遺言書が法的効力を持つには、家庭裁判所の検認が必要です。自筆の遺言を見つけたり、受け取った場合は、相続を始める前に必ず裁判所へ持ち込んで検認してもらってから執行します。なお、検認を怠った場合は法的に罰せられますので注意しましょう。
遺品整理をしていると、机の奥の方にエンディングノートや有価証券などがしまい込まれていることがあるでしょう。そして、高級な封筒に封印を施した遺言書が見つかることもあります。
もし、遺言書を見つけた場合は勝手に遺言を執行してはいけません。相続トラブルの元にもなりますし、法的に罰せられる可能性もあるので注意しましょう。一般的には遺言を扱う機会などあまりないことですが、一度は遺言書の検認(法的効力の有無の確認)についてある程度の理解をえておくことは良いかもしれません。
1. 遺言書は裁判所で検認して効力の有無を確認しましょう
ご家族の方が亡くなられた場合、故人の財産をどうするかという話が出てくることでしょう。一般家庭では法定相続の形で遺産分配をするか、相続者同士が協議して平和的に遺産を分配することもよくあることです。
ただし、故人も自分の財産の使い道をいろいろと考えていることでしょう。生前に家族間で話し合いをしていれば問題ありませんが、時としてご家族には内緒で遺産の分配方法を決めていることもあります。そのような場合、生前中に遺言書を作成し、その遺言書を弁護士に預けておくことがあります。また、公正証書遺言といって公証役場に保管していることもあります。
このように法的に正しく作成された遺言書は問題ないのですが、自筆証書遺言(自作の遺言書)を机の引き出しや金庫にしまってあった場合は注意が必要です。
※なお、令和2年7月より「遺言書保管制度」によって法務局へ自筆証書遺言の保管依頼が可能になりました。
遺言書はどなたでも作成することができますが、遺言書に法的効力を持たせるためには、裁判所の検認を受ける必要があります。
民法1004条では「遺言書(公正証書遺言を除きます。)においては、相続開始後に遅滞なく家庭裁判所へ検認を請求しなければならない」とあります。公証役場で作成した公正証書遺言と弁護士事務所などで保管されている遺言書に関しては、既に検認が済んでいますから必要はありません。
ですが、それ以外の自筆証書遺言は必ず家庭裁判所へ提出して、その有効性を確認してもらわなければなりません。しかも相続開始と同時に検認を受け、その上で遺産分配を行うことが義務付けられています。
この検認手続きを怠った者は、事情によっては罰金を科せられることもあるので注意してください。また、検認を受けていない遺言書で遺産分けを行った場合も同様です。この際に課せられる過料は5万円以下とされています。
なお、遺言書に押印がない遺言書でも法的効力がありますが、検認を終えてからでなければ、その効力を発揮させることができません。つまり、検認前に遺言内容を知っているからといって、それをもとに遺産分けを行うのは問題があるということです。また、しっかり封印されている遺言書は、検認前に開封してしまうと問題になりますので、気を付けましょう。
このように、裁判所による検認を法的に義務付けている理由は、相続人全員に対して個人の意思を的確に伝える手段を提示するため、そして偽造や捏造を排除して個人の財産を法的に守るためです。
家庭裁判所で審議してもらうと聞けば、そのための書類の用意や申し立ての手続きが猥雑で面倒だと思う方も多いことでしょう。確かに簡単な作業ではありません。どこか一つでも手違いがあれば、手続きの修正を命じられたり、裁判所に誤った判断をさせてしまうというようなリスクもあります。
そこで、検認申し立てが難しいと感じた方は、専門の弁護士事務所などにサポートしてもらうのが良いかもしれません。
次に検認手続きの流れについてですが、遺言書の検認は故人の最後の住所があった地域を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。もし相続人が遠方に住んでいたとしても、検認申し立てのために管轄の裁判所へ出向かなければなりません。
ただし、この申立ては代表者一人が立ち会うことで成立します。また、検認申し立てが裁判所に受理されると、裁判所の方から検認の日付けが相続人全員へと告知されます。ですから検認の申立てには、必ずしも相続人全員で出向く必要がありません。代表者一人でも事足りるでしょう。
検認作業としては、裁判所が遺言書を開封し、内容について法的見地から確認作業が行われます。そして検認の結果を表す検認調書が作成され、遺言書に検認済みの承認印が押印された遺言書が申立人へと返還されます。
なお、検認結果はすべての相続人に対しても公示されますので、立ち会わなかった相続人は裁判所からの連絡を受取ることができます。以上で、検認手続きは完了です。
検認手続きで家庭裁判所へ提出する書類は次の3種類です。
一つは家事審判申立書で、被フォーマットは各裁判所のホームページからダウンロードすることができます。そして相続人の当事者目録が必要です。こちらもホームページよりダウンロードして作成すると良いでしょう。
また、相続人全員の戸籍謄本と戸籍の附票も提出します。なお、遺言作成者の出生より死亡までを明記した戸籍謄本も忘れずに用意してください。
それから、書類提出には検認費用となる収入印紙と、相続人へ郵送するための切手が人数分必要です。これらの必要書類をそろえて、管轄の家庭裁判所へ申立ての手続きに出向いていってください。
遺言書検認の申立てをすると、その日に検認の日時が告知されます。一般的にはひと月程度を待つことになるでしょう。そのため、遺言内容が確認できるまで(検認結果が出るまで)は、具体的な遺産分配を見合わせるのが賢明でしょう。
そして、検認当日には裁判官と裁判所書記官が立ち会って検認します。遺言書を持参してきた人には、裁判官より『遺言書のあった場所・保管状況』に関して質問があります。また、検認手続きに参加した相続人には,遺言が書かれている文章の筆跡や、押印された印鑑について故人のものかどうかの質問もなされます。
もちろん、正確な判断ができないこともあるでしょう。質問にはわかる範囲で返答すれば問題ありません。
さて、検認結果を待つまでの間、事前に負債が財産を上回るなどの事情によって相続放棄を申し立てることができます。また、相続税申告(相続開始より6カ月以内)の期限については検認の状況にかかわらず、定められたとおりに行わなければなりません。ですから、検認申し立ては即座に行う必要があるのです。
2. 遺言の検認手続きにお困りの方は弁護士事務所を頼ってみましょう
このように、遺言書の検認申立ては法律的に厳格に行われますから、一般の人にはちょっとハードルが高い申立てになるかもしれません。特に、相続人全員の身元を明確にする作業は難航することがあります。確実に相続人全員を明らかにするために、他に法定相続人が存在しない事実を戸籍謄本などから証明することも必要です。
そこで、検認申立書の作成から各相続人と被相続人の戸籍謄本などの用意、検認期日の調整や検認当日のサポートは相続専門の弁護士事務所に依頼すると良いでしょう。
法的な手続きは手間暇がかかるものですから、平日仕事をしている人にはたいへんな作業になるので、負担を省けます。また、そのあとでもめそうである場合には、この段階で弁護士をつけておくと早く問題の解決ができます。
検認後の具体的な遺産の手続きについて、法的見地からのアドバイスを弁護士にお願いするもできて、不安がなくなります。
*なお、検認のために裁判所に同席することについては、弁護士にはその資格がありますが、行政書士と司法書士にはその資格がありません