遺言書で特定の相続人や第三者に過剰な遺産分割の指示があった場合、遺留分を確認することができます。それがいくらになるのかの計算法を解説します。同時に、難しい点を解決するために弁護士に頼るべき理由も考えます。
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1. そもそも遺留分とは?
相続問題を考えるに当たって、よく出てくる言葉が遺留分というものです。相続人が公平に遺産をもらえるように、法律によって定められているルールです。遺言の内容に問題があると感じる時などに確認するものとなりますので、よく覚えておきたい点です。また、遺言書を作成する人もこの遺留分のことを考えておかないと、せっかくの遺言が履行されない可能性があります。スムーズに相続をするためにも、しっかりと遺留分について理解しておきましょう。
1-1. 特定の相続人に保証されている財産割合
そもそも遺留分とは、相続人が必ず受け取れる遺産の分割割合のことを意味しています。遺言書は故人の意思を表明するためのものですが、時に特定の相続人のことが見過ごされてしまうことがあります。相続人は法律上、一定の財産を受ける権利を持っていますので、それを最低限保証するために、法律で定められているわけです。
たとえば、遺言書で第三者に全遺産の80パーセントが渡されるということが記されているとします。もちろん、それ自体は故人の意思ですので尊重されるべきものなのですが、配偶者や子どもといった相続人の権利が侵害されているとも言えます。法律上、また常識の範囲でも、家族が相続財産をより受け取るというのは当然のことだからです。そこで、遺言書で意思が表明されているとしても、法律で定めた相続人については最低限の相続を確保しようということで、遺留分が定められています。つまり、遺言書に記載されている内容よりも、遺留分の方が法的には効力が強いということになります。遺言書の指示を差し置いてでも、遺留分は確保できるわけです。
1-2. 遺留分と法定相続分は同じもの?
遺留分と似た用語に、法定相続分というものがあります。どちらも相続人に対して相続できる遺産の割合を決めているものです。この点については一緒なのですが、遺留分と法定相続分ではベースとなる考え方が違います。
遺留分というのは、前述のとおり、遺言書で相続人の本来の権利が侵害されてしまった時に、それを保証するという目的があります。つまり、遺言書があるということが大前提となっています。逆に言うと、遺言書が存在しない場合は、遺留分を確認する必要はないわけです。
一方で、法定相続分というのは、相続内容を決める際の遺産分割の割合の基本となるものです。ですので、遺言書が作られていない時に、法定相続分を基にしてそれぞれの受け取り分を計算し、最終的に決定します。遺言書がない場合、基本は相続人が協議してその分割割合を決めるのですが、あまり話し合いがスムーズでない時には、この法定相続分を参考にして、それぞれの割合を決めることができます。つまり、法的には相続人の立場によって、このくらいの割合で相続がなされるのが適当という基準を示すためのものとも言えるでしょう。
2. 遺留分はいくらになるのか?
遺留分の概念について理解できたところで、今度は実際に遺留分はいくらになるのかをチェックしてみましょう。遺留分は誰に何割と固定されているわけではなく、いろいろな要素によって変わってきます。そのため、まずは誰が相続人となっているのか、全員をリストアップすると共に、それぞれの関係性を整理しておく必要があります。その上で、パターンに当てはめて、遺留分の計算をしていくことになります。
2-1. 遺留分の計算
遺留分がいくらになるかというポイントは、故人との関係と、誰が相続人として対象となるのかという要素で、それぞれ変わってきます。
たとえば、よく見られる事例として、配偶者と子どもが相続人となる場合があります。この例では、遺産全体の2分の1が遺留分となります。そして、配偶者が4分の1、残りの4分の1を子どもに分割することになります。子どもがおらず、配偶者と直系尊属、つまり父母などがいる場合には、配偶者には6分の2が、父母にそれぞれ6分の1が遺留分となります。
ルールとしては、配偶者のみが相続人の場合は、半分が遺留分となります。子どものみが相続人のケースでも、やはり2分の1が遺留分として取り分けられます。直系尊属だけの場合、3分の1が遺留分となるというルールです。
このように、遺留分の設定がなされる対象は、その権利が強い順で配偶者、子ども、そして直系尊属、直系卑属のみです。兄弟姉妹については相続の権利があるものの、遺留分の設定はなされていません。そのため、たとえば配偶者と兄弟姉妹が相続人となっている場合でも、配偶者には全体の2分の1の遺留分が設定されますが、兄弟姉妹にはないのです。
また、複数の遺留分権利者がいる場合は、その分割割合の中で均等に分けることが定められています。たとえば、最も多い例として、配偶者と子どもが複数いるというケースを挙げられます。配偶者は当然1人ですから、そのまま4分の1をもらえます。子どもが2人いる場合は、4分の1をさらに均等に分けるので、それぞれの子どもは8分の1ずつもらえるということになります。
2-2. 遺留分を主張するための遺留分侵害額請求
もし、遺言書で第三者に過剰に遺産を与えるよう指示されている、遺留分権利者以外の相続人や、特定の家族だけにたくさんの財産を分けることになっている場合、権利者は遺留分を活用することができます。これを遺留分侵害額請求と呼びます。遺留分を侵害するほどの過剰な遺贈や相続をした人に対して、遺留分侵害請求を行うことで手続きを始めることができます。法的には口頭でも、相手に対して通知すれば良いのですが、やはり言った言わないという問題に発展しかねませんので、必ず文書で請求をしましょう。特に、内容証明郵便で請求することが大事で、確実に通知をしたという証拠を残すことができます。たとえ相手が受け取りを拒否したとしても、通知をしたという事実が残りますので安心です。
遺留分侵害請求をして、相手との協議を行い、どのように遺留分についての支払いをしてもらうかを決めます。まずは遺留分を計算して、その分に相当する現金や不動産などを渡してもらうわけです。基本的には協議によって調整しますが、相手が応じないなどの理由でうまく行かない時は、調停をしたり訴訟を立てたりして、遺留分の確保を行います。遺留分は法律で明確に保証されている権利ですので、きちんとした証拠があれば、裁判になっても認められます。
2-3. 遺留分についての注意点と弁護士に頼るメリット
遺留分侵害額請求をする際には、上記のように必ず文書で行うべきです。これは、この請求権自体に時効があるからです。時効は、遺留分を侵害する遺贈などがあったことを知ってから1年となっています。これを過ぎると請求ができなくなり、せっかくの遺留分が意味のないものとなってしますので、できるだけ早く実行しましょう。ちなみに、この1年というのは相続開始時ではなく、あくまでも侵害の事実を知った時となります。また、相手が応じてくれるかどうかということではなく、通知を行っていれば良いので、まずは内容証明郵便で請求をすることが大事です。
こうした一連のプロセスをできるだけ早く行うために、またスムーズに遺留分の確保と相手からの支払いをしてもらうためにも、弁護士の助けを得るのは大事です。やはり遺言書で記載されているという事実もあって、どうしても揉めやすい点ですので、相続に強いプロのサポートを得た方が合理的なのです。