離婚

ドイツの離婚後の親権制度とは?子どもを守るための海外の離婚法政を知ろう!国際離婚弁護士が解説。

ドイツでは、子どもの利益を守るという観点から、離婚後は共同親権(ドイツ語の直訳では共同配慮)が原則となっています。こうした制度が生まれた背景や社会的状況を考察していきましょう。

  

同時に、どれほど共同親権(共同配慮)の行使が実効性を持っているのか、どんな問題が見られるのかも取り上げます。

  

《この記事は弁護士松野絵里子が監修しています。》

  

家族観や様々な問題の解決方法というのは、地域や文化による差が多く見られるものです。こうし

  

どこの国でも見られる「離婚」について、ドイツと日本を比較してみると、離婚後の親権、監護権、子を誰がどう育てていくかについての取り扱いに大きな違いが見られます。具体的にどのような形で離婚後に親と子供が関わっていくのか、どのような法制度が設けられているのかを解説していきます。

  

同時に、そのような法制度ができあがった背景やドイツ人の考え方についても考察を深めていきます。

  

1 ドイツの離婚と親権を取り巻く事情

ドイツの親権について考えるにあたっては、社会的状況や家族についての見方をその背景として知る必要があります。日本とは異なる人口構成や婚姻についての考えがありますので、その違いを理解しないと親権についての理解も正確なものとならないからです。

  

1-1 社会の多様性について

ドイツはEUの一部であり、少なくともヨーロッパという地域内においては、人々の流動性がとても高い国です。そして、ヨーロッパには東欧やアフリカなど、周辺地域からの移民が大勢入ってきていまして、その移民は、ヨーロッパ第一の経済国であるドイツに向かう傾向があります。

  

そのため、ドイツは非常に速い勢いで人種や言語の多様化が進んでいます。いわゆる純粋なゲルマン系のドイツ人の割合は、そのため、年々下がっています。

  

実際に、国全体における生産年齢人口の中で移民が占める割合はすでに24パーセント以上になっています。15歳以上65歳未満といういわゆる働き盛りの年齢の移民が多くおり、2016年の移民の年齢別人口統計でもすでに移民全体の65パーセント程度が働き盛りの人口となっています。

  

まずドイツという国が単一民族ではなく、様々な文化的背景や宗教観念を持つ異なる人種で構成されていることを理解し、しかも、その変化は常に起こっていて、一概にドイツ人とかドイツの文化、考え方という形でまとめられない状況があることを理解しましょう。

  

もう一つ、移民の多くが結婚や出生が多い年齢層であるという点。それだけ、親権や離婚についての多様な文化を理解した法整備が、移民との関係でも、あるわけです。

  

こうしたことから、多様な考え方や習慣を持つ人々に柔軟に対応できる法律や制度を設けることがドイツでは必須となっているようです。また、異なる考えを持つ人たちを法の下で実効的にまとめるには、明確で場合によっては強制力を持った権利の行使ができる体制を整えることも求められます。

  

グローバル化が進んでいるとはいえ、ドイツの多様性とは大きく異なる日本では、そもそもの国内状況が異なるということを理解した上で、子の監護権・親権制度について理解する必要があると言えるでしょう。

  

1-2 結婚と離婚について

ドイツは移民の流入によって人口がある程度保たれていますが、日本と同じように高齢化が進んでいる現状が見られます。1960年代の半ばにはベビーブームが到来しましたが、その後は出生数が年々下がり、2010年代になるとベビーブーム時期の半分程度の出生数しか見られなくなっています。また、合計特殊出生率は1.38くらいとなって、一家庭当たりの子供の数も減る傾向にあります。

  

離婚については1990年代から件数が増え、2003年にはピークを迎えて、その後は減少もしくは横ばい状態となっています。普通離婚率、つまり1年間のうち、人口1,000人当たりの離婚件数は2.2パーセントとなっています。ドイツの結婚や離婚の大きな特徴は、全体的に年齢が高くなっているということでこれは先進国に共通することでしょう。

  

2024年3月の報道(NEWWEEK日本版)によると、平均離婚年齢も上昇していて、女性で44.7歳、男性で47.8歳と過去最高となった(2022年)。過去20年以内に、女性は5.8歳(2002年:38.9歳)、男性は6.2歳(2002年:41.6歳)上昇したということです。

  

離婚までの平均婚姻期間は2022年には15.1年で、2002年の12.9年より伸びており、13万7400組の夫婦が離婚したが、離婚件数は2012年以来ほぼ連続して減少している状態であるそうです。

  

