親権・監護権

子供の親権を勝ち取るためには、どうしたらよいのか?親権は勝ち取るべき対象??という視点から、弁護士松野絵里子が解説します。

1. 親権を勝ち取るということを考える前に!親権はだれのため?

離婚したいと夫婦の一人が思ったとき、小さいお子さんがいるとどうしても大きな悩みは親権でしょう。

親権を失いたくない!

朝起きて子供がいない暮らしなんて嫌だ!

という叫びに近い気持ち、これは男性にも女性にもあると思います。男性の場合でも、親権をとりたいという依頼者はとても多くなっています。

女性が浮気をして子どもの面倒を看ていないとか、女性も仕事が忙しくて普段の子どもの養育はほぼ折半しているとか、そういう夫婦もたくさんいます。

これまではステレオタイプで、お母さんが親権を獲得する、親権争いに勝つと考えられてきましたが、もはやそうもいかなくなっています。

一方で、経済力がないから妻には親権は取れないと勝手に思い込んでいる男性もいますし、妻を暴言で追い出せば親権がとれるのだと、どこかのサイトで書いてあることを実践してしまう男性もいます。

反対に、女性の方でも、自分は経済力がないからあきらめるしかない、夫は親権をあきらめないといつも言っているから、離婚したいと言いだした自分があきらめるしかないという思い込みで、相談に着た時もうあきらめているような人もいます。

そういった親たちの紛争の中で、実は子供は忘れ去られていることもあります。

2. 親権は子供の利益のためにあることを忘れない!

親権紛争で誰よりも傷つくのは子供ではないでしょうか?

親権は、子の利益のために行使されるべき権限と義務です。これは、子の監護・教育、財産管理など、子のしあわせのために必要な行動を親が行うことをするべき職責です。

それは、奪い合うものでしょうか?

これまで、日本では離婚したら、単独親権となるしかありせんでした。それでも離婚しても、子が父母との関係をうまく続けられているケースもありましたが、過半数は別居親との関係を継続できていません。

その背景には、やはり、親権は離婚したらひとりの親が持つというルールが影響していたのでしょう。

わが国では親権紛争、親権争いは、勝つか負けるか、ゼロサムゲームでした。そこで、大人はその勝負にへとへとになり、子どもの笑顔をどう維持するのか、余裕がなくて、考えていられなくなります。

あるいは浮気した相手への憎しみでいっぱいで子どものことを考える余裕がない、お金を払わない相手への怒りで子どもの笑顔を維持する方法なんて考えられないで、いつもお金のことばかり考えているという、親たち、たくさんいます。それも、事情を聴けば仕方がないことも多いと思うのですが、犠牲となるのは子どもです。

3. 子どもの視点

ここでは、子どもの視点を忘れないで「親権争い」の法的側面、親権争いに勝つにはどうしたらよいのか、子供に最善の結果をどうやって早期に実現するのかについて考えてみたいとおもいます。

貴方が男性でも女性でも、親権を獲得したい、親権争いに勝ちたいと考えているとしたら、自分は子供のために長期的になにができるのか?という観点で自分を見つめ直してみてはどうでしょう?

男性の相談者にときどきある例として、「親権をとりたいのです。絶対に!」と言っているのに、子どもの保育園をどうやって見つけるのか、シングルファーザーになってどうやって会社から解雇されないで、子供を毎日育てられるか、全くアイデアがない人がいます。そういう人は実親にサポートしてもらうなどということが多いのですが、現実には、いつから来てくれて、どこに住むのかというような具体的な計画を考えていない、親がかなり高齢で長期にサポートを頼めないという場合もあります。

そして、実母に相談してみると「母に話したが、妹の子供を今は看ているしパートもしているし父もいるので、親権紛争のために東京には来れないといわれあ」などと、数日して連絡してくる人もいます。

自分で育てられる!という人でも、では、毎日の計画をかいてくださいと(裁判所にだす陳述書の様式が当事務所にあって穴を埋めてもらうような形で完成させるのですが、全くできないひともたくさんいます。子どもの生活のルーチーンがわかっていない方ですね。)

