退職金の財産分与や離婚後の年金については、権利として認められていますので諦める必要はありません。日本では、退職金や年金について、離婚実務で判例法ができています。よって、離婚で不利にならないように、複雑な計算や手続きは弁護士に任せつつ、しっかりと自分の権利を守りましょう。
「熟年離婚」という言葉がある通り、長年結婚生活を送ったのちに離婚にいたるという夫婦が多くみられます。退職金が支給されるのを待ってからの財産分与を希望する人が多いというのが、一因だと思われます。特に、長年専業主婦(夫)だったという人は、年金分割に加えて経済的な不安を感じないように、退職金の分与も、しっかりと受けておきたいものです。
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1. 支払われると分かっている退職金は財産分与の対象
そもそも退職金というのは長年の労働に対して支払われる給与類似のものであり、その労働は配偶者の支えがあってのものともいえます。退職金が離婚前に支給されるとそれが預金となり分与されますが、タイミングの違いで決して少なくない額の退職金の分与が受けられたり、受けら
れなかったりするのは、本来おかしな話ということになります。
そのため、未だ支給されていない退職金も、実務的には財産分与の対象となっています。支給後に受け取る場合とは違って条件はありますが、確実に受け取れるような退職金は分与を請求する権利が認められています。
将来的に支給される退職金が財産分与の対象になるかどうかのポイントは、支給される可能性がどれだけ高いかということです。例えば、対象者が未だ若く、退職金規程がないような会社の場合、確実に支払われるかも分からない退職金ですから、これを財産分与の対象とすることはできません。
規則が明確であるか、別居時に退職していたらいくらもらえたのかが明確である場合かとうかが、判断基準となります。会社の就業規則に退職金について定められていない場合にはですから、分与は難しいということになります。まず、離婚ケースを多数扱ってきた弁護士に相談し、財産分与が受けられそうか確認することをおすすめします。
2. 支給予定の退職金の分与の割合は交渉で決まる
退職金が財産分与の対象として認められた場合、そのうちいくらを受け取ることができるのかが新たな問題になります。通常、夫婦の共有財産は折半が原則です。ですが退職金の場合は折半の前に、配偶者が退職金を得るのに貢献した期間から財産分与の対象となる金額を定めなくてはなりません。
より詳しくいえば、勤務日数全体から婚姻前の日数と別居後の日数をひいた期間を明らかにし、全体に対するその期間の割合分の退職金の額を導き出す必要があります。会社に勤務した期間が30年、うち配偶者が生活を共にして支えてきた期間が20年であれば、退職金の3分の2が財産分与の対象となります。
財産分与は折半という原則はありますが、将来的に支給される退職金に関しては厳格な決まりはなく、調停では、夫婦二人の話し合いによるところも大きいです。もちろん双方が納得できない場合には裁判へと発展してく可能性もありますので、早めに交渉のプロである弁護士に相談することをおすすめします。
退職金は支給予定の場合だけでなく、すでに支給された退職金を使ってしまった場合もトラブルになることが予想されます。基本的に無くなってしまった退職金は財産分与の対象外ですが、相手が個人的な浪費で使ったと認められた場合は、財産分与の際にそのことが考慮される可能性もあります。決して諦めることなく一度弁護士に相談してみてください。
3. 専業主婦(夫)の権利を守ってくれる、離婚時の年金分割制度
専業主婦(夫)がもう一つ不安を抱く問題は、仕事をして保険料を納めるということが無かったために、年金の受給額が少ないということではないでしょうか。夫婦のうち外で働いていた人は厚生年金を満額受け取れるのに、家庭を守り相手を支えていた人はその恩恵に与れないというのは公平ではありません。年金保険料の支払いは配偶者の支えがあってこそ可能なのです。
現代では専業主婦(夫)が離婚で不利益を被ることがないよう、年金の受給においても特別な措置がなされています。平成16年から導入された年金分割制度では、離婚後に年金の一部が分割できるようになったのです。正確には婚姻期間中の保険料納付の実績が分割されるということになります。離婚後に配偶者に支給される年金の半分をもらえる制度だと誤解されやすいのですが、あくまで相手の保険料納付の実績を分割して、自身の年金記録とすることができる制度だと覚えておきましょう。
なお、この制度の対象となるのは厚生年金と共済年金のみで、国民年金はここに含まれません。配偶者が自営業やフリーランス、農業に従事していた場合は分割制度を利用することができないということを覚えておいてください。さらには配偶者が保険料を払っていた期間、保険料の免除期間、合算対象期間が25年以上でないと、そもそもの受給資格が発生せず分割しても意味が無いことになってしまいます。
4. 年金分割の2つの制度、合意分割と3号分割
年金分割には合意分割と3号分割という2つの制度があります。合意分割と3号分割の最大の違いは、分割について相手の合意が必要かどうかという点です。年金の分割については特に、保険料を納付していた側からの反発が想定されるので、話し合い無しに分割が受けられるのは専業主婦(夫)にとっては非常に安心といえるでしょう。
2008年4月1日以降の離婚に関しては3号分割、それまでの離婚は合意分割という区分けがなされています。3号分割には、相手の合意は必要ありません。請求に必要な手続きさえすればスムーズに2分の1の年金分割が受けられます。問題になるのは合意分割です。こちらの場合は2分の1など明確な割合は定められておらず、双方の話し合いによって決めるものとされています。
注意すべきなのは、2008年4月1日以降に離婚した場合でも、2008年3月31日までの婚姻期間中の分については合意分割が適用されるということです。4月1日を境に合意分割で分割割合を決めるべき期間と、無条件で2分の1の分割が受けられる期間とに分かれることになります。また3号分割の対象となる第3号被保険者とは、20歳以上60歳未満であることが条件です。同じ専業主婦(夫)でも20歳以前や60歳以降の婚姻期間については合意分割の対象となるので注意してください。
3号分割であれば相手に同意してもらう必要はありませんが、合意分割については話し合いによって割合を決めなくては請求の手続きへと進むことができません。双方の話し合いで決着がつかなければ、最終的に裁判によって分割割合を決定することになるので、自分だけで問題に対処することはかなり困難になってきます。
年金分割を請求することができるのは、離婚後2年以内です。年金に対する自分の権利を守るためには、離婚後の忙しい時期でもスピード感のある動きが求められます。退職金と合わせて早めに弁護士と打ち合わせをしておけば、弁護士が有利な事実をきちんと整理して、相手との話し合いや裁判の場においてもしっかりと主張してくれるので安心でしょう。
5. 交渉が苦手であると諦めないで、弁護士に相談して不利益を防ぎましょう
自分はうまく交渉できないから、退職金や年金は自分ではなく相手に支給されたものだからといって、分与を最初から諦めていた人達が多くいるかもしれません。
ですが日本の司法では、退職金や年金に対する夫婦のそれぞれの権利もしっかりと認めています。
支給予定の退職金の分与などはより複雑な交渉が必要となりますが、法律の専門家である弁護士のサポートを受ければ堂々と自身の正当な権利を主張できるでしょう。