この記事では令和5年の離婚後共同親権を導入した民法の改正の改正に至った経緯や、民法の現行法の在り方からみた今回の改正の意味、海外の共同親権の状況などをご説明します。さまざまな課題についても、付帯決議を紹介しつつ、弁護士松野絵里子が解説します。
Contents
- 1. そもそも、親権とは?
- 2. 民法による親権の内容
- 3. 親権の共同行使とは?
- 4. 婚姻中の夫婦のみが、共同親権となるのか?
- 5. 民法改正前の日本の親権制度における共同親権
- 6. 親権と監護権:分属による共同親権類似の状態がつくれるのか?
- 7. 改正前の民法下での離婚後単独親権と激烈な親権争い
- 8. 再婚と養子、共同親権の関係
- 9. 離婚後の共同親権とは?(令和5年の民法改正の経緯)
- 10. 共同親権についての改正法の概要
- 11. 海外の状況
- 12. 海外の多様な共同親権制度
- 13. 海外からの日本の制度への批判:欧州連合(EU)の欧州議会本会議決議
- 14. 離婚後の共同親権のメリット・デメリット
- 15. 離婚後、共同親権のメリット
- 16. 共同親権のデメリット
- 17. 離婚後の共同親権を採用した民法改正のポイント
- 18. 離婚の際に、共同親権・共同養育の問題で悩んだら専門的弁護士へ
- 19. 最後に
1. そもそも、親権とは?
「親権」は、子どもの利益のために子の監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限であるとともに、義務です。親権は、つねに、子どもの利益のために行使しなければならないので権利というよりは職責であるといえます。日本では、父母の婚姻中は父母の双方が親権者とされており,父母が共同して親権を行使することとされています。
父母が離婚をする場合には、親権者と定めることとされており、離婚後はその者が親権を行使することとなります。改正前の民法では、離婚時には父母のいずれかを親権者としなければなりませんでした。
世界的には親権や監護権の概念は、子の保護という観点から見直しが進み、親責任という考えがとられるようになっています。権利性を排除して親権をとらえるという試みです。
親権類似の概念は、アメリカ合衆国ではcustody、イギリス、シンガポール、オーストラリアではparental responsibility、ドイツではelterliche Sorge(親の配慮)と表現されています。そして、離婚しても父母が子の養育を担う方向へと先進国では多様な法改正がされてきています。
ドイツでは、離婚後の単独親権(親の配慮)をさだめた法律について、違憲であるかが争われて、ドイツ連邦憲法裁判所が、1982年に離婚後の単独親権を定めた民法の規定が憲法に違反すると判示し、1992年には大きな改正がされという、経緯があります。
日本における親権や監護者の制度や概念は、アメリカ合衆国ではcustody、イギリス、シンガポール、オーストラリアでparental responsibility、ドイツではelterliche Sorgeなどと表現される親の職責とは、制度の違いや家庭裁判所の機能からして、かなり異質なものです。しかし、今般の改正で、子どもの養育責任により重点を置く形での改正がされたものと言えます。
2. 民法による親権の内容
親権は、民法では身上監護権と財産管理権から構成されています。
・監護・教育権(820条)
親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し義務を負うという条項です。この820条が監護教育権の基本的内容を定めています。子の監護教育の内容・程度は、親権者が自由に決定できます。
・居所指定権(821条)
子は、親権者が指定した場所に、その居所を定めなければならないという条文です。これを認めなければ、親が同居できないので、監護権の行使が事実上できません。親権者は自由に子の居所を指定できるので、子が親権者の指定した場所におらず、第三者の下にあるときは民事訴訟により子の引き渡し請求が可能となります。
・職業許可権(823条)
子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができないという条文です。未成年者の営業については、営業を許された未成年者はその営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有することになっています(民法第6条1項)。親権者は営業許可を取消したり制限したりできます(民法第6条2項)。
・子の代理権
一定の身分行為につき親権者に法定代理人として代理権が認められている場合があります(認知の訴えにつき787条、十五歳未満の者を養子とする縁組の承諾につき797条といったように、各条文で書かれています)。これは、本来は自己決定に関する事項であるのですが、子はまだ未熟なため子の保護のために、親の代理権が認められています。
・旧822条
削除されていますが、懲戒権の規定でした。親権者は、必要な範囲で自ら子を懲戒できるとされていたのです(旧822条1項)が、令和4年民法改正により、懲戒権の削除ならびに体罰などの禁止が定められました(821条)。
・財産管理権(824条)
親権は、子の財産に関する権利を有しており、。親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する(ここでは、代理の意味です。)とされます(824条本文)。その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならないとなっています(824条但書)。
・親権の共同代理の特則
共同親権の場合、父母の共同代理となって、一方の同意のない代理や同意は追認のない限り効力をもたないことになりますが、それでは第三者が不測の損害を被るので、第三者保護の観点から民法は「父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない」と定めています(825条本文)。
3. 親権の共同行使とは?
父母が親権者である以上、父母がふたりで親権を行使しなければなりません。つまり、子どもの監護・教育権、居所指定権を行使するとき、同意を付与するとき、父母が協議して合意のうえで決定をして権利行使をしなければならないのです。
このように父母が共同で決定をすることが必要になるので、父母が、日常的に協議ができ決定ができる状況を、法は予定しているといえます。特に、現行法では、父母の意見対立がある場合の制度がなかったので、父母が対立してしまったときに裁判所が何らかの決定をして介入することが、困難でした。そういう状況で、双方の親が対立した時に、自力救済的に子を連れて別居するということもよく起きていました。
本来は上記の子の居所指定権については、親権者が有するので、共同親権であれば二人で合意して子が住む場所を決めなければならないのですが、不仲でそれができないとき、監護を主としてしてきた親が監護の継続のために子を連れて家を出ることは「子連れ別居」であって違法ではないという判断を家裁がすることが、非常に多く後述の欧州からの批判はそういう日本の実情に対するものでした。
4. 婚姻中の夫婦のみが、共同親権となるのか?
日本では、子の親が婚姻していない父母の場合、その子の親権者は「ひとり」となります。つまり、単独親権が強制されているのです。通常、この単独親権は母にあります。現行民法においては、婚姻内で生まれた未成年の子は父母の共同親権に服するとされていますが(818条3項)、婚外子の場合、原則的に母が親権者となって、父が認知した場合に父母の協議または審判によって,父を親権者に定めることができる(819条4項)となっているので、父親が認知し、かつ父母の協議で父親を親権者と定めた場合のみ、父親が親権者となることができます。つまり、母の合意がないと父は親権を持ちえません。子の親権者は、母の決定により決まってしまう仕組みです。
そもそも日本では、婚外子をもつことが社会的・文化的にあまりまだ許容されていないのですが、海外先進国では、今や、子をもつことは婚姻することを制度的前提としていません。婚外子であっても、父母が親権をともに持つ方法が確立しており、母が決定権をもっていない制度が多いです。
日本では、2013年9月4日には、最高裁大法廷が「婚外子の法定相続分差別規定(民法900条4号ただし書)は違憲である」と判断していますが、これまで、婚内子・婚外子の法定相続分は平等ではなく、それが違憲ともされていませんでした。この相続分は、婚外子の社会的に差別され、劣位であることを象徴していました。この点は、婚外子の差別はなくなったのですが、親権についてはやはり上記のような差別的状態になっています。
共同親権が成立するのは、それでも、両親が婚姻している子についてのみであって、両親が婚姻していない子は一方の単独親権となり、婚姻していない父母が共同親権を持つ道がない状態です。しかし、たとえ親が婚姻していないとしても親であることには変わりはなく、子が双方の親から監護・養育を受ける権利をもつべきではないかと?という疑問があります。
5. 民法改正前の日本の親権制度における共同親権
令和5年の民法改正施行前の日本では、結婚している父母にのみ、共同親権が認められています。よって、婚姻していない父母や離婚後の父母は、共同親権は合意をしても認められていません。父と母のどちらか一方しか親権を持つことができないので、つまり、父母の一方しか親としての職責も担っていないということになります。離婚後については、これを「離婚後単独親権」といいます。
婚外子についてはこちらの論文が詳しいのでご紹介します。
もっとも、親権は重要事項の決定権に過ぎないので、身上監護については別の親が担うという選択をすることも、父母の合意で可能ではありました。その点を次に説明します。
6. 親権と監護権:分属による共同親権類似の状態がつくれるのか?
