離婚事件で夫婦が未成年の子供の親権を争う場合、圧倒的に有利なのは母であることが多いです。その理由をご説明して、親権争いに関してはどのように向き合っていくのがよいのかご説明します。改正民法の施行を前提にご説明していきます。
1. 離婚調停の親権争いで有利なのは母?
夫婦が話し合って離婚を決めることを協議離婚と呼びますが、協議離婚で問題になりやすいのが親権です。親権とは、未成年の子供を養い育てていく権利と義務、子供の代理人として法的な手続きを進める権利などの総称ですが、現在では職責と考えられていることが多いです。
親権は権利であるのというよりも子への義務でもあり、子供が成人する前に親権を放棄することは基本的にできません。失業や病気が原因で収入を完全に失った場合や、親が罪を犯して服役する場合など、親権の放棄が認められる例はあります。しかし、親権の放棄のためには相当の理由が欠かせず、さらに家庭裁判所にやむを得ない事情を認めてもらう必要があるため、一部の例外を除いて親権を放棄することはできないと考えてください。
両親が結婚している状態の場合、夫婦それぞれに親権が存在しており、法律的には共同親権と呼ばれます。父母はいかなることも共同で親権を行使しなければならないというのが改正前の民法でしてた。しかし、その点は、令和6年の改正で新たな条文ができて整理されています。
改正民法の法務省のパンフレットをここで紹介しておきます。
https://www.moj.go.jp/content/001428136.pdf
このパンフレットには以下のような説明があります。

<出典:法務省作成のパンフレット>
つまり、婚姻中の父母は日常の行為(朝ご飯を食べさせるとか、習い事をさせるというようなこと)は一人の判断でできますが、それ以外の重要なこと(子がどこに住むのか、重大な医療行為など)については、父母で共同で決めていかなければならないのです。
離婚した場合、共同親権を選んだ場合には、それが継続しますので、一緒に住んでいる親は通常は日常の行為をひとりでできます。また、一緒に住んでいない親も監護時間を分担したり、面会交流中において日常の行為は単独でできるので、どういうものを食べさせるとか、服を着せるとかといったことは単独で決められます。
共同親権ではなく、単独親権を選び、自分が親権を失った場合、日常の行為も決められないし、重要な事項も決められないということになります。しかし、これも、離婚調停等において別のルールを定めることはできます。
海外では先進国を中心に離婚後の共同親権を認めている国が多いものの、日本でも両親が離婚した場合、未成年の子供の親権を父母のどちらかが持つ単独親権でなければならないという民法は改正されています。令和8年春から施行予定の改正民法では、離婚しても共同親権を選択することが可能となりました。
ということは、選択肢が増えたわけですので、離婚調停においてはより慎重に子の利益を考えて、離婚後も共同親権にするかどうかを、話し合うことの重要性は高まっているといえましょう。
これまで、離婚の際には単独親権が前提の日本では、親権を巡る争いが繰り広げられることが多くありました。子が自分の手元にいる場合、親権の交渉が有利になるので、それまで監護を分担していた夫婦でも、片親が子を連れて家をでてしまうということが往々にありました。そういった場合に、子を連れて行ってしまった行為が親権に関する民法のルールに反しているのではないかということから、残された親は憤慨しますが、家庭裁判所はそれまで誰が主の監護者であったかという点を主に見極め、主の監護者が母であれば母が連れて家を出たことを違法であるとか、問題行動であるという指摘をしてこないことが、往々にありました。
しかし、そういった場合でも、残された親との交流を一切、していないような場合には、別居して連れ去った親について否定的な評価が調査官からされることがありました。もっとも、毎月わずかな交流をしていることで「問題がない」という判断になることも往々にあって、残された親は不信感をもつことが多く、それが夫婦の葛藤を高める理由ともなってきました。
また、協議離婚ではお互いの氏名、証人の署名などの書式を整え、離婚届を提出すれば簡単に離婚が成立してしまいます。しかし、離婚届には未成年の子供の親権を夫婦のどちらが持つかを記載するところがあり、親権をはっきりさせない限り離婚することはできません。
ですから、専門家の介在なく簡単に、単独親権とか共同親権の記載をすることで離婚は成立しますが、その後、離婚した後に、子が父母から愛されている実感をもって育っていけるのか、親にそのための覚悟とかルール形成ができているのか・・・・という点をだれも確認しないというのが日本の制度の特徴です。
このように離婚に際して、公的機関や家庭裁判所が、未成年の子の利益が保障されているか、合意内容が合理的なものかを確認する制度が皆無であると言うのは、先進国では日本だけです。すべてが当事者である父母に任されているのですが、それは、それだけ子の未来を担っている「父母に責任」が重いということでもあります。この点を、認識して慎重な合意をする必要がありましょう。
つまり、協議離婚や調停離婚では、これから、子どもがどうやって育っていくのか、何が最善かを双方が冷静に考える必要があるのです。調停のみではなく、利用する合意ができるなら「カップルカウンセリング」のようなもので、双方の認識や気持ちを確認しておくのがよいかもしれません。
その場合、親権について子の利益の点から、指摘をしてくれる弁護士が一緒にいてくれることで、後悔しない結果を導ける可能性が高まるでしょう。
