲が悪化し、この3年ほどは義兄(姉の夫)だけが会社を経営していました。姉と義兄の間に子どもはいません。
姉の遺産は、この会社の株式(半分)のほか、預金があります。会社はかなりの不動産を保有しており、その評価額だけで3億円を超えるようです。相続人は義兄と、私の父(姉の父)の2人です。この遺産分割、どう進めればいいでしょうか。
1. 弁護士の整理
このご相談には、いくつか特徴的な論点があります。
- ①そもそも、相続人は誰で、法定相続分はどうなるのか
- ②夫の不貞は、相続分に影響しないのか
- ③会社の株式(半分)を、どう評価し、どう分割するか
- ④義兄が「相続人」であると同時に「会社を実質支配する経営者」でもあるという、利益相反的な立場
順番に整理します。
2. 考えられる対応
① 相続人と法定相続分の確認
お姉様に子どもがいないため、相続人は、配偶者である義兄と、直系尊属であるお父様(第2順位の相続人)の2人になります。兄弟姉妹であるDさんご自身は、お父様が存命である以上、相続人にはなりません。法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。相続人の範囲・順位の考え方は「相続人は誰なのか?(相続人の順位・法定相続分は?)」の記事もご参照ください。
② 不貞行為は、相続分に影響しません
感情的には納得しがたい部分かと思いますが、法律上、配偶者に不貞行為があったというだけでは、相続分は一切減りません。離婚していない以上、義兄は法律上の配偶者のままであり、3分の2の相続分を持つ相続人です(生前に「推定相続人の廃除」という家庭裁判所の手続きを経て相続権を失わせていた場合は別ですが、通常はそのような手続きがない限り影響しません)。この点は、多くの方が誤解されやすいポイントです。
③ 株式(半分)の評価と分割
今回、会社の主な資産は多額の不動産(評価額3億円以上)であるため、非上場株式の評価においては、会社の純資産をもとに算定する「純資産価額方式」を用いると、不動産の含み益を反映して高額な評価になりやすい傾向があります。株式の評価方法や、代償分割による解決の考え方は「父の遺産に、叔父が経営する会社の株式38%が含まれています」の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
④ 義兄の「相続人」と「経営者」という二重の立場に注意する
今回のケースで特に注意すべきは、義兄が、遺産分割の当事者(相続人)であると同時に、株式の評価に必要な会社の情報を独占的に握っている経営者でもあるという点です。この立場上、義兄には、株式の評価を意図的に低く抑えたい動機(自身の相続分を実質的に増やし、かつ株式を安く取得したいという二重の動機)が働きやすい構造になっています。
そのため、決算書・不動産の評価資料・法人税申告書などの開示を求める際は、義兄側からの任意の開示に頼るだけでなく、必要に応じて、遺産分割調停の中で裁判所を通じた資料の提出を求める、あるいは中立的な専門家(不動産鑑定士・公認会計士)による評価を依頼するなど、客観性を確保する工夫が重要になります。特に、会社が保有する不動産の評価額(3億円超)自体についても、鑑定評価によって見解が分かれる可能性があるため、慎重な検証が必要です。
⑤ 現実的な解決の方向性
お父様が株式を取得しても経営に関与する予定がないのであれば、義兄が株式を取得し、お父様には代償金を支払う形(代償分割)で解決することが現実的な選択肢になります。ただし、義兄自身も相続人であるため、「義兄が元々相続人として取得すべき分」と「代償金として追加で支払うべき分」を正確に切り分けて計算する必要があり、通常の代償分割よりも計算がやや複雑になります。
3. その後の流れ(一般的なシナリオ)
- 相続人・相続財産の確定(預金の残高証明、株式の存在確認)
- 会社関連資料の開示請求(決算書、不動産評価資料など)
- 中立的専門家による株式評価
- 義兄側との交渉(代償分割を軸にした協議)
- 合意できない場合は、遺産分割調停へ
夫婦関係が破綻していた中での相続は、感情的な負担が特に大きくなりがちです。お父様にとっても、義兄と直接やり取りをすること自体が精神的な負担になる可能性が高いため、早期に弁護士が窓口になることをおすすめします。
まとめ
配偶者の不貞行為は、法律上、相続分そのものには影響しません。今回のように、相続人である配偶者が同時に会社経営者でもあるケースでは、株式評価をめぐる利益相反的な構造が生じやすく、通常の遺産分割以上に、客観的な資料収集と専門家による評価が重要になります。感情的な対立が大きい状況だからこそ、早い段階での専門家への相談をおすすめします。











