生前の故人の世話を相続人の1人がしていたような場合、預金が引き出されていたり、勝手に使われている多額の金員がある、かなりの使途不明金があるように見える等のトラブルが大変に多いです。しかし、簡単に解決できるケースは多くありません。そういうトラブルについては、弁護士のサポートで解決する必要がありますし、そういうトラブルを未然に防ぐために、管理をする方は、入出金の管理をするなどの対策が必要です。
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1. 使途不明金や使い込みは起こりやすい相続トラブル
相続トラブルには、多種多様なものがあります。その中でも解決までに長引きやすいトラブルの一つに、使途不明金や相続財産の使い込みが挙げられます。
これには、預金が死亡する前に10日に500万円引き出されていたとか、死亡の前の1年で2000万円がなくなっていた・・・誰が引き出したのか大体わかっている・・・というような場合が多いです。
1. 典型例
そういった、遺産の使い込み(使途不明金)の問題で典型的な事案は、以下のようなものでしょう。
同居の長男が認知症にかかった親の預貯金を出金して自分のものを買う
- 同居していた長女が、親の通帳を管理しており、勝手に自分の生活費に使っていた
- 母がもらえるはずの亡くなった父の生命保険を、同居の長男の妻がすべて勝手に受け取ってもらっていた
- 認知症になっていた実親の不動産を勝手に長男が売却して、代金を着服した
- 老いた親の保有する上場株式を勝手に売却して、高価な貴金属を長女が買った
- 家のリフォームをするからと同居の長男が認知症の父のお金を使い500万円で実際にリフォームをしてしまった
- 両親が保有するアパートの賃料を、管理を任されているからと全額次女が横領してしまった
2. 使途不明金の問題で揉める理由:真相を究明しづらい
使途不明金や預金のこういう使込み、保険金の着服のトラブルなどは、被相続人の預金を引き出す際に、その目的を明確にしていない、周りに説明をしていない、というようなことから起こるケースが大半です。介護をしている親族などが、生前の被相続人の預金を引き出す理由は、いろいろあります。日常生活にかかった生活費や、医療費、介護費などもあるでしょう。リフォームもあります。しかし、被相続人の判断能力が落ちている場合には、通常の生活に必要な費用以外のリフォームや車の購入と言った大きな出費については、本人が決断できないという問題があります。成年後見人をつけ邸内場合、そういう出費は、後々、「使い込みをしたもの」という評価が、可能でしょう。
その他、老いた親が同居の孫などの親族へ渡した「お小遣い」「留学費用」「冠婚葬祭代」などについては、判断はケースバイケースで異なってきます。当時、その親はあげるつもりであったのであれば、それは相続人に対する「生前贈与があったのか」という問題になります。しかし、トラブルとなった時には当の被相続人は既に亡くなっているため、預金を引き出した目的が、なかなかわかりにくく不明となっていることが多いので、トラブルになるのです。
また、通常、考えられないくらいの多額の引き出しが短期間にあり、到底、通常の利用方法で使ったと思えない場合も、あります。それが、死期に近いような場合(あるいは死亡後である場合)で、亡くなった方の判断能力が落ちていたような場合には、引き出した人の「横領」であったという判断になる可能性が高くなります。死亡後の引き出してあれば、そもそも被相続人のために引き出したという「言い訳」は、通らないと言うことになります。
3. トラブルの核:遵法精神の欠如やこじれた感情
遺産の横領とか使途不明金を解決できない状態が続くと、兄弟姉妹などの相続人間で、親族なのにお互いに対する疑念が強くなってしまいます。どうしても、親族間で相手を疑ってしまうでしょうし、疑われた側は介護をしていたのに・・・などと怒りを覚えて、負のサイクルへと突入してしまうかもしれません。
しかも、それを放置すると時効で問題の解決が困難となりますので、放置することは厳禁です。使途不明金に関しては、証拠の点からも時間が経過すればするほど解決することが難しくなってしまいます。使い込んだ相手は、親族のお金を使うことに全く良心の呵責がないようなこともあります。親族の場合、順法精神が鈍磨することが往々にしてあるからです。
一方、疑っている方は疑心暗鬼になっていたり、過去の感情的もつれから、思い込みをしてしまっているような場合も、あります。
