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1. 判例概要
今回、ご紹介するのは、大阪高等裁判所平成29年12月15日決定(扶養に関する処分(扶養料)審判に対する抗告事件)です。判例タイムズ1451号109頁において公表されています。この判例の事案概要は、次のとおりです。
(1)B(医学部生・23歳)は,父Aの長男で、Aの実家は医師・薬剤師の一家で、母も医師の実家に生まれた薬剤師でした。どうも、父親は富裕な家の出のようですね。
(2)父Aと母は平成5年婚姻してBと長女が生まれて、父Aは平成19年ころ不貞が発覚し、平成21年には、医院を開業して自宅を出てしまいました。つまり、父Aが別居を開始したのです。父Aは母に対して平成22年離婚を申し入れて平成23年5000万円のローンを組んでマンションを購入し、Bら母子はそこに移り住みました。
(3)父Aは母に対し平成23年離婚調停を申し立てて、平成24年Bと長女の親権者を母と定めて離婚するという調停が成立しました。その際、養育費として子ら1人500万円の一時金と子らが大学(医学部を含む)卒業まで1人月額25万円を支払うという約束をして、私立大学医学部に進学する場合には子らが直接Aに希望を伝えれば不足分については別途協議するとされていました。また,財産分与として母に上記マンションの持分2分の1を分与して母子に住まわせ、Aがローンを完済したら2分の1の持ち分も母に譲渡するという合意がされていました。(つまり、父としては子らの医学部進学については協力的であり、月額の養育費もひとり25万円といういわゆる算定方式での金額に比較してかなり高いものであったようです。(もっとも当時の父の年収がわからないのでこれは高かったのかは明確ではありません。)
(4)父Aは離婚当初は子らと交流し良好な関係を維持していたものの平成25年には再婚したあと、子らと疎遠になってしまいました。そして、同年養育費の減額調停を申し立てています。これが、審判手続に移行して、大阪高裁は平成27年標準的算定方式によって、養育費減額の申立てを却下した原審判を維持しています(「大阪高裁決定」といいます)。つまり、減額は大阪高裁決定では、認められませんでした。
(5)その間、母は父Aに対し子らとの面会交流を求める調停を申し立てたのですが、父Aはこれを拒んで審判で認容された後も子らとの交流に応じませんでした。母はAに対して奨学金を受けるためBを扶養家族から外すよう求めたものの、父Aはこれも拒否しました。
(6)Bは,平成27年4月二浪して私立大学医学部に入学したのですが、父Aに養育費の不足分について協議できずにいました。その後,Bは父Aに対し協議を申し入れたのですが、Aは、母の差し金であるとして養育費の取り決め以上の支払を断りました。そこで、Bは父Aに対し,平成28年医学部進学後の学費を扶養料として支払うよう求めて調停を申し立て、それが、審判手続に移行したという事案です。
2. 原審の判断(家裁判断)
家裁はBの私立大学医学部への進学に係る追加費用の負担については、離婚時の調停条項では、「AはBが医学部に進学した場合を含め,大学卒業まで扶養義務を履行すること」を合意していたと認めました。離婚の養育費は私立大学を含む医学部進学を前提として既存の養育費では不足が生じる場合には、BからAに対し扶養義務の履行として追加費用を請求できることが想定されていたとも認定しました。その上で、Aが負担すべき上記追加分(扶養料)額は407万円としました。その計算方法は、以下となります。
1)Bが医学部在学中に要する追加費用は,学納金や書籍代等(合計3230万円)(Bの生活費等以外)。
2)これをAと母の基礎収入で案分(9対1)するとAの分担額は2907万円程度。3)養育費一時金500万円と毎月25万円の6年分(1800万円)、Bが高校卒業後(二浪中)の養育費(600万円)のうち200万円の合計2500万円を控除すると,Aが分担すべき追加費用は,6年間で407万円(月額5万7000円)になるというのが、これが原審(家裁)での判断でした。
家裁では養育費25万円も、全額を必要な学費に充当すると考えていたようです。
