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1. 制度概要:DV等支援措置とは?
配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の方が、市区町村に対して住民基本台帳事務におけるDV等支援措置(以下「DV等支援措置」といいます。)を申し出ると、支援の必要性が確認された場合には、申出の相手となる者(以下「相手方」といいます。以前は「加害者」と言われていました。)からの「住民基本台帳の一部の写しの閲覧」、「住民票(除票を含む)の写し等の交付」、「戸籍の附票(除票を含む)の写しの交付」の請求・申出があっても、これを拒否するという措置が講じられるというものです。
こちらに総務省が作成した通知の一覧があります。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/dv_shien02.html

<出典:>養父市役所
各市区町村では、この支援措置の説明がDV保護の関連で紹介されています。上記はある市(養父市)の例です。上記のように、被害者という主張をする人が、警察署などに相談に行きそこで支援の必要性が確認されて、各市区町村に必要性が伝えられ、市区町村がそれを受けて支援措置の実施を決めると本籍地などの関連する他の市区町村に通知をして連携するという仕組みです。
2. 制度の目的
ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者を保護することが目的です。よって、被害者保護という目的は、正当なものといえます。
3. 支援措置を受けたい人はどうすれば受けられるのか?
支援措置の手続きをしたい場合には、市区町村の役所で申請することになります。その申請に「相談機関へ」の相談が必要になり、相談機関とは警察署とか配偶者暴力相談センターなどになっています。
支援措置の申出ができるのは,DV被害者,ストーカー行為等の被害者,児童虐待等の被害者,その他それらに準ずるケースの被害者だけです。
そして、支援措置を希望するひとは、マイナンバーカードや運転免許証等の本人確認ができるものとともに市役所等に行き、被害状況などを説明することになります。警察署等の相談機関への相談の結果は、市役所等からその相談機関へ意見照会を行って確認して、支援措置の決定または不決定の通知書を郵送して知らせるという流れです。
申請書の様式は以下のようなものです。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/1-13.pdf
申出をした人が、上記の「被害者」に該当していることの確認や支援措置を実施する必要があるかについては申し出を受けた市区町村が相談機関から意見を聴取して、確認するという手続きですが、確認の方法は、現実にはいろいろな方法でなされているようです。
- 相談機関等に対して相談をすでに行っている場合
支援措置申出書に当該相談機関等の意見が付されているときは、その意見による
- 相談機関等に対して相談をすでに行っている場合
支援措置申出書に意見が付されていない場合は、当該相談機関等に支援措置申出書に意見を付させ、又は別に意見書を提出させる
- 申出者が相談機関等に対して相談を行っていない場合
申出者が相談機関へ相談し、相談機関等に支援措置申出書に意見を付させ、あるいは、別に意見書を提出させる
- 例外:
保護のため特に緊急を要するときは書面によらず聴き取り等の方法で行う。
4. 問題点
総務省の事務連絡(平成25年10月18日)には以下のような記載があります。
- 申出書の「加害者」欄は、申出者が記載することとしており、その記載に当たっては、疎明資料等を求めることとしていません。
- したがって、保護命令決定を受けるなど、被害者と「加害者」の立場が明確である場合もありますが、申出者と「加害者欄に記載された者」の間の訴訟が係争中であり確定していない事例なども含まれています。
- これは、措置の必要性を判断するために事実関係の確定等を待つこととした場合、その間に申出者の住所が探索されてしまう懸念もあることから、支援措置は、申出内容について、相談機関の意見なども聞きながら、必要性を判断するスキームとしているものです。
- 一般的には、「他人に危害や損害を加える人」という意味で、「被害者」の対義語として「加害者」という言葉が使われることがありますが、支援措置においては、上記のとおりこれと全て一致するものではありませんので、窓口における「加害者欄に記載された者」等へ対応する場合や事務処理要領第 6-10-サに基づき、庁内で必要な情報共有等を行う場合などはご留意ください。
このように、平成25年10月18日においてすでに、この措置においては加害が本当にあったのかわからない段階で、一方のみの意見をきいて資料もないままに「加害者かどうか」の判断をしていることを、総務省が認めています。裁判官が証拠によって判断する手続きではないのです。
