遺言書について

遺言が無効かもしれない・・・・こんなとき、どうしたらよいのか?そもそも、どんな遺言が無効なのか?

遺言があるのですが、私は遺言が無効かも・・・と疑っています

でも、遺言のまま早く財産をもらいたいという気持ちもあります。そういうとき、どうしたらよいのでしょう?そういう場合について、弁護士松野絵里子がそのような問題をどう解決してくれるのかについて、ここではご説明します。

1. 遺言の確認

まずは、資料とともに遺言を弁護士に見せましょう。弁護士が相続について知識のある弁護士であれば、遺言と相談でみた資料を基礎に、どのような方法で解決できるのかという大まかな話をしてくれるでしょう。

事案が複雑である場合、最初の相談でそこまで説明がされないこともあるでしょうが、受任前にどのようなことをして解決するつもりなのかについては、依頼者としてきちんと理解する必要があります。当事務所では、どのような争点が考えられるかとか、具体的にどんな手続になるのか、ご説明をしています。

たとえば、遺言があるけれどどうしてもそれが有効であると考えられないというご相談の場合、遺言を有効として遺産分割協議なり調停をしてしまう選択と、そうではなくて、遺言無効をまず確定させたいので、そのための訴訟を先に行うという方法がありえます。

2. どういうとき無効になるのか?

遺言の方式に不備がある場合

民法上できまった方式と異なる方式で作成された遺言は無効です(民法960条)。

自筆証書遺言は、方式のきまりが多く、不備が原因で無効になってしまうことが多いものです。

自筆証書遺言の方式とは

それは民法968条1項が決めているのですが、以下のルールです。

  • 全文が自書であること。(他の人が書いていないこと)
  • 日付や氏名の自書
  • 押印

もっとも、平成31年1月13日施行の改正法によって、「全文の自書」の例外として、相続財産の全部または一部の目録(財産目録)については添付するときは、その目録は自書しなくても良いことになりました(民法968条2項)。しかし、目録の毎葉に署名と押印が必要なので気を付けましょう。

遺言書には自筆証書遺言のほかに、公証人が作成する公正証書遺言があります。これは、原本は公証役場で保管されますし、公証人が確認するので不備があることはあまりないです。

さらに、本人が署名・押印して作成した遺言書を封筒に入れ、封印して公証人及び証人2名の前に提出して、内容を隠しておける「秘密証書遺言」がありますが、手続きが大変なので、あまり使われていません。

 内容が不明確な場合、無効になります。

遺言書の内容が確定できない遺言は無効となりますが、遺言者の最終的な意思を尊重するようにするので、できる限り有効となるように裁判官の解釈がなされています。一見すると内容が不明確であっても、いろいろな事情から遺言者の真意を解釈して内容が確定できるなら、遺言を有効となります。

内容が公序良俗に違反している場合も、無効です。

公序良俗に反する内容の遺言は無効となります(民法90条)。公序良俗違反の例は、遺贈が不倫関係の維持や継続を目的としているような場合です。

もっとも、遺言は故人が自分の意志で死後の財産の承継のあり方を決めるものですから、自己の財産の処分が公序良俗に反するとされる場合は、なるべく限定的にしようとされています。

裁判例に現れた事案では、遺言者と不倫関係にある者に対する遺贈が公序良俗に反しないかが争われたものが多いようです。不倫関係の維持継続の目的の有無や、相続人の生活基盤が脅かされるか否かといった事情から総合的に判断され、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきであるとするのが判例の立場です(最高裁 平成15年4月18日)。

ただし、不倫相手へ遺贈する内容の遺言が、公序良俗無効であることはないです。

<判例の紹介>

不貞相手の生活の保全のための遺言

最高裁の昭和61年11月20日判決では、遺産の三分の一を包括遺贈する内容の遺言について、「不倫な関係の維持継続を目的とせず、もっぱら生計を遺言者に頼っていた不貞相手の生活を保全するためにされたものというべきであり、また、遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえない」として、公序良俗で無効ではないと、しています。

