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1. はじめに:海外に相手がいるときの離婚に特有の外国送達
国際離婚の場合など、離婚をするのに相手つまり被告が日本の外(外国)にいる場合、日本で裁判をおこなうのにその外国にいる相手に対して、訴状の送達を行わなければなりません。
これは、調停や審判でも同じ問題があります。このように、海外に相手がいる場合に手続きを開始するには、「外国送達」をしなければなりません。送達先が日本ではない場合、外国送達が必要になります。民事訴訟法第108条は、以下のようになります。
(外国における送達に関する民事訴訟法)
第108条
外国においてすべき送達は、裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使若しくは領事に嘱託してする。
2. 外国送達とは?
外国送達は、外国にいる人や会社に対して「送達」を行うことです。送達を実現するには、その外国との条約などを根拠にして、外国に協力をしてもらっています。日本とその外国との間で締結される条約や協定の種類によって、現実の送達の方法は異なります。司法共助という方法で行う場合もあります。
海外では、私的に当事者が必要書類を自ら送付し合うことができる国もありますが、日本では当事者が送達できることは認めておらず、必要な書類は、裁判所の職権により送達はされます。現実には、これを担当するのは裁判所書記官です。
3. どのような外国送達があるのか?
ある国が、他の国の領域内で裁判権を行使することは、その国の「主権侵害」となるので、裁判権の行使にはその国の協力が必要になります。外国にいる当事者に訴状や訴訟資料を送ること(送達すること)は、その国の裁判権の行使つまり国家権力の行使だからです。そのため、外国の「主権」を侵害することに該当する行為と解されており、主権を侵害しないようにするのには承諾が必要になるというロジックです。
各国では送達を互いに助け合うため、2国間の条約や、多数の国が参加する多国間条約を締結し、個別の承諾をしています。
日本は、以下の多数国間条約を締結しています。
1)民事訴訟手続に関する条約(1954年の民訴条約)
2)民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(1965年の送達条約)
この送達条約は、1954年の民訴条約の文書送達に関する規定を改善する目的で新たに制定された多国間条約であり、上記の条約の双方に加盟している場合、この送達条約の方が優先されることになります。日本は双方の条約を締結しているのですが、送達条約のみを締結している国も多く、例えば、アメリカ合衆国、イギリス、カナダ、中国などはそうです。
日本から外国に送達する場合、催告送達の種類は5種類があります。これは日本ではじまった訴訟のために外国で行う送達であり、送達の嘱託をしている場合です。
4. 日本国内の手続きと各種の外国送達方法
国内の手続きは、提訴を受け付けた受訴裁判所 → 高裁長官・地裁所長 → 最高裁事務総局民事局長 というルートを経由する方法で外国送達をしています。その後は、送達の種類によりルートが以下のように異なります。
(1) 指定当局送達(外国の指定当局を経由する方法)
(外務省 → 在外大使館 →)指定当局 → 受託当局 → 被告
これは、民訴条約による原則的な送達方法です。その外国の国が送達条約に加盟している場合には、送達条約による送達が優先されます。外国の指定当局が送達の処理を行ってくれるのですが事務の連絡を円滑にするため、外務省・在外公館が仲介をすることもあります。
外国の指定当局というのは国により異なり、外務大臣や司法大臣、地区の地裁所長などが指定されています。指定当局に、送達を実施する外国の裁判所を指定することもできるとされています。このときには、送達される文書の翻訳と日本の外交官または領事官等の翻訳証明を添付しなければならないとされます。受託国は送達に費やした費用を嘱託国に請求しない原則です。
(2)中央当局送達(外国の中央当局を経由する方法)
中央当局 → 実施当局 → 被告
これは、送達条約による場合の原則的のルートです。送達は、外国の中央当局がしてくれますので、外務省や在外公館を経由しなくてよくて、最高裁から外国の中央当局に送達を直接要請ができ簡便です。中央当局というのは、国により異なりますが、司法大臣や外務大臣・国務大臣などとなっています。
