親権・監護権

離婚後共同親権制度が導入されると離婚後の親権はどう変わる?

日本では現在、単独親権制度を適用していますが、2026年には離婚後の共同親権制度の導入がされます。各国の共同親権事情を参考にしたうえで審理を経て、民法の改正がされ、現在とは、離婚後の親子制度が大きく変化する可能性が有ります。

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1. 日本の親権はこれまでは単独親権が強制されていた

婚姻中の夫婦は、父母どちらもが共同で親権を持っています。これは各国共通することです。海外先進国ではしかし、婚姻していない父母も共同親権を有することがよくあります。

夫婦が離婚すると、未成年の子供に対して父母のどちらが親権を持つか、持てるかはその国の親権制度によって異なり、2026年までの日本では、離婚後は単独親権としなければなりません。先進国では離婚後に共同親権制度を取れる国が圧倒的に多くあります。

では、そもそも、単独親権と共同親権とは何なのでしょうか?

1-1. 単独親権とは?

日本では、改正前(2025年現在)では、夫婦が離婚する時には親権を父母のどちらが持つかを法的に決断しなければいけません。離婚届にもどちらが親権者になるかを記入する項目があり、離婚届を提出する前の段階、つまり離婚が成立する前の段階できちんと親権についての話し合いを行い、合意を得る必要があります。

親権とは、親が未成年の子供に対して持つ親としての権利義務を意味します。子供を健全な社会人として育て上げるための養育や保護、また未成年では難しい法的な手続きをする代理人としての役割を担います。

離婚した後も、一般的には父母が子供の養育に関与することが重要だと子どもの成長の観点から、考えられています。しかし、法的な決断を行う際には、親権を持っている親権者が決定権を持つので、単独親権の場合、親権を持っているひとりが親権を行使できることとなります。一人の親権を有する親がすべての決定をできることで迅速な決定ができるというメリットはありますが、他の親が親権を奪われることから、離婚時の親権争いが激しくなりがちであるという問題があります。

1-2. 日本の親権はどんな権利?

親権が具体的にどんな内容かについては、民法で定められています。

大きく分類すると2つあり、身上監護権と財産管理権とに分けられます。

身上監護権というのは、子供の監護や教育に対して親が責務を持つというもので、子供の居所を決めたり、子供に適切な教育を受けさせる責務を遂行します。

財産管理権というのは、子供が保有している財産を親が代理で管理する権利のことで、法的な手続きを行う際には親権を持つ親が法定代理人となって権利責務を遂行します。子が財産を持つことはあまりないかもしれませんが、祖父母から贈与を受けた不動産とか預金をもつようなことが、あります。

1-3. 単独親権は民法で決められているルール

民法においては、婚姻中は父母が共同で親権を行使するように民法第818条に記されています。しかし、離婚後には夫婦のどちらかが親権者となるようにと、2026年の改正前の民法第819条で規定されていました。改正後は民法819条は、以下のようになります。

民法 第819条

1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。

2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。

3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。

6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。

7 裁判所は、第2項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。

1)父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。

2)父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。

8 第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。

改正前の民法第819条では、親権をどちらにするかは協議で決めることもできますし、協議で合意できない場合には家庭裁判所が決定しても良いと定めていますが、離婚の際には親権がひとりになってしまうことで、氏も親権者と同じくなることが多く、養子縁組も親権を持たない親が関与的ないことから、子の奪い合いが起きて揉めることが珍しくありません。どちらが親権者になるかという争点は、根が深く解決が難しい問題です。

改正後は、裁判所は単独親権にするのか、共同親権にするのかを判断することとなります。

そして、裁判所は次の場合などで、共同親権が子の利益を害すると認められるときは、単独親権としなければならないのです。

(1)父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。

(2)父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。

まず(1)は虐待してきた親のような、子にとって危険な親であるような場合には、該当するでしょう。これは親と子の関係性から判断します。しかし、ここで難しいのは例えば、それまでに同居親が面会交流に対して消極的であってそのために子が別居親を拒絶しているような場合です。表面的な言動では子が他の親を拒否しているが、それが同居親による影響であるというような場合にどうするのか、また、そもそも同居親の不当な影響力のせいなのかを見極めることは困難ですので、家庭裁判所の判断能力が求められています。

(2)は、父母間のDVを問題としている条項です。また、協議が整わなかったことも一つの事情として、父母が協力できそうもない、それなのに共同親権としていろいろなことを一緒に決めさせるのは子どものためにならないという観点から、この条項をつかって単独親権とするということがありえるのです。

父母のDVがあり、その加害者と被害者が常時話し合いをしなければならないことは酷ですが、一方でDVそのものは一時的であって親子関係が良い場合には、この条項を発動させるべきなのか・・・は悩ましいでしょう。

また、協議が整わない場合にはいろいろ理由があります。片親がとにかく共同親権に拒んだだけであることもあるでしょう。あるいは、加害者的な方が支配力を使って強硬的な話し合いを求めたとか、合意をするまで面会交流はしないというような相手の親の人格を無視したような話し合いをしたとか、場合はいろいろありえますから、経緯は丁寧に事実認定することが求められます。つまり、裁判所はそういった経緯を丁寧に拾って、判断することが必要となります。

また、この経緯をみて最終的にどちらを単独親権者にするのがよいのか、という判断をすることにもなるでしょう。これまでは協議経緯を裁判所が判断の対象としてきていませんので、新法では新たな視点が生まれたといえましょう。

1-4. 父母どちらが親権者になるケースが多い?