離婚する時に子供はすでにティーンエイジャーとなっていることが多く、ある程度自分の意思を伝えたり、両親の離婚についての理解できる年齢となっていることが多いことが予想できます。1年間で両親の離婚を経験する未成年の子供は、14万人以上に上ります(2012年のドイツ連邦統計局の統計による)。

  

離婚に至るまでに、多くの夫婦が別居をしていることもドイツの特徴で、8割程度が1年程度の別居をしていて、3年間の別居は15パーセント程度のようです。

  

そのため、ほとんどの夫婦がいきなり離婚ということではなく、別居期間を経て離婚しており、子供も離婚前から片親と分かれて生活していることになります。ここにはドイツ民法の婚姻破綻主義が関係しています。別居が1年程度続いた場合、事実上婚姻が破綻していると見なされ合意離婚ができることになっているという制度なのです。日本ではこのような見なし規定はないので、いつ離婚できるのか・・・という点で夫婦が候葛藤になることが多いです。また、離婚してあげない!という戦いも可能ですので、葛藤は長く継続してしまいます。

  

もう一つの特徴的なデータは、国際結婚と離婚についてです。国際結婚は夫がドイツ人で妻が外国人のケースは3から4割、逆に妻がドイツ人で夫が外国人のケースはそれより少し多いようです。

  

国際離婚でも、どちらか、もしくは双方が外国人の離婚は1割から2割いるようで、無視できない数になっています。国際離婚の場合、ハーグ条約の規制があったり、子の国籍や転居などが問題となるますので、複雑な問題に発展することがあります。

  

このように、ドイツは結婚や出産、離婚に関わる年齢という条件では、他の国と比べると多少日本のケースと近いものがありますが、国籍の異なる夫婦の結婚や離婚が多いという点では、日本とは多様化が進んでおり、かなり異なります。そういう中で、考え方や背景が異なる人たちを一つの法律や制度でまとめるためには、より柔軟かつ包括的な制度設計が必要となるといえるでしょう。

  

2 ドイツの親権法

ドイツにおける婚姻や離婚、子供の監護(親権)に関わる法律や実際の権利の行使について考察していきます。日本ではあまり見かけない用語もしくは概念もありますので、具体的にどのような意味を持つのかという点にも適宜、説明します。

  

2-1 ドイツにおける婚姻と親権に関する法律

ドイツはアメリカと同じように地域を州に分けて統括する連邦政府の形態を採っています。そのため、州ごとに異なる政府があり、憲法をそれぞれに持っています。しかし、国民全体に関わる重要な権利や刑罰などについては、連邦が独占的に権限を有して、州では独自に決めることはできないのです。これには婚姻や親権に関する民法等も含まれます。その行使や裁判所の細かな裁定については地域による差が出てくることはあるとはいえ、基盤となる法律や大枠での制度についてはドイツという国全体で統一されているわけです。

  

ドイツの親権については、民法以外にもいわゆる家族法が制定されていて、そこで権利の定義がなされていました。基本的には過去には、離婚後は単独親権となることが明記されていました。

  

しかし、1970年代の後半になると共同親権についての議論が高まり、元々、法律上の条文では「原則としてどちらかの親に親権を与える」という文言となっていたため、特別な事情がある場合には共同親権でも良いということではないのか・・・という解釈がなされます。

  

その後、実際のケースについて取り扱いが最高裁判所に持ち込まれるなどして、親権についての問題が公に議論されるようになります。そして、ついに1997年に「親子法改正法」が成立して、離婚した後の共同親権(共同の親の配慮)についての明確な法律ができたのです。

  

ちなみに、ドイツでは離婚前、つまりまだ婚姻が成立している状態での親権についても、大きな変化が見られてきました。

  

戦前においては、親権が生じるのは婚姻関係の中で出生した子供にのみ発生するという規定があったため、婚外子についてはそもそも親権という考えがなかったものです。また、婚姻関係内で生まれた子供であっても、その親権は基本的に父親だけが持つものとされており、当時は、親権は財産分与と密接な関係があったため、実質的に夫婦の財産を保有していた父親が、その子供に相続させるという考えから父親にのみ親権があったのです。家父長的な考えですね。

  

しかし、戦後になって男女平等に権利を与えるという動きが強くなり、様々な分野で同権主義が確立され、その一環として、夫婦もしくは両親に等しく権利を持たせることになり、婚姻中においては父母が共同親権を持つことになったのです。

  

とはいえ、上記のようにその時点ではまだ、離婚後についてどちらからの親に単独親権を与えるという形は変わっていませんでした。

  