そうかと思うと、男性でもとってもしっかり子を理解していて、朝起こして寝るところまで、細かくすらすらすぐに書ける人もいます(そういう人は、親権紛争が勝てる可能性がありそうな方です。)

「親権を獲得する」というよりは、子どもにどういう生活をさせてあげるのが、子どもの幸福なのかを、親が、ひとりひとり何ができるのかを考えるのが、まず先にあるべきでしょう。そして、本来、父母が関係を維持して育てるべきところで、婚姻が破綻して方向転換を求められているという認識を、親がするべきでしょう。

本来は、親権争いをすることにエネルギーを使うのではなく、自分ができることを示して婚姻破綻の後の親としての職責を担う方向性を模索するべきなのです。もっとも、日本ではそういった方向性の模索を、家庭裁判所も主導をしてきていませんので、なかなか難しいという現実はあります。しかし、民法が改正されたことで、そういった方向性の模索をするようにと、変わってくる可能性があります。

4. 親権の内容(親権とは?)

親権争いの前に、親権を理解しよう親権争いをする必要があるのかを考える前に、親権を理解しましょう。親権は、まず民法第818条に下記のように定められています。

民法818条

1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。

3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

ここでわかるのは、親権というのは成年に達する子どもが対象だということと、結婚している期間は、父も母も共同して親権を持っているということです。

では、親権とはどんな権利なのかというと、不思議にも民法にその内容を定めた明確にした条文がないのですが、一般的には、親権は、身上監護権と財産管理権からできていると整理されています。

身上監護権:

難しい言葉ですが、子を養育して、しつけていく権利であり責任です。民法820条は、親権者が、子の監護及び教育をする権利を有し義務を親権者が負うと定めていて、身上監護の中核です。監護教育権といわれます。

他の内容は、子供が一定の行為をするときの親の同意・代理権(民法737条。775条、787条、804条)とか、子供が暮らす場所を決める権利(821条)、子どもの職業について許可する権利(823条)というようなものです。

親権争いにおいては、親は子どもと一緒に暮らしたい、そばにおきたいと思うので、民法821条、822条などの権利(責任)を自分が独り占めしたいというのが、親権争いが起きる理由です。

財産管理権

これはおわかりでしょうけが子どもの財産を管理する権限です。例えば、おじいさんの遺産の不動産を子供がもらったときその不動産の管理は親がするわけです。こういうことは現実には、相当の富裕層であればありえますが、あまり離婚事件の親権争いで問題になりません。

1) 監護教育権(820条)

親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し義務を負う(820条)。監護教育権の基本的内容を定めた包括的規定です。、親権のうち子の監護に関するものです。監護は、肉体的な成長をはかるものとともに、精神的成長をはかるためにもあります。

子どもの医療に対する親権者等の同意権(医療同意権)は、この身上監護権の一部です。よって、医療措置に関しては共同親権では父母の同意が必要です。

2) 居所指定権(821条)

これは、子は、親権者が指定した場所に、その居所を定めなければならないというルールです。親が子を養育するのには、指定した場所に子が住んでいないと、監護権の行使が事実上不可能となるから認められています。

親権者は自由に子の居所を指定できますが、子どもの心身の発育に悪影響を及ぼすような場所の指定は、権利の濫用となります。子が親権者の指定した場所にいなくて、第三者の下にあるときは民事訴訟により子の引き渡し請求が可能です(祖父母に預けたら、戻してもらえないようなとき)。でも、子の自由意思により実母や祖父母の下にとどまっているとされると親権への妨害はないため、民事訴訟の妨害を理由とする妨害排除請求はできないとされています。子が小さい場合には、自由意思でとどまっているとは解されません。

もっとも、児童虐待等の事実があって、子が児童福祉施設や里親の下で生活している場合には、親の居所指定は認められないこととなります。

3) 旧懲戒権(822条)(旧民法)

これは、削除されています。親権者は、必要な範囲で自ら子を懲戒できるという条文でしたが、平成23年民法改正前の規定では家庭裁判所の許可により入れられる「懲戒場」の規定があったのですが、平成23年民法改正(平成23年6月3日法律第61号)により懲戒場に関する文言も削られています。

