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1. 親が亡くなる前に発生する問題(使い込みと囲い込み)
被相続人の生前から、亡くなってからもらえる遺産を巡って、相続人間の対立が激化してしまって、違法行為をする兄弟姉妹がいる場合というのは散見されます。
例えば、お父さんが高齢で認知症が始まっており長女と暮らしていたが、そのお父さんがある日、長男とそのお嫁さんのところに泊まりに行ったまま帰ってこなくなり、連絡も取れない。
あるいは、ある日、認知症気味の高齢の母が自宅からいなくなり電話しても出ない、住所を調べようと思ったがそれもわからない・・・。
こういった場合、親族の誰かが(多くはその高齢者の子)高齢者を連れて行って老人ホームに入れてしまったているとか、自分の家で介護を始めて他の親族との連絡を取れなくしてしまっているということが、あります。
その上で、そういう親族の誰かは、高齢者の預貯金を管理して毎月、多額の資金を引き出して使ってしまったり、どこかに隠しておいているようなことが、ありえます。老人ホームに入れる場合には、自分をキーパーソンとしてしまって他の親族の面談をできないようにするというようなことも往々にしてあります(もちろん、高齢者自身が一定の親族に会いたくないという場合もあるでしょう)。
2. 財産の管理は誰ができるのか?使い込みをしてよいのか?
こういった場合、本来であれば高齢者でも財産管理権はもっていますから、高齢の父の財産を管理できるのは父自身なのであって、その親族が勝手に使う権限はありません。しかし、高齢となっている親は介護をしてくれる子にすがったり頼ってしまうので勝手に使われてもいやと言えなかったり、そもそも気が付いていないこともあります。
勝手に承諾なく、親のお金を自分のものとしたら「不法行為」となるはずですが、高齢の親が子を訴えることもできずなすがままとなってしまうでしょう。これがもらっていたということなら、相続の段階では「特別受益」ということになります。
高齢の親の判断能力が認知症で低下してくると、そもそも本来は管理することができないので、成年後見制度により本人を守るべきでありますが、高齢の親の資産を使いたい親族は成年後見制度を利用しようとはしません。そして、将来のの相続人のひとり(子の一人)が、高齢の父の通帳や印鑑を預かって引き出しをし、ひどい場合には不動産売買までも実行してしまうようなことさえ、あります。さらに、他の親族(多くはその高齢者の他の子)が抗議をしないように高齢の親を囲い込んで、他の人との接触をさせないようにする段階まで発展することがあります。
3. 囲い込み
このように預貯金を使い込むなどする親族は、「お父さんが怖がっている」「お義母さんは会いたくないと言っている」などと言って、他の親族との面談をさせないようにしている傾向が見られます。老人ホームにもその親族がそのように伝えてあるので、ホームのスタッフも他の親族との面談を認めません。
このようにして、高齢者が囲い込まれてしまうと、他の親族との人格的交流ができなくなり高齢者の最期の時期において、高齢者の人格権が侵害されてしまうのです。死期が近い大事な時期に大事な人と交流できないことは本人にも親族にも不幸なことですが、今の日本の制度ではこの状況を打破することは簡単ではないのです。
しかし、この状態を放置していると高齢者の財産は不法行為で使われてしまって全く財産が残っていない状態になることや施設へのお金が払えない状況になることも、ありえます。
高齢者が亡くなってからは、このような使い込みは不当利得返還請求事件などとして地方裁判所で争われることがありえますが、時間がたっていると時効が成立したり、証拠がないなどでなかなか取り戻せません。
4. 高齢者を、どうやって囲い込みや使い込みから保護するか?
高齢者の判断能力が低下しているとき、その財産が使い込まれてしまわないように、不動産などが本人の意思に関係なく売られないようにするには、成年後見申立による保護がありえます。
成年後見申立をすると、家庭裁判所が、その高齢者の身上監護・財産管理を行うべき中立的な第三者(後見人)を選任してくれて、その後見人が財産の管理をすることになりますので、勝手に親族が財産を使うことを防げます。
後見申立を行う際には必要なのは診断書であり、申立の際には、所定の書式に記入された診断書等を提出することになっています。高齢者の囲い込みでは病院に連れて行くことができないので診断書を添付できないため、申立ができないという問題があります。このような場合、所定の書式の診断書がなくても他の資料等で申立を受け付けてもらえることがあり、鑑定を実施することもあります。
5. 診断書が入手できないと、成年後見の申立ができないのか?
成年被後見人はそもそも、精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人の権利保護のための制度です。家庭裁判所は、精神上の障害によって判断能力が欠くかどうかにおいて判断をする必要があるために医師の診断書を重視していますが、親族間の囲い込みで、医師の診断を受けさせることができない場合に後見人が選任できないなら、結果として不当な行為をする人の妨害行動のために、高齢者の保護ができないままになってしまいます。
そのようなことにならないように、家庭裁判所は、診断書が欠けていて申立資料が不十分な場合でも、審判開始の前に、医師による鑑定や、調査官による調査が行ってくれることがあります。家事事件手続法第109条第1項は「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。」と規定しているので、本来、鑑定は必要な手続きでもあるのです。
現実には診断書で済ますことが殆どであり、鑑定については時間がかかることもありますし費用もかかりますが、弁護士に申立てを依頼して鑑定を申請することで、審判がなされる可能性が高まるでしょう。
家庭裁判所への後見の申立が必要であるのなら、あきらめないで弁護士に依頼をしてみましょう。