裁判離婚(離婚訴訟)とは、協議や調停で離婚の合意がまとまらない場合に、家庭裁判所において行われる離婚のための訴訟のことです。これには、民法によって決められた原因の離婚理由が必要です。人事訴訟と言う法律でルールが決まっており、複雑なルールが多いので、弁護士に依頼をするといいでしょう。
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1. 裁判離婚で離婚できるために必要な離婚理由
裁判離婚は、調停離婚がまとまらなかった場合に離婚訴訟をして離婚や慰謝料を請求することです。親権についても、この訴訟の判決で決めることができます。
原則としては調停手続きを経てから行いますが、相手が行方不明で調停が行えないなどの事由があり、調停離婚が出来ないと裁判所が判断した時などは調停を行わずに、裁判離婚をすることが出来ます。
そして、裁判離婚には民法で定められている5つの離婚理由が必要になります。
1-1. 浮気や不倫
一つ目は「浮気や不倫」で、第三者と配偶者の間に不貞行為があった場合です。これは不貞行為の立証が出来なければ認められません。ラブホテルから出てくる写真があるなど、不貞行為を立証できるだけの確実な証拠が必要となります。ただし夫婦関係が破綻した後の不貞行為は離婚理由にならない場合があります。また、不貞行為があった場合は、浮気相手にも慰謝料請求が出来ます。
1-2. 悪意の遺棄
二つ目は「悪意の遺棄」です。正当な理由があるわけでもないのに、配偶者との同居を拒んで自分だけ家を出て行ったり、逆に配偶者を家から追い出したりした場合です。また、収入があると自分の物ばかりにつぎ込み、生活費を入れずに扶養義務を果たさない場合や、生活費を家庭に入れていても、自分は家に帰宅しない場合なども該当します。他には、同居はしていてもひどい暴言をはいて相手を傷つけて適切に配偶者として扱わない場合なども、離婚理由になります。
また、ここでいう正当な理由とは、長期の病気療養中や、DV被害から逃れるための別居などをいいます。そのため、お互い性格の不一致などで合意して別居している場合は「悪意の遺棄」としての離婚理由にはなりません。
1-3. 3年以上の生死不明
三つ目は配偶者が「3年以上の生死不明」の場合です。これは配偶者の死亡を3年以上確認できていない場合になります。居場所が分かっていないだけで生存は分かっている場合は、これには当てはまりません。なお、配偶者が7年以上生死不明の場合は、失踪宣告によって婚姻関係が解消されます。失踪宣告制度を利用すると、相続人として配偶者の財産の相続が可能になります。
1-4. 配偶者が強度の精神病(削除)
(この民法770条1項4号は、2024年の改正法で削除されています。)
四つ目は廃止されていますが、「配偶者が強度の精神病になり回復の見込みがない」場合でした。この場合は精神病にかかった配偶者の介護を、それまで誠意をもって行ってきたうえで、離婚後も精神病の配偶者がきちんとした療養生活が出来る事が条件となります。国や自治体の保護が行われるか、近親者または他者によって介護の受け入れがされるか、また療養生活に見合った財産分与がされるかなど、離婚後の精神病の配偶者の療養生活の事情が考慮されれば、離婚が認められる可能性があります。これについては、改正法が施行されると削除されます。(2026年5月施行予定)。
1-5. 婚姻を継続し難い重大な事由
五つ目は「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合です。他の4つ以外で「婚姻関係を継続できる見込みのない場合」ですが、実はこの理由はとても便利であり、よく使われています。
性格の不一致により別居している場合で、距離をおいても復縁の見込みがない場合。また、親族と不仲が原因で、円満な夫婦関係を築こうと努力しない場合や、配偶者の暴力行為や虐待、精神的虐待などによって傷つけられた場合が挙げられます。性交拒否や性的異常も離婚の原因になります。