2-2 共同配慮という概念

ドイツの法律では、今は、親権という言葉ではなく親の配慮という言葉が使われるようになっており、共同親権という言葉もなくなり「共同配慮」という言葉が用いられています。これは共同監護に近い概念ですが、子供の教育や生活上の世話、経済的な負担をするといった親の責任や義務についてより、焦点を当てた考えです。

  

上述のように、ドイツでは離婚の前に1年程度の別居をすることが多く、その時点ですでに子供は片親と生活することになります。この別居中の取り決めについて、法律では、父母のどちらも親としての配慮を単独で行うことを申し立てることができるとしています。つまり逆に言うと、申し立てをしない限りは、共同配慮(共同親権)が続くいうことです。これは離婚後も変わることがなく、父母は共同で子供への配慮を続けていくことが求められるわけです。

  

この共同配慮が機能するには、父母が合意して、教育や生活上のケアをするために決定、行動できることが基本となります。片方の親のみの決定で重大な行為をすることはできず、合意の下で配慮を行使することが求められています。ただし、生活上の細々としたことや、それほど子供の福祉や将来に多大な影響をもたらすものではない決定については、片親でも決めることができます。多くの場合、こうした決定は同居している親が行うことになります。どんなケースであっても、この共同配慮は、親の都合によって実施できるのではなく、常に子供の福祉のために実施されるべきであるという法の建前になっています。

  

親としての責任の考えの背景には、子供は両親双方と接触し続ける必要があるという基礎の考えがあります。そのため、子供はどちらかの親が嫌いだといった理由で、共同配慮を拒否する権利は持っていません。もちろん、裁判所などにおいてどちらかの親の配慮への反対を表明することはできます。しかし、それはあくまでも意見という形であって、単独配慮とするには裁判所が慎重に調査や審理をしてから決める必要があります。これは、子供の反対があったからという虚偽表明で、片方の親が単独で権利を持つことを防止するという役割もあります。

  

このように、ドイツの親権についての考えは基本的に父母共同で行使すべきものとなっています。そして、共同配慮という言葉からも分かるように、親の優越性という観点での「権利」ではなく、あくまでも子供の福祉を第一として、子供の利益と将来のために果たすべき親の責任に重きを置いた考えが基礎になっています。

  

離婚後に親権を持つというのは、単に親として決定権を持つというだけでなく、時間や金銭、労力、感情などの点で子供のために費やすという親の責任・役割が続いていることを、意味しているのです。そして、そういった法枠組みは、子の利益のためにあるものとなります。

  

2-3 婚外子についての取り決め

ドイツでは、1997年の親子法の改正前は、婚外子について父親には親権が発生しないとされていました。そのため、事実婚状態のカップルが別れた時にも、当然婚外子については親権が与えられるということもないのです。その状態では母親が常に親権者となり、カップルが別れた後も母親のみが親権者として存在し続けます。

  

例外としては、父親が裁判所に嫡出子としての宣言申し立てをするか、養子縁組をすることによって父親が親権者となることができました。とはいえ、こうした手続きをするのであれば、そもそも結婚した方が楽ということもあってあまり利用されていなかったのが実態です。

  

その後1997年の法改正によって、婚外子についての取り決めは大きく変わりました。婚姻関係になくても、両親が共同配慮をすると意思表示すれば事実上共同親権を持つことができるようになったのです。これは離婚後にも有効なものですので、一度共同配慮の意思表示がなされたら、別居しても共同配慮を続けることができるのです。また、片方の親が共同配慮の意思表示をしたものの、もう片方が反対した場合でも、家庭裁判所が妥当だと判断すれば共同配慮をする権利が両親に与えられます。もちろん、反対したことについて正当な理由があり、確かに共同配慮としない方が子供の利益となると考えられる場合には、単独親権となります。たとえば、子供への児童虐待があった場合などです。

  

こうして、基本的には、婚外子についても両親の共同配慮が可能となり、別居したとしても父親が継続して子供に関われるようになっているのです。ドイツでもいわゆる籍を入れない事実婚のカップルが増えていますので、子供の利益を考えてこうした変更点が、加えられていったのです。よって、子の親としての責任は親が婚姻しているかどうかとは別に、発生するものとなっており、親子関係の構築も親の結婚の有無と関係がなく、子のために構築する必要がある関係性となっています。

  

2-4 離婚と共同配慮に関して行われる手続き

ドイツにおいては、離婚をする場合、必ず裁判所が関わることになっています。日本でも、夫婦間での協議がまとまらなかった場合、調停離婚も含めて裁判所が関わることがありますが、基本的には夫婦で合意したのであれば、行政機関に離婚届を出せば離婚は成立してしまいます。しかし、ドイツではたとえ夫婦が合意したとしても、離婚についての申し立てを裁判所に提出しなければならないことになっているのです。日本のような協議離婚では、現実に子どものことをきちんと考えて冷静に条件を決めて離婚をしたのか誰も確認しないのですが、ドイツはそのような親が何でも相対で決められる制度にはなっていません。

