1. その遺産については分割が必要になる
財産を相続させる人や遺贈する人を遺言書に指定しておいても、実際にはその相手が遺言者本人より前に亡くなってしまうことがあります。遺言書で相続させることを長男に指定したたが、長男がガンで若く亡くなってしまった、というようなことがあり、遺言書では、遺言する時点で生存している者に対し、相続させる財産、遺贈する財産、その方法などを指定しているのが通常なのですが、それができなくなってしまうのです。そのときには、遺言のその部分は相続時に効力を生じないので、遺言で誰に相続させるという指定がされていた財産も、法定相続人で分けることになります。
そうした事態となることを避けるため、相続等させる人が先に亡くなった場合、遺言は書き直す必要がありますが、書き直していないと上記のようになってしまいます。
そういった場合、遺産分割協議を不要とする対策がありますが、予備的遺言といいます。
2. 代襲相続はおきません!
遺言書で財産を相続させることを指定した人が遺言者より先に死亡したとき、その財産は代襲相続の対象にはなりませんので、その子が代わりにもらうことはできません。平成23年において、この点の最高裁判所がでています。よって、相続させることを指定したがその人が遺言者より先に死亡すると、遺言で指定した内容は効力がなくなって、指定された財産は遺産として遺産分割をする必要が出てきます。
なお、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」とは、相続の発生した時点で亡くなっていた相続人に代わり、その相続人の相続人が相続する権利を受け継ぐことをいいます。
3. 遺贈の場合
法定相続人とならない者も含め相続対象の財産をあげるという遺贈(いぞう)の場合、財産をもらう受遺者が遺言者より先に死亡していたときは、その遺言の効力は生じないのですが、それは
民法の994条にあります。
第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
1 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
4. 「予備的遺言」での対応が可能
遺言書で指定した相続させる人や又は遺贈するべき人が遺言者より前に亡くなってしまうと、その遺言のその部分は無効となります。そうして、相続の発生した時、相続人が遺産分割協議をしてわけることになりますが、遺言で円滑な相続手続を実現させるには、死後に相続人が遺産分割協議をしなくてよくしたいと考えることが多いでしょう。
そういう場合、相続人による遺産分割協議を行なう必要が生じないようにすることが、遺言書の工夫で可能です。
遺言書で定めた相続させる人や遺贈する人が、遺言者より前に亡くなったときの相続方法を遺言書において、同時に定めておけるのです。
こうした遺言は「予備的遺言」又は「補充遺言」と言われています。
予備的遺言は、第一希望の遺言内容が実現できなくなったときは、第二希望の遺言内容を実現させるという内容になっています。一番目と二番目をきめておくというわけです。
予備的遺言のさらに予備的な遺言をしておくと三番目を決められます。遺言書は何度でも作り直しをすることが可能で作り直しをすることでの対応もできるのですが、認知症で遺言能力が不十分な状態になってしまうことも考えられますから予備的遺言は有効です。
予備的遺言は、遺言書の作成後に誰かが死んでしまったという場合のリスクに備える点でとても便利です。
もっとも、遺言書に予備的遺言を定めるのは複雑な内容となるので、相続させる者、遺贈させる者の可能性を考えて、しっかり書く必要があります。この時には、相続人がだれか、遺産分割の方法などについて、遺言者がしっかりと理解できる能力も必要となってきます。
遺言者が高齢になり、認知症となると遺言能力があったのかという問題から死んだ後に遺言の有効性が問題となってしまって、かえって相続人のトラブルを巻き起こすこともあるので注意しましょう。
判断能力について後で争いがないようにするのには、公正証書による遺言書を作成することも有益です。
遺言者の家族(推定相続人、受遺者)が遺言書の作成に関与して自分に有利なものを作ってもらうことがよくあり、心配のない遺言を作成できることから予備的遺言まで含めることも多いのですが、遺言能力に応じた内容にしなければ、本人が理解できないので有効に遺言ができませんので、気をつけましょう。