4) 職業許可権(823条)

子について職業をもつことについて許可する権限です。ここでいう「職業」は営業のほか他人に雇用される場合も含むもので、営業を許された未成年者はその営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有することになります(第6条1項)。親権者は営業許可を取消したり制限したりもできます(第6条2項)。どんなに低年齢な未成年者であっても親権者は許可することができることになっていますが、児童福祉法などの他の規制には服します。

5) 子の代理権

一定の身分行為につき親権者に法定代理人として代理権が認められています。認知の訴えについては民法787条、十五歳未満の者を養子とする縁組の承諾については、民法797条が定めています。

本来は自己決定に関する事項であるから、子が決めるべきことですが、子は、しかし未熟なので子の利益のために、代理権が認められています。

6) 財産管理権

親権のうち子の財産に関する権利で、「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する」とされています(824条本文)。子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならないとされています(824条但書)。この民法第824条本文の「代表」は、実質的には代理のことです。

親権とはこういった職責のことです。

では、あなたはなぜ、親権争いをして親権が欲しいのでしょうか?

権利との関係で、考えてみたらどうでしょう?

5. 親権者に関する権利行使ルール

親権は、離婚までは、共同親権の原則があります。これは婚姻している親のルールですが、「親権は父母の婚姻中は父母が共同して行う(共同親権の原則、民法818条第3項本文)」というルールです。通常、子にとって父母双方と密接な関係を維持して、二人が共同で決定をすることが子の最善の利益につながるとみる考えにたっているもので、また、父母双方が対等に子の養育の責任を負うべきであるとの意味でも、あるのです。

父母の意見が一致しない場合については、これまでの日本の民法は規定を置いていませんでしたが、令和5年の民法改正でその整備はされています。

通常は、子の実父母は、共同して親権を行使するのですが、ひとりが親権を行使できないときや、両親が離婚したときには、単独親権となる(民法の改正で、令和7年春の施行によって、離婚しても共同親権となることがあるようになっています。)。

改正民法については「共同親権とは」の記事もお読みください。

6. 共同親権の例外

例外的に、母または父の一方による単独親権となる場合があります。まずそれは

一方が親権を行うことができないときです。

父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が親権を行う(818条第3項但書)という条文があるのです。「親権を行うことができないとき」というのは、は法律上行使できない場合として、親権喪失の審判、親権者の辞任、親権者に成年後見の審判・保佐開始の審判があった場合などがありますが、他に、事実上行使できない場合として親が行方不明となっている場合、服役している場合、重病を患っている場合などがあります。

父母の一方が亡くなった場合(失踪宣告を受けた場合も含む)には、単独親権となりますし、双方ともに亡くなった場合には、後見が開始するとされています(838条第1項)。

また、離婚した場合には民法では単独親権になりますが、上記の通り改正民法で離婚しても共同親権を親が選ぶことができるようになりました。また、裁判所は離婚判決や審判で父母双方に共同親権を指定することも可能になりました。

7. 離婚と単独親権・共同親権

このように、離婚すると、親権者をひとりにすることができます(改正前は、単独親権にしなければなりません)。親権の決め方は、協議によって親権者を定める(819条1項)という方法があります。親権者は、父または母のどちらか1人、または、改正後は双方となります。

この協議が調わないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求によって、協議に代わる審判(調停)をすることがありますので、審判によって親権者がきまることがあります(819条5項)。しかし、通常、審判では決定がされず、協議で決められないときには、裁判で決めます。裁判官が、決定によって親権者(単独親権)を定めるのです(819条2項)。そして、改正民法によれば、裁判所が父母に親権を認めることも、可能となります。

子どもが複数いる場合は、個々の子供について協議で合意ができますので、分けることもできます。

8. 調停離婚の場合

日本における離婚の90%を占める方法は、協議離婚です。これは、夫と妻双方が協議したうえで離婚届を提出すれば成立する方法で簡単です。離婚届提出の際、未成年の子供がいる場合は、親権者を決めないと届けが受理されません(しかし、改正後は親権を離婚の後で決めることもできるようになります)。