親権には「監護権」(子と暮らして子を監護養育する権利・責任)が含まれ、親権と監護権は、離婚しても別々に定めることもできるとされてきており、家庭裁判所ではそのような合意がなされる場合はそれを認めてきました。しかし、家庭裁判所がそういった決定を出すことは、ほとんどなかったのです。
民法766条に基づき、親権と監護権とを分属させること、一方の親を親権者に指定し、他の親を監護者に指定するという決定を家庭裁判所がすることについてためらいがあったのです。
学者の間では、親権と監護権の分属で、父母双方が子の養育についての共同責任を負担していることを自覚させ、子の福祉の観点から、父母の監護養育責任と協力の必要‘性を強調することにより、離婚後の共同監護の可能’性を模索する点では大変に意味があると思われるという立場もありました。
しかし、法的には、いろいろな問題が残ります。親権と監護権とを分属させても、親権と監護権の内容および範囲が現行法では不明確であるという点が最も大きな問題でした。(今回の改正でこの点が、やっと明確になりましたが、それまで家庭裁判所の裁判官は監護者の指定という手続きを使っているのに、監護者に指定することが法的にどういう意味をもつのかについて、明確ではなかったのです。当事務所ではそういった問題提起を事件の中で頻繁にしてまいりました)。
法律関係があいまいなため、子の監護に関する法的関係を暖昧・不安定にしてしまって紛争が再燃するという問題があるので、親権者と監護者と分属は裁判官は積極的ではなかったものと思われます。さらに、そういった事案では子を奪い合っている過去があることが多いので、分属させても、重要なことを監護していない親が決定するのでは、子がむしろ間に挟まれてしまうのではないかという問題もあったでしょう。父母の間で葛藤が高く、紛争性が高い場合、そのような解決がさらに紛争を再燃させるのであれば、子の利益にはならないのです。
もっとも、当事務所で和解的解決をしてきた事案は、父母がかなりの監護分担(共同養育)を自発的にやってきたケースです。この場合、現行法でも、親権者をひとりとして、面会交流を非常に多くする方法で従前の監護の分担を維持するような和解的解決は可能でした。また、監護者の指定をする場合でも、むしろ監護者を父母とすることも合意であれば可能でしたので、そういった形の解決も当事務所では尽力してまいりました。共同養育はそういう意味では、親の決意によっては現行法でも可能です。
7. 改正前の民法下での離婚後単独親権と激烈な親権争い
このように民法改正前の日本では、親権者(監護権者)となったほうの親にのみ、子どもと一緒に生活したり、教育方針を決定したりする権利があるという選択しか、ありませんでした。もちろん、和解的解決・合意によって、学校選択については父母で協議して決めるなどという条項を調停条項として含めることで、多様な意思決定を父母がする仕組みをつくることはできますが、しかし、合意してもそれがうまくいかないようなとき、親の意見対立があった時、どういう解決が司法の場でできるのか不明でしたし、監護の分担を決めてもその法的効果がどの程度、強いものであるのかも不明でした(面会交流そのものの権利性が弱く、約束を守らない場合の制裁などもないという問題もあり、それは後述の欧州からの批判にもつながるものです)。
そのため、現行法の制度では、離婚時には親権をめぐって激しい争いになるケースが増え続けてきました。特に、都市部では多くの夫婦が共働きであって、子を養育する場合に「ワンオペ」ではなくなっている現在、離婚になると一人の親は「親としての子育てができなくなる」のですから、どうしても不安感から、親権紛争は激しくなります。
親権紛争が激しいと何が問題でしょうか?それは子に対する悪影響です。父母が離婚する場面では、子は傷ついていることが通常です。離婚によってよりよい状態になることもありますが、それは紛争が終わることによる安心感からです。子にとって、父母の紛争は大きなストレスであり、親が紛争で疲弊すると、ますます子の養育についても配慮が欠けて悪循環となってしまいます。
当事務所でよく経験するのは、親が疲弊して子を守るどころではなくなっていしまう状況です。子を紛争に巻き込み、相手の親との関係を断絶させようとしたり、不貞をした親であるとか、裏切り者であるというようなネガティブな情報を伝えてしまったりする現象です。親によっては、あまりに奪い合いに没頭してしまって、将来、訴訟記録を子に見せて自分が正しかったこととか、自分は子供を愛していてこんなに戦ったことなどを、示したいというような心境にすらなることもあります。痛ましいことです。
本来、子を守るべき親が、子の奪い合いで疲弊することは、子を守るべき人が守るという責務を果たせなくなくので、マイナスでしかないでしょう。
8. 再婚と養子、共同親権の関係
離婚後の共同親権が認められていない一方で、親権者である親が再婚すると、再婚相手と子どもが養子縁組をすることができ、その場合、養親が実親と共同親権を有することとなります。これも、子の奪い合いを激烈にする背景といえます。
実親からするとこういった養子縁組は、親権を奪われる経験でもあり、それにおいて実親の同意が必要ではないという点から、親は親権争いをして親権を得ないと自分は親でなくなる!という気持ちになるわけです。
海外と比較すると、養子縁組において実親の承諾が不要である制度は、珍しい法制度です。この点も、日本の民法は離婚後に実親と子の関係を維持する仕組みが弱いことを象徴しているといえるでしょう。
法律上、未成年の養子は養親の親権に服する(民法第818条2項)とされ、再婚相手は養子縁組によって親権を獲得するのに、親権を離婚時に失った実親はこの再婚相手と比較して圧倒的に子との関係が弱い関係になります。もっとも、離婚時に親権者とならなかったほうの実親と子どもの法律上の親子関係がなくなるわけではないので、扶養義務は残ります。監護養育に関しては、改正前の民法では何らの規定もありませんでした。ですから、お金だけ払うATMとされてしまうという恐怖感が親権を持たない親には発生します。
唯一、権利として残るのは面会交流をする権利ですが、面会交流は「取り決め」がない場合には具体的権利ではないというのが家庭裁判所の立場です。よって、取り決め(つまり合意)ができない段階では、その権利すらないのです。
なお、厚生労働省の『令和5年人口動態統計』によると、令和5年において未成年の子の親権については、すべての子について母が親権者となる場合が86.6%で父となる場合は10.6%だそうです。父母が複数の子の親権を分け合う場合が2.8%だそうです。
9. 離婚後の共同親権とは?(令和5年の民法改正の経緯)
日本では、このように離婚後は単独親権のみしか選択ができません。しかし、共働きの増加、父親の養育への参加の拡大、子育てのあり方の多様化といった社会的変化があり、その中で子の養育のあり方という点で家族法制を見直す必要があるという点から、民法の改正が議論されてきました。
1)平成23年民法改正の衆参附帯決議
民法改正の背景には、まず、平成23年に親権の停止制度の新設等を内容とする民法等の一部改正が行われた際の付帯決議があります。衆参両院の法務委員会で離婚後共同親権の導入を含む親権制度の検討・面会交流(親子交流)の円滑な実現及び養育費の継続的な支払確保のための制度の検討等を行うこと等を内容とする附帯決議が議決されていたのです。
これは平成23年に積み残した課題があったので、それを、今後検討をしなければならないというものです。付帯決議は以下の内容でした。
民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 親権停止制度については、改正の趣旨の周知、関係機関の体制の整備、家庭裁判所と児童相談所の連携の強化など、制度の円滑な実施に必要な措置を講ずること。
二 親権停止の請求については、児童等の利益の確保のため、児童相談所長による請求が適切に行われるよう努めるとともに、請求に必要な調査への協力など、児童相談所に対する支援体制の充実に努めること。
三 親権停止期間中における児童相談所による保護者指導など、親子の再統合のための取組みの充実に努めるとともに、保護者指導に関する家庭裁判所の保護者への勧告制度の創設について検討を行うこと。
四 未成年後見制度については、未成年後見人の報酬に対する公的支援、職務に伴う損害賠償責任に関する保険料の負担に対する支援等、制度の利用の支援のために必要な措置を講ずること。
五 離婚後の面会交流及び養育費の支払い等については、児童の権利利益を擁護する観点から、離婚の際に取決めが行われるよう、明文化された趣旨の周知に努めること。また、その継続的な履行を確保するため、面会交流の場の確保、仲介支援団体等の関係者に対する支援、履行状況に関する統計・調査研究の実施など、必要な措置を講ずること。
六 親権制度については、今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度の在り方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権の在り方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること。
