家族信託とは、自分の財産を管理する権利を親族に委託できる制度のことです。障害のある子をお持ちの両親なら、自分と子どもの死後の財産の行方を事前に決めておくことができるなど、有利な面があります。制度に詳しい弁護士を探しておきましょう。
財産を親族に管理する権利を委託できる制度のことを、「家族信託」といいます。
誰でも元気な時は、自分の希望通りに財産を管理し、相続についても設計できると考えるものですが、誰しも認知症になり得るわけであって、常に計画通り物事が進むわけではありません。そんな時に利用できる制度として家族信託は便利なのですが、まだそれほど浸透していないのが現状です。
成年後見制度に代わり、今後、ますます多くの人たちに利用されると期待されている制度ではありますが、具体的にどのように利用される制度なのでしょうか。障害のある子をお持ちの方にもメリットがある制度ですので、家族信託の概要や利用方法などを確認しておきましょう。
1. 相続にも役立つ家族信託制度のメリット
家族信託で何ができるかというと、自分の財産を親族の誰に管理してもらうか、および、自分の財産から発生する利益を親族の誰が受け継ぐのか、といったことを早めに決めておく制度のことです。
ここで「早め」というのは、判断能力がしっかりしている自分が元気なうちということです。高齢化社会がますます進行している現在にあって、誰しも認知症になる可能性があります。認知症になると、判断能力が衰えて自分の財産すら自分で管理できなくなることもあり得ます。そんなリスクに備えて、元気なうちに自分の財産の管理を親族の誰かにお願いすることができる制度を家族信託といいます。
家族信託が便利なのは柔軟なところです。自分が死んだ後に、たとえば大事にしているペットを誰が保護するのかなど、管理方法を決めるなど遺言のようにも利用できます。その他にもさまざまなことをあらかじめ決めておくのに便利です。
なかでも注目したいのが、障害を持つお子さんがいる方の活用例です。障害のあるお子さんをお持ちの方は、自分が元気なうちはいいけれど、今後、「年老いて認知症などになってしまったらどうしよう?」と心配は絶えません。また、誰もいずれは亡くなってしまうわけで、「子どもをどうやってサポートしていけばよいか不安でたまらない」という人も多いことでしょう。そんな時に家族信託を利用することで、子どもに財産を残すことができます。
たとえば、両親が70歳代で、40歳代の障害を持つ子どもがいるとします。夫が先に死んだ場合、その財産は妻に相続されますが、その妻が亡くなった後は、子どもが財産を相続します。ところが、障害のある子どもの場合、その人が亡くなった後、財産をどうするかというのは、その人自身が決められません。
親としては、子どもがこれまで世話になっていた施設に寄付したいと考えていたとしても、親の死後、そして、子どもの死後のことまでは管理できなかったのが今までのことでした。これまでの場合、財産は自動的に国庫に帰属されます。
ところが、家族信託を利用することで、両親の死亡後、さらに、子どもの死亡後に、財産がどのように相続されるかをあらかじめ決めておくことができます。
その財産の管理は親族に依頼することになります。生前の元気なうちに信頼できる人を選び、財産の管理をお願いしておきましょう。
家族信託にはおもに3種類の手続きがあります。
一つは、委託者・受託者と別々に存在しており、その双方で信託する内容を決めて契約を締結する方法です。これは委託者と受託者の二人の間で決めることですので、裁判所や役所などに手続きをする必要はありません。
先の例は委託者と受託者が別人でしたが、それが同一人物の場合もあります。その場合も信託契約ができるのですが、その行為を「信託宣言」というのです。これは、自分の財産をどの範囲で信託するかあらかじめ指定しておき、その財産を他の固有の財産と区別して管理する方法です。これも一人で手続きすることが可能ですが、時間や労力を要しますのでなるべくなら弁護士などの専門家に依頼した方がよいでしょう。
もう一つの方法が公正証書化することです。公正証書にしなくても信託契約はできますが、公正証書にすることによって、その信用性や正確性が担保されます。ただ、その場合は専門家に依頼することになるので、費用がかかることは知っておきましょう。
では、具体的に家族信託にどのぐらいの費用がかかるのでしょうか。公正証書にする場合、まずは公証役場に確認してみましょう。信託したい財産に不動産が含まれるのかどうかなどによっても変わってきます。
たとえば、不動産を信託する場合、その固定資産税の評価額の約0.4%、土地を信託する場合は、固定資産税の評価額の約0.3%が信託にかかるおおよその費用です。
また、受託した人が財産をきちんと管理しているかどうかを監視してもらうために、信託監督人を依頼する場合もあります。その場合、信託監督人に支払う報酬も発生しますので注意しましょう。ただ、これはそれほど高額ではありません。
2. 相続財産を家族信託する前に確認しておきたいこと
家族信託はさまざまな利用の仕方ができますが、いくつか注意しておきたいことがあります。まず、家族信託で信託される財産とは、誰かに信託したとしてもそれは委託者のものであることに変わりありません。したがって、その財産を贈与した時には贈与税が発生しますし、相続人が相続した時には相続税も発生します。つまり、家族信託によって節税効果は期待できないということです。あくまで財産管理のための制度であることを理解しましょう。
また、家族信託をした人が、本人の代わりにあらゆることをできるようになるわけではありません。入院や施設への入所などの手続きをするには身上監護権が必要です。家族信託にはそこまでの権限はないので、必要ならば成年後見制度も併用するようにしましょう。
家族信託は自分たちでもできますが、時間と労力を考えるとやはり専門家に依頼する方が賢明です。ただ、弁護士や司法書士なら誰に依頼しても大丈夫というわけではなく、家族信託に強い専門家を見つける必要があります。まだ十分に制度が浸透していないため、それに精通した専門家も限られる状況です。したがって、専門家に依頼する時には、家族信託に強い信頼できる人を探すことに尽力する必要があります。
また、実際に手続きを進める前にもう一度確認しておくべきこともいくつかあります。まず、家族信託とは自分の財産を誰かに委託する制度ですから、その委託する人が信頼に足る人物かどうかしっかり考えなければなりません。
家族信託で委託された人には財産を自由に管理する権限が与えられます。もし信頼できない人に委託してしまったらトラブルの元です。たとえ親族であっても、本当に信頼できる人かどうか十分に吟味しましょう。
家族信託は柔軟に利用できますが、果たして何を目的に利用したいのか、その目的をもう一度確認しておくべきでしょう。なぜなら、家族信託のせいでもらえるはずの財産がもらえなかったなど、相続人の間で不満が出てきてしまう可能性があるからです。制度を利用する目的を明確にし、そのことで相続人や受益者にどのようなメリットが生まれるのかといったことをよく理解してもらう必要があるのです。
あと、信託財産の種類もよく考えましょう。現金、株式、不動産、どの財産を信託するかによって管理のやり方も違ってきますので、事前に決めておくことが大切です。また、まだ元気なうちから開始するのか、判断能力が衰えてからなのか、信託の開始時期も決めておくとよいでしょう。
家族信託はまだ十分に浸透している制度とはいえないので、わからないこともたくさんあるはずです。専門家であっても誰もが精通しているとは限りません。少しでも利用する可能性を感じるのであれば、早めに家族信託に詳しい弁護士や司法書士を見つけておきましょう。