しかし、親権につき争いがあり、話し合いがどうしてもつかない時は、協議離婚の方法はとることができませんので、まずは家庭裁判所で離婚調停を目指すことになります。

というのも、いきなり裁判で争うことはできないからです。日本の制度では、調停前置主義を取っていて、まずは調停をしましょうというルールがあります。法廷で争う前に、調停の場で話し合いを行わなければならないというルールがあるのです。

9. 調停離婚と親権

調停で親権を決める場合の流れは、以下のようです。

  1. 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをします。
  2. 調停期日が決まります。
  3. 第1回期日では、それぞれの意見を言います。
  4. それ以降の期日では、それぞれが相手に面会交流を認めるなどで、合意ができるかを検討していきます。
  5. それでも合意ができないと、調停不成立となり離婚訴訟をいずれが提起して訴訟で決めることとする(令和7年の改正法施行後は、離婚だけを先にすることができます。その場合、裁判官が親権者について審判で決めることになります。)

調停は、1か月に1回程度のペースで進み、親権での対立が続くと話し合っても無理だということからだいたい3回程度で終わります。

親権での対立を解決する方法は以下の方法があります。

  1. 共同親権とする
  2. 片親が親権をもつが、他の親には親子交流を認める

離婚調停でかかる費用は、申し立ての費用として2000円程度ですが、親権紛争がある場合双方が弁護士をつけることが多いので、双方が弁護士費用を負担します。

<子の利益と親権紛争:解決のポイント>

子の利益の観点からは、調停でなんとか親権紛争を解決するのがベストです。というのも、子どもは親が紛争をしていることに気が付いていますし、親は自分が子どもと暮らしたい、子の親権を取りたいと考えてどうしても子どもを自分の味方にしようとしたり、子どもに一定のことを秘密にするにしたり、相手の親のことを「悪い人である」「あの親と暮らしたら幸せになれない」「貧乏になる」というような情報を与えがちです。

どんなに、そういうことをすると子どもにとって悪影響であるとわかっていてもやってしまうことが多いのです。

ですから、子の心の傷を最小にするには、なるべく紛争の期間を短くして話し合いをまとめることが大切です。そのためには、自分が子どものためにできることが何かを冷静に考えて、それを相手に伝えましょう。

また、相手がどういう親でありどういう強みを持っているのかも理解して、双方の親が子どものためによりより役割を果たせる方法を模索しましょう。夫婦カウンセリング的な専門家をつかってそういう話をすることも有用です。また、過去の恨みを手放すことで未来志向になることも大切です。過去は変えられないけれど、未来は変えられます!それを忘れないことです。また、自分は変えられるけれど相手を変えるのはとても難しいということもよく頭に入れておくとよいでしょう。

そういった観点から子の利益を考えたアドバイスをしてくれる弁護士をつけることも有用です。

10. 離婚調停や裁判で、父親が親権を取ることはありますか?

現状では、離婚調停や裁判において親権を獲得するのは母親の方で、その割合は8割以上に上ります。

データから見ると、父親が親権を獲得する事案は多くはありませんが、令和7年の改正民法施行の後は、共同親権の合意をできる夫婦もでてくるものと予想されますので、父も親権を維持する割合は激増するでしょう。

また、これまでの監護実績がある、子が父親と住むことを希望する、父母で話し合って(改正法が施行したら)共同親権とする合意ができるというような場合、父親の離婚後の親権獲得も十分に、可能性があります。共同親権の合意ができるかは、双方が、相手の言い分に耳を傾けられるかによると思います。

離婚に至る夫婦は、離婚の前から別居をしていることが多いのですが、親権紛争がある場合、別居そのものがなかなかできません。子を連れて家をでるのは、緊急避難のような状態でないと違法行為となる可能性があるからです。特に、民法の改正で急迫の事情が必要とされているので、その点は明確です。

よって、別居時において仮の「共同養育計画」(後述します。)とか親子交流の約束をしないと、スムーズに別居に向かうことができないでしょう。そういう点からすると、離婚しても親権なり共同親権を望むのであれば、別居寺にそういった離婚が決まるまでの期間の約束をしておくことが、将来の問題解決につながります。ですから、離婚の協議をしたいといわれたときに、冷静に相手の話を聞いて、そういう合意ができないかを模索することは、その後のあなたの親権獲得とか、共同養育の実施を可能とする一歩となるでしょう。