七 児童相談所長、児童福祉施設の長又は里親等が一時保護中、入所中又は受託中の児童等について行う必要な措置については、個別の事案に適切に対応しうるよう、親権者による不当な主張の判断基準を具体的に示して、関係者に周知を図るとともに、関係者に対する研修の実施など、関係者の資質の向上を図ること。
八 児童虐待の防止等のため、子育てに関する相談・支援体制の充実、虐待通告窓口の周知徹底等、関係する施策の充実・強化に努めること。
九 児童の社会的養護については、里親制度の周知及び活用、施設の小規模化の推進など、家庭的環境における養護の推進に引き続き取り組むとともに、施設退所後の自立支援、孤立防止のための相談・支援体制の構築に努めること。
十 強制入所措置がとられ、かつ、面会通信を全部制限する行政処分がなされている場合に限定されている保護者に対する接近禁止命令の対象の在り方について、更なる検討を行うこと。
十一 東日本大震災により親権者等が死亡し又は行方不明となった児童等について、未成年後見制度、親族里親制度等の活用により適切な監護が行われるよう必要な支援を行うこと。
2)家族法研究会
このように付帯決議では「今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度の在り方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権の在り方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること。」とありましたが、なかなかその検討が、すぐにはされませんでした。
やっと、令和元年11月から、公益社団法人商事法務研究会の「家族法研究会」が開催され、そこでは、研究者、判事及び弁護士といった委員と、関係省庁等として法務省、最高裁判所事務総局及び厚生労働省も担当者が参加して検討がされ、令和3年2月には、『家族法研究会報告書~父母の離婚後の子の養育の在り方を中心とする諸課題について~』が取りまとめられたのです。
この報告書はこのように開示されてます。
研究会は課題に向き合う姿勢として、以下を明らかにしていました
(出典は上記の報告書です)。
こうした問題に取り組むに当たっては,観念的な議論に陥ることを避け,実質的な議論を行うことが望まれる。すなわち,共同親権を導入するか否かという二者択一の考え方から出発するのではなく,複数の具体的な問題を取り出した上で,そのそれぞれにつき父母の関与をどの程度まで,どのような方法で認めるかという形で検討する必要がある。また,養育費や面会交流に関する問題については,相互の関連性を意識しつつも,それぞれの問題が抱える特有の事情に留意して検討することが望まれる。
家族に関する諸問題は,法的な対応に限って考えるとしても,民法の家族法部分の改正によるだけでは必ずしも十分には解決されない。民事手続はもちろん,児童や高齢者に関する行政的な対応やDVや虐待などに対する対応などを視野に入れて考えることが必要である。民法の改正によって対応すべき問題に特に重点を置いて検討するに当たっても,このような認識に立って関連する問題への理解を深めることが望まれる。
さらに,民法が市民社会の基礎を支えるものであることを考えるならば,検討に当たってはこれからの家族関係の在り方にふさわしい理念ないし方向性が探究されるべきであり,その意味では,中長期的な展望を踏まえた議論が期待される。同時に,現時点での人々の意識や行動,さらには制度の実効性・実現可能性など短期的な諸条件にも十分に配慮することが不可欠である。場合によっては,将来の再改正の可能性を考慮に入れつつ,当面の問題を絞り込み現実的な対応を図ることも考える必要がある。
3)法制審議会
上記報告書を受けて、令和3年2月、法制審議会第189回会議では、法務大臣から、「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み、子の利益の確保等の観点から、離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」との諮問があり(諮問第113号)「家族法制部会」において調査審議が開始されました。法制審議会のメンバーは、研究者、判事、弁護士、社会学・心理学の研究者、離婚経験者等から成る関係団体の代表者等でした。
令和4年11月、『家族法制の見直しに関する中間試案』が取りまとめられて、中間試案については、同年12月から令和5年2月までの間にパブリック・コメント(意見募集)の手続が行われ、なんと合計8,000件を超える意見が寄せられたそうです。本記事を書いているわたくしも個人弁護士松野絵里子として意見を提出しました。
その後、令和6年1月、『家族法制の見直しに関する要綱案』及び5項目の附帯決議が取りまとめられていますが、これは反対意見もありました。
当該要綱案及び附帯決議は、同年2月に開かれた法制審議会第199回会議において採択され(全会一致)、法制審議会会長から法務大臣に答申されました。
4)国会での審議
令和6年3月8日(第213回国会)、「民法等の一部を改正する法律案」(閣法第47号)が衆議院に政府から提出されました。
衆議院では、本会議で3月14日に趣旨説明聴取及び質疑が行われ、同日、法務委員会に付託され、法務委員会に審議は引き継がれました。委員会では、3月27日に趣旨説明が聴取され、4月2日から質疑、4月3日に参考人からの意見聴取及び質疑があり、4月12日、与野党の4会派から修正案が提出されました。
そして、原案と修正案の両案について討論及び採決が行われ、修正案及び修正部分を除いた原案が賛成多数で可決されています。この際に、12項目の附帯決議が付され、本会議で可決されました。
それから、参議院へ送付され、参議院本会議で4月19日に趣旨説明聴取及び質疑が行われて、法務委員会において4月25日に趣旨説明が聴取され質疑がされました。5月7日に参考人からの意見聴取及び質疑が行われて、5月16日、賛成多数で可決されるとともに、15項目の附帯決議が付されています。
最終的に、令和6年5月17日、本会議において賛成多数で可決され、成立しました。そして、同月24日に「民法等の一部を改正する法律」が公布され(令和6年法律第33号)、2年以内の政令で定める日から施行することとされているのです。
5)衆議院・参議院での付帯決議の内容
しかし、国会での質疑をみるとわかりますが、賛否両論がありました。そのことを理解するために、国会での付帯決議を理解しておきましょう。この法律の「課題」もわかってくるでしょう。付帯決議は、この法案については可決するものの、今後しなければならないことが山積しているから、していきましょうというような内容です。下線は、わたくしが強調するためにつけたものです。
<衆議院 民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議>
政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 施行後の本法の運用状況について公表するとともに、諸外国における子の養育に関する法制の動向等も踏まえ、本法による改正後の家族法制による子の利益の確保の状況、親権者の指定等における父母の真意の反映の程度、DVや児童虐待等を防止して親子の安全・安心を確保するものとなっているか等について不断に検証し、必要に応じて法改正を含むさらなる制度の見直しについて検討を行うこと。
二 子の権利利益を保護するための父母の責務の明確化等の本法の趣旨及びその内容について、国民、関係府省庁はもとより、児童扶養手当等の事務を行う地方公共団体及び共同親権の導入により大きく影響を受ける関係機関等に正確に伝わるよう、周知広報の徹底に努めること。特に、親権の単独行使の対象となる民法第八百二十四条の二各項の「急迫の事情」、「監護及び教育に関する日常の行為」、「特定の事項」及び第七百六十六条第一項の「子の監護の分掌」等の概念については、その意義及び具体的な類型等をガイドライン等により明らかにすること。
三 子の利益の確保の観点から、本法による改正後の家族法制による子の養育に関する事項の決定の場面において子自身の意見が適切に反映されるよう、専門家による聞き取り等の必要な体制の整備、弁護士による子の手続代理人を積極的に活用するための環境整備のほか、子が自ら相談したりサポートが受けられる相談支援の在り方について、関係府省庁を構成員とする検討会において検討を行うこと。
四 父母の別居や離婚に伴う子の養育をめぐる事件の審理に関し、特に子の権利利益を保護する観点に留意し、子の監護の安全や安心への配慮のほか、当事者の意見を適切に聴取しこれを尊重することを含め適切な審理運営がされるよう必要な研修その他の取組を行うこと。
五 離婚後の養育費の受給や親子交流等が適切に実施されるよう、我が国における実状調査のほか、諸外国における運用状況に関する調査研究等を踏まえ、養育費・婚姻費用について裁判実務で用いられている標準算定表を参照して取り決められる額が適正なものとなるための配慮等を含め、国自らによる取組の在り方に加え、民間の支援団体や地方公共団体の取組等への支援の在り方について検討を行うこと。また、調査研究に当たっては、公的機関による養育費の立替払い制度など、養育費の履行確保のさらなる強化について検討を深めること。