ですので、使途不明金は実は「贈与と言えるものなのか」といったことを、遺産分割の協議の中で確認し、明確にするために、まずは、遺産について冷静に話し合いましょう。相手を責めていても解決しません。なお、家庭裁判所では、生前の贈与の問題を「特別受益」として整理し、公平な遺産分割をする民法のしくみを使って「話し合いで公平な解決をする」のが実務となっています。
それを利用するには、遺産分割調停を申立ててこの手続きで話し合いをする必要があります。ぜひ、早めにこの調停を利用して、不信感があったら、まずは問題点を明確にしていきましょう。
4. 調停で解決できる場合とできない場合
遺産分割調停においては、使途不明金や使い込みが疑われる場合、贈与があったのではないかという場合には特別受益として処理し、まだ手元に持っていて「贈与があったと言えない」ような場合は遺産に含めて、遺産のうちのその使い込んだとされた人が「保管している金銭」として処理することが、できます。
つまり、横領したとされている「相続人」がもっている現金とすることで、遺産に組み入れられることが可能ですので、それで使途不明金の問題は解決ができるのです。ただし、これは、そのお金は「もっている」「使っていない」とその相続人が説明してくれたときの解決方法です。
また、「それは、もらったのだ」という説明があるときは、「生前贈与」という扱いとなりますから、「特別受益「として処理され、公平な遺産分割をすることができるのです。このように、二つの方法で遺産分割調停での解決が可能ですので、遺産分割がこれからなのであれば、疑心暗鬼になるのではなく、きちんと家庭裁判所で不審の点を質問し、回答を得て解決していくのがベストです。そのためには、使途不明金(横領)の問題に詳しい弁護士のサポートを受けて、時効によって権利行使ができなくなる前に、きちんと遺産分割調停を申し立てることがお勧めです。
しかし、解決できないのは、横領した人、使い込んだ人が、もらったとも認めず、手元にあるとも認めない場合です。これが、遺産分割調停では使途不明金(預金の無断引出し、遺産の横領)などと言われる問題です。その場合は、この問題は切り離し、残りの遺産についてのみ分割の対象とするしかないのです。それは、遺産分割というのは亡くなった方の遺産が「ある場合」に現実に、その「今ある資産」を対象とする調停であるから、仕方がないことです。さらに、このように切り分けて解決ができることで、遺産として残っている不動産や株式、預貯金についてはきちんと早く分けることができるというメリットが、あります。怒ってしまって、全体の解決ばかり急ぐのではなく、解決できるところから解決するのが得策と言えるわけなのです。
そして、遺産分割調停で解決できなかった使途不明金の問題の解決をしたいのであれば、別途で訴訟(不法行為による損害賠償や不当利得返還訴訟)を起こす必要がありますので、その訴訟を進めるため、弁護士のサポートは不可欠になります。
2. 使途不明金や使い込みを疑ったらどうするべきか?
もしも、遺産相続のプロセスにおいて、使途不明金や使い込み(遺産の横領)をあなたが疑った場合、どのように対処するのがベストなのでしょうか?
問題を追求することは決して悪いことではありませんが、方法を間違えると家族間の大きなトラブルに発展しやすい繊細な問題です。そのため、問題を追求する際にはいくつかのポイントを抑えましょう。また、勘違いということもありますので、それも留意しましょう。
1. 相手を憶測で攻めないことが大事
使途不明金や使い込みを疑ってしまっても、故人と離れて暮らしていた場合、故人の生前の生活環境や生活状態などをよく知りません。事実を把握していないのに、憶測だけで自分の中に芽生えた「大きな疑惑を」鵜のみにしてしまうのでは、相手を不快な気持ちにさせてしまうでしょう。また、勘違いなら、法的に現実には何もできないのかもしれないのです。
調停の場であれば、弁護士の求釈明として相手に質問をしてもらう方法があるので、説明をまず求めるのがよいでしょう。あるいは丁寧に弁護士から質問の通知をだしてもらって、勘違いではないのか確認し、それから使途不明金や預金の無断引き出し、使い込み(遺産の横領)を追求する方法を考えるのが穏当でしょう。
単に、攻撃的な姿勢で相手を一方的に非難し攻めるのではなく、まずは事情を理解しようとする姿勢を見せれば、相手も正直に話してくれる可能性もあります。また、弁護士がついて質問をすると、今後、刑事事件に発展する可能性とか、民事訴訟になる可能性を相手が理解しますから自分も弁護士に相談してこれ以上問題が大きくなる前に解決しようと、事実を説明してくれはじめることが、よくあります。
2. 重箱の隅はつつかないことも大事