  

この申しては文書で行うものですが、未成年の子供がいる夫婦に関しては、子供の今後のことを記載しなければなりません。その内容としては、共同配慮をするのか、単独配慮とするのかという親権の問題だけではなく、面会交流の取り決め、養育費の負担などがあります。こうして、離婚時には明確に子供への配慮権を決定すると共に、具体的な離婚後の養育の計画内容を裁判所に提出することによって、裁判所が子供の福祉について配慮がされているのかを確認することができます。

  

夫婦の合意であれば、面会交流が全くないというような場合もあり得る日本とは別の法制度であり、子供の養育の計画はきちんと親が持つことが求められているのです。

  

2-5 親権行使の現状

今まで見てきたように、ドイツでは基本として共同配慮の原則が採られています。実際にこうした共同親権の行使がどれくらい実行されているかというと、平均して9割以上というデータが出ています。

  

つまり、ほとんどのケースにおいて単独親権の行使ではなく、共同配慮によって子供が養育されていることになります。

  

とはいえ、これは交替監護のように半分の監護時間にしているというわけではありません。実際には母親の下でのみ暮らす子どもが多いのが実態です。全体の中では再婚した家庭も含めて、母親のところで生活し、父親とは別居している子供たちが8割程度に上るとされています。そのため、父親による配慮は、定期的な面会交流と養育費の負担ということになります。もちろん、共同配慮であれば、子供の将来に関わる重要な決定については両親で合意することになります。このことから、進路や重大な手術をするなどの決定をする時には、父親への情報提供と合意が求められています。何かしらの重大局面に遭った場合には、父親が関与することはあるのですが、日常生活に関する点については母親がほとんど決定し、子供を多くの時間養育するというわけです。

  

もっとも、面会交流は日本に比べて非常に多く、夏休みは半分を父と過ごして、毎月隔週で父のところに週末はいくというのが典型的な交流といわれています。

  

さらに、共同配慮は、離婚後も両親がコミュニケーションを取り、合意のための話し合いをする必要を生じさせます。離婚に至るということは、夫婦としてトラブルがあったり感情的なもつれが高まったりしているので、子供のためとはいえ離婚後もコミュニケーションを取り続けるのは、感情的にはストレスでしょう。

  

そのため、一度は共同配慮としたものの、その後、配慮権を単独にしたいという「移譲」を裁判所に申し立てるケースもあります。

  

理想としては、離婚後もどちらの親も子供に関わり続け、成長をサポートしていくことが求められますが、、現実問題として母親のところにのみ子供が住み、父親とは面会交流のみということになれば、実質的には単独親権と変わりがなく、両親が合意形成をする機会を作るのはストレスの原因となってしまうケースもあり得ます。

 

とりわけ親が再婚した場合、元配偶者とのコミュニケーションが取りづらい状態となり、理想としては共同配慮が望ましいのは分かっているのですが、現実としてはなかなか共同配慮がそのままうまくいかない場合もあるのです。

  

2-6 離婚手続きに関する支援制度

ドイツには「少年局」という行政機関があり、主に未成年の子供たちの教育や福祉に関する制度設計をしたり、具体的なケアをしたりする機関でありますが、離婚時の子どもの反故においてはかなりの役割を担っています。

  

離婚が成立し、裁判所における手続きが進むと、裁判所は離婚したカップルについて未成年の子供がいることを少年局に通知しなければなりません。少年局は、その情報に基づいて、離婚するカップルに対して文書を送り、子供の共同配慮に関係する法律や制度、具体的にどのような支援を親や子供が受けられるかが情報提供されます。

  

さらに、実際的な支援や情報提供を行うために、父母が少年局に来るよう勧めます。同時に、子供に対しても、直接に、少年局から手紙が送られます。

  

父母が少年局に行った場合、いくつかの支援を受けることができます。たとえば、離婚後の父母として子供にどんな養育をしていくべきかを指導してくれる相談所を利用することができます。相談所は、まだ離婚手続き中にある夫婦でも利用することができ、法制度や子供の養育について具体的な理解を得るための教育を受けられます。より実際的な、離婚の協議ができるようにするためのものです。法律の素人だと離婚後の親権や面会交流などについての理解があいまいで、その状態で合意をすると、将来的に双方が苦労することもあるので、協議中に相談所を利用することで、より賢い判断ができるようになりますから、日本にもあると良い支援ですね。

  

