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1. 財産分与の前渡しが認められた事案:奈良家庭裁判所平成21年4月17日審判のご紹介(家庭裁判月報62巻10号61頁)
この事件は、夫が、妻に対し必要とされる婚姻費用を上回る金額を払っていたところ、超過分は事後的扶養というべき財産分与の前渡しであったと解された事案があるので紹介します。財産分与の前渡しがあったので、現時点で分与すべき財産は、超過額を差し引いた差額分であると裁判所が判断したというものです。
ご相談者によっては、離婚をしてもらうためにたくさんのお金を払ったのに、離婚をしてもらえないで困っているという方が結構います。そういう方にとって意義のある判例なのでご紹介します。年金分割の割合を0.5と定めていたが、別居後の保険料は共同して負担したとはいえないことから、年金分割を認めなかった事例でもあるので珍しいものです。
2. 事案の概要
当事者は昭和47年×月×日に婚姻し,昭和48年×月×日に長女,昭和51年×月×日に二女をもうけた夫婦です。離婚は裁判でしており、平成20年に離婚裁判が確定しています。
妻は、平成17年に夫に婚姻費用分担分担を求める調停を申し立て,月額20万円を支払うことを合意する調停が成立し、平成20年には、調停が不成立となったので財産分与年金分割の審判移行があった事案です。現在の家庭裁判所で離婚裁判が扱われる前の事案です。
妻は、婚姻後専業主婦であったのですが、宗教活動にのめり込み、年間1000時間以上の伝道活動をするようになって、朝食昼食を準備し夕食の支度をしてから聖書の勉強会に行くなどしてこの活動が不仲の原因となったようです。
夫は、退職を平成6年にし、退職金として1030万3700円の支払いを受け他の勤務先に就労したが、平成6年から実家で生活しつつも年間合計で平成6年は252万円程
度・平成7年度には246万程度と言うように、相当に高額の金額を送金していました。
3. 払いすぎていた婚姻費用についての裁判所の判断(前渡し)
賞与については「申立人は,相手方が平成6年から平成11年までに賞与として計1675万2813円を受領しており,その後も同程度を受領していたから平成19年分までを合計すると4294万2149円に上り,これも分与対象財産であると主張する。しかしながら,別居後両名は前記1(4)のとおり,多少の事務的やりとりがあったほかはほとんど没交渉だったのであり,別居後の相手方の収入に申立人の寄与があったものとみることはできず,上記額が分与対象財産であるとはいえない。」として、別居してからの賞与は財産分与の対象ではないとしました。
宗教活動があった点は、裁判所は、同居していた時期の分与対象財産に対する寄与は原則どおり2分の1とみるべきである。としました。しかし、夫は、妻に対して、別居後過大な婚姻費用を送金してきており,財産分与の前渡しとみるべきであると主張しましていたので、その点については、以下のような判断をしてます。
「平成6年の別居時,長女は既に成人していたけれども,相手方の収入も平成8年以降は1000万円を超えていたのであり,相応の婚姻費用を分担すべき義務があったものである。申立人は,相手方との婚姻後別居までの間は無職だったのであり,別居後当然に賃金センサスの平均賃金相当の稼働能力があったとみることはできず,申立人の収入が0であったとして,標準算定方式により相手方が支払うべきであった婚姻費用を検討する。別居後二女が成人に達する平成8年までは相手方の収入も728万円,979万円,1004万円程度であり,表12によると月額14~16万円,18~20万円を支払う必要があった。平成9年以降は相手方の収入も1100万円を超えていたので表10によると月額16~18万円,年額でも216万円程度を支払う必要があったところ,前記1(2)のとおり平成17年×月以降は月額20万円の婚姻費用分担を合意している。しかしながら,相手方は上記のとおり月額20万円,年額240万円程度を支払う必要があったのに対して,前記1(4)のとおりこれを上回る婚姻費用を分担してきたのであり,その超過額は(平成8年までは二女が未成年であるから算入せず,平成11年の不足分は控除し,平成17年×月以降は調停での合意に従っての履行であるから算入しないとしても)計454万円余に及ぶ。これは,事後的扶養というべき財産分与の前渡しの意味を有しているとみることができる。」と。
つまり、裁判所は判断して本来の婚姻費用を超えて払っていた部分を財産分与の前渡しと解釈したのです。
本来の婚姻費用を多めに払っても通常は敢えて婚姻費用を多く払ったと認定されて、取り戻しができませんが、この事案では、金額が相当に多額であり生活費名目で送っていたわけでもなかったので、財産を先に渡してきたと判断したものです。
4. 年金分割についての判断(一部阻止・拒否が認められた)
年金分割の対象期間(離婚までの期間)における保険料納付に対する夫婦の寄与は互いの協力によるものとされるのが通常です。裁判所も「別紙1の情報通知書にかかる保険料納付期間は,相手方が平成6年×月×日までのAに勤務していたものであり,この間申立人と相手方は一応同居して生活していたのであるから,その年金分割の割合は前記(1)のとおり0.5とするのが相当である。」としています。
しかし、「別紙2の情報通知書にかかる期間は、平成6年×月×日以降の相手方が△△へ勤務していた間に保険料が納付されているのであって、この間申立人と相手方は・・・没交渉で、共同生活が再開されることは期待できない状態であり、しかも申立人は相手方から・・収入に照らしてもやや多めの婚姻費用分担額を受領していたのである。この間、被保険者たる相手方が負担した保険料につき、申立人が保険料を共同して負担したものであるとみることはでき」ないとして特別の事情がある場合と判断し年金分割をこの時期については認めませんでした。
5. まとめ
この判例は
- 別居してから送金した金額が多額であったので、それを婚姻費用ではなく財産分与を前渡ししたと判断した点
- 年金分割の割合を50%とせず、没交渉であった時期は除いて一部阻止を認めた点
この2点において、珍しい判断であるので、ご紹介しました。






