寄与分

特別受益・寄与分の判例のご紹介

借地権が特別受益となり、寄与分が認められた事案

1. 事案の概要(東京家庭裁判所平成12年3月8日審判)

被相続人が有する借地権について、相続人の一人が地主との間で新たに借地契約を締結した際に、被相続人が異議を述べなかったことなどから、被相続人から当該相続人に対する借地権の贈与があったとして、これを特別受益に当たるとした審判を紹介します。

また、この審判では黙示による持戻免除の意思表示を認めていません。相続人の妻子による被相続人の介助を寄与行為として、当該相続人にとって特別の寄与があるものと認めていますので、その点もご紹介します。

2. 借地権に関する事情

相続人は申立人Aが16分の2,申立人B 及び申立人C が各16分の3,相手方が16分の8の事案でした。

相手方は、被相続人から借地権の贈与を受けそれが特別受益として持戻しの対象であると主張しました。ABCは、借地権は、Aの妻でありBCの父であるXが被相続人とはまったく無関係に、地主との間で借地の賃貸借契約(以下単に「借地契約」という。)を締結した結果であるから、贈与ではなく、特別受益とならないと主張しました。仮に、贈与を受けたものだとしても,被相続人は黙示的にその持戻を免除する旨の意思表示をしたとの主張をしていました。

裁判所には、Xは、借地契約を締結するにあたっては被相続人に何ら金銭その他の対価を支払わず被相続人はその契約締結に対して何ら異議を述べていなかったことが認定されました。その際の名義変更代金は金23万2600円で、当時の地代(月額1700円)の11年分以上の金額であったので親族間の名義変更代金としては高額でした。

Xは、それから旧建物を取り壊し借地上に現存建物新築するに際して地主に建物新築承諾料として金10万円を支払っていたが、地代(年額2万2500円)の4年分以上の金額でした。

3. 借地権が特別受益となるかという判断(贈与の成否)

被相続人はその借地権を有していたのに「二男であるXが婚姻するに際し同人に新居を構えさせるため,賃貸に付していた旧建物からわざわざ店子を立ち退かせてまで,X一家を同所に住まわせたこと,とすれば,被相続人は,その後Xが地主と自ら借地契約を締結することを了承しているが,これは新たな借地人が,旧建物への居住を許した浩二であるからこそ異議なく承諾したものというべきであって,仮にその余の第三者が借地を新たに借り受けようとしたのであれば,借地権者として当然地主に異議を述べたはずであること,したがって地主もまた,そのような第三者に対して借地を賃貸したとは考えられないことが認められるのであって,かかる経緯に照らせば,結局Xは,何らの対価なくして被相続人の借地権を承認した,すなわち,被相続人から当該借地権の贈与を受けたものと認めるのが相当である。」と判断しました。

Xが地主に支払った名義変更代金が相当高額であったという点については、「高額の名義変更代金を支払った約1年後には,建物の建て替えを理由にやはり高額な承諾料(金10万円)を払わされ,また浩二死亡後に申立人Aが借地権を相続取得した際にも,更新料兼名義書換料としては破格に高額な金員(金600万円)を払わされている。つまり,借地の所有者は,契約更新や名義書換に際し,一般的な相場よりかなり高額の金員を要求し,Xや申立人らもやむなくこれに応じてきていたという経過が認められる」としました。そして、そうであればXが通常の相場より高額の名義変更代金を支払っているからといって,これが地主とXの双方にとって,被相続人の借地権承継とは無関係な新たな借地契約のための権利金授受であるとの認識があった証左にはならない」としています。

つまり、高額な金員を払ったのは、この土地の地主がそのような高額な金員を求めたということによるものであって、被相続人の借地権の承継がなかったという証拠にならないとしたのです。

4. 持戻免除の意思表示の存否

持戻免除の意思表示があったかの判断基準については、「民法903条1項は,共同相続人間の実質的公平を図るべく,特別受益がある場合にはその持戻しをすることを原則としているのであって,同条3項の持戻免除の意思表示は例外規定である。とすれば,被相続人が明示の意思表示をしていないにもかかわらず,黙示的意思表示あることを認定するためには,一般的に,これを是とするに足るだけの積極的な事情,すなわち,当該贈与相当額の利益を他の相続人より多く取得させるだけの合理的な事情あることが必要というべきである。」と判断しました。これはとても参考になるメルクマールといえます。

・被相続人としては,浩二一家に使用させる必要さえなければ,旧建物を引き続き第三者に賃貸するなり,借地権付きで売却するなりの方法で,一定の収益を得る可能性があった。

・被相続人が,借地権の贈与の時点でこれを自ら維持する意思や資力を有していなかったとしても,それゆえに被相続人がXに対して,当該借地権相当の利益を相手方より多く取得させようという意思を有していたと推認できるものではない。

・仮に贈与の当時の被相続人が遺産の前渡しとしての意識を欠いていたとしても,それをもって最終的な被相続人の意思も持戻しを免除することにあったと認められるものではない。