さらに踏み込んだサポートを受けることもできます。少年局に設けられている、未成年の子供を持つ父母を専門に扱う部署では、専門家の同席の下で、話し合いを行うことができるのです。その専門家が第三者的な調整者の役割を演じ、父母がそれぞれの意見や希望を述べ、そこからお互いの事情を汲み取りつつ、子供にとって最善の選択ができるように導いていくのです。こうして、離婚に関する合意をより意味のある内容としていくことが、できます。同席する専門家は、弁護士、心理学や児童教育学のプロ、社会学者といった人たちが選ばれているそうで。

  

裁判所でも、少年局とは別に、父母そして子供の支援を行う体制を整えています。たとえば、父母に対して様々な公的な相談制度を利用できることを教えたり、高葛藤の夫婦について第三者を交えた協議を行うよう促したりすることがあります。離婚手続きについて支援してくれる面談に参加するよう強制することも可能となっています。こうして、確実に父母が適切な教育と情報提供を受け、子供の最善の利益を考えた配慮権の行使ができるように導いていくのです。

  

最終的には、これらのサポートを受けても両親の間で合意に至らないことも当然に、あります。その場合、裁判所が配慮や面会交流についての裁定を下すことになります。この局面でも少年局は一定の役割を果たします。今までに聞き取りや観察をした点に基づき、客観的な意見を述べて、場合によっては父母のどちらかに有利な意見を付すのです。「単独配慮」となる場合には、この少年局の意見は大きな影響をもっており、少年局は再度徹底した調査を行うこともありえるそうです。日本でいう調査官調査のような者ですが、日本では、その前などにおいて調査官からなにか支援をして合意をうながすという仕組みはありません。ドイツでは離婚手続きそのものを適正に行えるように、幅広い分野で公的部門が支援をしているのです。やはり、離婚係争中の夫婦は、感情のもつれが多く葛藤を高めやすいものです。

  

財産分与など経済面の協議をすべき点もたくさんあります。その中で、子の福祉を最善に考えた選択をするのは難しい面があります。また、自分たちの感情や都合を優先してしまい合理性のある合意ができないこともあり合意したとしても実際には離婚後に実行できないような内容となる恐れもあります。

  

そこで、こうした問題に精通しているプロが、第三者として支援を与えることで、より懸命な判断ができるようになるのです。離婚協議書はその後の両親並びに子供にとって重大な影響を与えるものとなりますので、その合意内容を適切なものとするため、公的な支援に力を入れている制度であるというわけです。

  

3 親権に関する裁判所の役割

スムーズに父母間で親権もしくは配慮権についての合意ができ、しかも離婚後も取り決めた通りに行使できるのであれば大きな問題とはなりません。しかし、どうしても共同配慮の取り決めがうまく行かないこともあります。たとえば、両親のうちのどちらかが子供に悪影響をもたらすなど、適切な養育や教育ができないケースがあります。また、子供が頑なに片方の親と暮らすことを拒否したり、養育を受けるのを嫌がったりすることもあります。

  

こうした場合、父母だけでは合意に至らないこともありますので、裁判所の介入が必要となってきます。具体的に、どのようなケースでどの程度まで裁判所が介入するのかを見てみましょう。

  

その上で、裁判所はどんな基準に基づいて裁定をするのでしょうか?これも見ていきましょう。

  

3-1 親権に適格な親かどうかの判断

共同配慮を実行する条件としては、どちらも親として適格であるかという点が大きいです。親であるということだけでは親権を得ることはできず、親としての責任を果たせるかということが重要だからです。

  

また、たとえ経済面での条件を満たしているとしても、子供の健全な成長を阻害するような性向を示す親では子供の利益となりません。そこで裁判所は、共同配慮権を与えるか単独とするのか、それとも一定の制限付きの共同配慮とするのかを、二人の親のその適格性という面で判断します。

  

たとえば、アルコール依存症であったり、重度の精神疾患を患っている場合の親は、日常的な養育をすることや正しい教育を施すことが難しいでしょう。道徳的、倫理的な面についても同様で、異常な性的傾向を持っているなどして、子供への性的虐待の恐れが多分にあると認められる場合、居住指定権を与えることは難しいと判断されます。

  

実際に、性的虐待について刑事事件として立証されていないケースでも、共同配慮権が取り消された事例も存在します。

  

適格性は、経済的な観点でも図られますが、単に資産が少ないとか給料が低いといった点で判断されるわけではありません。支払い能力があるにも関わらず、養育費の支払いをしてこなかったという事実がある場合には、問題視されます。これは婚姻中の事情も考慮されることがあります。自分で稼いだお金を子供のために使わず、その状態が何年も続いていたといったケースでは、それに当たります。経済的な能力があるかどうかということではなく、金銭の支払いという形で子への責任を果たして、子に適切な関心を向けてきたかという点が重視されるわけです。