外国の中央当局は、送達される文書を自国の公用語で作成するか、それに翻訳した文書を要請することができるとされます。受託国は、送達に費やした費用を嘱託国に請求しないのが原則です。
(3)領事送達(外国に駐在する我が国の領事官に送達させる方法)
在外領事館 → 当事者
民事訴訟法第108条が定める送達方法であり、外国(受託国)の承認の下でできる送達方法です。送達条約に加盟している国では、この送達方法は原則的に認められています(送達条約第8条②)。費用も送達条約の場合と同じとされています。
任意の送達しかできないため、送達の相手方が受領を拒んだ場合は、別の強制的な送達の手続をやり直さなければならないというリスクがあります。
(4)管轄裁判所による送達
(外務省 → 在外大使館 →)外国外務省 → 外国裁判所 → 被告
2国間の司法共助取決めや個別的な取決めがある場合にのみ、できる方法です。日本の外務省と在外公館を経由して、受託国に、送達に費やした経費を支払うこととなります。日本語を解することが明らかな者に対して送達を行う場合以外、送達すべき文書の翻訳文を裁判所に提出する必要があるとされています。さらに、指定当局送達の場合は、上述の通り、翻訳が正確である旨の証明が必要となるので受託国の日本大使館が行うことが多いです。よって、翻訳の負担があるため、送達される書類(訴状や書証)の書類は記載を短くし、証拠を厳選するということが重要になってきます。
送達に必要な期間送達に要する期間は、その外国(受託国)、採用される送達方法(ルート)によっても異なりますが、実務例が多い米国やフランスの例では、最高裁から文書が発送されて、送達実施後、最高裁に届いた送達結果が嘱託庁に送付される平均処理期間は、概ね以下とされています。
例: 米国
領事送達 3か月程度
中央当局送達 12か月程度
例: フランス
領事送達 4ヶ月程度
中央当居送達 6か月程度
5. 公示送達ができる場合
上記で説明した外国送達は、外国における相手方の所在地が分かっている場合に採られる方法であり、相手方の所在地が分からない場合は、一定の要件を満たせば、公示送達ができる場合があります。
公示送達(民事訴訟法 第110条~113条)とは、当事者の住所、居所、その他、送達をすべき場所が知れず、通常の調査方法によってもこれが判明しない場合は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管して、名宛人が出頭すれば交付する旨の書面を裁判所の掲示板に掲示することができるという制度です。原則として、国内事案では2週間が経過したときに、送達の効力が生じるとされています(同112条1項)。
公示送達は、被告が実際に訴状を受け取っているかどうかを問わず、送達の効力を認めるというものですから、知らないうちに判決が出ている(欠席判決)ということになって被告の権利が守られないので、裁判を受ける権利を保障するという点で、慎重な運用がされています。所在地がわからないと言っても、郵便が届く可能性が有る場所を知っているような場合には、そこを送達先とすることもあり、EMSなどで先に郵便が届くかの確認をしておくこともあります。簡単に公示送達は認められません。
国内では上記の通り、公示送達を認められた場合、掲示を始めた日から2週間の経過によって送達の効力が生じるとみなされますが、外国公示送達の場合は、6週間の経過によって送達の効力が生じるとされ、期間を長くしています(民事訴訟法112条2項)
公示送達が認められる場合は、民事訴訟法で、以下のようになっています。
110条1項1号:当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合(第109条の2の規定により送達をすることができる場合を除く。)
被告が外国にいて、住所、居所その他送達すべき場所が知れない場合ですが、被告が外国にいることを確認し、外国の住所地が不明であって、調査をしても不明であるということが必要です。入国管理局に対して弁護士会照会により質問をしてその外国人の「出入国歴及び外国人登録原票」を調べて、外国における住所又は居所が記載されていればそこにEMSなどを送って郵便物を送ってみて、届くか確認をするのが通常です。
なお、被告が日本人であれば、弁護士会照会制度を利用して出入国歴を調べることになります。外務省領事局政策課に対し、弁護士会照会制度によってその日本人の在留先の住所を調査してから、その住所地にEMSなどを送り、届くかを確認します。
