後継者となる子どもがいない、あるいは子どもに継ぐ意思がない$2014$2014そうした中小企業の経営者にとって、社内の事情をよく知る従業員への承継(従業員承継)は有力な選択肢です。「事業承継とは?」の記事でも簡単に触れましたが、今回は従業員承継に絞って、実務上のハードルとその対策を詳しく解説します。
1. 従業員承継とは
従業員承継とは、現経営者の親族ではなく、社内の役員や従業員の中から後継者を選び、事業を引き継がせる方法です。親族内承継、第三者へのM&Aと並ぶ、事業承継の主要な選択肢の一つです。近年、子どもが会社を継ぎたがらないケースが増えていることもあり、従業員承継への注目度は高まっています。
2. 従業員承継のメリット
- 経営や事業内容に精通している:長年勤務してきた従業員であれば、会社の業務内容、取引先との関係、社風などを既に理解しており、引き継ぎ後の経営がスムーズに進みやすくなります
- 他の従業員からの信頼を得やすい:現場を知る人物が後継者になることで、社内の反発が少なく、従業員の離職リスクを抑えやすくなります
- 後継者の選択肢が広がる:親族に適任者がいない場合でも、社内に候補者がいれば、廃業を避けられる可能性が高まります
3. 最大のハードル:資金調達の問題
従業員承継における最大の課題は、後継者に、株式や事業用資産を買い取るだけの資金力がないケースがほとんどであるという点です。親族内承継であれば、相続や生前贈与によって無償で引き継げる場合が多いのに対し、従業員承継では、法律上の血縁関係がないため、通常は株式を有償で譲渡する形になります。
この資金調達の壁に対しては、いくつかの対策が考えられます。
- 日本政策金融公庫からの融資:事業承継目的の融資制度があり、中小企業経営承継円滑化法にもとづく認定を受けることで、有利な条件(低利融資など)を利用できる場合があります
- 金融機関からの借入:後継者個人が金融機関から融資を受け、株式取得資金に充てる方法です。会社の収益力や事業計画の説得力が審査のポイントになります
- 種類株式の活用:後継者にはまず議決権のある株式を集中させ、現経営者や他の親族には配当優先株式(議決権を制限した株式)を持たせるなど、株式の設計を工夫することで、後継者が用意すべき資金を抑えられる場合があります
- 段階的な株式移転:一度に全株式を移転するのではなく、数年かけて段階的に買い取っていく方法も、資金負担を分散させる手段として有効です
4. もう一つの壁:経営者保証の引き継ぎ
資金調達と並んで大きな課題になるのが、現経営者が会社の借入について負っている個人保証(経営者保証)を、後継者が引き継ぐかどうかという問題です。多くの後継者候補が、この個人保証を理由に承継をためらいます。会社が万が一倒産した場合、後継者個人の財産にまで責任が及ぶリスクがあるためです。
この点については、「経営者保証に関するガイドライン」にもとづき、金融機関との交渉によって、後継者の保証を求めない、または保証の範囲を限定する形での融資条件の見直しを求めることができる場合があります。事業承継のタイミングは、経営者保証の見直しを金融機関に相談する好機でもあるため、早めに動くことをおすすめします。
5. 進め方のステップ
- 後継者候補との対話:早い段階から、候補者本人の意思や、経営への理解度を確認します
- 事業承継計画の策定:いつ、何を、どのように引き継ぐかを具体的に計画します
- 資金調達方法の検討:日本政策金融公庫や金融機関との相談を進めます
- 株式・資産の移転手続き:株式譲渡契約の締結、名義変更などの法的手続きを行います
- 経営者保証の見直し交渉:金融機関と、保証の扱いについて協議します
- 後継者の育成・周知:社内外の関係者(取引先、金融機関、他の従業員)への周知と、後継者の経営力強化を並行して進めます
6. 弁護士に依頼するメリット
従業員承継は、株式譲渡契約の作成、金融機関との交渉、中小企業経営承継円滑化法にもとづく認定手続きなど、法律・税務・金融が複雑に絡み合う分野です。特に、経営者保証の見直し交渉や、株式譲渡の条件設定は、後々のトラブルを避けるためにも専門家の関与が重要です。弁護士に依頼することで、資金調達の相談先の整理から、契約書の作成、金融機関との交渉まで、一貫したサポートを受けられます。
7. まとめ
従業員承継は、会社をよく知る人材に引き継げるという大きなメリットがある一方、資金調達と経営者保証という2つの大きな壁が立ちはだかります。日本政策金融公庫の融資制度や、経営者保証ガイドラインの活用など、対策の選択肢は用意されているため、早い段階から専門家に相談し、計画的に進めることが成功の鍵になります。