父母どちらが親権者になるかについては、子供の利益を最優先に考えた上で判断しなければいけません。特に家庭裁判所が親権者を決める際には、さまざまな点から調査を行った上で、子供の利益を優先した判決が下されます。

ちなみに統計によると、離婚した夫婦のうち父親が親権者となるのは全体の12%程度、そして母親が親権者となるのは85%程度となっています。しかしこれは新法の前の情報です。今後はどうなるかはわからないところです。

2. 単独親権の問題点

日本においては、共同親権制度を導入すべきだという声が多くあり、現在では協議や検討が行われています。その背景には、単独親権による様々な問題があり、共同親権制度にすることによって問題を少しでも軽減できることが期待されています。

2-1. 離婚届のフォーマットが改訂

平成24年から、離婚届のフォーマットが改訂されました。父母どちらが親権者となるかを決めなければいけない点は同じですが、それとは別に、面会交流と養育費の分担について取り決めをしたかどうかをチェックする項目が追加されたのです。

それに伴い、これから離婚を考えている夫婦に対して、面会交流権や養育費に関するパンフレットを作成して配布するなどの活動も行われてきました。そのためなのか、面会交流についての理解は深まり、交流をできていない親が家庭裁判所に時間を申立てることが多くなっています。

2-2. 面会拒否のケースは多いか?

単独親権の場合、親権者となった側が子供と共に生活するケースが大半です。親権者ではない側は、子供の法的な代理人になることができないだけでなく、子供との交流そのものを拒否されたり、また養育に全く関与できないというケースも少なくありません。離婚と言うのは父母に何らかの問題があるから生じる事象です。よって、離婚前後はどうしても親は対立しますし、子を他の親に会わせたくないとか、他の親の影響をそぎたいと思うものです。その結果、別居親に同居親が子を会わせたくないと思うことは多く、しかし、それにたいして日本の家庭裁判所が迅速に対応できる制度を持っていません。それが大きな問題であるといえましょう。

特にコロナ禍においては、子供への感染が心配だという理由で面会を拒否されたケースが急増しました。

2-3. 養育費が支払われないケースも多い

単独親権で子供と関われない場合には、養育費の支払いが滞ってしまうこともあります。離婚の際には養育費に関して取り決めをするのが賢明ですが、取り決めをしないケースは多くあります。母子家庭の場合、約4割程度が取り決めるのに対し、父子家庭だと取り決めをするのは全体の2割のみとなっているそうです。この点、母子家庭の場合、父に対して養育費を求めにくい精神的な上限関係があるとか、そもそも父に経済力がないことから離婚しているということが背景にありです。

取り決めをしない理由については、相手に支払い能力がないと予想していることもあるでしょうが、それに加えて、離婚後に「相手と関わりたくない」という感情が多いようです。日本では離婚は片親になる制度でしたので、それが離婚しても親として関係を持つことが常識とはなっていないのでしょう。それは海外先進国の離婚事情とは大きく異なるのです。

3. 共同親権とは?

令和6年の民法改正で、離婚後単独親権の強制制度が数多くの問題を発生させていることを踏まえ、日本は、離婚後の親権に共同親権制度を導入しました。

3-1. 共同親権とは「離婚後に親権を行使できる権利」

離婚後共同親権とは、離婚してからも子に関する事項は、父母が話し合って合意しながら決めるというものです。具体的な親権の内容に関しては、単独親権と大きく変わることはなく、財産管理権と監護保護権とに分けられます。共同親権であるから、子の養育を半分ずつするということはなく、養育を誰が現実にするのかということ(誰が子と住むのか)は、監護分掌をするかどうかという問題になります。

監護分担をしないなら、片親と子は住んで、親子交流を他の親とするということになります。海外先進国でも監護分担を半々ですることは多数派とまではいっておらず、片親は親子交流をすることが多いのですが、相当に頻繁で宿泊を伴うものになっている点が、日本の現状とは異なります。

共同親権制度を導入した場合、子供と一緒に生活している親だけでなく離れて暮らしている親も養育(監護)に関与しやすくなるというメリットはあるのでしょうか?本来は、これは別問題ではありますが、子に関する決定に関与する権利がある親であれば、相当に子どものことを知っている必要がありますから、自然に交流時間と言うのは単独親権者より多くなるのが、自然であるように思われます。

3-2. 改正民法と実務

離婚後には単独親権と定めている民法を共同親権へ改はできたものの正しく現実に運用をしていくことは、容易なことではありません。段階的に、家庭裁判所の権限やリソースを増やすということが必要でしょうし、家庭裁判所以外の父母が子について決定をしたり、問題解決を迅速にできる場が必要となってくるでしょう。

民法改正に大きくかかわる法務省では、共同親権制度を採用している海外諸国の研究や調査を、一般財団法人の比較法研究センターへ委託してきました。また法務省は外務省と連携して、海外諸国の共同親権制度の調査を行ったり、養育の在り方や子供との関わり方に関して海外諸国の民法を参考にしてきましたが、今回の法整備では大きな枠ができたにすぎません。sy

家族法研究会を設置し、離婚後における養育の在り方について意見交換や討論の場を設けており、そこではいろいろな議論がされたものの、その議論について、現実に実務で役立たせることができるかはまだわかりません。

3-3. 議員連盟や政府の対応

国会においては、議員連盟の一つとして共同養育支援議員連盟が発足しています。

議員連盟では、新法による実務が問題なく運営されるような仕組みつくりとか、今後の行政対応のあり方などを検討しているようです。

また、政府としては令和7年6月に、子ども家庭庁が、「民法等改正法施行に向けた準備状況について」という資料を作成しています。一定の離婚前後家庭支援事業が予定されているようです。

民法等改正法施行に向けた準備状況について(こども家庭庁)