また、アルコールや薬物やギャンブルなどで、普通なら果たさなければならない配偶者としての義務、仕事や家事や育児などを怠っている場合、また過度な宗教活動や犯罪によって配偶者やその親族の名誉を傷つけた場合も離婚理由になる可能性があります。
離婚理由は当然ですが人によって違いますが、双方がそれなりに努力したけれどその問題が解決できないとか、片方がその問題を解決するつもりもなくて問題解決ができそうもないというような場合にも、この理由が使われて、離婚が認められます。
もしかして、自分のこの事態は当てはまるかも知れない、と感じている方は、迷っているよりも弁護士に相談するといいでしょう。
2. 離婚訴訟の流れ
離婚訴訟のメリットは、判決を得られることにあります。
調停で合意できなかった離婚だけでなく、慰謝料や財産分与や親権など、調停では決められなかった離婚に際するあらゆることに対して、判決という形で結論が出ます。判決には強制力があり、相手が判決によって決まった金額を払わなかった場合などに、強制執行することが出来ます。ただ、離婚訴訟は判決までにとても時間がかかります。さらに、法廷で不特定多数の人にプライベートを公開する事になります。もっとも、基本は書面でのやり取りだけで、依頼した弁護士が行ってくれるので、自分の尋問以外で依頼者が法廷に行くことはありません。調停より楽だと感じる方も多いです。
自分が望んだとおりの判決が出ないこともあるので、デメリットもあることを念頭において、弁護士に相談して進めていくこと、裁判上の和解も検討することがおすすめです。
2-1. まずは、離婚訴訟の訴えを提起(訴状の提出)
相手配偶者が在住する管轄の家庭裁判所に訴状を提出します。この際、離婚判決の訴状と離婚調停の不成立調書、夫婦個々の戸籍謄本や収入印紙が必要になります。離婚の申し立て以外に財産分与や養育費についても争っていく場合は1つの案件につきそれに応じた金額の収入印紙が必要になってきます。
また、訴えは自分自身で行う本人訴訟をする事も可能です。自分で書類を作成する場合は、裁判所のホームページから入手可能です。しかし、本人訴訟は(財産分与など専門的な知識が必要な論点では特に)不利になるリスクが大きいので覚悟が必要です。
弁護士に依頼した場合、弁護士が論点を理解して整理して、裁判官にわかりやすいように訴状をつくります。専門的な弁護士であれば、相手の反論を予想しつつあなたにとって有利になるような訴状を工夫して書くことができます。
2-2. 裁判所からの呼び出し
提訴がされてから、裁判所からの補正の指示があり(技術的な不足について指摘がされたり、誤字を修正したりします)それが終わると、裁判所から「第1回口頭弁論」の期日の通知があります。その際、訴状の写しが一緒に送られてくるので、その訴状に対して反論がある場合は「答弁書」を裁判所に提出します。
この第1回の口頭弁論は原告の代理人弁護士が出廷できる日を確認して決めます。
2-3.「第1回口頭弁論」からの進行
訴訟を提起してからだいたい1ヶ月後に「第1回口頭弁論」が開かれます。その後の訴訟の流れは以下のようになります。
- 訴状の作成と家庭裁判所への提出
- 裁判所による補正
- 被告への訴状の送達・第1回期日の指定
- 被告による答弁書の提出
- 第1回口頭弁論・その後複数回の期日
- 当事者への尋問
- 和解期日
- 判決の言い渡し
- 控訴するかの選択
- 判決確定と離婚届の提出
第1回の期日は、裁判官に対して、訴状を原告が陳述し、被告は答弁書を陳述します。もっとも、多くの弁護士がいる事案では、第1回期日は、答弁書は簡単なものが出されて欠席して、その後にきちんと細かい点について反論を記載した準備書面がだされるのが通常です。
<訴状の陳述とは?>
法律用語としての「陳述」は、裁判において当事者が、事件について口頭または書面で意見や主張を述べることです。 民事裁判は、裁判所へ訴状を提出することによって提起しその訴状の内容は、最初の口頭弁論期日において、陳述することで裁判所に伝えたことになるのです。