六 父母による子の養育が互いの人格の尊重及び協力関係のもとで適切に進められるよう、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業に対する支援、ADRの利便性の向上など、関係府省庁及び地方公共団体等と連携して必要な施策の検討を図ること。
七 改正法により家庭裁判所の業務負担の増大及びDV・虐待のある事案への対応を含む多様な問題に対する判断が求められることに伴い、家事事件を担当する裁判官、家事調停官、家庭裁判所調査官等の裁判所職員の増員及び専門性の向上、調停室や児童室等の物的環境の充実、オンラインによる申立てやウェブ会議の利用の拡大等による裁判手続の利便性の向上、子が安心して意見陳述を行うことができる環境の整備など、必要な人的・物的な体制の整備に努めること。
八 司法手続における利用者負担の軽減を図るため、法テラスによる民事法律扶助、DV等被害者法律相談援助や地方公共団体における支援事業など、関係機関との連携を一層強化し、必要な施策の充実に努めること。
九 DV及び児童虐待が身体的な暴力に限られないことに留意し、DVや児童虐待の防止に向けて、被害者支援の一環としての加害者プログラムの実施の推進を図ることを含め、関係機関と連携して被害者の保護・支援策を適切に措置すること。また、居住地や勤務先・通学先等が加害者に明らかになること等によるDV被害や虐待の継続、SNSなどインターネット上の誹謗中傷や濫訴等の新たな被害の発生を回避するための措置を検討すること。
十 親権者の指定や親子交流等が子の利益のため適切に行われるようにするため、DV及び児童虐待の被害又はそれらのおそれの有無についての認定が適切に行われるよう、必要な研修その他の取組を行うこと。また、父母が互いの親子交流を尊重し、これを妨げる行為を防止する措置等について検討すること。
十一 本法の下で新たな家族法制が円滑に施行され、子の利益を確保するための措置が適切に講じられるよう、関係府省庁等が連携して必要な施策を実施するための体制整備を進めること。また、本法の施行に伴い、税制、社会保障制度、社会福祉制度等への影響がある場合には、子に不利益が生じることはないかという観点に留意して、必要に応じ関係府省庁が連携して対応を行うこと。
十二 改正法が国民生活へ多大な影響を与えることに鑑み、本法の施行に先立って、子の利益の確保を図るために必要な運用開始に向けた適切な準備を丁寧に進めること。
参議院でも同じような問題意識から、付帯決議がされています。
<参議院 附帯決議(令和六年五月一六日)>
政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 施行後の本法の運用状況について公表するとともに、諸外国における子の養育に関する法制の動向等も踏まえ、本法による改正後の家族法制による子の利益の確保の状況、親権者の指定等における父母の真意の反映の程度、DVや児童虐待等を防止して親子の安全・安心を確保するものとなっているか等について不断に検証し、必要に応じて法改正を含むさらなる制度の見直しについて検討を行うこと。
二 法務省及び最高裁判所は本改正に係る国会審議において、特に、①合意がない場合に父母双方を親権者とすることへの懸念、②親権者変更、③子の居所指定、④過去のDV・虐待の取扱いについての対応、⑤DV・虐待のおそれに関する質疑があったことを含めて、立法者の意思に係るものとして、父母の協議や裁判所における判断に当たって十分理解されるよう、その内容の周知に最大限努力を尽くすものとすること。
三 子の権利利益を保護するための父母の責務の明確化等の本法の趣旨及び国会審議も含めたその内容について、国民、関係府省庁はもとより、児童扶養手当等の事務を行う地方公共団体及び共同親権の導入により大きく影響を受ける学校及び病院を始めとした関係機関等に正確に伝わるよう、周知広報の徹底に努めること。特に、親権の単独行使の対象となる民法第八百二十四条の二各項の「急迫の事情」、「監護及び教育に関する日常の行為」、「特定の事項」及び第七百六十六条第一項の「子の監護の分掌」等の概念については、その意義及び具体的な類型等をガイドライン等により明らかにすること。ガイドラインの策定等に当たり、DV・虐待などに係る知見等を踏まえることや、DV被害者等の意見を参考にすること。
四 改正内容の周知に当たっては、親権の行使を受ける側、特に医療や教育など、それぞれの場において適切な処理がなされるよう、分野ごとに個別に必要な取組を行うこと。また、当局からの情報提供に当たっては、Q&A方式等、受け手に分かりやすく伝わりやすい工夫を心掛けるとともに、国民の疑問等に答えられるよう留意すること。
五 子の利益の確保の観点から、本法による改正後の家族法制による子の養育に関する事項の決定の場面において子自身の意見が適切に反映されるよう、専門家による聞き取り等の必要な体制の整備、弁護士による子の手続代理人を積極的に活用するための環境整備のほか、子が自ら相談したりサポートが受けられる相談支援の在り方について、関係府省庁を構成員とする検討会において検討を行うこと。
六 父母の別居や離婚に伴う子の養育をめぐる事件の審理に関し、特に子の権利利益を保護する観点に留意し、子の安全や安心、適時な親権行使の確保への配慮のほか、当事者、特に子の意見を適切に聴取しこれを尊重することを含め適切な審理運営がされるよう必要な研修その他の取組を行うこと。
七 離婚後の養育費の受給や親子交流等が適切に実施されるよう、我が国における養育費・親子交流等に関する実状調査のほか、諸外国における運用状況に関する調査研究等も踏まえ、養育費・婚姻費用について裁判実務で用いられている標準算定表を参照して取り決められる額が適正なものとなるための配慮等を含め、国自らによる取組の在り方に加え、民間の支援団体や地方公共団体の取組等への支援の在り方について検討を行うこと。また、公的機関による養育費の立替払い制度など、養育費の履行確保のさらなる強化について検討を深めること。
八 父母による子の養育が互いの人格の尊重及び協力関係のもとで適切に進められるよう、父母の一方及び子に不相当な負担や心理的負荷を生じさせないことを確保しつつ、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業に対する支援、ADRの利便性の向上など、関係府省庁及び地方公共団体等と連携して必要な施策の検討を図ること。
九 改正法により家庭裁判所の業務負担の増大及びDV・虐待のある事案への対応を含む多様な問題に対する判断が求められることに伴い、①家事事件を担当する裁判官、家事調停官、家庭裁判所調査官等の裁判所職員の増員、②被害当事者及び支援者の協力を得ることなどにより、DV・虐待加害者及び被害者の心理の理解を始めとする適切な知見の習得等の専門性の向上、③調停室や児童室等の増設といった物的環境の充実、オンラインによる申立てやウェブ会議の利用の拡大等による裁判手続の利便性の向上、子が安心して意見陳述を行うことができる環境の整備など、必要な人的・物的な体制の整備に努めること。
十 司法手続における利用者負担の軽減を図るため、法テラスによる民事法律扶助、DV等被害者法律相談援助や地方公共団体における支援事業など、関係機関との連携を一層強化し、必要な施策の充実に努めること。
十一 DV及び児童虐待が身体的な暴力に限られないことに留意し、DVや児童虐待の防止に向けて、リスクアセスメントも活用しつつ、被害者支援の一環としての加害者プログラムの実施の推進を図ることを含め、当委員会での確認事項を反映させた上で関係機関と連携して被害者の保護・支援策を適切に措置すること。また、居住地や勤務先・通学先等が加害者に明らかになること等によるDV被害や虐待の継続、SNSなどインターネット上の誹謗中傷や濫訴等の新たな被害の発生を回避するための措置を検討すること。
十二 親権者の指定や親子交流等が子の利益のため適切に行われるようにするため、DV及び児童虐待の被害又はそれらのおそれの有無についての認定が適切に行われるよう、必要な研修その他の取組を行うこと。また、父母が互いの親子交流を尊重し、これを妨げる行為を防止する措置等について検討すること。
十三 本法により離婚時の財産分与に係る請求期限が二年から五年となることを踏まえ、二年となっている離婚時の年金分割に係る請求期限の延長について早急に検討を行うこと。
十四 本法の下で新たな家族法制が円滑に施行され、子の利益を確保するための措置が適切に講じられるよう、関係府省庁等が連携して必要な施策を実施するための関係府省庁の連絡会議を設置するなどの体制整備を進めること。また、本法の施行に伴い、税制、社会保障制度、特に、児童の健全育成、子育てを支援する児童福祉を始めとする社会福祉制度等への影響がある場合には、子に不利益が生じることがないよう、関係府省庁が連携して必要な対応を行うこと。
十五 改正法が国民生活へ多大な影響を与えることに鑑み、本法の施行に先立って、子の利益の確保を図るために必要な運用開始に向けた適切な準備を丁寧に進めること。
6)衆議院・参議院での付帯決議からわかる多数の課題
付帯決議を見ると、改正民法には、まだまだたくさんの課題があることがわかります。衆議院でも参議院でも同じような問題意識が示されています。問題点を列挙してみました。
- 親権の決定をするときに「真意」が確保できるか?