話し合いで夫婦共に親権を譲らない姿勢を見せた場合は協議離婚による離婚はできないため、離婚調停で親権などを争うこととなります。これまでは、離婚調停で親権者となるのは、ほとんどが妻であり、それが全体の約8割にも上っていました。親権争いでは圧倒的に夫の方が不利と言われてきました。
協議離婚の場合、話し合いだけで親権の行方を決められるものの、妻が親権を持つことを主張した場合に夫が主張をしてもどうせ、離婚訴訟では妻が親権者になるだろうからと諦めてきた男性が多かったのです。協議離婚であっても離婚調停であっても、父(夫)が単独親権を持つことは極めて厳しいと考えられてきましたが、今後は選択肢が増えたので、共同親権の合意であれば丁寧に話をすることで可能となるケースも増えるでしょう。
女性にとっても、共同親権の合意がむしろメリットとなることもあります。多くの場合は、母が親権争いでは極めて有利な立場にいるものの、最近は父母で分担して送り迎えをするケースも多く、年収が拮抗しているケースもあります。よって、勝負がどうなるかはわからないということもあるのです。
さらに、時間的に考えると、離婚訴訟で単独親権を勝ち取ろうとすると離婚訴訟が終わるまで最低でも2年はかかるでしょうから、その間にストレスもあるでしょうし、弁護士費用もかさみます。
2. 離婚調停の前に子を連れて家を出てしまってよいのか?
法務省の改正民法の説明を見てみましょう。子について、片方の親が勝手に決めてよい場合について、以下のような説明があります。

<出典:法務省のパンフレット>
離婚協議の際に、これまでは子を連れて家を出てしまうことが選択肢であるかの説明がなされることがありました。特にこれは女性に対して弁護士や相談窓口がそのような説明をしていました。しかし、改正民法では親が一人で子どもの重要なことを決めてよいのは、急迫の事情があるときであるということが明確になりました。
急迫の事情とは、上記で例がありますが、DVや虐待から逃げるとか、緊急の医療の場合などです。入学手続きをすぐにしないといけないような場合も例になっています。
3. 親権判断のポイント
家庭裁判所が親権について判断する際のポイントは4つあり、1つ目は現時点で子供の面倒を見ているのは誰かという点です。両親が離婚のゴタゴタに伴い別居している場合、実際に子供と暮らし面倒を見ている側が親権争いで有利に立てます。先に書いたように、海外では離婚後の共同親権が認められており、離婚後も協力して子供を育てる文化が根付いている国が多いため、離婚を考えるほど夫婦の仲が悪化していても、勝手に子供を連れて出て行ったら誘拐事件として扱われかねませんが、日本では親が子供を連れて家を出て行き、そのまま親権を得るケースがこれまで多く存在しました。
しかし、上記の民法改正で、日本でも親権の決定前に母親が子供を連れて家を出て行った結果、それが違法な親権行使とされて不利となることも考えられます。DVや虐待の被害者が避難するために子を連れ去るというようなケースとは言えず、正当な理由が認められなさそうな場合に、監護者や親権決定前に他の親の承諾なくして子と家を出て行くことには、今後は大きなリスクが伴いますし、やるべきではないでしょう。
一方、夫か妻が日常的に家に帰っていないような場合であれば、そもそも親権を行使していなかった、親権について話し合いができなかったという判断がされ、子供の監護を一人でしていた親が子と家を出ることは責められないでしょう。
2つ目のポイントは子ども自身の意思です。子供が同居したい、一緒にいたいと感じている側が有利になります。そのため、親権は自分にあると主張したい親がそれぞれ子どもの意向を何とか自分の意向に近づけようという行動をして巻き込んでしまうことがありますが、それはやめましょう。
3つ目のポイントは、子を養育するのが相応しいのはどちらかという視点です。意思表示ができない小さな子の場合には特にこの点が重視されます。基本的にはこれまで監護をよりしていた方が有利になります。
生まれたばかりの赤ちゃんの場合、母乳で赤ちゃんを育てられる母親の方が親権者として適しているとされやすいでしょう。もちろん、赤ちゃんのような小さな子供を育てる上での適任が母親だとは限るわけではなく、母親が健康でないような場合にはむしろ父親が適するとされるでしょう。
さらに、今後は共同親権とする選択肢が増えたのですが、家庭裁判所の調査官がどのような観点で離婚後の親権の在り方をきめていくのかについては、まだ、不明です。監護を分担した方が子の利益となるという判断をする場合も出てくるでしょう。
4つ目のポイントは未成年の兄弟、姉妹がいる場合の話ですが、基本的に兄弟や姉妹は不分離の原則が適用されます。「不分離の原則」とは、父親が兄の親権を、母親が弟の親権を持つような形で兄弟や姉妹が引き離されるのはよくない、兄弟や姉妹は一緒に暮らすのがベストだという考え方のことです。協議離婚や調停離婚ンの場合、親権を決める必要はあるものの不分離の原則は適用されませんので、夫婦が兄弟、姉妹をそれぞれ引き取る形でも問題はありません。しかし、離婚調停に発展した場合、家庭裁判所は不分離の原則を優先させるため、夫か妻のどちらかが兄弟や姉妹の親権をまとめて持つ(あるいは共同親権となる)というのが原則となるでしょう。
これらの4つのポイントは親権者を決める上で非常に重要な点ですが、これまでの監護実績を立証することと、これからのプランを具体的にもっておくことが重要です。
4. 弁護士に依頼すると、離婚調停を有利にできるか?