11. 調停や訴訟(審判)で、親権問題を解決するには

まず、調停というのは話し合いの場です。ですから、裁判所が判断をするのではなく、相手が納得できる方法(共同養育提案)を提案できれば、親権問題を調停で解決できるのです。

どうしたら納得できる提案ができるか・・・・それはとても難しい問題ですが、後で、共同養育計画として、ご説明します。

12. 裁判での判断の場合

審判や、離婚訴訟では、裁判官が親権をきめます。改正法により、2026年より、裁判官が父母双方を親権者と判断できるようになったことは、すでに書いたとおりです。

裁判で親権が決定されるとき、重要視されることは何でしょうか?現在は、改正法が施行されてないので、実務は積みあがっていませんが、以下のようなことが言えるでしょう。

1) 子の利益はどうやったら実現できるのかという視点

裁判官は、子供の幸せにとっては父母のどちらに親権を持たせるのがいいのか、双方を親権者とすることが良いのか、という点で親権判断をすることになります。ですから、子の視点で親としての職責を果たしていこうとする親には親権が認められる可能性が高まります。

2) 裁判官の視点

裁判官が、それを見極めるための具体的な検討の項目は、どんなことでしょうか?まず、裁判官は、子と誰が主に住んで暮らすべきかを検討するでしょう。そのとき、検討するのは以下のようなことだと思われます。

  • 子どもに対する愛情と関係性
  • これまでの監護実績
  • 監護時間がどのように確保できるか(監護計画が現実的で説得的か)
  • 経済的な安定性

こういった点が検討されますので、父親でも勤務時間が長くない、在宅でフレックスに働けるような人は、経済力があってそれまでの監護において主たる役割を果たしてきたのなら、今後、一緒に住む親としてよい候補になるでしょう。

その上に、どういうことが検討されるでしょうか?

これまでは、裁判官は一人の親に決めればよかったので、現状で主に子ども暮らしている親に親権を与える判断をしてきました。そのため、子を連れ去って親権を確実にしようとする親がたくさんいたのです。(改正法の施行でそれがどう変わるかは、まだわかりませんが、緊急避難ではないのに、子を連れ去った場合に家庭裁判所がそれをマイナス評価する方向にはなるでしょう)。

共同親権の選択肢が出てきたことから、その子どものために親二人がどういう関係性を維持できるのか、それを基礎に、が最も子が幸福となる選択を、裁判官は検討するでしょう。

一人の親が決定権を握って他の親は親子交流をすればよいのか、二人の親が親権をもち大事なことは話し合って決めつつ、子どもの養育にも双方がかなりの関与をする方が良いのか・・・・・そういう観点から決めることになると思われます、単独親権者を決める場合より、多様な方向からの検討が必要となるので、簡単な判断ではありません。というのも、共同親権ではその父母の責任分担の方法が多様だからです。多様な選択肢から、選ばなければならないため、裁判官に専門性も必要となります。

家庭裁判所が、民法改正において、マンパワーを増やすべきであるとか、リソースが足りない、判断ができるのか不安である等といわれるのは、最終的なこの親権判断をできるだけの十分な調査をするには、調査官のレベルアップや専門性が必要ですし、一事件に対して使うべき時間もこれまでに比較して数倍にはなるでしょうから、人数の増強も必要です。あるいは、弁護士が子どもの代理人となって子どもの視点から、親への忖度なく意見を述べる制度も必要でしょう。

また、裁判官は、調査の方法をどうするか、その結果をどう判断で利用するかという点で高い能力が必要となるため、裁判官も専門性が必要になってまいります。

13. 民法改正後の親権紛争

では、これから、民法の改正親権が欲しい親はどうしたらよいでしょうか?

