Contents
1. 生命保険金は相続財産なのか?
生命保険金は相続財産ではないのですか?とのご質問をよくうけますので、ここで生命保険が遺産分割(相続財産をわける仕組み)では、どのように扱われるかをご説明します。
生命保険は、それを受取る人(受取人)がもっている固有の財産ですので、死んだ人の遺産ではありません。よって、相続において遺産分割の対象とはなりません。
「え!!なんで?」とおもうかもしれませんが、そうなのです。親が亡くなって、相続人の中で、一人だけ生命保険金を受け取っている場合、それは相続において考慮されないと不公平であると思われるでしょうが、法律ではそうなっていません。生命保険金は、遺産ではないからもらった人ももらっていない人も、遺産分割では公平に扱われるのです。その理由は、生命保険金は相続財産ではなくて、受け取る人の固有財産と考えられているからです。仮に生命保険金を受け取った人が、保険金を他の相続人に分けようとするとそれは贈与になるから気を付けましょう。贈与には贈与税が発生しますからね。
もっとも、生命保険の受取人が亡くなった方であれば、その受け取った金額も遺産になります。よって、受取人で結果が異なるのです。
生命保険金をもらった場合、それが特別受益とされるのか?
特別受益というのは、遺贈とか贈与によって、相続人がもらっている利益のことでして、遺産分割時にそれはもらっているからということで公平になるように遺産に追加して計算をする、「持ち戻し」という計算をするのです。持ち戻しは、遺産分割で、生前の被相続人から特別受益を受けたもの(贈与などをもらっている者)がいる場合、その特別受益を相続財産に加えて計算をしてから具体的な法定相続分の計算をして、すでにもらっている贈与などがあれば、その人が現実にもらえる金額から控除していって、相続人の間の公平を実現するという制度で、民法にある仕組みです。
では、生命保険金をもらっている相続人はすでに利益を得ているから、贈与と同じように扱った方がよいという考えもできそうですが、そうなっているでしょうか?
実は、生命保険金は、原則的に「特別受益」にはあたらないのです。なぜなら、保険金請求権は、民法903条に規定される「遺贈」や「贈与」ではないからです。よって、相続放棄をした相続人であっても、生命保険金を受け取ることは可能です。
2. 例外的事情がある場合には生命保険も特別受益になるか?
原則は、生命保険金が特別受益にはなりませんが、判例上は例外があります。
これについては最高裁判所の判断があるのですが、平成16年10月29日の最高裁の決定では、「民法903条の趣旨から相続人間の不公平が著しいといえるような特別の事情がある場合には、例外的に生命保険金が特別受益とできる」という判断がされています。
具体的には、以下のようです。
「被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となると解される」
この著しい不公平がどのくらいなのか・・・・これはケースバイケースです。裁判例から考えてみましょう。
3. 最高裁の判断の後の裁判例はどうなっているか?
上記、最高裁判所決定の後はどのような裁判例が出ているでしょうか?特別受益とされていない事案とされる事案をご紹介します。
*広島高裁令和4年2月25日決定
手取り月額20万円ないし40万円の給与収入から保険料として合計で約1万4000円を毎月払い込んでいた事案で、死亡保険金は、被相続人の死後、妻の生活を保障する趣旨のものであったと認められるとして、妻は54歳の借家住まいであり、死亡保険金により生活を保障すべき期間が相当長期間にわたることが見込まれるとして、特段の事情が存するとは認めませんでした。
*東京地判平成31年2月7日判決(遺留分減殺請求事件)
5000万円の死亡保険金請求権を取得した相続人がいた事案。その額が預貯金及び不動産を含めた遺産の評価額の約45パーセントにも上る高額なものであること、保険料は保険契約日である平成20年11月25日に一括払していること、他の相続人が受けた贈与が自宅建築資金の800万円にとどまる一方、その受取人は多額の贈与を受けていたなどの諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人とその他の共同相続人である原告との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するというべきであるとしています。そして、死亡保険金5000万円の全額が被告の特別受益であるとしました。
4. どういう場合に、遺産分割・遺留分減殺の事件において生命保険が例外的に特別受益になるか?
特段の事情ありとして特別受益の該当性を認める場合は、傾向として、遺産に対して保険金が相当の割合である場合であって、遺産総額に占める割合が40%以上であれば、特別の事情があるとされる可能性は高いと思われます。
死亡保険金額そのものは高くなくても、保険金額の遺産総額に対する割合が高いと特別の事情が認められる傾向があります。相続人間の著しい不均衡があるとされる事案では、保険金の設定により遺産が相当に減っているような場合もあると思われます。
保険金受取人が、被相続人と同居していたり、療養看護や介護をしていたりすることは、否定するファクターとなる傾向があると解されます。
特段の事情があるかどうかは、総合考慮により判断されますが、裁判例の傾向から、特別受益となるかどうかの最も重要な要素は、「保険金の額」及び、「遺産総額に対する保険金の割合」といえるでしょう。それに、保険金を残した被相続人の意図も考慮対象となるでしょう。
相続税の生命保険に加入する際、相続人に不平等を生じさせるような保険契約となっていないかは、考慮しておくとよいでしょう。
5.生命保険をもらうと相続税法がかかるのか?
保険料の負担者が、被相続人である場合には、生命保険金控除後の金額が、相続税の課税遺産額になります。生命保険金控除は、相続人の数×500万円です(相続税法3条1項1号及び同法12条1項5号)。生命保険金控除後の金額(保険金2000万円で、相続人が3人いる場合は、2000万円-500万円×3=500万円)が、相続税の課税遺産額に加算されます。そして、3000万円+相続人の数×600万円という基礎控除額がありますので、相続税の課税対象になる遺産の額からその額を引いた残高が相続税の対象です。
保険料の負担者が、保険金の受取人の場合は、受取人の一時所得となります(所得税法基本通達34-1(4))。保険料の負担者が、それ以外の者である場合には、保険金受取人は、贈与によって保険金を得たものとされますので、相続税の問題にはなりません(相続税法基本通達3-16)。