110条1項3号前段:外国においてすべき送達について、第108条の規定によることができない場合
送達先の外国と日本との間に国際司法共助の取決めがなく、当該外国の管轄官庁が日本からの送達の嘱託に応じない場合や、当該外国に日本の大使等が駐在していないような特殊な場合です。
110条3号後段:民訴法108条の規定によっても送達ができないと認めるべき場合
外国との間の取決めがあって送達の嘱託はできるが天変地異や戦乱等により嘱託しても送達不能が見込まれるような場合や、外国に送達の嘱託をしたが、何らかの理由で送達できず、再度の送達嘱託をしても送達できる見込みがないような場合のことをいいます。
110条1項4号:第108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
これは、外国送達をしてみたのに、うまく送達ができなかった場合の規定です。
これ以外に、「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約15条2項の要件が満たされた場合(民事訴訟手続に関する条約等の実施に伴う民事訴訟手続きの特例等に関する法律28条)」があります。これは、条約による方法で文書が送達されたのが、発送から6か月以上の期間が経過し、かつ、すべての妥当な努力をしても、その相手国の権限ある当局から送達証明の入手ができない場合のことです。このように努力を尽くしたが、送達ができないと公示送達が認められます。
6. 外国送達が問題になった判例
東京高等裁判所の事案(平成27年9月24日)では、アメリカでの送達が、日本語翻訳文が添付されていなかったが有効であったのかが問題となっています。
この事例では、カリフォルニア州登録送達人が、カリフォルニア州内の住所において、外国訴訟の呼出状、訴状等を直接送達し、それはカリフォルニア州法に基づく適式な送達方法であり、州の登録送達人が、当事者である被告本人に直接交付する方法でした。しかし、件送達に際して、送達書類に日本語翻訳文は添付されていなかった事案です。
「被控訴人は、米国において、語学学校に通い、その間、就労し、音楽活動をするなど、英語を用いてコミュニケーションを図る能力を有しており、英語によるある程度の表現能力を有していた上、本件送達を受けるより前に裁判所に出頭した経験も有しており、カリフォルニア州法に基づき受送達者に直接書類を交付する直接送達という方法で送達書類の送達を受け、本件外国訴訟の訴状が控訴人との間の本件事故に関する書類であることを認識したというのであるから、・・・・本件外国判決に係る本件送達は、被告(被控訴人)が現実に訴訟手続の開始を知ることができ、かつ、その防御権の行使に支障のない手続であったものと評価することができるというべきである。」という判決でした。
この事案では送達は、民訴法118条2号の要件を満たすものと認められて、和訳が添付されていなくても有効とされたのです。
7. 外国にいる人の所在調査の必要性、方法について
被告が外国にいるが、住所、居所その他送達すべき場所がわからないときに、公示送達となるのですが、公示送達による判決は外国で承認されない可能性がありえます。
公示送達をするには、住所について確認の努力が必要です。また、SNSやEメールなどで連絡がとれる場合には、訴訟を提起していることを知らせて通知することにより、被告の応訴を促す方法も考えたほうがよいでしょう。
住所を調べる方法は以下のようなものがあります。
海外にいる日本人について:
出入国記録を法務省入国管理局から取得します。これは、弁護士法23条の2照会でできます。
また、外務省の海外邦人安全課に海外邦人の所在調査を依頼できます(これも弁護士法23条の2照会によります)。しかし、調査の結果、在外公館保有の資料で被調査人の所在が判明しても対象者の同意が得られない場合、「被調査人本人に連絡を試みた結果、住所等の通知については同意が得られなかった。」と回答される場合があります。
海外日本人会の登録を確認することもできます(弁護士法23条の2照会によります)。
海外の外国人について:
外国人出入国記録をみて、出国の有無が判明しますし、使用航空機が分かる場合もあります。また、外国人登録原票の写しから国籍地の住所がわかります。これは、弁護士法23条の2照会でできます。