まず、夫婦が真意の下で「離婚後共同親権」を選ぶ制度的保証がないという点です。これは、日本が協議離婚を基礎にした離婚制度であるので、本当に冷静に離婚後共同親権を選択したのかの保障がないという問題です。これは、しかし改正法に関係するというよりも、そもそもの協議離婚制度の問題であるように思われます。
そして、DVや子の虐待があるような場合に、共同親権を選んでしまい、裁判所がそういう決定をするのではないかという心配があります。DV・子の虐待について、これまでの家庭裁判所はそういった深刻な問題がありえる事案についても、専門家をいれて判断をするとか、人的・物的リソースを特にそういった事案に費やすというようなケースマネジメントをしていませんし、そういったノウハウや専門知識がある専門家が育っていません。ですから、家庭裁判所がDV被害や子の虐待事案を正確に見極められるのかという不安があるのです。そこで、人員の増加や予算措置が必要であることが指摘されています。
- 子どもの意見聴取
子どもの意見聴取をきちんとする制度ができていないことの指摘があります。現状の家庭裁判所では子の意見聴取は全ケースにされているのではないですし、そのような数の調査官はいません。協議離婚では子の利益はまったく度外視されて親権者が決まることもあります(不貞をした親が家から追い出されて子に会えなくなる事案や子が連れ去られてそのあと、交流のために離婚を強要される方法で親権者が合意されるような場合)。意見の聴取の仕方も子の意向確認として適切であるかは、疑問です。子の手続代理人制度はほとんど利用されていませんが、海外では子の代理人が公的に選任される国もあります。
- 父母が人格の尊重をしてし、共同養育計画を作れるような仕組み・支援体制
親が人格を尊重して共同養育をできるような仕組み、そのための支援の不足も決議ではが叫ばれていますが、そういった公的仕組・支援は現在、皆無といえます。今後、どのようにして親への教育プログラムを作っていき、それを浸透させるかは大きな課題です。改正法ではそういった教育を義務としていないため、浸透させるのは市町村レベルの努力がないと困難でしょう。
また、現実に離婚してからの親の監護分担のルールとして海外先進国でつくられているような「共同養育計画」といったものを親が作っておくことが、離婚したあと、別居した後の安定的な子の共同養育・共同親権の実施には不可欠ですが、それを作り出す場であるADR(裁判外紛争解決)の運営主体が十分ではありません。公的な支援もないので当事者は費用をすべて自分で払う必要があります。
また、夫婦が破綻している状態で冷静に話し合いをできるための制度構築とか心理的支援についても、なにも検討されていません。そういった不安からも、上記のような付帯決議がされ共同養育計画の重要性が指摘されています。
親子交流については、それが迅速に合意されたり審判で決まる仕組みがない上に、決められた交流がされていなかったり、審判に従っていない場合にそれへの対抗的施策が乏しい状態です。合意をしても約束をしても、実施されていないという不満をもつおやが家庭裁判所に何度も申し立てをするという事態が起きているので、親子交流への施策を緊急に整備する必要がありますが、今回の改正ではほとんど対応できていません。
- DV施策・子の虐待への施策が不十分であること
真摯な合意で共同親権を合意できるかという問題につながることですが、そもそも父母の間にDVの問題があるのか、子の虐待があるのかといった点を家庭裁判所がきちんと認識しなければ、最終的な親権決定はできないわけです。
本来であれば、DV事案なのか、子の虐待のある事案なのかは、まず先に司法が認識するべきことですが、日本の家庭裁判所にはリスクアセスメントの制度がないので、そういった重要事実についてリスクとして認定がないまま、調停の場で合意だけをさせようとしてきた事実があります。さらに、調停にも来ないような夫婦では、DV事案でも夫婦が、適切な仲介者なくして子の問題について合意し、親権者をきめてきているので子にとって適切な合意ができている保障はないのです。そういった問題についてどうするかは、今後の大きな課題です。
- 家裁の人員・予算などの不足
これまで、家事事件を担当する裁判官には全く専門性はありませんので、まったく離婚を扱っていない若い裁判官が、調停や審判を担当することもあります。また、家庭裁判所調査官等の裁判所職員も不足しており、調査が迅速に全件でできる状況ではありません。よって、調停での面会交流合意などにおいては、調査がされないまま合意をするように勧められたり、審判がだされてしまうことがあります。当然ですが、全件での子の意見聴取もされていません。手続代理人が子のサポートをすることもほとんどありません。
さらに、DV被害者については心理的なケアが不可欠ですが、そういった公的支援もないまま調停室にいかなければなりません。被害者支援と裁判所の連携もない状態です。「DV・虐待加害者及び被害者の心理の理解を始めとする適切な知見の習得等の専門性の向上」が求められているのはこういう背景からでしょう。
- 共同養育・面会交流への支援の欠如
調停室や児童室等の増設といった物的環境の充実、オンラインによる申立てやウェブ会議の利用の拡大等による裁判手続の利便性の向上、子が安心して意見陳述を行うことができる環境の整備など、必要な人的・物的な体制の整備について検討することが決議されていますが、親子交流については公的なセンターで安全に交流ができることによって、迅速な交流実施命令が可能となりますし、子の意見聴取もそういった交流実施のなかでやっていくべきであり、それを実現するには人的・物的な体制の整備が必要です。
「父母が互いの親子交流を尊重し、これを妨げる行為を防止する措置等について検討すること」という点が決議に含まれていますが、親子交流の不履行により監護権をうばうというような過去の事案もなく、交流を実施しないものへの措置がないのが現状です。間接強制がありえますが、そもそもそれができるような審判を出すとか、調停条項をつくることの重要性が家庭裁判所には認識されていません。親子交流を尊重しない親に対して、どのような制裁をするべきなのか、妨害行為をどうやってやめさせられるのかも、欧州からの批判もその点がフォーカスされていましたが、重要な課題といえましょう。
10. 共同親権についての改正法の概要
次に、改正法の「親権者の定め」に関する概要を説明します。
まず、現状では、未成年の子の親権について、父母の婚姻中は、父母の双方が親権者となり(民法第818条第1項及び第3項)、離婚をするときは、父母の一方を親権者と定めなければなりません(民法第819条第1項及び第2項)。離婚の際に定められた親権者は、子の利益のために必要があると認められるときは変更することも可能であるが、父母の協議のみで変更することはできず、家庭裁判所の調停又は審判によらなければなりません(同条第6項)。
これがどう変化したのかを、みてみましょう。
(1)離婚後共同親権の導入
父母が離婚をする場合に、婚姻中と同様、父母の双方を親権者とすることができるようになり(新民法第819条第1項及び第2項)、改正法では、「父母の婚姻中はその双方を親権者とする。」(新民法第818条第2項)という規定となりました。
(2)裁判所の考慮要素を規定
当事者が合意により親権者を定めない場合、裁判所が離婚後の親権者を定めるときには、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮すべきこととなりました(新民法第819条第7項前段)。そして、この場合、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき(例えば、①子の心身に害悪をある親が及ぼすおそれがあると認められるときとか、②DVによって父母の一方が他の一方から暴力等を受けるおそれの有無等を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき)は、裁判所は、父母の一方を親権者と定めなければならないこととされています(同項後段)。
この考慮要素は、当事者の一方が立証責任を負っているのではないので、当事者が立証をしたり主張をしていない場合でも、裁判所は資料や調査結果を基に、考慮要素を検討して、子の利益の観点から、父母の一方を親権者と定めることができます。
(3)親権者の変更
離婚後に親権者を変更する場合に、父母の一方から他の一方への変更に加えて、父母
の一方から父母の双方への変更、又は父母の双方から父母の一方への変更ができるようになりました(新民法第819条第6項)。つまり、今は単独親権となっている場合でも父母が変更を求めると共同親権への変更についても可能となったのです。
この親権者の変更の際は、家庭裁判所が父母の協議の経過等を考慮すべきこととされています。この経過を考慮するに場合、父母の一方から他の一方への暴力等の有無等をも勘案するものとされています(新民法第819条第8項)。
さらに、親権者の変更の請求主体として、子の親族に加えて、子自身が追加されました
(新民法第819条第6項)。
(4) 離婚届の受理要件
離婚時に親権者に関する父母の協議が調っていない場合であっても、親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていれば、離婚の届出を受理することができることとされています(新第765条第1項第2号)。この場合、離婚は成立しており共同親権のままであるが、離婚してからの今後の親権者を決める手続きが続くことになります。
11. 海外の状況
2020年には、法務省は『父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査』を行っています。この報告書は開示されていますので読むことができます。
法務省「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の公表について」
『父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査』は概要も、公表していますので、以下説明しながらご紹介します。
< 離婚後の親権行使の態様>
印及びトルコでは単独親権のみが認められているが,その他の多くの国では単独親権だけでなく共同親権も認められている。
共同親権を認めている国の中では,①裁判所の判断等がない限り原則として共同親権とする国(伊,豪,独,フィリピン,仏等),②父母の協議により単独親権とすることもできるとする国(加ブリティッシュコロンビア州,スペイン等),③共同で親権を行使することはまれであるとされる国(インドネシア)の例がある。なお,英及び南アフリカでは,父母のいずれもが,それぞれの親権を単独で行使することができる。
<離婚後に父母が共同して行使する親権の内容>
親権を共同行使する事項の具体的内容が明らかになったものの中には,①内容に限定のない国(スイス,フィリピン,米ワシントンDC),②子にとって著しく重要な事柄等と抽象的に定める国(独),③共同行使する内容を具体的に定める国(伊[教育,健康,子の居所の選択],メキシコ[財産管理権])の例がある。
<離婚後の共同親権の行使について父母が対立する場合の対応>
離婚後の共同親権の行使について父母が対立した場合の解決策が明らかになったものの中には,最終的に裁判所が判断するとする国が多い(英,独,ブラジル,米ワシントンDC等)が,それに加えて,当事者があらかじめ紛争解決方法を決めておくこともできるとする国(韓国)や,行政機関が助言・警告等をする国(タイ)もある。また,裁判所の判断に当たり,外部の専門家や関係機関の関与が認められている国も見られる(伊,スウェーデン,豪等)。