現実には家庭内で起きるDVについては証拠がすくないことが多いことは事実ですが、一方で「こういうことをされた」という一方の言い分を聞いただけで、それが真実なのか、その人が「DV被害者、ストーカー行為等の被害者、児童虐待等の被害者,その他それらに準ずるケースの被害者」とまで言えるのかという判断は本来的に簡単にはできないものです。
「事実関係の確定等を待つこととした場合、その間に申出者の住所が探索されてしまう懸念もある」ことから、緊急的に被害者である可能性のある方の住所を加害者である可能性のある方に開示しないような仕組みとしているということだと思われます。
確かに緊急的にはそういった制度が必要であるとしても、その後、迅速に「事実関係の確定」をするという制度がないまま、この支援措置だけが続いてしまって、加害者ではない人が加害者として長期的に扱われるという点には、問題があるでしょう。
かつ、資料がなくても「加害者」という扱いをされるので、客観的に加害者と言えるような行為があったのかは認定をされていない状態が続くまま加害者とされ続け、加害者であるという申し出が虚偽であることや、かなり大げさな申し出をされていることも、相当数あることが予想できますから、一方の言い分だけに行政が肩入れして不当な扱いをされている人がいるという点も、問題です。
また、このDV等支援措置を実施しているという通知がされないので、加害者とされた人には「何が起きているのかすら、わからない」という問題もあり、救済がされないという問題も深刻です。
5. DV等支援措置の「加害者」から「相手方」に呼称を修正
住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)(令和5年11月8日付)
において、以下の通知がされています。
ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置(以下、「支援措置」という。)においては、保護命令決定を受けるなど、被害者と加害者の立場が明確である場合もあるが、申出者と「加害者」欄に記載された者の間の訴訟が係争中であり確定していない場合なども含まれていることから、支援措置において、「被害者」・「加害者」等の表記を「支援措置対象者」・「相手方」と改めたこと。
つまり、DV等支援措置の制度では、申請をしている人の言い分だけをきいているため加害があったのかどうかの確認をできていない可能性が有るため、「加害者」という言い方を改めたということです。
令和5年まで多数の支援措置が実施されている(おそらくなん百万という数でしょう)のですが、加害者であるかわからないのに、なにも疎明資料がないまま「加害者」として行政が扱っていたが、それは不適切なので改めたということなのでしょう。
もちろん加害者とされた人には、女性もいます。
現実に当事務所で扱った子の連れ去り事件では、幼児の母から父が子を連れ去り、母を「加害者」として申請し、家庭裁判所の調査では母には何の問題もなく母が主として幼児の監護をしていたことを認定して子を引き渡すべきであるという結論になったものもあります。つまり、子の連れ去り事案では子の奪い合いが起きており、その中でこの支援措置が悪用される可能性が高いのです。
また、現在、当事務所の相談者に多いのが、高齢の親の住所がこのDV等支援措置の結果、わからず連絡がとれなくて心配であるという御相談です。事案によっては、高齢の親が有する価値の高い不動産が、近くにいる親族の主導で売却されている可能性があるような場合もあります。
6. DV等被害者の支援措置法に基づく登記により不動産売買も可能に
不動産売買による所有権移転登記を申請する場合、DV等支援措置を受けている方は、住所変更登記が必要になるのですが、そうすると登記簿に載って開示されてしまいます。そこでこのような場合、登記名義人の住所の変更登記をすることを要しないとの取扱いになりました。平成25年12月12日付法務省民二第809号通知によります。よって、被害者は、特別扱いを受けており、通常、登記完了後、附属書類などは保管され、利害関係人が見ることができるのですが、附属書類の保管について、その登記申請が支援措置の被害者によってされたことが一見して明らかになるような措置がされています。そして、その被害者と代理人以外の者は見ることができないようになっています。
このように、DV被害者が不動産を売却してその登記を安心してできるようになったのはよいことですが、高齢者が他の親類から遮断され連絡もできない、会うこともできないように囲い込まれてしまっている中、判断能力が低くなっている状態で騙されてしまって安価に売ってしまうというようなケースも考えられます。
当事務所では、子の連れ去りやDV等支援措置に関するご相談(有料)をお受けしています。具体的には相談の予約をおとりになりオンライン又は来所でご相談下さい。