この資料に記載されていることを紹介します。

(1) 相談員の配置

・親子交流支援を含めた相談員の配置

(2) 親支援講座

・親支援講座 養育費や親子交流の取決めの重要性等の講義や当事者間での意見交換を実施。

・情報提供 親支援講座の受講者に対し、ひとり親向けの支援施策や相談窓口の情報提供を行う。

(3) 養育費・親子交流の履行確保に資する取組

① 離婚前段階からの支援体制強化

  別居開始時点など低葛藤時点からの個別ヒアリングや動画作成等を行う。

② 戸籍・住民担当部局との連携強化

  戸籍・住民担当部局に相談員を配置し、ひとり親担当部局と連携を図る。

③ 弁護士等による個別相談支援

  弁護士等を配置し、養育費や親子交流に関して、個々の状態に応じた専門的な相談支援を行う。

④ 養育費等の取決めに係る費用補助

 ・公正証書等による債務名義の作成支援

  公正証書等による債務名義を作成するための費用支援を行う。

 ・戸籍謄本等の書類取得補助

  調停申立てや、裁判に要する添付書類の取得などの費用支援を行う。

 ・ADRの活用支援

  裁判外紛争解決手続き(ADR)を利用した調停に係る費用支援を行う。

○離婚前後の家庭に対して、離婚がこどもに与える影響、離婚後の生活や養育費・親子交流の取決めについて考える機会を提供するため、親支援講座の開催やひとり親家庭支援施策に関する情報提供等を行うとともに、養育費の履行確保や親子交流の実施等に資する取組を実施する。

(4) 相談者の状況やニーズに応じた支援≪拡充≫

「離婚前後のカウンセリング支援」(心理担当職員の配置)、「外国語に対応した親支援講座・ガイダンス」(通訳(人員配置、ICT機器活用等))、託児サービス、夜間・休日対応、SNSによる相談対応等、相談者の状況やニーズに応じた個別支援を行う。

自治体への補助がきまっており、3事業以上の実施で4000万円程度の補助が予定されているようです。

各自治体で単独で行うのは体力的にも費用的にも効率が悪いでしょうから、まとまった団体がひとつひとつの施策について専門的に検討していくべきであろうと思われます。

3-4. 国連からの勧告

世界各国では、共同親権を前提とした動きが広がっています。子供の連れ去りに対する措置を定めたハーグ条約も、そうした共同親権を重視し子の連れ去りを防止する国際的なルールの一つと言えるでしょう。

国連は日本に対して、国際結婚による外国籍の親も含めて、離婚後の共同親権を認めるように勧告を出していました。日本の民法改正はそれを受けたものとも言えます。

4. 日本の共同親権と海外諸国の制度

改正がされて、前向きに検討や調査が進められている共同親権ですが、民法で単独親権のみという選択肢から共同親権という選択肢も作られたものの、その制度はこれまで日本が調査した諸外国の制度とは異なります。

諸外国では、実際にどんな共同親権制度が制定されているのでしょうか?

4-1. 韓国の共同親権事情

韓国では、共同親権制度を導入しています。親権と監護権とに大きく分類したうえで、どちらの権利も共同で行使しても良いし、どちらかのみがどちらかの権利を行使するのも可能としています。日本でも今後はこのような選択が可能でしょう。

韓国の親権制度における大きな特徴は、離婚が成立する前に両者が合意して協議書を書面で作成し、家庭法院という家庭裁判所の機能をする公的機関へ提出しなければいけないという点です。その際には、子供の利益を害さないかどうかを家庭法院が精査し、認められた場合に限って離婚を成立させることができます。子供にとって不利益だとみなされる協議書の内容だと、両者が合意していても家庭法院から訂正するように求められることもあります。

韓国の共同親権においては、子供の利益を最優先と考えた法制度が整備されています。面会交流や養育に対して責務を果たさない場合には、家庭法院に申し立てることによって民法及び刑法によって処罰される体制もあります。

また、養育費の不払いに対しては、国が代理で取り立てを行ってくれる制度や、国が立て替えてくれる制度などもあります。協議書で取り決められた内容は、家庭法院へ申し立てて変更してもらわない限りは、大きな法的拘束力を持っている点が、韓国の共同親権における大きな特徴です。

養育費の不払いに対して、不払い期間が長引くと、監置命令や財産開示命令無視に対する罰金・懲役刑などが適用される可能性があり、養育費不払いの制裁として、運転免許停止やパスポート停止、氏名公開などの措置が取られます。

面会交流実行のための民事的強制手段として、面会交流の実施に関する協議に違反した親に対する履行命令と、義務の不履行に対する過料制度があります。

4-2. ドイツでは申し立てをしない限りは共同親権

ドイツでも戦後は単独親権を前提としていましたが、1997年の民法改正によって原則として共同親権という制度となりました。現在では、父母のどちらかが自身で申し立てをしない限りは共同親権になると定めています。

ただし父母が合意して家庭裁判所へ申し立て、それが認められたら、共同親権ではなく単独親権にすることも可能です。ただし、父母が合意したからと言って、必ずしもその通りになるというわけではありません。親権の行使はどちらが行っても問題ありませんが、家庭裁判所が子供の利益を最優先と考えた上で精査するため、場合によっては父母が合意した内容とは異なる判決が出る可能性もあります。

共同親権が前提となっているドイツですが、監護養育に関しては原則は、引き取り型(いずれかの親と子が住む制度)を採用しています。これは子供の生活の拠点をどちらかに定めたうえで、非同居親とは一時的に時間を過ごすというスタンスです。実質的には、93%の子供が母親と同居し、父親とは面会交流の機会を持つという選択をするという統計があり、母親が監護者となるのが一般的です。