  

これは、男女で経済格差が生じがちな現状に対応するものです。単に経済的に有利な親がより強い権利を得るということではなく、大事なのは養育責任を果たしてきたか、子供の福祉への関心を実際にもって行動してきたかを、見るということです。

  

状況によっては、養育費を支払ってこなかった事実を基に、共同配慮の制限や面会交流権の縮小といった判断がなされることも、ありえます。

  

3-2 両親の関係性について

共同親権(共同配慮)は、親にとっての権利でもありますが、やはり子供の福祉を守るために共同で養育や決定を行っていくという点が重要です。そのため、離婚後も様々な面で父母は子供のために協力をして決定をしていかないといけません。交替居所(半々などで養育する場合)をする場合はもちろんのこと、面会交流を行う際には子供の引き渡しについて連絡を取り合うことになります。

  

また、進路や医療上の決定、在学中のアルバイトなど、重要な決定を下す際には父母双方の同意が必要です。合意をするためには、特に同居している親がもう片方の親に情報提供しなければなりませんし、決定に際して話し合いが必須で迅速な決定も必要です。

  

このように、共同配慮を実行するためには、たとえ双方に感情的なもつれがあるとしても、それを乗り越えて、コミュニケーションを取り続けなければいけないのです。こうした協力関係は、離婚後ずっと続けるのは難しいこともありますし、特定の重大な決定について合意形成ができないことも出てきます。その場合、一定の範囲内で配慮権の移譲がなされることがありえます。

  

離婚時に共同配慮を取り決めた以上、片方の親が勝手に決定したり、行動を取ったりすることはできません。そこで、問題ごとに、裁判所に申し立てをすることになります。

  

そういった場合、裁判所は、まず特定の問題についての合意形成ができていないだけなのか、そもそも共同配慮そのものが難しくなっているのかを審理して、確認します。もし、特定のことだけであれば、制限付きの配慮権の移譲がなされます。たとえば、居所について指定する権利を片親に与えるといったようにです。

  

しかし、配慮を行う親として不適格であるため、共同配慮そのものを廃止してほしいという申し立てがなされた場合、配慮権を廃止するのが妥当なのか、やはり一部の権利だけを制限する形で決着させるのかを、裁判官が判断することになります。

  

裁判所は、決定を下すにあたって、父母双方に綿密な聞き取りを行います。たとえば、どうして父母が合意できないのか、双方が妥当と考える根拠を説明させます。

また、合意に至るように今までどんな努力を、どれだけ双方がしたのかも、確認します。もし、一度きりしか話し合っていないなどの努力不足が認められる場合には、裁判所で裁定するのではなく協議を続けるよう促すこともありえます。さらに、努力をしても合意しなかった理由は何かなどを確認します。

 

こうしたポイントについて文書で提出してもらい、判断材料を得るわけです。

  

DVが離婚の主な理由となっている場合もありますが、子供への暴力がない場合は児童虐待とはなりませんので、親権に与える影響は児童虐待の場合とは異なるといわれています。

  

つまり、配偶者にDVをしているからと言って、即座に親として適格ではないと判断されるわけではないのです。むしろ、父母の協力関係を築けないという観点で、これが考慮されることになります。夫婦間DVがあった場合、共同配慮によってコミュニケーションを取り続けることは不可能です。また、居住地を教えることで危険が及ぶ可能性があります。そのため、被害者の保護命令と共に、被害者への単独配慮が命じられることが多くなります。

  

しかし、子の利益の点から、面会交流は許可されるケースが多いですが、子供を引き渡す際には慎重な対応が求められます。子供の引き渡しに父母の両者が会うことは危険になりますし、子供がいる自宅にDV加害者が行くということもできません。そのため、自宅ではない場所で、第三者の仲介を伴って面会をするなどの形で実施されることが多くなります。こうしたケースにおいては、それぞれの事情を考慮して、柔軟に面会方法が裁判所によって決められることもあります。

  

3-3 子供の利益と将来を考えた決定

親権は親に与えられる権利ですが、常に子供の利益を最善に考えた形で行使される必要があります。逆に言うと、子供の利益にかなわない形で行使された場合、その権利が制限されたり取り上げられたりすることもあります。たとえば、子供と同居していた母親が、もう片方の親との面会交流の機会を与えずにいたケースを取り上げることができます。親としては離婚した元配偶者に会わせたくないという気持ちが生じることはあるかもしれません。しかし、子供の成長と利益という面からすると、両親との接触は続けるべきです。そこで、面会を拒否した母親から、居住指定権つまり子供と暮らす権利を父親に裁判所命令によって移譲したのです。子供は父親と住むことになり、父親は母親との面会を許可することによって、子供は両親との交流を続けることができるようになります。