これは全く弁護士松野絵里子の個人的な意見ですが、父母が協力できるという点をきちんと説明できる父親・母親、そしてその監護の実績のある親、今後の監護に具体性があり父母の協力について積極的である親が、親権判断で「有利になる」と思われます。

というのは、父親だけとか母親だけに親権を与えることについて(おそらく母親だけに与える以上に、父親に単独の親権を与える場合には)、子の利益から、それが本当によいことなのかという視点で、裁判官は慎重になると思われるからです。

その場合、父親が子と住む選択をするのであれば、母親と子の関係が断絶されないという点が確認できることで、父に単独親権または共同親権を認める可能性が高まると考えられるからです。

また、これからの子どものためにどういうことができるかという視点をもっていること、それを示せることも重要でしょう。なぜなら、親権判断は、未来のためにあるからです。裁判所にとって、過去の情報は、未来のために使うものなのです。

子どもが低年齢であればあるほど、母親と暮らす方が適当と判断される可能性は高いので、子の年齢や自分の働き方によっては、現状では母が子と住むことでかまわないが、自分は共同親権を有して、子どもの重要なことに関与をしていきたいという考えを示すのも、子の利益を考えた父親であるという評価につながるかと思います。中学受験の時の塾の送り迎えを分担したいとか、進学の話し合いでもつれたら母の意見を優先するという約束をするとか、いろいろな解決方法を示すことで、子どもを優先する親であることが示せると思われます。

親権判断では、10歳を超えた場合、子どもの意思が重要ですが、子どものほうでは明確に親を選ばないことが多いようです。「このままでも問題ない」「どちらでもよい」というような回答になることが多く、子どもは気を使っているという印象をもつことが多いです。子は、親を選ぶようなことをしたくないのですから、むしろ今後、父母にどんな関係であってほしいのか、そういう点をこれからは意向調査で質問するようになると良いのではないか、と思っています。

14. 離婚の原因と親権の関係

家庭裁判所では、離婚原因と親権の問題は、別々に扱われているので、不貞をした女性だから、親権者になれないということはありません。親権は、子の最善の利益という観点から、今後どちらが親権者となって同居して子の養育を担うのがよいのかと言う視点で、決められています。

ですから、浮気等の不貞行為を行った母であっても、それまでの監護に問題がなく、今後の監護計画にも問題がない場合、母親が親権者に指定されることが多かったといえます。しかし、不貞相手と住居も定まらないような暮らしをしているような場合は、監護計画が適切ではないので、親権判断では母親でもマイナスになり、父親が親権者となることもあるでしょう。

15. 親権が取れなかった場合

父親の場合は、やはり結果として親権が取れない場合も出てきます。そういう場合でも、充実した面会交流権を確保するようにしましょう。多くの親権を取った親は、他の親と子が会うことを嫌がる傾向があります。しかし、現在の家庭裁判所では親権判断においては、面会交流について前向きであることをかなり重視しておりますので、親権を決める時点でしっかりとした面会交流のルールを決めるべきでしょう。

親との交流をすることは、子供の権利です。ですから、双方の親は、子が交流をできるように協力するべきです。連絡を取ると紛争になりやすいなら、支援機関の連絡調整を使うことで、将来の紛争を防ぐことができます。

離婚する当人同士の話し合いでは、面会交流権はたいていの場合、とてもうやむやで、不明確になっています。そのため、実施されなくて後で困っている方が、たくさんいます。

その点、専門的弁護士の助けを受けて家裁の調停でしっかり決めることで、より良い内容での面会交流をルール化することにつながり、その後の実施もスムーズになります。

実際に父親が親権をとれた過去の事例(共同養育を含めて)

当事務所では、父母の共同養育を合意で実現するという活動をしており、合意によってそういった共同養育が実現できた例は、多くあります。

多くは、監護者指定の事件において、父親の監護実績が認められているような場合に、母を監護者とすることに合意して、それと同時に相当の交流を約束して和解的解決をしたというものです。

また、監護者指定事件の中で、子が、これまでの学校に行きたいということで住む場所は父の家となるようなこともあります。そういった場合に、母との交流を頻繁にできるようなアレンジをすることで、父母の和解的解決が可能となりますし、家裁もそういった和解的なアレンジについてはサポートをしてくれます。

