子供がいる夫婦は、離婚時にどちらが親権者になるのかを話し合います。離婚しても父母の共同親権を続けるという選択肢も、2026年からは可能になります。親権者と監護者を分けるというもできます。
そもそも監護権って何なの?という方のために、親権と監護権の違いをわかりやすくまとめました。また、子どものことでこじれそうな場合、片親が子の連れ去りをすると大変ですので、穏便に話し合えるのが一番ですので、子どもの親権に詳しい弁護士に早めに相談しましょう。
子供がいる夫婦が離婚をする場合、子供をどちらが引き取るか、通常、話し合って決める必要があります。この「子供をどちらが引き取るか」ということは「どちらが子供の親権を得るか」という話として日本では親権紛争が激烈となりやすいです。
しかし、民法改正により、2026年からは、父母で話し合って離婚後も子どもを共同で養育し、親権も共同のままとするという選択も、可能になります。
選択肢が増えたので、子どものためにどういう取り決めがよいのか父母として、よく考えましょう。子が父母に愛されているという幸福感をもつには、ストレスなく父母との時間を共有する必要があります。子の生活スタイルにあわせて、子の養育をどうしていくのがベストか、父母が子を中心にした話し合いができることが、最善でしょう。
Contents
1. そもそも親権とは?
親権とは、子の心身や財産を、監督・保護したり、保全・育成する権利と義務の集合ですが、子の利益のために権利行使をすることが求められているので、親がもつ子のための職責ともいえます。
通常は、「財産管理権」「身上監護権」の2つにわかれていると説明がされています。
1-1. 財産管理権
財産管理権は
- 子供の財産を管理する権限を持つこと
- 子供の法律行為に同意する権利のこと
といわれています。
法律行為と聞くと難しく感じるかもしれませんが、子供がアルバイトなどの労働をする場合とか売買をする場合に、子がそれをしてよいよと「同意をする権利」という意味になります。
1-2. 身上監護権
身上監護権は、主に子供を養育する権利のことです。
内容は、以下の四つと言われています。
- 「子供の居所を決める権利」
- 「身分法上の行為に同意、または代理する権利」
- 「子供を監護・教育する権利」
- 「子供の職業を認める権利」
2. 監護権について
監護権とは、親権の中に含まれている「身上監護権」のことで、親権から身上監護権を分けるとそれを、通常、監護権と呼びます。監護権を取得すると、子どもと一緒に生活をして日常的に世話や教育を行うことが可能です。通常は親権に含まれている権利で下記がそれを規定する条項です。 監護者を決めると言うことは、この権利をその親が行使できるようにするということです。
民法第 820 条
①親権を行う者は、子の(最善の)利益のために、子の監護及び教育をする。
② 親権を行う者は、前項の規定による監護及び教育に必要な一切の行為をする権利義務 を有する。
監護権について、民法は他に、以下の権利を規定しています。
民法821条
親権を行う者は,前条の規定による 監護及び教育をするに当たっては,子の人格を 尊重するとともに,その年齢及び発達の程度に 配慮しなければならず,かつ,体罰その他の子 の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言 動をしてはならない。
民法第822条
子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
これは、子どもの居所を指定する権利で、実質的には子供と暮らすことができる権利なのでとても重要です。
民法第823条
子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
つまり、監護権を持つ親は、子どもの就業を許可し、取り消しや制限が可能です。
最近の民法改正で、親権者による懲戒権の規定822条が削除されて、体罰その他の言動の禁止が定められましたが、これは令和4年12月10日に成立した「民法等の一部を改正する法律」によります。この改正によって、親権者は、子どもを懲戒(不正・不当な行為に対して、制裁を与えること)する権利を持っていないことが明らかになり、親権者は、体罰等の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないとされています。親権者は、監護権の内容である、監護及び教育をするに当たって、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければなりません。