<協議離婚制度の有無>
子の有無にかかわらず協議離婚が認められていない国が多い(アルゼンチン,英,豪,スイス,独等)。これに対し,サウジアラビア,タイ,中国等では協議離婚が認められており,ブラジル及び露では未成年の子がいない場合に限り協議離婚が認められている。
<父母が離婚時に取決めをする法的義務の有無・内容>
面会交流の取決め:
取決めをすることが法的義務とはされていない国が多い(アルゼンチン,英,タイ,独,仏,米ニューヨーク州,露等)。これに対し,韓,豪,蘭等では,法的義務とされている。なお,法的義務とされていない場合でも,離婚のために裁判手続を経る過程で,離婚を認める条件や共同親権に関わる内容として,面会交流に関する取決めがされている例があることがうかがわれる(アルゼンチン,タイ等)。
養育費の取決め:
取決めをすることが法的義務とはされていない国が多い(英,加ケベッ
ク州,スペイン,独,仏,ブラジル,米ニューヨーク州等)。これに対し,韓,豪,蘭等では,法的義務とされている。なお,法的義務とされていない場合でも,離婚のために裁判手続を経る過程で,離婚を認める条件や共同親権に関わる内容として,養育費に関す
る取決めがされている例があることがうかがわれる(加ケベック州,ブラジル等)。
<公的機関による面会交流についての支援の有無・内容>
支援制度がある国がほとんどである。具体的な支援の内容としては,父母の教育,カウンセリング,面会交流が適切に行われるよう監督する機関の設置等が挙げられる。これに対し,タイ,フィリピン等ではこのような支援制度がない。
< 離婚後に子を監護する親が転居をする場合の制限の有無・内容>
転居に裁判所の許可又は他の親の同意を要するとする国が多い(伊,韓,独,米ニューヨーク州,蘭等)。これに対し,豪,タイ,中国等では,制限がない。
下記の小田切紀子先生の資料も参考になります。
海外の共同養育に関する研究報告と日本の共同養育・面会交流の課題と提案(PDF)
12. 海外の多様な共同親権制度
海外の制度は多様です。当事務所の記事では、ドイツや韓国の親権の在り方を紹介してますので、ご覧ください。ドイツでは、そもそも離婚時に親権を決定する制度をなくしておりますし、婚姻関係にない父母も共同親権を有しているのが通常です。
韓国では日本と同様の協議離婚制度を有していたのですが、改正により修正して、義務相談という制度を作り、離婚において裁判所の関与が必要になっています。
以下、アメリカでの概要を説明します。州により制度は異なりますが、概要としては、子どもの親権については、決定権である「legal custody」と、それとは別に養育権(日本の監護権に近いもの)が「physical custody」というものがあります。養育権が、よく争点になります。親権「legal custody」は、子どもに関する事項の決定権ですが、現実に一緒に暮らして育てる権利が養育権である「physical custody」なので、一緒に暮らしたいという親が双方の場合、その二人で同居親を争うことがあるのです。。
この養育権は、「legal custody」が共同でも、共同になるとは限らず、単独になるときがあります。一方、法的な決定権である「legal custody」は、アメリカでは多くの場合、共同という形になります。これによって、離婚しても、子どもに関する決定が両親の合意のもとで行わなければならないということになります。州を超えた引っ越し、どの学校に進学するのか、どういう治療を病院でうけるか、パスポートの更新など、重要な事項は親二人で決めないとならないのです。
養育権「physical custody」は、共同する場合、双方の親が子どもと過ごすスケジュールが50/50になるか、50/50 に極めて近い形になっています。
片方の親が、単独で養育権「physical custody」を持つ場合は、もう片方の親が訪問権「visitation」(日本では親子交流・面会交流に近いですが、日本の実務よりは頻度がずっと多いものです)が認められます。そして、かなりの頻度で交流があるので細かいスケジュールを決めることが多いのです。最近はこれをペアティングタイム(養育分担時間)と呼んでいる場合も多いです。つまり、子の状況に合わせて親が「うまく養育を分担していこう」というわけです。
裁判所は、子どもの親権「legal custody」、養育権「physical custody」、訪問権「visitation」を、子の最善の利益に沿ってきめる権限をもっています。今まで子が誰に養育されていたのかが重要であり、二人で養育をしていた場合、単独の親権「legal custody」をひとりが持つことはまずないでしょう。DVなど例外的場合にのみ、親権「legal custody」は共同となります。そして、養育権「 physical custody」は、共同かそれまでに主として養育をした親が単独でもつということになるでしょう。もちろん、裁判所が一方的に決めるのは通常の方法ではなく、親が合意をしようと試みるのが通常で、それができたら合意内容を裁判官が認めるという方法が、通常です。これを、コンセント・オーダーといいます。
アメリカでは離婚をする夫婦が子どもの親権「legal custody」、養育権「physical custody」、訪問権「visitation」に関して、合意ができるように話し合いの機会いろいろがあります(メディエーションと話し合いの場がよく使われますが、弁護士を介して合意を形成することもできます。NPOの支援を受けることもあります。)が、それでも合意できないと、裁判所はたとえばハワイ州では、カスタディエバリュエーター「Custody Evaluator」(親権調査官というような専門家)、またはファクトファインダー「Fact Finder」と呼ばれる調査官を任命するそうです。こういった調査官が、両親、子ども、その他の関係者(学校、主治医、同居する家族など)と面接して、必要な事実を聴取し書類を精査して、それぞれの家庭訪問をするなどして、裁判所に報告書を提出します。裁判所、そして双方の弁護士は、報告内容をみて、裁判の予測を立てることができますからそれを基礎に合意がしやすくなるのです。それでも、合意できないと裁判官が決めるということになります。
日本では家庭裁判所の調査官がこのような役割を担っていますが、これまでは、親権分銅では片親を監護者とするという「一択」の選択をすることが多かったため、共同監護が普通になっているアメリカなどの先進国とはかなり調査官の役割が異なるでしょう。また、子どものインタビューの時間も短く、子どもと一方の親がほとんど交流ができていない状態(DV事案ではなくても)での聞き取りをするということが日本ではよくありますが、そういったことはアメリカでは考えられないでしょう。
合意形成の方法も、国によりいろいろな制度がありますが、日本よりは、制度の中で、父母本人が主体的に参加する合意形成方法、司法ではない場での迅速な合意形成を国として模索しているようにみえます。
オーストラリアの例を、紹介しましょう。オーストラリアでは、離婚時に養育分担や養育費について合意がなければならないとされています。(日本ではそういった合意がなくても協議離婚が可能ですので大きな違いです。)
オーストラリアでは、合意形成のためにメディエーションが用いられ、メディエーションでは第三者であるメディエーターが当事者間の自主的な話し合いをサポートします。
この点も日本とは異なります。日本の協議離婚では全く話合いといえるようなものがないこともありえます。「離婚しないと不貞の慰謝料を請求する」というような脅しをされて協議離婚に応じる場合もあり得ますし、「いつでも子供には会せてあげる」という口約束で親権をあきらめて協議離婚をする例もあります。また「あとで親権を変更すればよい」という軽い考えで、交流の取り決めもなく協議離婚をするようなケースもあります。過去の例では、夫婦喧嘩の際に、まさか提出されると思わないで、離婚届に署名して夫に渡したら、親権欄は父にされて出されてしまった・・・というようなご相談者もいました。日本ではカオスの中で協議離婚をする方もいるのです。
オーストラリアでは、父母の対話を促進することで、冷静に問題の解決をしようという制度ができています。オーストラリアのこの制度では日本の家事調停のような裁判官の関与はありません。よって、調停委員会が具体的なアドバイスや法律の説明をするような日本の仕組みとは全く異なります。解決に向けた話し合いを行うために仲介をして、言い合いにならないように、議題を整理し、公平かつ中間の立場として、メディエーターが間に入ります。メディエーターは円滑な話し合いの指揮者のようなもので、内容について意見を言うことはないのです。
これは、家族法の紛争の解決をなるべく早くするためのしくみで、裁判所が認定するメディエーションは、無償です。それ以外に、私的なメディエーションもありそれは有償になります。
その結果、日本の調停制度のように調停調書が作成されることはないので、内容を有効とするのには、双方が弁護士からアドバイスを受けているという証明書をつけて裁判所に出す必要があります。よって、双方が弁護士を必要とすることになります。双方に弁護士がついたということは、双方が合意内容をよく考えて納得したということも意味します。上記の日本の協議離婚のようなカオス状態で離婚をしてしまうというようなことは防ぐことができるのです。もちろん、あっという間に離婚ができてしまうという点で日本の制度には迅速・簡易という利点はあるでしょうが、こういったカオス状態で離婚をするときには、不利な結果になるのは弱者であることがほとんどではないでしょうか?弁護士が双方介在しなくても成立する日本の協議離婚は、「弱いもの」にとって大きなリスクであると思われます。
また、オーストラリアのように仲介の専門家が間に入り、子どものための冷静な話あいを本人主体でする制度は、日本では制度として確率できていないように思います。家事調停では、双方の代理人弁護士がいる場合には本人主体ではないでしょうし、そもそも同席調停ではないので、顔を見て協議をする場は用意されていません。また、調停委員も何らかの専門的資格があるのではなく、一定の専門知識を持った人であるわけでもありません。さらに、裁判所が調停合意内容について子どもの最善の利益が守られているかという観点の確認をすることもありません。
なお、DVや子の虐待事案では対等な話し合いができないことからメディエーションは利用できない仕組みとなっています。日本では被害者と加害者が調停での話し合いをしますが、そういったことは不適切であると考えられているのです。日本の調停はそもそも同席ではないので、対等に自主的に話し合う場というよりは訴訟までいかないでなんとかまとめる場という意味愛があるように思われます。
子育てについて決める場としては、金銭面の話し合いも一緒にしますので適切な場ではないように思われます。今後はより多様な制度が整備される必要があるでしょう。
13. 海外からの日本の制度への批判:欧州連合(EU)の欧州議会本会議決議
「離婚していないのに、子どもに会えない親がたくさんいる」というのが日本の現状です。こういった事態は海外先進国ではDV保護命令がでているような事案であればありえますが、通常はありえないことであり、外国人の親にとっては理解できない事態です。子がいなくなって、家はほぼ空っぽなのに、日本の警察などはないもしてくれない・・・・これは理解できないことなのです。
そして、欧米では「日本人の親による子供の連れ去り」が大きく批判されてきました。これは、国際結婚が破綻した日本人(主に女性)が子を連れて家を出て、配偶者を子供に会わせないという事案に対する批判です。