具体的に父親がどのように共同親権を行使するかというと、隔週の週末に父親と面会交流を行い、長期休暇は父母で半分ずつ子供と過ごすというのが標準的です。父母それぞれが子供と過ごす期間は7:3程度が多いようです。共同親権だから5:5にしなければいけないというルールはなく、それは珍しいことです。

4-3. 事実婚にも共同親権が認められているスウェーデン

事実婚が多いスウェーデンでは、事実婚のカップルが養子を迎えるパターンが多く、そのための民法制度が整備されています。スウェーデンでは個々のライフスタイルや価値観を社会が認める土壌があり、事実婚カップルから誕生した子供でも、法的に結婚しているカップルから誕生した子供でも、法的な地位は同じです。またこの国では、未婚の女性が生殖補助医療を受けて母親になるケースも多く、一人親世帯や非婚家族世帯、そして再婚や同棲世帯がとても多いのです。

こうした多様化する生き方に対して民法が整備されている点が、スウェーデンの大きな特徴と言えます。しかしそんな国でも、最初からこのように多くの人にとって過ごしやすい民法が完備されていたというわけではありません。複数回の法改正によって少しずつ改訂されながら、現在にいたっています。

スウェーデンにおける共同親権制度では、親権者ではなく「監護者(Vårdnadshavare)」という言葉が用いられていて、それが子の身上監護への責任を意味してます。子どもの意見が最優先されるという点が子どもの権利条約に沿って定められています。共同監護においては、父母の意見が合致しない可能性もあるものですが、そのような時には、子供の意見が最優先されるという方が整備されたことによって、より子供の利益を守りやすくなっています。

両親による共同監護は、子の最善の利益に適うと推定されているものの、裁判所は一方の親が共同監護に強く反対する場合には,それを考慮しなければならないとされ、共同監護の決定に際し重視される要素として、子に関する事項について協力する親の能力であると明文で規定されています。ですので、父母の対立が激しいために互いに協力できず,それが子に不利益を与える場合には,単独監護が認められることになります。

共同親権においては先進国と言えるスウェーデンでは、監護者は監護をしない側に対しても、特定の事項に関しては報告しなければいけないと義務付けてもいます。例えば子供の居所や面会交流に関しては、子供の権利を守るために父母は最大限の努力をしなければいけないという責務が明記されています。

スウェーデンでは、地方裁判所で、親が面会交流の強制執行の申立てが可能です。しかし、できる限り任意の引渡しがされるよう求めている。強制執行を行うことが,子どもの最善の利益に反することが明らかである場合には、強制執行の申立てを却下しなければならないのですが、地方裁判所は同居親が判決に従わない合理的な理由がない場合には、罰金の支払を命じることができます。

4-4. 親権が父母平等に与えられているアメリカ

アメリカで共同親権という概念が誕生したのは、1970年代です。民法では、子供の養育や看護に関してどのような場合に両親の合意が必要になるかという点を定めており、監護権は父母に平等に与えられている点が特徴です。例えば、子供にどのような教育を受けさせるか、医療に関する決定はもちろんのことですが、子供にどのような課外活動をさせるか、何歳からデートの許可を出すか、車の運転は許可するかどうかといった日常生活における細かい部分についても、両親の同意が求められます。

アメリカの共同親権は、しかし大前提ではなく選択肢の一つであって、離婚の際に父母が合意すれば、共同親権ではなく単独親権という選択をすることもできます。しかし、片側が共同親権を希望し、もう一方が単独親権を希望した場合、裁判所は共同親権を支持することが多いのです。

単独親権を選択した場合でも、親権を持たない側には親子交流権(監護時間・養育タイム)が認められています。これは法律によって保障されている親の権利で、どのぐらいの頻度で何時間程度面会交流できるのかといった点が細かく、離婚の際の協議書で取り決められます。

共同親権制度を採用している国の多くは、交流権は子供が親に面会できる権利であり、親の権利ではないと明記しています。しかしアメリカの場合には、面会交流権は親に与えられた権利なので、虐待や暴力、精神疾患などの特殊な事情がない限りは、子供が拒否することはできません。

アメリカにおける離婚では、親権(カストディ)が争点になることが極めて多いという特徴があります。カストディをめぐる裁判では、90%以上は父母で合意できず、裁判所が親権も含めて取り決めを判定しています。もちろんその際、裁判所は子どもらヒアリングを行うなどして、子供の意見ができるだけ反映されるように努めます。そうやって出した最終的な判決には法的拘束力があり、父母は不服でも従わなければいけません。

アメリカでは、裁判所の面会交流命令を履行しない親について、様々な法的措置が取られます。裁判所侮辱罪による拘禁、罰金、監護権の変更、賠償金の支払いがありえます。面会交流の不履行が刑法上の誘拐罪として扱われる州もあるそうです。監護権の変更が可能ですので、履行をしない親のカストディを奪って他の親がカストディを持つことも可能です。

4-5. 裁判所の命令で違法な親権行使を止められるイギリス

イギリスでは、法的に婚姻関係にある夫婦の離婚だけでなく、同性・異性を問わずパートナーシップ登録をしているカップル、そうした届出はしておらずに同棲していたカップルなどに対しても、別離後の共同親権を認めています。

法的に結婚していた夫婦が離婚する際には、すべてのケースで裁判所が審査をする必要があるだけでなく、離婚に至る理由なども考慮されます。離婚を成立させる前には、親権に関する取り決めに関しても協議書を作成することが義務付けられています。