離婚までの子の養育の方法では、共働きの場合はそれまでも共同で子を育てていることが多く、妻が専業主婦の場合には、子どもは母と過ごす時間が多かったということが多いようです。子は、双方の親が「好きである」のが通常で、片親だけに懐いていることはあまりありません。が、どうしても専業主婦の母の場合には、父母での監護実績に差がでてしまいます。
調停では、子の意思を聞き取ることはあまりないので、父母の話し合いで合意が形成されていきます。よって、貴方と配偶者が合意しないと調停で離婚できないことを、念頭に置きましょう。
基本的に収入は親権争いに影響しません。しかし、養育費をどうするかという話し合いの中で、十分な今後の教育費用の負担を具体的に父が約束することで、母のほうも共同親権に応じるというようなことは十分にありえるかもしれません。共同親権を求める父親であれば、そういう現実的な提案をしてみることもひとつの突破口になるかもしれません。なぜなら、私学進学などではどうせ負担を求める場合に父母が話し合いをする必要が出てくるからです。
また、双方が分担して子を育ててきたので、今後もうまく分担しておたがいがキャリアを続けられるようにしたいというニーズがあることもあります。母親が今は働いていなくても、今後養育費だけで暮らしていくことは難しいので正規雇用を目指すような場合には、平日にむしろ父の監護をしてもらいというニーズが出てくるかもしれません。
お互いが子を育てていく方法についてどのような案があるのか、それを冷静に双方が相手に説明をしていくことで、何がベストであるのかという選択肢が生まれてくることが多いように思います。
子は片親だけで幸せにすることは難しく、離れて暮らす親でも双方が子に関与して子が父母に大事にされるという実感を持つことが重要です。
そういう視点で冷静に話ができるのが望ましいので、子育てについて理解のある弁護士がついていると話し合いが具体的にできるかと思います。
なお、問題は、夫婦関係の破綻の原因が相手にあると攻め合う場合です。代表的な例は浮気ですが、浮気したにも関わらず妻が親権を持つことが許せないとか、夫が浮気をしただから子に関与してほしくない(養育費だけ払ってほしい)というような感情があって、子の利益が二の次になる場合です。そんな場合を「高葛藤な夫婦である」と家裁は考えますが、そういう高葛藤の夫婦では親権争いにおいて双方が譲歩をしないために、調停での離婚が困難となります(不成立となることが多くなります)。浮気に関してはあくまでそれは夫婦の問題、家庭裁判所は浮気をしたイコール親として不適格だとは考えませんので、それは別の問題であると冷静になりましょう。
もっとも、妻が浮気にのめり込んでいて育児放棄のような状態にあった場合や、子のほうで浮気を知っていてその浮気をした母と暮らすのが嫌だと主張した場合などは、子の意向を尊重した解決策とか監護環境がよい親が子と暮らすのがよいでしょう。
どんな場合でも、子どもは、離婚や親の別居・不仲で傷ついているので、それを最小とするような解決策を、具体的に、探りましょう。その助けになるのは、双方が相手のよいところを認識して、「調停を子のために双方ができることをみつけていくプロセスとして使う」ということです。
その結果、親権は単独にするが交流をたくさんするという結論になることもあるし、共同親権として重要なことは話し合って決めることとして今後の話し合いはADR(裁判所ではない民間機関)を使うなどという合意をしておくなど、いろいろな結論がありえるでしょう。具体的な調停の合意内容は、個々の夫婦で違いますので。そういうカスタムメイドの調停に慣れた専門的な弁護士がそばにいると、子の養育・親権について最善の合意ができるのではないかと思います。
双方の希望が必ずしもすべて叶えられるわけではありませんが、経験がある専門的な弁護士とともに、譲歩できることはして、なるべく早く親権紛争を終わらせ、子を安定的に育てていくことが望ましいでしょう。