人によっては月に1万円の使途不明金でも許せないという人もいますが、1ヶ月に数十万円とか数百万円という金額が複数回引き出されているのであれば、民事訴訟での解決なども現実的ですが、小額であればその使用用途はいろいろありえますので、訴訟での解決は困難です。引き出した側にとっても、大きな金額になれば用途を覚えているだろうから、弁護士から説明を求めることは可能ですし相手も無視できません。よって、金額が大きいものにフォーカスすることがベストです。
たとえば、1ヶ月に5から10万円程度の引き出しがある場合、それは故人の生活費であったと予測することができます。「本当に10万円かかったのか」「領収書やレシートを提出して清算しろ」と言っても、それはナンセンスな態度です。
領収書がなければすべて使い込みというようなことにはなりません。故人には故人の暮らしがあり、年収に応じた暮らしをしていたでしょうからお金も使っていたはずです。それを、同居していた人がすべて理解していたということはないですし、恒例で通常の金銭管理をすべて任されていたとしても、それをすべて記録としていないからといって後で責任を問えるわけではありません。
そのひとにあった生活に必要な金額などを考慮して、あまり重箱の隅をつつくような細かい詮索をすることに時間を使わないようにしましょう。
3. 最終的な目的は「迅速な解決」であると頭に置きましょう
使途不明金や使い込み(遺産の横領)の問題は、富裕な方の遺産相続において、起こりやすいトラブルです。しかし、全ての理由がわからない「預金引き出し」が「使い込み・横領」と言えるものではありません。思い込んでしまって、得相手を責めてしまうと、相手は態度を硬化させ、解決しようにもできない状態に陥ってしまいます。遺産分割そのものは上記のように切り分けて解決が可能ですから、解決できる問題について、解決していくという姿勢で冷静に望みましょう。
切り分けをするには、まずは遺産について税務申告をしてから遺産分割調停を申し立てて、相手の説明を理解し、それでも相手の使い込みや使途不明金があるようであれば、遺産分割だけは調停で進めるべきでしょう。また、切り分けをした後も円満な解決ができるように、多額の金額について不当利得などの提訴をしつつ和解的解決を常に望んでいることをアピールして迅速な解決をするのが亡くなった方のためにもよいことでしょう。それには、この問題になれている弁護士、迅速な解決をしようとしてくれる弁護士に依頼するのがベストでしょう。
亡くなった方からしたら、残された子どもたちや親族がお金で争ってしまって残した遺産が有効に活用されないことこそ、悲しいことであることに間違いはないのです。
3. 使い込みを疑われた場合、どうすれば良いか?
1.遺産の使い込みについて加害者とされた側は、誠実に説明を求められる
もしも、あなたが、使い込みを疑われたけれど、勘違いであるというような場合、どうしたらよいでしょう?
生前の故人と同居していて遺言で遺産をすべて贈与されていたり、医療や介護を含めて身の回りの世話をしていた人だと、他の相続人が故人の暮らしぶりを知らないで「預金1億円以上あったはず」「勝手に引き出して使ってしまった」などと攻められることもあります。
使い込みや使途不明金(横領)を疑われる立場になると、重要なのは迅速に説明をすることです。私利私欲で預金を引き出したわけではなく、故人に頼まれて渡しただけであるとか、医療費や生活のため、家政婦のために必要だったなどと説明をすれば、攻める方に弁護士がついていればその内容は冷静に検討してもらえます。
また、現実に手元に管理している現金があるなら、早くそれを他の相続人に伝えましょう。相続税の申告時にもそのような遺産を手元に持っていることの申告が必要です。
誠実に説明して贈与されたことを説明して、手元の資金を返すと言っても、納得してくれないケースは少なくありませんが、そういう場合には、弁護士をやとって調停をこちらから起こして訴訟を提起されるのを回避することも、一つの解決策です。提訴は嫌でしょうから、なるべく具体的に資料とともに弁護士をたてて、誠実な説明をすることで、納得してもらえる可能性は高まります。
2. 遺産の使い込みについて、被害者が怒るだけでは、解決しないことを理解する
遺産がたくさんどこかに行ってしまった・・・と考えたら、誰でも怒りがわいてくるでしょう。また、自分が故人の世話をしていたのに、使い込みを不当に疑われても「何事だ!」と憤慨したくなるでしょう。
といっても、双方が相手を責めているだけでは、何の解決もできませんので、冷静になりましょう。できるだけ冷静に対処したほうが、問題の解決は近くなります。まずは、事実の確認と分析を専門弁護士とすることがよいでしょう。冷静に話し合えるという点から、弁護士は双方の側に着くのが、解決には近くなります。
