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1. 「相続登記=全員の合意が必要」は誤解
2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく期限内(原則、所有権取得を知った日から3年以内)に登記をしないと10万円以下の過料の対象になります。施行前に発生していた相続についても、2027年3月31日までに登記をする必要があります。
この義務化にともなって、「遺産分割協議がまとまらないと相続登記ができない」「他の相続人が協力してくれないから、登記できずに過料を取られてしまう」と不安に思う方が増えています。しかし、これは誤解です。遺産分割協議が終わっていなくても、相続人の1人だけで相続登記を行う方法があります。
2. 相続人1人でもできる理由
相続が発生すると、遺産分割が終わるまでの間、不動産は相続人全員の「共有」状態になります。この共有状態のまま、法定相続分どおりの持分で名義を変更する登記(法定相続分による相続登記)は、民法上の「保存行為」にあたるとされています。
保存行為とは、共有財産の現状を維持するための行為のことで、共有者の1人が単独で行うことができ、他の共有者(他の相続人)の同意は不要です(民法252条ただし書)。相続登記も、この考え方にもとづき、相続人のうち1人が単独で申請することが認められています。
なお、単独で申請できるといっても、被相続人の出生から死亡までの戸籍や、他の相続人全員の戸籍・住民票など、相続関係を証明する書類は必要です。「他の相続人の協力・署名は不要だが、書類の収集は必要」という点は押さえておいてください。戸籍の集め方については「出生から死亡までの戸籍を取る方法」の記事もご覧ください。
3. 相続人申告登記との違い
義務化と同時に「相続人申告登記」という新しい制度も始まっており、こちらと混同されることが多いため、違いを整理します。
| 法定相続分による相続登記(単独申請) | 相続人申告登記 | |
|---|---|---|
| 内容 | 法定相続分どおりの持分で、正式に共有名義の登記をする | 自分が相続人であることを法務局に申し出るだけ |
| 持分の登記 | される | されない |
| 義務を果たしたことになるか | なる | なる(ただし本人分のみ) |
| その後の扱い | 正式な登記が完了している | 後日、正式な相続登記が別途必要 |
| 手続きの負担 | やや重い(戸籍収集など) | 軽い(簡易な手続き) |
相続人申告登記は、あくまで「とりあえず義務は果たした」という暫定的な措置であり、遺産分割がまとまった後には、あらためて正式な相続登記が必要になります。一方、法定相続分による単独申請は、それ自体が正式な登記であるため、二度手間になりません。
4. 単独申請のメリット・デメリット
メリット
- 他の相続人の協力が得られなくても、期限内に義務を果たせる
- 相続人申告登記と違い、その時点で正式な登記が完了する
デメリット
- 不動産が相続人全員の共有名義になるため、その後の売却や活用には結局、他の相続人全員の同意が必要になる
- いったん共有名義で登記した後、遺産分割協議がまとまれば、あらためて分割後の名義に変更する登記(持分移転登記)が必要になり、二度手間になる場合がある
- 必要書類(戸籍謄本一式)の収集に手間がかかる
このように、単独申請は「期限に間に合わせるための手段」としては有効ですが、根本的な問題(遺産分割がまとまらないこと)を解決するものではない点に注意が必要です。
5. 共有名義にしても「共有物分割請求」では解決できない
単独申請で法定相続分どおりの共有名義にした後、「それなら通常の共有不動産と同じように、共有物分割請求訴訟を起こせば分割できるのでは」と考える方もいます。しかし、これはできません。
民法258条の2第1項は、遺産分割をすべき共有物については、通常の共有物分割の規定による分割ができないと定めています。遺産共有の状態にある不動産をどう分けるかは、あくまで家庭裁判所での遺産分割手続き(協議・調停・審判) によって決めるべきものであり、地方裁判所に共有物分割請求訴訟を提起しても、不適法として却下されます(最高裁昭和62年9月4日判決)。
つまり、単独申請によって共有名義の登記を済ませたとしても、それによって根本的な問題(不動産をどう分けるか)が解決するわけではなく、結局は遺産分割協議・調停に進むしかありません。単独申請はあくまで「義務化の期限に間に合わせるための応急措置」であって、「共有物分割請求という別ルートで問題を解決する近道」にはならない、という点を誤解しないよう注意が必要です。
例外:相続開始から10年が経過している場合