日本は先進国で唯一、離婚後に父母の一方にのみ親権を認める単独親権制度を取っている背景から、別居する際に子を主たる監護をしてきた親(多くは母)が連れて行くのは当たり前と考える文化・裁判官の意識がありました。しかし、海外先進国では共同親権のもとでは、子がどこに住むかは重要事項であり、父母が共同で決めるべき事項なので、勝手に子を連れて出ていくことは違法なのです。
また、主たる監護をして来た親とはそもそも明確ではなく、共働きであれば双方が養育に深く関与していることもあるのですから、双方が「主たる監護者である」と考えれば、子を奪い合うことが起きやすく、現実に起きています。そういった事態に日本の警察が全く介入せず、家庭裁判所も迅速に親子が会えるような制度を持っていないことから、海外先進国からの批判の対象となっています。主たる監護者であるかどうかの認定に時間がかかる、その間は子どもにも会えない、主たる監護者がだれであったのか認定されると主たる監護者ではないとされた親はその後も子に会えない事態が長期的に続く、子の最善の利益というより同居親の単独監護を決めるためのシステムがあるのにすぎない、家庭裁判所の機能不全がある以上、そういった批判があるのは当然といえるでしょう。
EUの欧州議会本会議は2020年7月8日、日本に対する批判的な決議を採決しています。賛成686票、反対1票、棄権8票の結果です。外務省の仮訳によると以下のとおりです(外務省欧州局政策課による仮訳)。
令和2年7月8日(現地時間)、欧州議会本会議(於:ブリュッセル)において、日本における子の連れ去りに関する決議が賛成686,反対1,棄権8で採択された。この決議の主な概要(仮訳)は以下のとおり。
1 前文
(1)日本のハーグ条約の下での子の送還にかかる司法判決の執行率が低いこと、また、面会交流の権利執行の可能性の欠如によりEU籍の親の日本居住の子女との意味ある関係の維持が妨げられていることに対し懸念を表する。
(2)EU市民の親と日本市民の親の場合の、片親による子の連れ去りの未解決案件数の多さを憂慮する。
2 本文
(1)日本が子の連れ去り案件に対し国際規約を遵守していないと遺憾を示すとともに、ハーグ条約の下で子の送還が効果的に執行されるように国内法制度を改正するよう促す。
(2)日本当局に対し、子の連れ去りにより残された親の面会交流に関する司法判決の着実な執行を促す。
(3)EU加盟国に対し、各国市民に対する第三国における子の連れ去りのリスクに関する情報提供を勧告する。
(4)ボレルEU上級代表兼欧州委員会副委員長に対し、日EU・SPAの下での今後の日・EU間の協議の場における本件問題の提起を求める。
(5)日本当局に対し、関連の民事・刑事の国内法令の適用を要請する。
(6)日本当局に対し、残された親の子女との連絡維持の支援を含むハーグ条約第6条及び第7条の義務の履行を催促する。
(7)日本当局に対し、共同親権の可能性に向けた国内法令改正を促すとともに、自らが批准した児童の権利条約へのコミットメントを守ることを求める。
(8)日本当局に対し、裁判所により許諾された親の子どもに対する面会交流の権利の実現確保に向けたEU側との協力強化を要請する。
(9)EU加盟国に対し、各国の外務省・在京大使館のウェブサイトにて、子の連れ去りのリスク及び日本当局の姿勢について喚起することを求める。
(10)EU加盟国に対し、日本との二国間・多国間会合等の様々な機会に本件を提起することを求める。
(11)欧州議会議長に同決議を欧州理事会、欧州委員会、EU加盟国及び日本の政府、議会に本件を伝達するよう要請する。
この決議では、特に以下が重視されていました。
- EU市民の親の許可がないのに日本人配偶者が子供を連れ去る事件が増えているが、それが解決していない。
- 児童の権利条約が守られていない。
- 日本の法律では、離婚すると父母の監護の共同ができない。
- 親権を持たない親に対する面会交流が保障されていない。
海外先進国と比べると、別居の際の「子どもの連れ去り」に関してハーグ条約上の判決を得てもその場合の子の引き渡しの執行が絵餅となっていて、成功していないこととともに、国内の連れ去りの問題が全く放置され、残された親は子どもに面会交流をする権利を保障されていない点が目立ち、大きな批判を浴びたのです。
なお、子の引き渡しの執行についてはそのあと、手続法が改正されかなり執行の実効性もあがっているようです。
このような海外からの正式な批判も、離婚後の共同親権導入という民法改正の背景にあると思われます。
14. 離婚後の共同親権のメリット・デメリット
離婚後の共同親権を認めることについては、国内では大きな反対もありました。国会の法務委員会での質疑ではその点が浮き彫りになっています。
以下では、国会の審議の結果などから、反対派や賛成派の立場が指摘した、離婚後の共同親権の制度を導入するメリット・デメリットについて考えてみます。
15. 離婚後、共同親権のメリット
1. 離婚時の親権争いの激化を回避する
共同親権という選択肢が法的に認められれば、離婚時に親権争いをすることが少なくなることが予想できます。これまではひとつしかない「親権」について争うことが不可避でしたが、両親がそのまま親権者であるという選択肢が可能になれば、争いをしなくてすむ父母がでてくることは予想できます。
親権紛争は、調停を経て離婚訴訟となるので、3年程度の長い紛争となることが多いです。その長期間において、親が争い続けることで、弁護士費用もかかりますので経済的にも疲弊し心理的にも疲弊することは、子の養育者に対するストレスを増やすことでもありますので、回避できることは有用でしょう。
2. 離婚後の父母の協力した子育てが促進される
親権者がひとりである場合、子どもを育てる義務や責任をすべて一人で負担する結果になることが多いです。いわゆるワンオペです。しかし、離婚後も共同親権とすれば、両親は双方が養育義務を負担することになるので子どもへの経済的責任のみでなく、養育をする責任も持ち続けるのですから、離婚後も協力して子育てをしやすくなるといえるでしょう。
また、離婚しても父母が協力体制を見せられると、子どもが両親からの愛情を感じられ、子が離婚時に大きな葛藤を感じた、紛争に巻き込まれる可能性が低まるでしょう。それは、子どもの心身の成長に良い影響を与えるといえるでしょう。
3. 児童の権利条約との整合性
児童の権利条約では父母が親に育てられる権利を明確にしていますので、離婚によって子の養育義務者が一人となる制度は同条約違反であったといえましょう。その点は、齟齬がなくなったといえます。
4. 親子交流・養育費の支払いへのよい影響
単独親権のもとでは、別居した親が子への関与をしなくなることで、面会交流が継続されないことや養育費の不払いが多くなる傾向があります。
しかし、離婚しても共同親権を保持することで、両方の親が子どもと関わる権利があり、決定権があるので、親子交流がスムーズになりやすいと考えられます。そうすることで、双方の親が子どもへの愛情を持ち続け、養育費も滞りなく支払うことが期待できるということが言われています。
もっとも、これは法制度の導入の効果というよりは、日本でも、おとなの間に離婚をしても親双方が子との関係を構築しつづけ親の責任を果たすことが重要であるという認識が浸透することによって、親子交流も養育費の支払いもスムーズになるという関係にあるのでではないかと思われます。そのため、共同親権の意味を政府が国民に説明し、離婚後も親が養育義務を果たし、それが子にとって負担にならないような方法で実現できるには、離婚を経験した親が、どういう考えをもって子に接するべきか、父母が親として人格の尊重をした関係をあらたに構築できるかという点での親教育をしていく必要があるでしょう。
16. 共同親権のデメリット
1. 父母の意思決定ができない場合の子への負担
共同親権では離婚して破綻した夫婦が子供に関する重要な事項を共同決定しなければなりません。そういう意思決定が迅速にできないことで、子どもの暮らしに悪影響が生じることが考えられます。共同親権のもとで、父と母が意見の違いが大きく頻繁であると、紛争が続きますので、子にとってはそれがよい養育環境ではない場合もあります。子が長期的に父母の争いに巻き込まれるリスクがあります。
2. 子の引っ越しが難しい
子の住居は親が二人で決めることになるので、同居親が引っ越しをしたくても別居親の反対にあうと、家庭裁判所の審判が必要となります。そのため、引っ越しが困難となることがあります。遠方の実家に住みたいとなったときや、仕事の転勤の場合に迅速に引っ越しができないという問題がありえます。
3. DV関係やの継続
単独親権のもとでは、ある親が親権者となった場合、離婚したあとには決定をひとりでできるので、他の親との関係を維持する必要がありませんが、共同親権を安易に合意してしまうと、子について協議をするべき事項がありますので、関係性が裁ち切れません。離婚しても加害者との関係を維持させられる可能性があります。
17. 離婚後の共同親権を採用した民法改正のポイント
(監護者・親の意見対立の論点なども含めた概要)
今回の民法改正で子の養育についての主な点は、以下がといえるでしょう。
1) 離婚してから、共同親権・単独親権を選べるようになる
夫婦の話合いによる離婚(協議離婚)の場合、共同親権・単独親権のどちらにするかを夫婦で話し合って決める必要があるが、夫婦の話合いでまとまらない場合は、裁判所が親子の関係・父母の関係などを踏まえて判断する。また、そのあと、単独親権から共同親権への変更の申立てができるようになったのも、大きなポイントです。
第819条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
<中略>
7 裁判所は、第2項又は前2項の判断において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
1 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
2 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
条文上で、裁判所が共同親権の決定をしてはいけない場合が、列挙されています。
・子どもへのDV・虐待などから子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合
・父母間にDV・虐待がある場合で今後の暴力等を受ける恐れがある場合
・これまでの協議の経緯などからして、父母が共同して親権を行使することが困難である場合
2)離婚してからの共同親権でもその前の共同親権でも、「急迫の事情」や「日常の行為」は単独で決めることができることになった。
824条の2により、明確になったことは、子については父母が共同で決めないといけないのですが、例外として急迫の事情がある時には単独での行使が認められました。また、監護や教育に関する日常の行為も単独でできます。
第824条の2 親権は父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
1 その一方のみが親権者であるとき。
2 他の一方が親権を行うことができないとき。
3 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第1項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
この日常の行為とは、通常は同居親がきめているような日常のことでも、いつ宿題をやるとか、火曜日にはピアノを習うというような習い事、歯ブラシの選択とか就寝時間のルールというようなことでしょう。
「急迫の事情」がなにか
ここは問題となりやすいところですが、以下のように整理されています。
*「急迫の事情」とは?
