1. ハーグ条約と実施法とは
ハーグ条約の正式名は、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」です。これは条約ですから、国々がルールを決めているというものです。
このハーグ条約は子どもが国外に連れ去られたり、約束の期限に国外から戻されていない場合に、子をもとの国に迅速に返還するための国際的な取り組みの合意です。
たとえば、日本人の親が子を国外から日本に連れ去るとか、日本に戻す期限に戻さないというような、国境を越えた子の連れ去り・留置の発生を防止しようとすることが目的です。ですので、子が元の居住国(「常居所地国」といわれます。)に返還できるようにするための国際協力の仕組みができているのです。
日本は、2014年(平成26)年1月にこの条約を締結し、ハーグ条約に規定されている内容を日本国内で実施するための法律として「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(「ハーグ条約実施法」)が作られています。この法律で、国境を越えて連れ去られた子の返還や国際的な面会交流について、日本国の中央当局である外務省の役割や裁判所における手続を決めているのです。
2. 裁判所が子の返還をする場合
裁判所は、子の返還申立てが以下の事由のいずれにも該当するときは,子の返還を命じなければならなりません。
① 子が16歳に達していないこと
② 子が日本国内に所在していること
③ 常居所地国の法令によれば,当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること
④ 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に,常居所地国が条約締約国であったこと
これについては、ハーグ実施法が以下のように定めているので、裁判所は裁量で子の返還をしないという決定はできません。
(子の返還事由)
第27条 裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない。
3. 裁判所が子の返還を命じなくてよい場合
裁判所は、次の①から⑥に掲げた返還拒否事由がある場合には子の返還を命じないことがあります。
① 連れ去りの時又は留置の開始の時から1年を経過した後に裁判所に申立てがされ,子が新たな環境に適応している場合
② 申立人が連れ去りの時又は留置の開始の時に現実に監護の権利を行使していなかった場合
③ 申立人が連れ去りの前又は留置の開始の前に同意し,又は連れ去りの後又は留置の開始の後に承諾した場合
④ 常居所地国に子を返還することによって,子の心身に害悪を及ぼすこと,その他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある場合
⑤ 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において,子が常居所地国に返還されることを拒んでいる場合
⑥ 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められない場合
ハーグ実施法は、以下のような定めになっています。つまり、裁判所は子どもの状況を考えて裁量で返還をすることもできるのです。(ただし、⑥の場合以外です。)
ハーグ実施法(子の返還拒否事由等)
第28条 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
子の返還決定手続では、申立人と相手方において、早期に的確な主張,立証を行うように求められています。ハーグ条約は子の迅速な返還を実現する国際的取り組みだからです。
日本の法律や常居所地国の法律の知識が必要となってくるため、法律の専門家である弁護士に依頼してないで申立てをすることは困難です。
また、日本の法律のみではなく常居所地国の法律の知識も必要になるので、その国の弁護士と日本の弁護士が連携して進める必要があることもあります。弁護士は受任するとあなたの代理人となって、書面の作成をしたり期日に出頭して、必要な主張・立証活動を行うことになります。
当事務所ではハーグ条約事件の経験が豊富ですので、具体的事案については無料相談をお申込み下さい。