3. 高裁の決定(抗告審)
即時抗告の結果、高裁が新たな決定をしました。まず、Aは離婚時においてBの私立大学医学部進学への希望に沿って、養育費だけでは医学部の学費等を賄えない事態を想定していたから、Bに対し追加費用(扶養料)を負担する意向を有していたという認定はそのまま、維持しています。
さらに、医学部に進学したことで離婚の際に合意された養育費(一時金を含む。)では私立大学の医学部の学費等を賄えないという、そもそもの過去の協議条項の想定した事態が現に生じ、父に対して協議条項に基づいて、追加の費用負担を求めている以上、父Aはこれに従い上記の養育費のほかに一定の扶養料を分担する義務を負うというべきであると判断しており、この点は家裁と同じです。
父は、外科医院を経営して、離婚の年の収入は、給与収入が512万2670円、事業所得が3558万2556円、雑所得が30万9728円であり、平成28年の収入は給与収入が587万6620円、事業所得が4851万1327円、雑所得が66万7133円でありました。母は薬剤師として稼働していました。また、Bは、母および妹とともにマンション(住宅ローンについては父が完済済み)に無償で居住して、医学部進学後このマンションから電車で通学し、週3回程度の家庭教師等のアルバイトで月額8万8000円程度を得ていたので、これを生活状態として関連する事実として認定しました。
高裁は、家裁とは異なり、分担の対象は、過去に大阪高裁決定において養育費が標準的算定方式に基づく算定金額を下回ることがないとの判断が示されたことに着目して、養育費のうち、私立大学の医学部の学費等の標準的算定方式で算定される額では足りない部分のみを「扶養料」として父母でその状況に応じて分担し合うこととするのが相当であるとしました。生活費を含む標準的算定方式で考慮されている費用については、この事案の扶養料の算定に当たって考慮すべきものに含まれないと判断しました。この点は家裁と異なります。
その上で,Aが負担すべき上記追加分(扶養料)の額について、以下のような判断をしてます。
- Bが医学部在学中に要する追加費用は,学納金等約3200万円であるが、公立学校の教育費相当額(年額33万円)の6年分を控除した3000万円程度が追加費用である。
- 父であるAと母との案分割合は、Aと母では4対1である。その理由は、父は外科医院を開業し高額の収入を得ており、母も薬剤師として正社員に稼働しており、母の収入は年収650万円程度となっていることや、母子が、管理費等の負担のみでマンションに居住できているといった生活状況等を考慮したからである。
- よって、Aの分担額は3000万円の8割の2400万円となるとした。
- 大学進学のために二浪することまでは、父は納得していなかったことから、養育費一時金500万円とBの二浪目の養育費(年額300万円)を控除した。Bの養育費(月額25万円)が標準的算定方式の上限(月額18万円)を超えることから、そこに私立大学の学費も一部考慮されているとして、医学部在学中の6年間の養育費のうち月額10万円(720万円)の部分は控除すべきものとした。
- よって、1520万円(計算式 500万円+300万円+720万円=1520万円)2400万円から控除された。
- そして、Aの分担額を6年間で880万円程度(年額150万円)としました。支払方法は,学納金の納期限に合わせて年3回の分割払いとした。
4. 本決定の特徴
過去の協議における父母の想定していた事象を認定し、月額の養育費にすでに含まれた私学の学費を加味して、最終的に父母が負担するべき追加額を決めています。また、父母の負担割合を、現実の暮らし方を分析して、マンションに無償ですむことができている利益を加味して、父の負担割合を少なくして公平な結果にしています。
4対1という割合は裁判官が裁量で決めたものですが、母からすると家裁では9対1であったのでかなり不利益な変更になっています。もっとも、全体の父の負担する学費は高裁の方では増えたので、結果として高裁の決定に不満があったのか・・・それはわかりませんね。
5. 医学部学費(将来の高額な学費)と養育費の問題をどう解決したらよいか?
