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1. 対象判例:最高裁の遺産分割に関する判例
今回は、「財産分与申立て却下審判に対する抗告一部却下等決定に対する許可抗告事件」という事件を取り上げます。これは、最高裁判所の決定です。
最高裁令和2年(許)第44号・令和3年10月28日・第1小法廷決定というものです(判例タイムズ1495号84頁)
2. 事案の概要
離婚をした元妻と元夫が、それぞれ財産分与の審判を申し立てていた事案で、二つの事件が併合されて審理されていました。二人は、平成23年に婚姻して平成29年8月9日に離婚をしていました。元妻は、令和元年8月7日に財産分与の調停の申立てをして、不成立によって終了し、その事件が審判に移行しました。元夫は、そこで、令和2年3月に元妻に対して審判を申立てていましたが、これは離婚から2年を経過していた時期でした。
3. 家裁・高裁の決定
広島家裁は、それぞれの事件について「却下する」という審判をしました。その後、元夫から即時抗告がされて高裁の決定が出たのですが、即時抗告のうち「元妻が申し立てていた最初の事件」に関しては、却下をしました。(なお、夫の申し立てた事件については、民法768条2項ただし書所定の期間の経過を理由に申立てが却下すべきであったので抗告を棄却しています)。
その理由は、最初の事件において元夫が受けられる最も有利な内容であるから、抗告の利益を有するとはいえないので即時抗告をすることができないという理由でした。
4. 争点と最高裁の判断
高裁の判断とは異なり、最高裁の第一小法廷は別の判断をしました。そして、最初の事件(元妻が申し立てた事件)については原審を破棄して、更に審理を尽くさせるためその部分を原審に差し戻したのです。(元夫が申し立てた事件の判断については、原審の判断は正当としていますが、この事件の争点とはあまり関係がありません。)
家事事件手続法の156条5号は,財産分与の審判及びその申立てを却下した審判(財産分与の却下審判)については、単にも「夫又は妻であった者」が即時抗告をすることができるとしていますので、規定を文字どおり読むと元夫は即時抗告の利益がなくても、財産分与の却下審判に対して即時抗告をすることができるように読めます。
しかし、民事訴訟では判決等に対して具体的な上訴の利益が必要とするというのがこれまでの最高裁の立場でした(最二小判昭40.3.19民集19巻2号484頁)。そうすると、家事事件でも、具体的な即時抗告の利益を必要とするようにも思われるので、問題となったのです。
家事事件は、非訟事件と言われており、非訟事件では「権利又は法律上保護される利益を害された者」はその決定に即時抗告ができます(非訟事件手続法66条1項)。申立てを却下した終局決定に対しては、申立人だけが即時抗告できます(同条2項)。つまり、具体的に、自分が不利益を受けているから「もっと有利な判断をしてほしい」という理由が必要とされます。しかし、家事審判事件は「非訟事件」(同法3条)ではあるものの、家事審判手続についての手続法がありますから、非訟事件手続法の適用はないと理解されています。家事審判事件ではいろいろな影響を受ける者がいてその利益関係も様々であるので、個別にきめ細かく検討するべきことから、即時抗告をすることができる裁判及び即時抗告権者を個別具体的に定めているのです。
この最高裁決定は、財産分与の却下審判について、限定をせず、却下の審判全般に対し,相手方は即時抗告をすることができるとしているように読めます。現実に元夫が財産分与をするべきではないという判断がされたうえでの却下であっても、定型的に元夫に、即時抗告の利益が認められるとする見解を採用しているようです。
この背景には、財産分与の審判の申立てでは、申立人から相手方への財産分与を命ずる審判をすることができるという考え方があるのでしょう。つまり、元妻が申し立てた財産分与事件であっても、元妻が分与をさせられるということがありえるという考えです。次には、この考えについてご説明をしていきます。
5. 財産分与では、自分が申立てても自分がもらえない(払わなければならない)ことがあるのか?
財産分与の審判の申立てでは、裁判所が、申立人から相手方への財産分与を命ずる審判をすることができるか否かに関し明文はないのですが、財産分与請求権の性質という点から肯定することができると思われます。
というのは、財産分与請求権は離婚により当然に発生するのですが、抽象的な権利(抽象的財産分与請求権)に過ぎないと言われているからです。協議や審判等によってその具体的内容が形成されてはじめて、具体的な権利(具体的財産分与請求権)となるのです(最二小判昭55.7.11民集34巻4号628頁)。
そして、財産分与の制度は「夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配」することを目的とするものとされているので、「共同の財産の清算分配を求める請求権」が財産分与を求める権利であるといえるからです。「清算」を求めた結果としての具体的権利が発生するのですから、審理によっていずれが払う方になるかはわからないということでよいのです。
申立人が、財産分与の審判の申立てをして清算を求めていったら、清算した結果としては、申立人が分与義務者になるということもあっても、清算のための制度である以上、問題はないと思われます。手続的にも、申立人から相手方への財産分与を命じられることは法が想定しています。というのは、財産分与の審判の申立ての取下げ制限(相手方の同意が必要)があるからです。
6. 本決定の意義
最高裁のこの決定では、財産分与の却下審判に対して審判の内容等の具体的な事情のいかんにかかわらず、夫又は妻であった者である相手方は当然に抗告の利益を有するという点を判断したので、これまで実務上、不明であった論点が明らかになりました。
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