3. 親権者と監護者を分けるメリット
親権の中に監護権が含まれているならば、わざわざ2つを分ける必要がないと思う方もいるでしょう。確かにその通りなのですが、離婚する夫婦や子供の年齢によっては、親権と監護権を分けたほうがいい場合もあります。また、監護者を父母二人とすることも可能です。
3-1. 一方が子供の面倒を見られない事情がある場合
父親の方が経済力は高く、安定した生活を送れると判断され、親権は父親であるが、単身赴任中で子供の面倒を見ることができないというような家庭の場合です。この場合、親権者は父親、監護者を母親にすることで、子供の金銭面の管理などは父親が行い、母親は子供と一緒に住んで生活全般の面倒をみることができます。
3-2. 養育費の振り込みが滞ることを防ぐ
離婚後、母親が親権者となり、子供を引き取った場合です。この場合、多くは父親が養育費として母親に定期的に決められた金額を振り込むことになります。しかし、月日が経つにつれて、なかなか会えない子供に対して「自分の子供である」「育児をしている」という実感がなくなってしまい、途中で養育費の振り込みをしなくなる人もいるのです。
そこで父親を親権者、母親を監護権者としておくと、父親が育児に参加しているという意識を高めることができるので、養育費の支払いが滞るという事態を防ぐことができます。また、子どもも離婚したけれど自分の親は二人、いつも二人が愛情を持ってくれているという実感をもつことができ、健全な発達が期待できます。
4. 親権者と監護者は離婚後に決めてもいい?
親権者と監護権者を決めるタイミングについては「離婚時」と定められていましたが、令和4年の改正で離婚時にきめないで後できめるということもできることになります。もっとも、紛争がある場合には離婚時に決めることがほとんどでしょう。後回しにすると紛争が長引きます。
夫婦が離婚しても、双方が親権者のままで良いのであれば、改正民法の施行後(令和7年5月頃から施行予定)であれば、共同親権を選んで「子の養育計画」をつくることが有用です。
4-1. 親権者を離婚時に決める必要性
親権者については、離婚時に決めるように定められていましたが、近時の改正によって別に決めることも可能となっています。しかし、離婚前に話し合いをして、親権者をどちらにするか決めてからでないと現実には離婚合意ができないでしょう。
そのため、話し合いでどちらが親権を取るか、共同親権にするか、解決しない場合、離婚調停を経て裁判で決めることになります。まずは、調停で離婚の条件について話し合う中で、親権についても話し合う、という形になります。
子をどう育てるかはしっかり夫婦で決めて、子どもにとって離婚後に暮らしが辛いものでないようにすることが重要です。カウンセリング的なサービスをしてくれるADRもありますのでうまく利用し、経済面とは別に子の育て方については、しっかり前向きに話し合いがしたいものですね。
4-2. 変更することもできる
親権者と監護権者については、離婚時に一度決めたら二度と変更できない、ということはありません。後で変更することも可能です。そのため、とりあえず親権者を母親にしておいて、後で親権者を父親、監護者を母親に変えるということもできます。
しかし、親権者や監護者が変わることは子供の健やかな成長においてはあまりよくないのが、通常です。生活スタイルによりフレキシブルに監護の体制を変えるなら、それは子の利益になることなので、裁判所での手続ではなく父母が合意によって養育計画を変えることがもっとも子どものためになるでしょう。
裁判所では、明らかな理由がなければ変更はとても難しいです。子が明確に父と暮らしたいと言っているような場合には、子が11才以上であれば子の意向は優先されるでしょう。
変更する場合は、家庭裁判所に親権者(または監護権者)の変更の調停・裁判の申し立てをして、新しい権利者の指定までする必要があります。「とりあえず親権者は母親にして、離婚した後で変更しよう」というような、軽い気持ちで親権者と監護者を決めないようにしましょう。また、監護者が誰かという点にこだわるよりは、父母でこれから養育をどう分担するのかという方向で話し合いをする方が建設的になるかと思われます。そういう意味では、監護者を父母にして養育分担をするという方法が葛藤を高めないでうまく決められることが、往々にしてあります。