イギリスにおける親権とは、日本人が持つイメージとは大きく異なります。イギリスの親権とは、子供を養育するために親が持っている権利ではありません。1989年に子供法が導入されたこともあり、親権は「親責任」とされており、子供の福祉のために親が果たすべき責務という位置づけです。権利ではなく責務という点が、日本とは親権の概念で大きく異なる点であり、イギリスの民法でもこの義務を生活費の扶助義務、監護保護義務、教育義務という3つの義務として定めています。

イギリスの親権は、他国の共同親権とは若干特徴が異なります。多くの国では、子供の養育に関する判断をする際には、親権者の合意が必要となりますが、イギリスでは基本的には相手側の同意は必要ありません。ただし、すべての場合に相手の合意がなくても良いかというと、決してそういうわけではありません。子供が一定期間以上海外へ出国する場合には、事前に相手側の承諾が必要不可欠とされています。

他の事項でも勝手に単独でいろいろやっていいかと言うとそういうことはありません。相談しておかないと他の親に苦情を言われて申し立てをされてしまいます。イギリスでは裁判所は、子どもの養育に関する事項(例:居住場所、面会交流)について、必要に応じて「Specific Issue Order」や「Prohibited Steps Order」を出すことができますので、他の親が勝手なことをした場合には裁判所の命令が出されてしまうのです。

特定行為禁止命令(Prohibited Step Order)とは、特定の行為を、一方の親が子に対して行うのを禁ずる裁判所命令です。これは、一方の親が子に関して特定の不法行為を行う恐れがある場合によく発令され、特定事項命令(Specific Issue Order)は、一方の親が子に関して名前の変更や転校など特定の行為を行うことを許可する裁判所命令です。一般に、当事者が合意できないような場合に使われるものです。

イギリスはハーグ条約の加盟国の一つで、子供の奪取に関してはとても敏感なルールが設定されています。監護権を要する親は、子供がイギリス国外へ28日を超える期間出国する際には、他の親権者から承諾を得なければいけません。国内の別の場所へ子供の居所が変わる場合、また海外へ出国しても28日以内に帰国する場合には、他の親権者の承諾は不要なのですが、一定期間以上国外へ行く場合には注意が必要です。

もしも法的に子の奪取だとされた場合には、イギリスはハーグ条約に基づいて子供を元のイギリス国内へ戻そうと該当国の当局へ働きかけることとなります。同時に、奪取した親は子供の連れ去りと見なされ、刑法によって処罰される対象となってしまいます。その状態でイギリスへ帰国した場合、空港で逮捕拘留されるリスクもあります。

https://www.uk.emb-japan.go.jp/files/000194001.pdf

大使館の用意したこの資料が参考になります。

イギリスで面会交流については、裁判所が面会交流の実施を命じる「履行命令」を出して、それを不履行となると、法廷侮辱罪(contempt of court)に問われえます。これは、2年以下の懲役刑または2,500ポンド以下の罰金刑です。

4-6. 単独親権しか選択できない国もある

多くの国では、離婚後の親権に関しては、単独親権か共同親権かを選択できます。しかしこの単独親権制度を導入している国は、現状の日本以外にもインドやトルコなどがあります。

またメキシコでは、子供が有する財産を管理する財産管理権に関しては共同親権を行使することが認められていますが、養育に関する監護権に関しては、父母のどちらが単独で行使するという制度となっているようです。

5. 共同親権で大切なポイントとなる面会交流

単独親権でも共同親権でも、正式に離婚する際には、子どもと共に生活しない親がどのような頻度で子どもと交流するのか、監護をどう分担するのか、詳細を取り決めた内容を書面に残すことが大切です。

書面にしなければ、後から言ったとか言わないといったトラブルに発展しかねません。また、そういった冷静な協議ができることが、離婚後の子どもが紛争に巻き込まれる可能性を高めてくれるのです。

一方で、離婚前後の親はよい関係を維持することが困難ですから、離婚後共同親権制度を導入している国の多くでは、面会交流に関してサポート体制が整備されています。例えば、離婚前に父母がカウンセリングや面会交流に関する教育的なプログラムを受講することを義務付けて子の視点から問題を理解させるように導いたり、面会交流に関する悩み相談ができる窓口を設けるなど、国によって対策方法は様々です。先進国ほど多様な支援があるようです。

たとえば、アメリカでは、家庭裁判所での教育的オリエンテーションやミディエーション(調停)があり、父母が子どものための合意ができやすいようにされている。カリフォルニア州では、子どもがおらず分配する財産もないというような以外では、裁判所の命令によってしか離婚ができませんし、子どものいる夫婦が離婚する場合には、離婚する場合、子どもの養育計画についても合意してそれを裁判所に示さなければならないことになります。、養育計画では親子の監護のルール(親の養育タイムのルール)を決めるのですが、その作成が離婚する父母に義務付けられています。

また、私的な支援団体もあり(公的な資金が与えられています。)、父母へのアドバイスやカウンセリング、監督付き面会などのサービスを提供して、これらのサービスが全体として、共同養育とか交流実施を現実にできるように支えるための支援として機能しています。

6. 養育費の確保を支援する制度も必要

現在の日本では、親権を持たない親から養育費を受け取っているケースは、それほど多くありません。母親が親権者となる母子家庭では、約半数が父親から養育費を受け取っているものの、父親が親権者となる父子家庭の場合には、養育費の取り決めをしてから離婚するケースは全体の20%程度ととても低くなっています。

日本が単独親権制度から共同親権制度への移行を検討する際、この養育費確保を容易にするという点も検討されました。新法で、共同親権を可能とすることによって親子の関係性が向上すれば、養育費を確保しやすくなるだろうという期待もあります。