・Xに借地権相当の利益を相手方より多く取得させることを是とするような合理的事情があると認めるに足る証拠がない

以上のような事実を認定して結論は「本件においては,結局被相続人の黙示の持戻免除の意思表示を認めることはできない。」となりました。

5. 借地権(特別受益された資産)の評価

鑑定人の鑑定により、借地権の相続開始時における評価額は、金2229万9000円でした。そして、Xが借地権を取得するにあたり,地主に対して名義変更代金23万2600円を支払っている点については、「原則として権利の移転に地主の承諾が必要な借地権については,名義変更代金の支払は,贈与契約の履行のための必要経費ともいうべきものであって,本来は贈与者である被相続人が負担すべきものである。」として、受贈者たるXが支払ったということは借地権の贈与契約そのものが「いわば名義変更代金支払の負担付き贈与であったと同視できるものであって,当該特別受益の価額を算定する際には,当該負担の価額を控除すべきものと解する(民法1038条参照)」としています。

つまり、名義書換費用を払うことが条件となっていた贈与であるという判断です。

その上で、負担の価額を検討して「東京都区部の消費者物価指数表によれば,相続開始時たる昭和61年を100とした場合の,名義変更代金支払時たる昭和45年の同指数は36.3であったと認められる(東京国税局編集の平成7年分財産評価基準書・評価倍率表による)から,昭和45年当時の金23万2600円は,昭和61年当時には金64万1000円の価値を有していたものであり(計算式23万2600円×(100÷36.3)=64万0771円,1000円未満四捨五入),Xの負担の価額は金64万1000円であると認める。」とし、消費者物価指数を基礎にして、負担の価額を決めています。

そして、借地権の相続開始時における評価額金2229万9000円から,負担の価額である金64万1000円を控除して借地権の贈与による申立人ら3名合計の特別受益の価額は,金2165万8000円であるとしました。

6. 寄与分についての判断

相手方は,相手方及びその妻相手方の長男、二男及び三男において,長年の間被相続人と同居し,脳梗塞になった被相続人を,その起床,移動,外出,入浴,就寝等の全般にわたって無償で介護し,世話をしてきたということから「寄与分」を求めました。

「申立人らは,被相続人の介護は専ら妻のYが行っており,相手方やその妻子は同居の親族として通常期待しうる程度の補助をしたに過ぎないと主張するが,妻のY自身も大正3年1月27日生まれで,昭和54年から61年にかけては65歳から72歳という体力に衰えの生ずる年代であったうえ,聴力が弱かったこと等を考慮すると,被相続人の介助を全面的にY一人で行えるものではなく,相手方の妻子らによる介助が,まったくの補助的労務でしかなかったとは認めがたい。特に,退院当初の介助に不慣れな時期や,きみ子が年老いる一方で被相続人の体調が悪化した晩年のころには,介助の負担も相当重いものとなり,相手方の妻子による介助は被相続人の日常生活のうえで不可欠のものであったと考えられる。よって,これら相手方の妻子による介助行為は,相手方の履行補助者的立場にある者の無償の寄与行為として,特別の寄与にあたるものと解する。」

このように、裁判所は寄与分を認めました。

寄与分の評価においては、相手方の妻は日中パートタイム労働に従事しており、子は10歳から16歳,6歳から13歳までの時期にあたり,学校生活はもとより部活動や塾通いもしていたことを考えると,いずれも終日介護に従事していたものとは認められないとして、かつ「相手方一家は,長年の間被相続人夫妻と同居することにより,その生活上の諸利益を得ていたことが推認されるので,寄与分算定にあたっては,同居の親族として一定程度の相互扶助義務を負っていることも考慮されなければならない。」としました。

具体的には、社団法人日本臨床看護家政協会作成の看護補助者による看護料金一覧表(昭和62年4月1日実施のもの)による普通病(軽症2人付)の場合の一人当たり基本給が日勤3390円(但し,食費1200円分を控除したもので,勤務時間8時間,内休憩1時間を含む。),深夜勤5110円(但し,食費1200円分を控除したもので,勤務時間8時間,内休憩1時間を含む。)であることを参考にして(新日本法規出版株式会社発行の新訂版交通事故損害賠償必携・資料編・昭和62年10月28日発行の改訂版による。)以下の式によって、相手方の寄与分を決定しています。

(式)

  607円×1.5時間×2588日×0.7=164万9461円

 ・ 前出看護補助者の基本給による日勤1時間あたり単価484円(3390円を実労働時間7時間で除したもの)と深夜勤1時間あたり単価730円(5110円を実労働時間7時間で除したもの)の平均額607円

 ・ 相手方及びその妻子による一日当たり想定平均介助時間1.5時間

 ・ 介助期間約7年1か月=2588日

 ・ 親族としての相互扶助義務考慮による減価0.3

記事監修者 弁護士 松野 絵里子
記事監修者 弁護士 松野 絵里子

記事監修者: 弁護士 松野 絵里子

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