<判例の紹介>

妻の暮らしを脅かすような内容の遺言

そのあとの判例では、遺言をした人が、高齢で病身のため収入がない状況にあり、各別の資産を有していないのに、不貞相手は職を持ち生活できるだけの収入を得ていたという事実関係で、それまでの協力や今後世話してもらうことに対する感謝の気持ちから包括遺贈したものであっても、遺言の内容が妻の生活を脅かすという事情があるとして、遺贈は公序良俗に反して無効であるとしています(東京地裁 昭和63年11月14日判決)。

<判例の紹介>

すべてを弁護士に遺贈した遺言について

遺言者は高齢で判断能力が減退しており、遺言者から遺言作成の相談を受けた弁護士が、遺言書作成に至るまでの行動は、遺言者の判断能力や思考力、体力の衰えや同人の孤独感などを利用して、依頼者の真意の確認よりも自己の利益を優先し、弁護士としてなすべき適切な説明や助言・指導などの措置をとらず、かえって誘導ともいえる積極的な行為に及んだといえると判断しました。そこで、著しく社会正義に反するとしました。弁護士は、社会正義の実現を使命とし、誠実義務及び高い品性の保持が強く求められているのに、高齢及びアルツハイマー病のため判断能力が低下するなどしていた遺言者の信頼を利用して、合理性を欠く不当な利益を得るという私益を図ったというほかないので、「全体として公序良俗違反として無効といわざるを得ない」と判断しています(大阪高裁 平成26年10月30日判決)。

認知症など遺言能力がない状態で作成された場合

遺言能力がない状態で作成された場合も無効です。代表例は、遺言当時に認知症であった場合です。認知症である場合、当然に遺言が無効になるわけではなく、症状の程度によって、深刻な認知症であるから遺言能力なし、という判断になることがあります。

遺言能力は、遺言という法律行為をなすに必要な意思能力のことですが、15歳に達した者は遺言をすることができるという年齢要件があるので、その年齢に達していないと遺言能力はありません。年齢の条件を達した場合、必要な遺言能力がどのくらいの判断能力であるのか、民法上明確な定義は存在しません。

そもそも法律行為に必要な意思能力は、画一的基準で定められませんので、個々具体的な法律行為の内容・性質により、当該法律行為に求められる能力は相対的に定まると解されています。

そして、遺言能力としての意思能力も、法律行為としての「遺言」の特性から、遺言の内容に応じてその要求される程度が変わります。遺言能力の判断は、医学的判断を尊重しつつ裁判所が行う法的判断ですので、医師の診断書で決まるのでもありません。行為者の能力の一般的・抽象的な判定と、特定の意思決定(当該遺言の作成)に関する行為者本人の理解の程度がどのくらいであったのかという判定で、判断されているようです。

「遺言当時、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足る能力」と言われていますので、遺言の内容によっても結果が異なってきます。その能力は遺言を作成したときの能力のこととなります。

遺言者の年齢・心身の状況、遺言時及びその前後の言動、遺言者と受贈者との関係、遺言の内容とその理解度などの諸事情を総合的に考慮して判断されます。よって、訴訟では、そういった関連事実を丁寧に立証していく必要があります。

錯誤、詐欺、強迫により遺言がなされたときも無効です

錯誤、詐欺、強迫による遺言は取り消すことが可能です(民法95条、96条)。裁判例において問題となることが多いのは、勘違いの場合の錯誤です。しかし、錯誤による無効は認められるケースは非常に少ないでしょう。

*平成29年5月に成立した改正民法前では、錯誤に基づく意思表示は「無効」と定められていましたが、改正後民法(平成29年法律44号)の原則施行日である令和2年(2020年)4月1日より前にされた遺言(遺言の作成日が施行日よりも前である場合)については旧法が適用されます。つまり、(2020年)4月1日より前にされた錯誤に基づく遺言は無効となります。

詐欺や強迫は、すでに遺言者が亡くなっていることから主張されることがほとんどなく、問題となることは少ないでしょう。

偽造された場合遺言は無効です。

偽造された遺言書は、当然「自書」ではないので、無効です。

さらに、遺言書を偽造した人は、相続人となることができません(民法891条5号)。

遺言書を勝手に開封しても無効になりません。

封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができないというのがルールです(民法1004条3項)。誰かが、勝手に開封しても無効になるわけではなく、5万円以下の過料に処されるだけです(同法1005条)。

3. 遺言書を無効にしたい場合、取るべき手続きとは?