養育費の確保に関しては、単独親権か共同親権かに関わらず、各国それぞれが頭を抱えており、国ごとに対策を講じています。

6-1. アメリカは裁判所が強制執行

アメリカでは、養育費を支払わない親に対しては裁判所が、親の所在を特定して養育費を取り立てる強制執行力を持っています。親が養育費を払わずに雲隠れしても、裁判所が法的に居場所を突き止め、給料を差し押さえ、自動車免許や車両登録の停止など、直接的及び間接的な方法で、養育費の支払いを強制することができます。

6-2. 韓国は国が養育費の立て替え

韓国では、上記で説明していますが養育費未払いに対しては国が積極的に間に入る制度が完備されています。国が養育費を立て替えてくれるほか、取り立てを代行してくれる制度もあります。そのため養育費未払いで雲隠れした場合、本人が気づかぬうちにその未払い分は国への借金となっている可能性もあるのです。

6-3. スウェーデンでも国が立て替え払い

スウェーデンでは、養育費を受け取る側の親に十分な所得がない場合には、国が保護費として養育費に該当するものを提供する制度があります。支払われた保護費は、非同居親へ請求されるため、養育費の未払いだからと言って泣き寝入りする必要がありません。

7. 共同親権制度を導入することで何が期待されるのか?

日本が共同親権制度を導入する場合、具体的に何が期待されるのでしょうか?

7-1. 離婚時の親同士の紛争が深刻化することで与える子供への悪影響の排除

単独親権制度では、どちらも親権を獲得したいために親同士が醜い争いを繰り広げるケースが少なくありません。家庭裁判所に足を運んで、お互いの悪口やあらさがしをすることは、親本人にとって精神的なストレスとなるだけでなく、子供にとってもマイナスの影響が懸念されます。

その中には、相手に親権を渡したくないという理由で夜逃げのように子供を連れ去ってしまったり、親権を確保するために虚偽のDVを訴えるなど、悪質なケースも多くあります。

離婚した後の共同親権が可能となることで、こうした紛争が少しでも緩和されたり、子供に与える影響が軽減されたり、そして家庭裁判所で争われる時間の短縮を実現できるなど、さまざまなメリットが期待できます。しかし、一方で共同親権にした親がその後も紛争を家庭裁判所に持ち込むことは予想されますので、仕事は増える面があります。

7-2. 離婚後の子供の人格形成をサポート

共同親権にすることで、親が離婚しても子供は父母どちらとも親子交流を維持しやすい環境を得られます。その結果、子供の人格形成という点においては、大きな効果が期待されています。

ある調査によると、親の離婚紛争に巻き込まれてしまった子供は、その後の人格形成において自己肯定感が低くなる、うつ病を発症するなど、精神面で不安定になりやすい傾向があるそうです。また、中には、社会的不適応障害を発症するケースも少なくありません。自分のルーツである親と親が争っていることで、双方の親との関係が樹立できないことは成長に足かせであるといえるでしょう。

子供にそうした影響を与えるよりも、共同親権を認めることによって親が争わずに離婚しやすい環境を作り出し、子供へは父母どちらも愛情を注ぎやすい状況で養育したほうが子供の福祉にとってはプラスとなるだろうというのが、離婚後の共同親権制度へ移行する際の大きな狙いとなっています。

7-3. 子供の養育は離婚しても親の共同責務

共同親権にすると、親が離婚しても子供の養育に関しては共同責務を負い続けるという心構えをしやすくなります。その結果、相手の面会希望を拒否するとか、養育費の支払いを拒否するといったトラブルも起こりづらくなるのではないでしょうか。

ただしこの点においては、単独親権制度が問題ではなく、離婚時に面会交流や養育費に関して取り決めをしない点が問題だと指摘する人は多くいて、それは傾聴に値します。そのため、共同親権制度が導入された後も、これらの点に関しては別途で制度と確立させる必要があるでしょう。

7-4. DVや児童虐待の抑制効果も

共同親権制度を導入している国の多くは、例外的に親権を喪失する場合があることを認めています。例えば子供に対して児童虐待やDVがあった場合には、いくら離婚時に共同親権という取り決めをしていても、親権を失うリスクが極めて高くなるでしょう。

そうした悪行によって子供に対する親権を失う制度は機能することが、離婚後共同親権制度には不可欠です。DVや児童虐待があとでわかった場合、迅速に親権停止をするとか、親権を単独にするという判断を、家庭裁判所がする必要があります。

8. 共同親権制度の導入によって懸念されること

子供の利益という点においては、単独親権よりも共同親権の方がメリットは多いかもしれません。しかし民法を改正して共同親権を選択できるようになった今、懸念するべき事柄もあります。

8-1. 家庭裁判所の負担が多くなる

共同親権制度を導入すると、離婚の際さらにその後、家庭裁判所が関与するケースが多くなると予想されます。お互いが離婚の条件に合意できずに家庭裁判所に持ち込まれるケースでも、共同親権の条件を取り決める際には、子供の意見や子供にとっての福祉を最優先に考えるためには、親からのヒアリングや子の意見やこれまでの監護調査などが必要となります。時間や労力がかかるため、現在の家庭裁判所の調査官が抱える業務よりもはるかに多くなり、増員が必要でしょう。

共同親権制度を法改正の元に導入するとなると、ですから、家庭裁判所への予算や人員を拡充する必要があり、体制を確保した上での受け入れでなければいけません。専門性の確保も必要です。

8-2. 子連れ再婚による養子縁組が難しくなる

離婚後単独親権制度では、未成年の子供を持つ親権者が再婚する場合、元配偶者から承諾を得る必要はありません。それに、再婚後に再婚相手が連れ子と養子縁組する場合でも、元配偶者にお伺いを立てる必要はないのです。