  

同じように、離婚後に同居している親がもう片方の親に会わせないために、遠くに引っ越しをしたケースにおいても、居住指定権が移譲されたという事例もあります。このように、親権をいわば悪用する、もしくは自分の都合で利用する行為はかえって子供の利益にならないと見なされ、逆にそれが親権を制限する理由となってしまうこともあるのです。

  

これは家庭における理念教育という面でも同じです。離婚した後、同居している親が元配偶者の悪口を言ったり、再婚した現配偶者のことを無理やりに父親もしくは母親と呼ばせたりして、実の親との関係を断ち切ろうとする行為も一種の妨害行為とみなされます。直接両親との交流を妨害するだけでなく、感情面での妨害も問題視されるというわけです。

  

子供の福祉は、両親との交流だけでなく、一般的な教育も重要です。未成年時にどのような教育を受けるかは、将来に大きく関係することだからです。教育の機会は、継続的に与えられるべきもので、配慮が十分になされるかの判断もそこに重点が置かれます。

  

たとえば、フルタイムの仕事をしているため、親子で一緒になれる時間が少ないとしても、しっかりと保育所や学校に入れているのであれば、そこで十分な教育を受けられると判断されます。一方で、仕事が不安定な状態で時間があるため子供と一緒にいられる時間が長いとしても、継続的に十分な教育機会を提供できる能力がないとみなされると、子供の利益にはそのような親の監護はかなっていないと考えられることもあるのです。

  

3-4 子供の意思の尊重

離婚後は、片方の親が児童虐待をしていたなどの深刻な事情がなければ、そのまま共同配慮となることが多いようで、単独配慮となる場合や、最初は共同配慮だったものの単独配慮に移譲される場合には、裁判官にはより慎重な検討が求められます。こうしたケースでは、子が14歳以上であれば子の意見を聞くことが法律的によって求められています。とはいえ、この年齢はあくまでも法律上の規定であって、実際にはより低い年齢の子供であっても意見を聞くことが多い傾向にあります。

  

この際、子供は考えや感情が不安定になることもありますので、継続性のある意志かどうかを確かめる必要が生じ、ある程度の期間を置き、2回以上のヒアリングをして、子供の意思が明確で安定したものかどうかを確かめるケースも見られます。

  

こうした信頼の置ける手法でヒアリングをするのであれば、たとえ年齢がかなり低い子供の意見であっても尊重される傾向があります。たとえば、4歳程度の子供の意思を考慮に入れて判断を下した裁判所の実例も存在します。もちろん、こうしたケースでは両親の間に大きなトラブルが生じていたり、子供と親との絆について疑義があったりするなど、両親の意見だけでは判断を付けづらい問題となっていることがほとんどです。

  

4 面会交流権について

共同親権では、子供が両親の家を行き来する交代監護をすることもありますが、実際には多くが片方の親の元で生活を続け、別居親とは定期的に面会交流をするという形になります。そのため、離婚の際にはこの面会交流権の詳細をどのように定めるのかが重要なポイントです。

  

4-1 共同監護ができないケース

交替監護ができない理由は、状況により多数存在します。

  

まず、親が望まない、もしくは自ら無理だと判断するケースです。仕事や身体的な制約、その他の家族の事情などによって、子供を引き取るのが難しい親もいます。また、再婚する予定があり再婚相手にも子供がいる場合には、新しい家庭で葛藤が生じかねないと判断することもあるでしょう。

  

さらに、両親の間に大きな葛藤があり、子供を毎週のように引き渡す際の協議が難しいと考えて、片方の親と暮らすことを決める事例も少なくありません。これには、夫婦間のDVという問題が絡んでいることもあります。子供を引き取ること自体には問題がないものの、両親同士のコミュニケーションを取るのが無理なため、実質的に共同監護ができない事情となっているわけです。

  

婚姻中の子育て事情も関係します。ドイツでも子供が親と過ごす時間の大半は母親とであり、父親との時間は短い傾向にあります。そのため、父親と単独で暮らすことに不安を覚える子供もいますし、父親としても十分で実際的な監護ができるか分からないという事態にもなりがちです。生活を共にするということは、毎日の細々としたことまで考えないといけないからです。

  

こうした様々な理由によって、親権自体は二人の親が持つものの、一緒に生活するのは片親とのみというケースが実際には多いのです。ドイツの場合は、大半が母親と暮らし父親とは面会交流を頻繁にする形を採る傾向が強いです。