遺言書の無効を主張する手続きは、交渉(遺産分割協議)、調停、訴訟の3つです。

遺言書の方式による違いはなく、自筆証書、公正証書、秘密証書のいずれであっても同様です

交渉とは話し合って遺言が無効であることを確認する方法です。

調停は裁判所での話し合いです。これらは話し合ってかい決する方法です。

もっとも、無効かどうかを関係者が合意できることはあまりないので、訴訟をするのが通常です。

4. 遺言の無効を主張して戦うのかの選択について

遺言無効については立証がかなり大変です。亡くなった方が深刻な認知症であったという証拠があるとか、他の証拠がかなりある場合であっても、確定判決をもらうには二年程度は少なくともかかりますので、そこまでやるのか、また、証拠関係から勝訴可能性が半々くらいであるようなときどうするのか、そう

遺言が無効だとしてもさほど自分に不利益でないなら、そのままにするとか、証拠がないのであきらめて遺言を前提に協議をするとか、選択肢はいろいろあります。これは、現実的に考えていく必要がありますね。

遺言が無効であると考えているが、まずは遺産分割調停をやってみて合意ができるか試すという選択も、現実的な方法であり、有効でしょう。

5. 遺言をそのまま執行してもらいたいとき。

遺言について無効かもしれないけれど、時間がかかるのでそれは主張しないで、遺言の通りに財産がほしいということもあるでしょう。

遺言執行者(ご長男などになっていることが多いです)が、きちんと遺言の執行をしてくれないという場合なら、代理人弁護士は執行を促していくことができます。あまりに遺言執行者に問題があれば、解任するという方法もあります。

相続させるという遺言であれば、登記は相続人で可能であるので、登記というできることから進めるということもできます。

遺贈の登記を遺言執行者が進めてくれないときには、遺言執行者から理由を説明してもらって、代理人弁護士として、適切な対応を考えます。

【まとめ】遺言があるとき、弁護士が取ってくれる手段

  • 無効を主張する
  • 有効なものとして遺言執行者には早く執行するように促す(問題がなにかを執行者からきく)
  • 有効な遺言として、必要な範囲で遺産分割調停または協議をはじめる

6. 遺言で、自分の相続分があまりに少ないとき、何ができるのか?

貴方の相続人としての権利は、生前贈与とか遺言(遺贈)などによって侵害されていることがありえます。

つまり、あまりにもらうものが少なくなっているときが、あるのです。

なんでお兄さんだけ家も預金もすべてもらって、自分は500万円のワンルームマンションだけなのか?と怒って相談に来られる方がいます。

こういうときには、遺留分が侵害されていることが多いので、遺留侵害請求という請求をすることで、問題を解決していきます。

遺留分の事件は「訴訟で解決するべき」とされています。なので、生前贈与、遺贈によっても遺留分侵害の事実がない場合だけ、遺産を分けるための遺産分割事件(これは、「乙類審判事項」といわれます)として、家庭裁判所においてまずは調停で話し合い、それから審判で決めてもらうことになります。

遺留分が侵害されているときには、簡易裁判所又は地方裁判所に対する民事調停、家庭裁判所での家事調停、地方裁判所での遺留分侵害請求訴訟で解決することになります。

通常は、まずは家庭裁判所で調停を試みてから、訴訟を提起することになるでしょう。いきなり訴訟を提起するのではなく、まずは家庭裁判所で調停をしなければならないのが原則となっているからです。でも、調停をせずに訴訟を提起しても、事件として受理はされるのでやってしまうということもありますが、裁判所の判断でやはり調停に付される可能性があります。

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