将来に海外留学をしたいとか、医学部進学が予定されいてるというような場合、その高額な学費について、離婚時にどうやって養育費を確保するかは、よくご相談に来られる方が多い問題です。
この判例は、医学部進学や留学、高額私学への進学などで、高額な教育費が必要となる子どもの養育費・扶養の問題を考えるにあたってよい事例であると思いますので、紹介させていただいています。
まず、民法では、父母が離婚しても子が経済的に自立しておらず扶養が必要なら子が申立人となって親(義務者)に対し扶養料を請求できます。一般的には、子が成人になると扶養が必要な状態は解消されるのですが、大学にいっていて、独立して生計を営むことができない場合には、大学卒業まではなお未成熟子として扶養料を請求することができると考えられているのです。もっとも、大学進学について、その親が明らかに拒否をしていたような場合には、別の判断がされるかもしれません。ですから、成人した後の養育費についてはなるべく決めておかないと、将来の子が起こす裁判においてどのような判断がされるかわからないという問題があるわけです。
この事案では医師である父と薬剤師の母の間で、子についてかなり高額の養育費が定められていたことや子が望んだ場合の協議義務があったことが、後の裁判ではよい結果になっています。つまり、父は医学部などの高額学費についてその時点で協議をするということを認めていたことから、追加学費義務があったという認定になっているのです。
このような協議義務の条項がなかったら500万円という高額な一時金を払っていて年300万円も養育費を払っているので、これ以上の義務はないという判断もありえたのかもしれません。
本件では子が二浪して私立の医学部に進学したことから、二浪は予想していなかったとして、医学部6年間の学資の分担が父に認められています。
また、この事案では、医師一家に育ってきた父に、高額の収入があることから学費についての請求が認められたという点も、重要です。年収が高くない父であれば、このような認定はされなかったでしょう。面白いことに、家裁と高裁では判断は分かれたのですが、この事案のように父母の負担をどう考えるのが公平なのかという点では、前例もないので、裁判官もそれぞれ公平にしようと工夫した結果、結論が異なることはあるわけです。
父母の案分割合は、母がその後薬剤師として稼働し始めたことや,父がローン全額を負担するマンションに居住していることを考慮して、4対1と認定したのは高裁で、家裁は単に基礎収入で割り付けようとしていました。この点は家裁よりも高裁が、今の生活の実態を詳しくみたということになります。また、高裁は認定が細かく、すでに払った一時金500万円と二浪目の養育費(年額300万円)を控除しています。その上で、過去の高裁決定において養育費(月額25万円)が標準的算定方式の金額より多い(その上限である月額18万円を超えている。)と判断されたことに着目して、私立大学の費用も一部は25万円に含まれていると考えたのです。その考えから、月額25万円では賄っていない部分のみを「扶養料」として子が追加で請求できるとしたのです。
原審は、父が負担するべき額から子の養育費の6年分(1800万円)全額を控除していたので、生活費について考慮がなかったのですが、高裁では、この月額25万円の養育費のうち月額10万円(720万円)のみが学費相当額として含まれていると言えるので、控除すべきものと考えておりますが、この点は、養育費は通常の生活費を含むものですから、高裁の判断が適切であるように思われます。
子が高額の学費の医学部に進学したケースで、子が自ら扶養料を請求した場合に、それまでに父母間で先に定められた養育費との関係で、丁寧な事実認定と判断をした例として、参考になる事案ですね。
6. 松野絵里子弁護士からのアドバイス
では、これから離婚される方のために、養育費について合意をするには内容をどうしたらよいか、どうやったら子の教育の機会が守られるか、子の利益が守られるか・・・について検討してみたいと思います。
もっとも良いのは医学部であれ留学であれ、学費については一定割合を別居親が払うことを合意しておくことでしょうが、なかなか先の学費がわからないので、そういう合意はできないことが多いでしょう。
そういう場合には、固定金額を合意しておくことが考えられます。2035年から4年間は3月末日に200万円を父が母に払うなどという条項にして、債務名義になるようにして合意をしておくのです。進学しない場合にはその支払い義務がなくなるとしておけばよいでしょう。
これは、現実に後にこれでは学費が足りない場合でも不足は同居親が何とかするという解決方法です。このように金額が決められていると債務名義にできるため払われなかったときに執行ができ、とても強い権利になっています。学費の7割を払うというような合意では、執行はできないので、払ってくれないときには裁判所に支払いを求めて提訴しなければなりません。それに比較して確実にある時期にもらえるという意味でよい約束内容と言えます。
私学だとかなり高額になるが、国立にいけるかもしれないのでわからないということもあると思いますが、そういう場合には、国立の場合の金額を固定の金額にして合意しておいて(毎年100万円など)、私学進学になったら連絡をしてそのうち7割を払うなどというルール化をしておくのもよいでしょう。別居親としてどうしても年に300万円以上は追加で払えないというのであれば、そこに上限額を書いておくことも得策でしょう。
なるべくルールを条項にしておくと、揉めることが後で少ないのです。この事案のように子が現実に父を相手に裁判所に調停を申し立てる必要はないほうがよいので、ルール化をすることで、将来の子の利益に資するように思われます。
当事務所では、将来の養育費(学費を含めた額)についてお悩みの依頼者が多いので、なるべく詳細にルール化させて、和解や調停成立を目指しております。医学部進学を考えておられて、離婚時の高額な養育費にお悩みの場合にはぜひご相談下さい。