- DV・虐待などからの避難
- 緊急の医療行為
- 入試結果発表後の入学手続など
3)親権者とは別に、監護者または監護の分掌を父母が合意することが可能となった(裁判所も同様に監護の分掌を決めることができる)。
改正法では、監護者の指定のみではなく、監護の分掌をきめることもできるようになっています。
まさに「共同養育計画」を親がきめて、養育を分担するルールを合意で決めておくことができるということです。「監護の分掌」とは聞きなれないでしょうが、監護を父母で分担するという意味で、アメリカでは「親タイム」といって父母が担当時間を分けていくようなプランを作っています。具体的には、平日は母、土日は父とするとか、月曜から水曜までとそれ以外で分ける、夏休みは前半と後半で分けるというようなものです。保育園や幼稚園への送迎を分担することも決めていきますので、双方が、細かいルールの下で分担をすることになり、シフト制のようにも見えます。
離婚後、子の監護の分掌を決めるには、婚姻中、父母が子の養育に関与していたことが大切ですが今後やっていこうという場合でもかまいません。父母がルールを作りそれを守るという信念が重要です。また、会話をする必要が出てきますので、礼節をもって対応する関係性が必要です。
関連する条文は、以下です。
(766条1項)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定めるものとすること。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
(824条の3)
1 第766条(第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定により定められた子の監護をすべき者は、第820条から第823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。この場合において、子の監護をすべき者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすることができる。
2 前項の場合には、親権を行う者(子の監護をすべき者を除く。)は、子の監護をすべき者が同項後段の規定による行為をすることを妨げてはならない。
監護者を決める場合には、監護者が、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びの営業の許可、その許可の取り消し及びその制限をすることができるとされるので、重要な点として、監護者でない親は親子交流時間でのみ、子どもとの交流ができることになるので、注意しましょう。監護者を決めた場合の監護者ではない親権者には、財産管理については権利が残りますが養育の点ではほとんど権利がないのです。
監護の分掌の合意であれば、親権者それぞれの権利は変わりません。
4)親の意見対立についての司法的解決制度の新設
民法824条の3には、以下の3項があります。新設されている制度です。
「特定の事項に係る親権の行使(第1項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる」
これは、学校の進学先で親がもめている場合、重要な手術をするかどうかで対立している場合、子がどこに住むかもめているような場合に、「子の利益のため必要がある」ならば裁判所が誰がそれを決めるかを決める制度です。
海外では、親が対立した場合のこういう司法的解決制度はかなり前から整備されていたのですが、今回やっと作られたのです。親権者は婚姻していてもいなくでも、対立することはあります。それについて解決策がないということは、自力救済をするしかないという方向になってしまいますので、このような制度整備ができたことは喜ばしいことです。これには迅速な審理が必要となりますが、子の意見聴取は不可欠です。
5)その他の改正点:養育費に関して
養育費の請求について新たな制度創設や権利付与がされました。取決めをしなくても一定額の養育費を請求できる「法定養育費制度」が創設され、養育費の支払いが滞った場合に、ほかの債権者よりも優先的に財産を差し押さえられる「先取特権」を付与しました。養育費が合意できなくても一定の請求ができるようにして合意を促進し、未払いが少なくなることを志向してます。
6)その他の改正点:面会交流について
面会交流について調停や裁判で取り決める場合、手続中であっても裁判所が試行的に交流を促せることが定められました。促しても公的で無償で使える交流センターがないと現実にはどこでどう行うかで合意ができないため、実効性はわかりませんが、促されても協力しないことが親の対応として問題視される可能性もあります。別居した段階で、親子を早く交流できるようにすることが目的です。
また、父母のみに限らず、祖父母などの親族も一定の条件で面会交流を求める申立てができるようになっています。
18. 離婚の際に、共同親権・共同養育の問題で悩んだら専門的弁護士へ
民法改正までは、これまでどおり離婚後には、単独親権が強制されますが、合意により共同養育は実現可能です。それをしながら施行後は、共同親権への変更をすることは、父母が共同養育に先に合意しておけば可能でしょう。
そのためには、夫婦として破綻していても子供のために協力できる体制を二人で作る必要があります。
父と母のどちらが親権者となるか、争いになってしまうこと、それは子供にとって最も悪い状況であり、短期間でこの問題を解決する必要が子の利益の観点からあります。
しかし、話合いの際にもめてしまうのが通常であり、当事者だけではなかなか冷静なルール作りができません。
上で紹介したオーストラリアのケースでは、そもそも離婚するのに合意をしなければならないという法制度ですし、勝手に子どもを連れて別居をするということもできない制度でもありますから、離婚をするなら子どもの養育のルールを決めないといけないという考えが大人の常識になっています。しかしが、日本ではまだそういう常識がないので、当事者が子どものために冷静になってルールを作るのがそもそも難しい環境にあります。
スムーズに離婚を進めて、子どもへの負担をかけずに親権の問題を解決したいのであれば、親による子の奪い合いを薦めない弁護士を父母双方が見つけることが重要でしょう。残念ながら、これまでの日本の実務では、単独親権をどう獲得するかという視点しか持っていない弁護士が、あたかも専門性がある良い弁護士であるかのように考えられている傾向がありました。しかし、共同養育や共同親権をゴールとする親にはそういう弁護士は不向きであるといえるでしょう。
また、専門的弁護士は、親子の問題のみではなく、法的知識を駆使して、養育費や財産分与についてもあなたの利益を守るアドバイスができますので、貴方の考えにあった専門的弁護士に依頼することで、離婚問題の早期解決も目指せます。
19. 最後に
今般の民法改正では、反対意見が多い中で、は離婚後の共同親権を認める法制度が日本にできました。しかし、世界的には、離婚後の共同親権がない国は非常に珍しく、先進国では皆無です。
さらに、親子交流(面会交流)への支援が公的にない国も、先進国ではおそらく日本だけでしょう。韓国には、すでに面会交流センターがつくられ、保全的決定によって、無料で月に二回の交流が安全な場所で実施できてます。日本では、面会交流について保全的な決定がされることがなく、公的センターもないので、長期的に親が子に会えないという常用があります。
民法の改正では、この親子交流の問題は後回しとなった感があり、付帯決議ではその点が課題であることが示されています。また、DV事案とそうでない事案を裁判所が見極めるということが早期にできていないまま、面会交流を合意で実施してしまうという家事調停の実務もあり、問題です。
今後、新たな民法の下で、家庭裁判所における実務がどうなるのか、課題がたくさんあり、未知数です。しかし、合意により、子が父母との関係を離婚前と同様に維持していくことは、離婚後の親権制度において可能となる法制度ができました。これは大きな一歩です。
もちろん、破綻した関係性の父母が協力することは困難なことですが、子が長期的にみて離婚によって傷つくことこそ、親が回避したいことのはずですから、長期的視点にたって新たに親としての関係性がつくれないか、父母が検討して努力することは、親としてやるべきことでしょう。
相手はルールを守らないだろうからやれない・・・というようなこともあるでしょうが、そうであればルールを明確化して、双方が納得したルール化での共同養育について、可能性を考えてみてはどうかと思います。子が、離婚を経験してもひとりの親を失うことがなかったことは、最終的に親としてやってよかったと思う結果になることが多いでしょう。
父母が納得した形で、共同親権の合意をする場合、海外では細かい点を明確にルール化しています。それは破綻した夫婦が、一定の関係を維持していくにはルールが明確であることがむしろ再度の紛争を回避できるという経験則からです。たとえば転勤の場合の引っ越しについては反対をしないとか、一定の地域内の引っ越しは双方が事前に承諾をしておくなどのルール化もあり得ます。また、習い事とか塾について大きなルールを決めて送迎担当をきめるなどもよいルールでしょう。
当事務所では、共同養育計画の立案のご相談を離婚事件の受任の中でしておりますので、ご興味のある方は、無料相談をご予約ください。