しかし離婚しても共同親権となれば、話は別で、親の再婚に関しては元配偶者の承諾は必要なくても、連れ子を養子縁組するとなれば、元配偶者は親権を失うことになるため、養子縁組に同意しないリスクがあります。

養子縁組をしなければ、再婚相手と子供が一緒に生活をしていても、再婚相手に親権はありません。そのため、命に係わる決断や、進路など教育に関する決断に、再婚相手の意思が反映されづらくなります。

それだけではなく、すでに離婚している元配偶者が、そうした子供にとって大切な決断をする場所に入り込んでくると、再婚した家庭環境や人間関係にとってもマイナスの影響が出るかもしれません。子供の福祉という点においては、家庭の混乱がマイナスになりえます。

共同親権制度を導入した以上、家庭裁判所が紛争を解決する制度、家庭裁判所以外の紛争の解決する場の創設(ADR)が必要でしょう。。

9. ざっくりとした共同親権合意は十分ではない

共同親権制度を導入している諸外国では、それぞれ具体的にどんな権利を誰が有するのかという点、守られなかった際のペナルティなど、細かくルールとして定めていることが大半です。日本が共同親権制度を導入した改正民法では、以下のような制度になっています。

(親権の行使方法等)

 第824条の2 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。

 一 その一方のみが親権者であるとき。

 二 他の一方が親権を行うことができないとき。

 三 子の利益のため急迫の事情があるとき。

2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。

3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。

このように離婚してもしなくても共同親権の場合、単独で出来るのは監護・教育に関する日常の行為です。これ以外はできません。塾に通わせること、毎日の予定の決定はおそらくこの日常の業務と言えるでしょうが、今後、どこまでの日常の業務と言えるかは事案ごとに判断がされるでしょう。

急迫の事情があるとそれ以外についても単独親権の行使ができますが、それも子の利益となる親権行使である必要があります。

9-1. 親権者両方の合意が必要となる事項

合意して共同親権を選ぶ場合においては、親権者となる父母がどちらも合意しなければ実行できない事項を明確にする必要があります。共同親権といっても、通常は、父母が離婚すれば子供は父母のどちらかと暮らすことになります。そのため、親権者と監護者の概念を明確に分離することで、具体的にどんな事項なら同居する親権者が独断で決めることができ、どんな事項は相手の同意が必要なのかを明らかにする必要があるでしょう。

新法では、日常の行為以外は二人で決めるとなっていますが、かなり頻繁にいく塾などはどうなのか・・・不明確なところがあるので、合意する場合明確にしておくとよいでしょう。習い事や塾には費用も掛かります。子供の進学先を決める際、宗教に関する決断、また命にかかわる医療行為に関する決断といったものは二人であらかじめ協議するということを合意で明らかにしておくとよいでしょう。

また、合意した監護分担とか親子交流が困難となるような移転は、一人の親の判断でできないことを合意しておくことも有効でしょう。

9-2. 監護者が独断で決断しても良い事項

監護者は離婚後に子供と同居して、養育や教育に大きく関わる親となります。その際には、小さなことでもいちいち相手の同意を得なければ決断できないのでは、日常生活が円滑に運営できないと考えられています。

もっとも、新法では共同親権でも監護者を一方に決めることは必要ではないので、監護を分掌することとして重要事項についてどういうルールで決めるかを合意しておくことができます。

当事者が離婚後、共同親権制度を導入する際、どんな事項は親権者両方の同意が必要かという点、どんなことなら監護者が独断で決めてよいのかという点について、よく考えて検討する必要があるでしょう。新法では、監護者になった方が勝手に子と共に移転ができますので、監護者を一方にすることにはリスクがあります。

子供の服装や毎日の生活ルール、食事内容など、その場でさっと決めるべき事柄は日常の行為なので、何も合意しなくてその場面で、養育をしている親が決められます。子供の命に係わる医療決断でも、相手の同意を直ぐに得られず子供の命が脅かされている場合などには、そばにいる親が決定できるとしておくのが有用であろうと思われます。

9-3. 日常の行為かわからない中間に位置づけられる判断や決定はどうするのか?

子供の養育に関しては、すべての決断が重大なのか、それとも今すぐに決定するべき日常の行為であるのか、どちらかに分類できるとは限りません。中間に位置づけられるものもあるでしょう。例えば、子供の頻繁にいく習い事や学校での課外授業、クラブ活動などがあります。また、子供に運転免許を取得させるかどうかなども、ここに含まれます。

共同親権制度が広く浸透するまでの期間は、できるだけあらゆるシチュエーションを想定した上で、具体的にどんなことはどんなふうに決断するかをリストアップするのが賢明です。

9-4. 公的機関の関与に関しても制度が必要

離婚後の共同親権では、トラブルが増え、分からない点や単独で親権が行使できる範囲の疑問がおきて、多くの事件が今後、家庭裁判所に寄せられることが予想されます。

また、子どもに関する相談窓口でもそういった相談について、事前に準備しておく必要があるでしょう。機関や該当窓口では、専門家の養成や人員確保のための予算措置が必要でしょう。

9-5. 共同親権が必ずしも子供の利益になるとは限らない

離婚の理由は多種多様ですが、中には離婚後に共同親権することが必ずしも子供にとって利益とならないケースはあります。例えば、婚姻中に子供がDVやモラハラを受けていた場合には、離婚後に共同親権にしてしまうと、子供はそうした被害を受け続けることになりかねません。親が気づかないケースだと、親が良かれと思ってしている行動が、かえって子供を追い詰めてしまう事にもなってしまいます。

共同親権制度においては、親権者は子供の利益を最優先に考えた上で、重大な決断では父母が合意しなければいけません。しかし、一つ一つのケースを公的機関がサポートしてくれるわけではないため、子供にとって大切な決断や判断で親権者の合意が取れないために、子の利益が害される可能性はあります。

離婚後の共同親権制度を導入する際には、そういった問題に対応できるような家庭裁判所の専門家育成や、子の意見聴取の制度充実、子が直接相談できる公的窓口の設置など、または、親の対立が起きそうなときに回避するカウンセリング的なサービスが必要となるでしょう。

10. 単独親権から共同親権へ、国際結婚にはどう影響する?