使い込みではなくて理由があって引き出したといえるのか、すでに入院している時期の引き出しのようにそもそも説明が成り立たないという場合か、金額が多額で生活費とはとてもいえない金額なのか、引き出したのはその相手であると言える客観的状況なのか、提訴して問題解決が可能か(立証ができるか)を、冷静に判断しましょう。
なお、証拠の散逸・時効の問題があるので、放置をすることは得策ではありません。
3. 疑われた方は、冷静かつ丁寧に資料で説明しましょう
使途不明金や使い込みを疑う人の多くは、故人の生活を知りません。具体的にどんな生活をしていて、どんなところにどんな出費が必要だったのかという点を、冷静かつ丁寧に説明すれば、最初は疑っていた人も事情を把握できることがあります。
手元にある金銭を説明して遺産の中に入れると、誤解が解ける可能性はかなり高いです。領収書とかカード明細をみせて説明したり、調停であれば弁護士に陳述書を作ってもらいましょう。
4. 財産の管理をしている人は、使い込みを疑われないための対策が必要
故人の預貯金を管理している人は、使途不明金や使い込みを疑われないように、できるだけ細かく入出金を管理するノートを付けておくことをよいでしょう。1円単位で正確に記録する必要はありませんし、レシートや領収書がなければいけないというわけでもありませんが、記録として、いつどんな目的でいくらを引き出し、具体的にどんな用途で使ったかという点が分かれば、相続人からの誤解も解けるでしょう。
また、遺産分割調停でもそれは使えますし、また、提訴されたときの防御資料になります。
特に、頻繁に銀行に行って預金を引き出すのが面倒だから、50万円や100万円をまとめて引き出しておいて、ニーズに合わせて支払いなどに充てていたという場合もありますが、引き出し額が大きいことによって使途不明金や使い込みを疑われる可能性は高くなってしまうので、後でトラブルにならないように入出金の記録とその使い道の記録が大切です。
また、上述の通り、疑っている方は、大きな金額について冷静に説明を求めましょう。弁護士を介して、失礼にならないように質問をすると、正直な回答がされて迅速な解決になることが、多いです。
4. 遺産の使途不明金の解決に大切なポイント(問題の切り分け・提訴)
遺産相続や遺産分割において、使途不明金や使い込みの疑惑はとても多いので、それが起きていても慌てないことです。当人がすでに亡くなっていることから、資料をもとに解決するしかなく、故人のお世話をしていた人が疑われて不快な気持ちになってしまうと、遺産分割そのものが頓挫することにつながります。
ですので、遺産分割を先に済ませてから使途不明金は別に訴訟を起こすという戦術は、非常に有効ですし、法的にもそれが許されています。
1. 問題を未然に防ぐことが大切
被相続人が亡くなってしまってからでは、使い込みや使途不明金のトラブルを解決することは難しくなりますので、生前であるなら、できるだけトラブルが起こらないように、相続人同士が協力しながら金印の管理について透明にしておくことがベストです。
例えば、生前の故人の預金管理をして身の回りの世話をしている人は、他の相続人に適宜説明をして、入出金の記録を見せておくことを。習慣とするのがよいでしょう。また、兄弟姉妹が生前の故人の世話をしているなら、入出金の記録はどのように管理しているか尋ねたり、ご自分も訪問やお見舞いに行って普段から良い関係を構築するのがよいでしょう。また、管理が複雑な資産があるのなら、後の紛争を防ぐために弁護士などに高齢者の成年後見人になってもらって管理を徹底することも得策です。
2. 使途不明金や使い込みのトラブルが調停などで解決できない場合の解決方法
未然にトラブルを防げず、話し合いでも解決しない場合には、できるだけ相手を攻撃することは避けて、大きな金額がどのような期間に動いているか分析をして、相手の責任を法的に問う方法を検討しましょう。
せっかく故人が残してくれたものです。感謝して遺産をいただいて、相続人で感情的にならないようにしたいですよね。ですから、説明をしてもらっても解決されない場合には、裁判所において判断してもらったり、和解案を裁判官に作ってもらったりして解決するために、不当利得返還請求訴訟などという提訴の方法での早い解決を考えましょう。
その場合、訴訟の弁護士費用は必要となりますが、金額が多額で明らかに使い込みがあるような場合には、この選択肢は有効です。当事務所では、話し合いから初めて、そのあと提訴に及んで、遺産分割とまとめて和解で非常に迅速に解決できた実例も、あります。
3. 使途不明金や使い込みのトラブルを解決する訴訟とは?