令和3年の民法改正により、相続開始の時から10年を経過した場合は、例外的に、共有物分割の手続きの中で遺産共有持分の解消もあわせて行えるようになりました(民法258条の2第2項)。ただし、相続人から遺産分割の請求があり、かつ共有物分割の手続きによることに異議が申し出られた場合は、この例外は適用されません。10年以上前に発生した相続で不動産が放置されているようなケースでは、この特則の活用も選択肢になり得ますが、いずれにしても専門的な判断が必要な場面です。
6. 話し合いがまとまらなくても、審判なら強制的に解決できる
「共有物分割請求は使えない」と聞くと、話し合いに応じない相続人がいる限り、いつまでも解決しないのではと不安になるかもしれません。しかし、そうではありません。遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停・審判に進むことができ、審判になれば、最終的には裁判所が分割方法を強制的に決定します。相手の同意がなくても、手続きを前に進めることができるということです。
裁判所が不動産の分割方法を決める際は、一般的に次の順番で検討されます。
- 現物分割:不動産そのものを誰かが取得する
- 代償分割:特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金の支払いを命じる(取得を希望する相続人に支払い能力があることが前提です)
- 換価分割(競売):現物分割・代償分割のいずれも難しい場合、家庭裁判所は相続人に対して、遺産を競売にかけて換価するよう命じることができます(家事事件手続法194条)。これは「形式的競売」と呼ばれ、任意売却が難しい対立状態でも、裁判所の審判にもとづいて強制的に売却・換価を進められる手続きです
- 共有分割:以上のいずれも難しい場合の最終手段
つまり、「代償金を払ってでも自分がその不動産を取得したい」という希望も、話し合いで合意できなくても、審判の中で認められる可能性があります。逆に、誰も取得を希望しない、あるいは支払い能力がない場合は、裁判所の判断で競売にかけられ、現金化されて分配されることになります。
この点は、共有物分割請求(前章で説明した、通常の共有不動産の分割手続き)とは異なり、遺産分割審判には最初から話し合いに応じない相続人がいても手続きを進められる強制力が備わっています。「相手が協力してくれないから、もうどうにもならない」ということはなく、最終的には裁判所が決着をつけてくれる制度である、という点を知っておくと安心です。
7. どちらを選ぶべきか
- とにかく簡単に義務だけ果たしたい場合 → 相続人申告登記
- 正式な登記まで済ませておきたい、他の相続人の協力が見込めない場合 → 法定相続分による単独申請
- 不動産を売却・活用する予定がある場合 → いずれにしても遺産分割協議を進め、代償分割や換価分割など具体的な分け方を決める必要があります。詳しくは「代償分割・換価分割・現物分割の違いとは?」の記事をご覧ください
いずれの方法も「その場しのぎ」の側面があり、根本的には遺産分割協議を進めることが望ましい解決です。話し合いが進まない場合の対応については「遺産分割協議とは?進め方と成立させるためのポイントを弁護士が解説」もあわせてご覧ください。
8. 弁護士・司法書士に依頼するメリット
「相続人の協力が得られない」「話し合いが進まない」という状況は、登記の手続き(司法書士の専門領域)だけでは根本的に解決できません。当事務所は、遺産分割協議・調停の代理を行う弁護士と、登記手続きを担当する司法書士が連携して対応しているため、次のような一気通貫の対応が可能です。
- 相続人間で対立がある場合は、弁護士が交渉・調停の代理人として対応
- 期限が迫っている場合は、まず単独申請または相続人申告登記で義務を果たしつつ、並行して遺産分割協議を進める
- 協議がまとまり次第、そのまま司法書士が正式な相続登記(持分移転登記)を行う
登記だけを依頼できる司法書士事務所は数多くありますが、相続人同士に対立がある場合、登記の専門家だけでは対応できません。 揉めている状態で相続登記の期限にお困りの方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
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9. まとめ
相続登記は、遺産分割協議が終わっていなくても、相続人1人が単独で法定相続分どおりの共有名義として申請することができます。義務化にともなう期限(原則3年、施行前の相続は2027年3月31日)が心配な方は、相続人申告登記や単独申請といった選択肢があることを知っておくと安心です。ただし、共有名義にした後で通常の共有物分割請求訴訟を使って解決することは原則としてできず(相続開始から10年経過している場合を除く)、いずれの方法も根本的な解決にはなりません。他の相続人との対立がある場合は、早めに弁護士へご相談いただくことをおすすめします。










