遺言書を書くときに意識しなければならないのが受遺者です。受遺者とは何か、相続人とはどんな違いがあるのかをチェックしましょう。同時に、正しく遺贈がなされるよう、弁護士の助けを得て遺言書を書くべき理由についても見ることができます。
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1. 受遺者とは?
相続に関係した制度や用語の中には、普段あまり使わない言葉が多いですし、なんとなく意味が似ているものがたくさんあります。そのため、しっかりとそれぞれの言葉の意味を理解しておかないと、いらぬ誤解やトラブルを起こすことがあり得ます。その一つとして「受遺者」という用語があります。この語の正しい意味と、詳しい内容をチェックしましょう。
1-1. 受遺者の意味
受遺者とは、遺贈を受ける人のことを指します。遺贈とは、遺言書の中で相手を特定して財産を譲ると指定することを言います。故人の意思を示す遺産分割の方法です。遺言書がない場合は、法定相続人という法律で定められた相続の権利を持つ人に対して、法定相続分での遺産分割がなされます。しかし、遺言書で故人の意思を示すことによって、基本的な分割割合を侵害しない限りは、それを優先して実行することになります。
こうしたことから、受遺者は配偶者や子ども、兄弟姉妹といった法定相続人だけでなく、遠い親族や第三者がなることもあります。法律上遺産をもらう権利を持っている人に限らず、遺言書で指定すれば、受遺者は誰でもなれるということです。
1-2. 特定受遺者
受遺者と一口に言っても、いくつかの種類が存在します。その一つが特定受遺者と呼ばれるタイプです。これは、遺言書の中で、誰に何を譲るかが指定または特定されている場合の受遺者となります。たとえば、特定住所の土地と家屋をこの人に遺贈する、と指定して遺言がなされている場合、受け取る人は特定受遺者となるわけです。そのため、特定受遺者は遺言書で明示されている財産だけを受け取ることになります。法定相続分がない第三者は、これ以外の財産を受け取ることはできません。
1-3. 包括受遺者
包括受遺者というのは、遺贈する対象者は指定されているものの、その財産の内容が指定されていない場合の受遺者です。この包括受遺者には、さらに4つの分類がなされています。
1つ目は、全部包括受遺者というものです。これは、遺言書で特定の一人の人に全ての財産を譲ることが明示されているケースです。当然、不動産や現金、有価証券などの資産を全て受け取る権利を持ちます。ただし、全部包括受遺者はプラスの財産だけでなく、マイナスの遺産も受け取ることになります。もし、故人が借金を残しているのであれば、それも同時に引き受ける必要が出てきます。この際、プラスの財産だけを選択的に受け取って、借金は拒否するということはできません。
2つ目の分類が、割合的包括受遺者です。これは、財産の詳細は指定されていませんが、総資産の割合で遺贈の内容を決めているケースです。たとえば、Aには全資産の半分を、BとCには4分の1ずつを遺贈するといった遺言が考えられます。この場合、資産価値評価額に応じて、遺言通りの割合で分割しますが、具体的な資産の内容は協議で決めることができます。また、プラスの財産だけでなく、借金についても同じ割合で引き受けることになります。
3つ目の分類は、特定財産を除いた財産についての包括受遺者というものがあります。これは、いくつかの財産については遺贈先を特定し、それ以外についてはまとめて他の人に遺贈するとする内容です。たとえば、自宅である不動産はAに遺贈するが、残りの財産は全てBに遺贈するといった遺言の内容が考えられます。このBさんが、特定財産を除いた財産についての包括受遺者として見られます。
4つ目は、清算型包括受遺者というタイプです。これは、不動産などの資産を清算つまり換金した後に、その代金を遺贈することを指します。たとえば、自宅を売却し、その代金全てをAに遺贈するといった形です。この清算型包括受遺者においては、特定の財産だけをこの形に指定することもできますし、全ての財産を売却して、代金を遺贈することもできます。
2. 受遺者と相続人との違いとは?
このように、いくつかの種類に分かれる受遺者ですが、遺言書で遺贈が指定されている人というのが基本的な概念です。こうなると、同じように故人の財産を受け継ぐ相続人と同じように見えます。実際に法律において、包括受遺者と相続人は同じ権利を持つということが定められています。とはいえ、詳細については両者の間にいくつかの違いが存在します。ポイントごとに整理してみましょう。
2-1. 死亡した場合の違い
遺言書を作成してから被相続人が亡くなる前に、遺言書で指定されていた人が先に亡くなってしまうことがあります。こうした場合に、受遺者と相続人の差が出てきます。
相続人については、代襲相続が可能となっています。つまり、相続人が亡くなったら、その子どもや孫が代わりに相続することができます。しかし、受遺者にはこうした権利はありません。受遺者はあくまでもその本人に特定されているのであって、亡くなっても子どもなどに権利を移行することはできないのです。そのため、受遺者が死亡した場合は、自動的に遺贈の効力はなくなることになります。
2-2. 相続放棄が起こった場合の扱い
相続放棄が起こった場合に、自分の受け取る分が変わるかどうかという点についても、違いが見られます。
相続放棄というのは、相続人の誰かが「相続しない」と相続の権利を放棄することです。そうなると、相続人は放棄された分について、いわば割増で受け取れることになります。基本的には、他の相続人と均等に割増されます。しかし、受遺者は相続人とは違い、他の人が相続放棄をしても、自分の受け取る分が増えることはありません。あくまでも、遺言書で指定されている受遺分だけをもらえるということです。
2-3. 個人だけか、法人も含まれるか
相続人は個人しかなることができません。法律で、配偶者と子ども、孫、親、祖父母、兄弟姉妹、甥姪といった感じで、家族関係にある人が明確に指定されているわけです。
一方で、受遺者というのは、遺言書で指定した人であれば誰で良いわけです。それは、法人であっても良いことになっています。さらには、法人格として登録されていない団体でも問題ありません。そのため、遺言書であれば、ボランティア団体や自治体などに、財産を残すことができるわけです。
2-4. 生命保険金の扱い
生命保険金の受取人の指定は、いろいろなやり方があります。一般的には、家族などの特定の人を指定しておきます。これは別に誰でも良いので、受遺者がなることもできます。しかし、生命保険金の受取人として「相続人」と記載した場合は、受遺者は受け取れません。受遺者には相続の権利自体がないためです。こうしたことから、受遺者にも生命保険金を渡したい時には、その名前を明確に記さないといけないのです。
3. 弁護士に相談して正しく遺産の受け取りができるようにしよう
今まで見てきたように、受遺者というのはいろいろな種類があると共に、相続と同じ点もあれば、異なる点があることが分かります。ちょっとした違いで、遺産を受け取れない状況となることもあります。そのため、遺言書で遺贈について書く時には、その関係性をきちんと理解しておくこと、読んだ人が確実に意味を理解できるような文書にすることが求められます。こうした点で、遺言書を書く時には弁護士にアドバイスを求めることが大事です。第三者が見ても客観的に理解できる内容にして、正しく自分の意思に沿って遺贈や相続ができるように、遺言書を作る手伝いをしてくれるからです。