国際結婚によって生まれた子供の多くは、両親それぞれの国籍を有する二重国籍者となっています。その親が離婚した場合、単独親権になるのか共同親権になるのか、またその他の細かい取り決めに関してはどこの法律に従うべきなのかに関しては、どう対応すればよいのでしょうか?

10-1. 日本で生活する子供には、基本的に日本の法律が適用

多くの場合、国際結婚している夫婦がどこの国に住んでいるかでどの国の法律に基づいて親権や離婚時の取り決めや司法手続をするべきかは、きまります。

例えば、もしも国際結婚している相手の母国が共同親権が原則となる制度を導入しているからと言って、日本で成立させる離婚でも共同親権が原則になるのではありません。双方のうちひとりが日本人で日本での調停・訴訟であれば日本法が準拠法となるため日本の法律に従い、父母のどちらが親権者となるか、共同親権にするのかを決めることに、新法施行後はなります。

ただしこれは、親が日本国籍を有している場合に限定されます。もし日本で生活している親子であっても、日本国籍を有さずに外国籍しか持っていなければ、準拠法は日本法にならないこともあります。

下記の記事を参考にしてください。

10-2. 日本の法律ではどのように親権者を決めるのか?

国際結婚でも、手続きを日本で行うなら、当事者の話し合いで合意できない場合には、離婚調停及び離婚裁判という法的な手続きを経て、裁判所が親権者を決めることとなります。

その際には、日本人カップルと同様に、これまでの養育に関与してきた実態が調査されるほか、離婚後に子供を養育するための姿勢や経済力、精神状態や健康状態などが調査され、考慮されます。その際には、子供の年齢や性格はもちろん考慮されますし、子供自身からヒアリングを行って子供の意見も配慮されます。

もしも、国際結婚している夫婦であって自身と子供が日本国籍を持っている場合、自身に経済力があって離婚後にも安定した生活を子供に提供できるという場合でも、家庭裁判所が子供の親権を外国籍の配偶者に決定する可能性がないわけではありません(監護の継続性から外国人配偶者の母が親権者となることよくあります。)。外国籍である親かどうかは、監護能力にはある程度影響があるでしょうが、日常生活で日本語ができて子の教育に悪影響がないなら、特に-判断はされないでしょう。

10-3. 離婚と親権に対する考え方が異なる可能性は高い

国籍や文化、慣習が異なる背景を持つ二人が結婚する際には、まさか離婚のときにどうしようという先のことまで考えていないものです。しかし、いざ自身が離婚となった場合、住んでいる国の法律を知らなければ離婚がその国では日本の協議離婚が認められなくて、離婚後に大きく後悔することはありえます。

さらに、日本ではこれまで、単独親権強制制度であったので、離婚に対するイメージも父母のどちらかが子供の親権及び監護権を持つと考える人が多く、外国人配偶者とは考えに大きな差があることが多いようです。

海外の共同親権制度を導入してきた国の方は、離婚しても父母が子を育てるという意識が染みついているので、子に影響力をもちたいと思う親が多いでしょう。子供の進路や医療、そのほか様々な点で関与したいと考えるでしょう。

新法で、共同親権制度を選択する場合、元配偶者の同意がいろいろな場で必要となってきますし、海外渡航に合意がいることもあるので、よく合意内容を精査しておく必要があるでしょう。

10-6. 外国で離婚が成立した場合の注意点

外国で生活している国際結婚カップルが離婚する場合には、離婚後に子供の連れ去り問題が起こるリスクがあるため、注意が必要です。多くの国は、子供の連れ去り打開策としてハーグ条約に加盟しており、加盟している国から相手の承諾なく子供を連れて日本へ帰国してしまうと、子供の返還手続きが行われて、認容されると子供は元の国へ戻されてしまいます。

このハーグ条約は、日本も加盟しています。日本国籍の母子が日本へ帰国して何が悪いと思っても、残念ながら離婚が成立した国で親の共同親権となっていたカップルであれば、元配偶者の同意なく子供を日本へ連れ帰ることは違法となってしまうのです。

その場合、ハーグ条約による返還命令がでて子供が元の国へ連れ戻されてしまうだけでなく、自身はその国へ入国しようとすると犯罪者として逮捕拘留されるというリスクがあることもあります。そうなってしまってからでは遅いので、必ず離婚の条件や親権の取り決めをする際には、その辺も話し合うべき項目に盛り込んでおくことをおすすめします。

10-7. 国際結婚の離婚は、専門的弁護士に相談するのがおすすめ

国際結婚しているカップルが離婚する際には、親権や養育に関して準拠法などの問題を考えないといけませんし、考え方が異なることが多くトラブルが起こりやすいものです。あとから知らなかったと悔やむこともあるので、できるだけ離婚前のタイミングで法的な知識をもっていることが重要でしょう。

そのためには、国際離婚に精通した弁護士へ相談しながら一つ一つの離婚プロセスを進めるのが得策と言えるでしょう。

記事監修者 弁護士 松野 絵里子
記事監修者 弁護士 松野 絵里子

記事監修者: 弁護士 松野 絵里子

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