監護者指定で父親が監護者に指定されるケースは、監護環境が整っている場合、母の過去の監護に問題があったことが明確である場合、母の疾患や経済状態、住居状態などから、今後の監護能力や監護計画に不安があるような場合かと思われます。

しかし、子がすでに母と住んでいるような場合には、いかに監護環境を整えても、母の監護が安定していることから、監護者に指定されないことが大変に多かったのが、過去の経験としてあります。ですので、上記の通り、面会交流の実施を約束して監護者の指定については和解的解決をすることが、現実的によりよい選択になっておりました。しかし、今後は民法改正で「監護分掌」という選択もできたので、監護を分担するという和解的解決はかなり多くなるように思っております。

16. 「共同養育計画案」とは

海外先進国では、親権を親の権利と言うよりは親の養育責任ととらえて、ペアレンティングプラン(養育計画)と父母がつくることが、離婚後や別居後に、一般になっています。

海外法制度ではそもそも離婚時に何らかの裁判官関与とか弁護士関与を不可欠として、適切な養育のプランができているのかを、確認する制度がある国が多いのです。それは、離婚・別居による子の不利益をなるべく少なくための子を保護する施策なのです。

残念ながら日本では、子を離婚時に政策的に守る施策はほとんどありません。というのは、協議離婚であれば親が合意しさえすれば、養育費も親子交流の約束もなくても、離婚ができるからです。さらに、裁判所での調停離婚でも「養育費を決めていないから離婚できません!」という権限が調停委員会としてあるわけではありません。

しかし、父母が子どものことを考えて、今後のルールを作りそれを双方が守って子の成長にそれぞれが役割を果たすことは可能ですので、共同養育計画を作ることが有用です。もちろん、これは双方が養育についてきちんとした責任をとるつもりがあり、その能力もある場合にのみ有用となるので、責任感を持って提案して相手の意見もよく聞いて、作っていきましょう。

当事務所では英米で一般に作られているようなプランを日本の調停条項の形で作成して、共同養育計画を調停成立時に合意するためのサポートを、してまいりました。事件によっては、家庭裁判所裁判官が当事務所の案を基礎にして、裁判官の案として提案してくださるというようなこともございました。

よって、共同養育計画を作って合意をしたいという方は、ぜひご相談ください。

17. まとめ

今回は「離婚時の親権を勝ち取る」ということについて、そもそも「勝ち取ることをやめるべきではないか」ということを含めて、お話をしてきました。

今後、民法改正で、破綻した父母が協力をして、子の利益を守れることがベストであるという方向に、家庭裁判所の実務も変わっていくことが予想できます。

そのための公的支援はまだまだ不十分ですが、親権を失いたくないのであれば、相手になるべく協力的な態度で親権と向き合うことが今後は、求められていくと思われます。しかし、経済面などでの主張はする必要があるので、言うべきことをいいつつ、協力をする姿勢を喪失しないことは大変に困難です。

海外では離婚時に弁護士をつけることを必須とする制度がありますが、子が未成年の場合の紛争解決では、子を守りつつ紛争を解決することに、そういった難しさがあるからではないかと思います。

よて、離婚調停で親権者を争う場合には、専門的弁護士と一緒に進むことをお勧めします。

今後、家庭裁判所調査官は、子供との面談や、家庭訪問、保育園・学校への訪問などを行い、妻と夫の片方が親権者になるべきか、双方が親権を持つことが子の利益になるか、調査官の意見を述べ、裁判官はそれを基礎に判断をします。

「過去にどれだけ子供に愛情を注いできたか」についても重要であるとともに、双方の具体的な監護計画・能力、そして、これまで及び今後、父母がどのくらい協力的でいられるのかも、ポイントになります。

ポイントを理解して調査官や裁判所に主張や資料を出していくことになります(調停が成立しない場合、過去の書類は訴訟にて提出されるのが普通です)ので、専門性のある弁護士のサポートは不可欠でしょう。

弁護士 松野 絵里子

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◆ 海外案件の経験が豊富
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国内最大手での経験を生かし、得意な語学力で複雑な家事事件から英文契約の確認などの企業法務まで経験豊富です。

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依頼者の立場にたち、共に最適な解決を目指して日々研鑽しております。

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