<擬制陳述とは>
訴状を提出しただけで、裁判所に出頭して現実に陳述をしていなくても、書面に記載したことを主張したものとみなされる制度のことで、これは最初の期日に認められています。被告が第1回口頭弁論期日に出頭できないことがあるので、そのために答弁書を擬制陳述することができるのです。
証拠は提訴した際に訴状に書いたことで重要なことは提訴時(又はわりと早い時期)からだしておくことが離婚裁判では通常で、被告は反論をする場合に、反論に関連する証拠を出していきます。
準備書面が被告から出されると、再反論があれば原告がそこを再反論しますし、新たな論点が被告から出されていたら、その反論をしていきます。
<準備書面とは>
当事者の主張や反論、証拠などを記載した書面で、訴状や答弁書の後に提出されるもので、原告も被告もこれを出していきます。
<準備書面の陳述とは>
当事者の主張や反論、証拠などを記載した書面で、訴状や答弁書の後に提出される
もっとも、離婚事件では事実そのものは「そういうことはあった」という風に認めることが多く、それの評価が異なるので詳細に双方が背景を説明したり、双方の心情を説明するというようなことも多くなります。
この口頭弁論は、判決が出るまで1ヶ月ごとに第2回、第3回・・・と進められますが、弁護士がついている場合には、弁論準備手続きと言う手続きが利用されるのが通常です。
<弁論準備手続>
そして、弁論準備手続が終結した後、当事者が弁論準備手続の結果を陳述することにより、準備書面の内容が、口頭弁論で主張されたものと扱われます。
2-4. 欠席判決
被告が答弁書を出さず、第一回口頭弁論にも来ない場合は欠席判決で原告が勝つことになることがあります。
欠席すると、基本的に被告は原告の主張をすべて認めたということになるからです。
そのため、訴状のとおりの判決がくだされるおそれがあります。
2-5.尋問
また、証拠だけでなく証人が出廷し「証人尋問」をする場合もあります。書証の提出が終わると、次は本人尋問が行われることになります。本人尋問には「原告本人尋問」と「被告本人尋問」があり、それぞれが相手の弁護士や裁判官からの質問を受けます。
この口頭弁論は、判決が出るまで1ヶ月ごとに第2回、第3回・・・と進められますが、弁護士がついている場合には、弁論準備手続きと言う手続きが利用されるのが通常です。
2-6. 離婚裁判の判決と和解
確かな証拠が揃った後、裁判所から判決が下されます。判決は判決書が送られてきてから2週間以内に控訴がなければ確定となります。不服がある場合は高等裁判所、それでも納得のいかない場合は最高裁判所へ控訴できます。ただ、離婚訴訟は裁判官によって和解を勧められることが多く、判決による決定は多くはないです。それは原告や被告に対する精神的や肉体的負担、また時間的な負担が少ない解決方法とされているので、和解勧告に応じる夫婦が多いようです。離婚成立後は10日以内に原告が離婚届書と戸籍謄本、判決書謄本に確定証明書を持って役場に提出します。和解離婚の場合は判決謄本や確定証明書ではなく、和解調書が必要になります。
裁判では気になるのは、費用です。離婚裁判は時間がかかりますので、その分弁護士費用がかかります。そのため、相手の方が収入が高いなら生活に困らないようにあらかじめ「婚姻費用分担請求」をしておく事をおすすめします。離婚までは夫婦なので、収入の低い方が生活費等を受ける権利があり、別居していたとしても生活費や養育費を請求できるからです。このようなこともあるので、離婚を考えたときには、少しでも有利に進められるように、弁護士に相談するといいでしょう。
2-7. 離婚裁判にかかる期間
離婚裁判は早くて半年、財産分与が複雑で調査嘱託などが多いと2年ほどかかることがありますが、具体的な事実によって期間は異なります。たとえば、親権や財産分与など、離婚条件で激しく争う場合は期間が延びる傾向にあります。