  

4-2 面会交流についての取り決め

両親の間に高い葛藤がない、DVなどの問題がない一般的なケースでは、両親の間で面会交流については細かな合意をします。頻度やどのようにどこで子供を引き渡すか、どこで交流をするのかという点を主に決めます。

  

別居親が、子が住んでいる自宅に迎えに行ったり、通っている学校に迎えに行ったりするケースが多く見られます。双方の家が近く、子供が自分自身で移動できる年齢と状況にある場合は、子供が一人で別居親のところに行くこともあります。

  

一方で、裁判所によって面会交流に制限付きの取り決めが設けられることがあります。たとえば、婚外子の子供がずっと会っていなかった父親と会うケースや、子供が別居親に対して強い精神的な負担を感じている状況などが考えられます。面会交流が子供にとって負担となる可能性が高いため、第三者の付き添いの下で面会をするよう裁判所によって命令されることも、あります。

  

他にも、両親間で激しい感情的な葛藤があり、引き渡しの際に二人が会ってしまうとその場で激しい言い争いが発生する可能性がある、もしくは過去に実際起きたことがあるといった状況が想定されます。やはり子供の福祉に悪い影響を与えますので、この場合も支援者としての第三者が付き添う、もしくはそういった人が送迎をするといった形を採る可能性があります。

  

さらに、別居親が重度のアルコール依存症である、過去に児童虐待の履歴があるといった子供に直接的な危害、もしくは連れ去りのリスクが生じるケースでも同様です。特にこうしたケースでは、付添人は交流している時間も常に親子の様子を見守るなどして、問題が発生しないような対策を取る場合があります。

  

これらのどのケースにおいても、単に面会交流の付き添いをするだけでなく、父母への教育や相談、面会交流の具体的な設定などが専門のスタッフによって行われます。どの程度の期間こうした支援がなされるかを裁判所が判断し、面会交流のみではなく、指導、相談がセットにして提供されます。

5 交代監護の困難さ

父母が同じように子を養育するという交代監護は、共同親権の行使を考える上でとても重要なポイントで、離婚時には交代監護をすることを希望する両親が一定数いるのです。う膜行く場合もありますが、その後実際に行ってみると難しいと感じて、監護は単独となってしまう事例も多いようです。

  

5-1 交代監護による養育の限界が生じるケース

交代監護が当初うまく行っていたとしても、家庭環境が変わることもあります。最も大きな変化としては、再婚を挙げることができるでしょう。親と子供だけで暮らしていたところに、新しいパートナーが入ってきます。場合によっては再婚相手にも子供がいて、ステップファミリーとして大きな家族構成の変化が生じることもあるのです。子供にとっては心理的な負担が強い変化となります。

  

また、片親が仕事の事情などで引っ越しをする状況の変化も考えられます。両親の自宅の距離が離れ、物理的に行き来するのが難しくなりますし、同じ学校に通えなくなります。

  

5-2 養育費の負担

養育費の分担について、明確な法律上のルールはなく、ほとんどは父母で合意をして取り決めます。完全に近い形で共同監護がなされているのであれば、養育費の支払いがないこともあります。単独監護としているものの、同居親の財産や給与が大きく、別居親の経済的能力が低い場合にも養育費の支払いを求めないとするケースも見られます。原則として、監護の負担割合や双方の財産状況を比較して、対等に負担をすることとなっています。

  

6 ドイツの制度から学べるもの

見てきたように、ドイツは原則、共同親権(共同配慮)となっています。

  

とはいえ、それは監護時間とは別のことであって、共同親権でも共同監護は行われず面会交流のみというケースの方が実際には多いです。

  

いずれにしても、離婚後の親権の認定や行使については、ドイツでは、子供の福祉を最優先させた判断がされていることが、ポイントです。

  

日本ではこれまでは単独親権のみがみとめられていたので、離婚時に親権者を決めなければなりませんでした。今般、法改正で共同親権を選ぶことはできるようになる見込みです。

  

ドイツでは、共同配慮のケースが現実には多いものの監護時間が半分というような事案は多くなく、主たる監護をしている親は母が多いというのが実態のようです。

  

また、ドイツでは継続的に父母が教育をされる制度があったり、葛藤が高い場合には支援が継続的にあるなど、父母を支える制度が日本とは異なって用意されているという差が認められます。

  

親権制度においては、あくまでも子のために制度があるという点が重要ですが、ドイツではそのために父母が共同配慮をストレスなくできるように、少年局などの仕組みが利用されていることがわかります。日本の今後にとって参考になるでしょう。