5. 親権者や監護権者の選定に影響するもの
親権者や監護権者が話し合いで決まらなければ、審判や離婚裁判で決めることになります。調停は公的な機関を入れた話し合いなので、ここでは裁判所は、決定はしませんので、裁判に持ち越されます。
離婚の裁判まで行ってしまうと、裁判所で親権者や監護者が決められることになります。父・母、どちらが適正かを判断するために様々な条件で比較し、より子供のためになるほうを選ぶのです。このような決定をされてしまう前に、双方が子をどう養育するのが最も子の幸せになるのかを考えて、建設的な話し合いができることがベストでしょう。
5-1. 子供に対する愛情
子供に対する愛情がなければ、親子関係はうまくいきません。特に、子供が小さいうちは母親になつく傾向が高いため、母親のほうが一般には有利になるといわれてきました。しかし、最近ではリモートワークが可能であったり、女性もキャリアを重く見る傾向があり子の育児を分担している父母が多くなっています。
よって、家庭によっては父親が子の面倒をよく見ていた例もかなりあり、親権判断は難しい事案となっております。
5-2. 経済力
経済力がなくては、衣食住に関して安心して子供が暮らしていくことができません。専業主婦である、病気などで働けない理由がある場合には、親権判断に不利と判断されることもあります。
5-3. 両親など自分の代わりに面倒を見る人がいる
自分が病気や仕事などで子供の面倒を見られない場合、近くに祖父母など自分の代わりに面倒を見られる人がいることも、審査の対象となります。監護補助者と言います。
5-4. 健康状態が良好である
持病がある、高齢で病気になる可能性が高いと、子供の監護環境に不適合と判断されることもあります。
5-5. 生活環境が整っている
住居周辺・子供の学校までの距離など、子供が生活するための環境が整っていることが前提です。
5-6. 兄弟が別れて生活することにならないほうがよい
子供が複数いる場合には、兄弟姉妹が別れて生活することにならないように、どちらか一方が子供全員を引き取ることが前提となっています。もっとも、子の学校の関係で分けて暮らすが、週末は自由に行き来するようなフレキシブルな育て方も考えられるでしょう。
5-7. 子供の意思
15歳以上の子供の場合は、親の意思ではなく、自身がどちらの親と一緒に暮らしたいかという「子供の意思」が優先されます。もっとも、15才以下でも子の意向は尊重されます。もっとも、子が親を選ぶようなことは子の精神に悪影響を与えることとなって健全な発達を疎外することもあるので、そのような子どもの心のケアも必要です。子の意向を理解して親が和解的に解決できることが最善です。
6. 話し合いで決められない場合、専門弁護士に相談を
親権者・監護者は、話し合って決めるのがベストです。
決まらないと離婚ができないので、離婚する時期がどんどん長引いて双方が疲弊します。どうしても話し合いで解決ができないが離婚の時期を長引かせたくない場合には、離婚調停を利用したりADRを利用しましょう。
調停では双方がどういう形で子の養育に関与するのが、もっとも子どものためなのか冷静にそれぞれの強みを理解して、離婚後の子の養育について建設的な話し合いをしたいものですね。
離婚訴や審判で決めると、子供の養育環境に適したほうを親権者・監護者として裁判所が強引に決定し、それには時間もかかってしまいますし、双方が「自分が良い親だと相手を非難する」という事が起きてしまって子にとっては不幸は親の喧嘩が繰り広げられます。
また、裁判官に強引に決められるよりは、お互いが強みを理解し合って子の養育を分担したり、適切な面会交流を決めて子が離婚後の暮らしについて不安にならないような合意形成をできることが、子の最善の利益であると思います。
よって、葛藤を高めるのを避けるためにも、早めに子の利益を考えてくれる弁護士に相談しましょう。どうすれば親権や監護者の問題をクリアできるか、専門弁護士ならアドバイスをしてくれます。子の問題は誤ってしまうと取り返しが付きませんので、専門家に早く助言してもらいましょう。