遺言書で、ある特定の相続人に財産分与することはできます。ただし、すべての法定相続人には法律によって最低限度の相続財産が保証されています。これを遺留分といって、この金額に満たない相続には遺留分侵害請求をすることができます。
『財産はすべてボランティア団体に寄付する』などと、晴天の霹靂といえるような遺言書が弁護士を通して伝えられれば、相続人の方々はきっと目の前が真っ暗になってしまうことでしょう。ここまで極端な話でなくとも、相続トラブルは頻繁に起こります。
そこで、覚えておいていただきたいのが遺留分侵害額請求です。法定相続人は全て、一定額の相続が権利として認められています。
遺留分侵害額については、その計算方法や手続きについて、知っておくと良いでしょう。専門的な弁護士松野絵里子が以下、解説します。
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1. 遺産相続トラブルは遺留分侵害で解決可能
遺産相続に関しては、相続法でも故人の意思・意見を第一に尊重するとあります。正式な遺言書を作成することで、遺産の分配を望むように行なうことができるのです。冒頭で述べたように、全くの他人に全財産を相続させることも可能です。
ただし、その一方で民法には法定相続人を定め、その権利についても明確にしています。民法ではっきり書かれている事ですが、可能な限り被相続人に近い親族に承継させるべきと定義付けされていて、法定相続人に一定の権利を保障しています。
この権利を行使すれば、たとえ故人の遺言で財産を受け継げなかった場合でも、すでに遺産を受け取った相続人に遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分とは、全ての法定相続人に認められた権利で、最低限の受け取り分を明確にした法律制度です。
法定相続人は配偶者と血族です。 各相続において法定相続人となる人が変わってきますが、基本的に第1順位の直系卑属(子や孫、ひ孫など)に遺留分が認められます。その割合は以下のようになっています。

なお、第1順位に該当する血族がいない場合は、第2順位の直系尊属(父母や祖父母、曾祖父母など)へ遺留分の権利が引き継がれます。遺留分は法定相続人の全員が対象となりますが、故人の兄弟姉妹が法定相続人になるケースでは、その兄弟姉妹には遺留分が割り当てられない点に注意してください。
では、なぜ遺留分が設けられているのでしょう?遺産の分与に関しては、財産の所有者本人の意思を優先するのですから、それであれば、遺言に明記された内容はそのまま実行されるべきです。ですが、遺族としては『このぐらいの遺産が受け取れるだろう』と期待する事でしょう。その期待を遺言で断ち切られるのは法的には好ましくないとの判断があります。
先にも述べた通り、民法では『可能な限り、故人に近い直系血族へ財産承継させるべき』とも明記してあり、法定相続人に最低限度の遺留分を確保するように制度化しています。
遺留分侵害額の計算方法ですが、民法第1042条に遺留分の金額を決定するための基本的な計算方法が示されています。
1-1. 直系尊属のみの(父母のみの場合など)場合は、遺産の三分の一を法定相続人全員の遺留分とする
民法でいう直系尊属とは、父母・祖父母など故人の前世代の直系親族のことです。なお、直系尊属だけが遺産を受け継ぐ場合(配偶者や子がいない場合)は、相続人は財産の3分の1を遺留分として、法定相続人の全員で等分に分け合います。
仮に,法定相続人が父と母の2人だった場合、それぞれ3分の1÷2人の6分の1ずつが個別的遺留分となる計算です。
1-2. 直系尊属以外が法定相続人の場合は、遺産の二分の一を遺留分とする
故人の配偶者や実子、孫が法定相続人となる場合は、遺産の2分の1を等分します。仮に2人の法定相続人がいれば、2分の1÷2人の4分の1ずつを個別的遺留分として受け取る権利が与えられます。
このように各法定相続人には,一定額の個別的遺留分が割り当てられます。遺言でどのように分配を支持されたとしても、最低限として個別的遺留分を受け取る権利が法的に認められています。そこで遺留分侵害額の計算ですが、実際に受け取った額を遺留分額から差し引きます。その差額が遺留分侵害額となります。
2. 遺留分侵害請求が行使できるタイミングと行使期限について
遺留分侵害額請求が行使できるタイミングは、明らかに法定相続人である自分の相続分が法律で定める遺留分を下回った事実を認識した時点となります。例えば、故人の遺言による法的に不平等な財産分与がなされた事実を知った時が請求するタイミングです。
また、生前贈与で既に財産分与が行われていて、遺産相続の時に遺産総額が減っていたというケースもあります。生前贈与によって、最終的に個別的遺留分が侵害された場合も遺留分侵害請求を行使することができます。
このように、遺留分侵害請求は相続が発生した後、法定相続人が『遺留分の侵害の事実を把握した』とき請求することができます。つまり、既に遺産の分配が完了していたとしても、自分に遺留分を受け取る権利があり、しかもその権利が侵害されたと知れば、その時点で請求権を行使できるということです。
ですから、事前に遺留分侵害請求権について知らなかった人は、後でその事実を認知してからでも請求することが可能です。これは相続権の放棄権でも同じことが言えます。法的に認められた家族法上の権利は、当事者が知らないうちは保留されるのが原則なのです。この遺留分侵害請求に関しても、知らないうちは権利の保留がなされます。
ただし、遺留分侵害の事実を知っていたのに、その請求を延期するなど行使しなかった場合は、すでに権利を放棄したとみなされますので注意してください。例えば、遺産分配の協議に参加していて、既にその内容を知らされていた場合がそれにあたります。また、文面や電話で相続内容の事実を聞かされていて、しかも自分には遺留分の権利があると告知されていれば、それは遺留分侵害の事実を知っていたとみなされます。
具体的には故人が亡くなったあとに遺言書が発見され、不公平な内容となっていて遺留分が侵害されたと知ったときです。相続開始後、生前贈与が行われたことを知ったときにも同じように遺留分請求ができると知っておきましょう。
3. 遺留分侵害請求は専門の弁護士に依頼すると安心
遺留分侵害請求はそもそも、いくら請求できるのか、わからないので、簡単ではありません。まず、相続人が既に遺産の名義変更をしたり、お金を使ってしまったケースは大きな問題となり、遺留分請求には応じられないと断られてしまうことが多いのです。無視されることが多いでしょうし、誰に請求すればよいかわからないでしょう。
最終的には裁判所へ訴えて法律の力で解決できるのですが、その際には専門の弁護士の助けが不可欠でしょう。また、任意の交渉で解決する場合でも、やはり法律を熟知した弁護士に間に入ってもらう方が安心です。特に親族間の相続トラブルは感情的になる傾向が強く、円満解決が困難だと知っておいてください。
また、遺産に債務が含まれている場合も要注意です。債務が相続額を上回ってしまうようであれば、最終的に損益を抱え込むリスクが生じます。そのようなケースでは、安易に遺留分侵害請求を起こさないようにしたいところです。こういった場合に備えて、遺留分侵害請求は専門の弁護士のアドバイスを受けると安心でしょう。
弁護士事務所などに相談することによって、遺留分の侵害が行なわれているかどうかの確認や、いくらくらい請求できるのか、侵害の事実があるのなら、侵害請求の一切をサポートしてもらい自分はなにもしないでも手続きが進められます。
相続人から侵害に当たる金額を返金してもらうまで、すべて一貫して専門の弁護士に任せるなら、遺言で侵害された権利の救済においては、すべてを任せられます。遺産の問題では、遺族関係にひびが入りやすい傾向にあるので、なるべくスムーズに代理人弁護士を介した解決をおすすめします。