亡くなられた方(被相続人)と一緒に住んでいた、または近くに住んでいた相続人などが、被相続人に無断で銀行預金を引き出し、使い込んでしまっていた場合、被害者は加害者にどんな請求をできるのでしょうか?
被相続人が高齢となると、体調不良で、運転ができない、施設への入所をしてATMにいけないなどの理由で、自分で預金を管理したり、引出に行かずに親類とか、家政婦さんに、依頼をすることが多くなります。そのため、そういう機会にお金を使い込んでしまう方がいるのは事実です。それが多額になって1000万円以上となっていることも往々にしてあります。
預金の使い込みの場合は、時々引出を任せるだけではなく、通帳もキャッシュカードも印鑑も預けてしまい、完全に管理を任せていたということも、よくあります。これを利用して、通帳などを預かった人が、被相続人に無断でどんどん預金を引き出して、使い込んでしまうと被害額が多額になります。この場合の被害者は、加害者以外の相続人のすべてです。預金の引き出したのみではなく、アパートの賃料を受け取って使ってしまって確定申告を手伝っていたような場合も、使い込みの一例になります。
4. 使い込んだお金を返すように請求する権利はどんな権利?
相続開始前に、被相続人に無断で引き出された預金については、本来は、被相続人が、引き出した人に対して返すように請求(不当利得返還請求・不法行為に基づく損害賠償請求)することができます。
条文は以下のようなものです。
(不法行為による損害賠償)
第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(不当利得の返還義務)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
現実には、被相続人がこのような引出に気付かずに、または判断能力が不十分な状態となってしまって、自分では返還請求することなく、亡くなられてしまうことが大半です。このような場合には、被相続人の死亡により、相続人が「返すように請求する権利」を相続するのです。ただし、引き出した人が相続人である場合には、引き出した人自身もこの権利を相続しています。
例えば、長男が父親の預金を3000万円死亡直前に無断に引き出して自分のものとしており、相続人が、長男、二男、長女の3人である場合には、長男が1000万円分を相続しますので、二男、長女は、2人で2000万円(各自1000万円)を返すように長男に請求できるということになります。よって、次男と長女が協力してこの訴訟を提起するべきなのです。
5. 被相続人の了承を得てお金を使った場合はどうなるか?
被相続人に無断で使い込んだのではなくて、被相続人の了承を得て、被相続人から「車を買うのに使って良いよ」等といわれてもらった場合、つまり、贈与を受けている場合もあります。この場合は、贈与された分が、遺産分割の中で、既にもらった者と計算されるように「特別受益」として扱われて、相続人の公平な分割ができることになります。
*なお、使途不明金を調べている中で、預金口座の取引履歴から、把握されていなかった遺産が判明することもあります(証券口座が見つかったような場合)。そういう場合には、それを遺産に含めて遺産分割調停を進めて行くことで解決ができます。このように、被相続人の預金口座の取引履歴は、色々な点に関係してきますので、相続人による使い込みが疑われる場合に限らず、念のために確認しておいた方がよいでね。なお、預金口座の取引履歴について、金融機関に照会する場合には、通常、調査時点から、過去10年分までしか遡って調査できません。つまり、例えば被相続人が亡くなった後、5年間放置していた場合、被相続人の生前の履歴は、5年間分しか調査できないことになります。
ですから、取引履歴の調査は、被相続人が亡くなられた後、すみやかに行うことをお勧めします。
6. 不当利得返還請求・不法行為に基づく損害賠償請求とは?
使い込んだ人に対する請求について、法律上は、不当利得返還請求か不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。耳慣れない言葉ですが、二重に請求できるというわけではなく、法律構成の違い(考え方に2通りあるというようなイメージ)と、お考え下さい。以下の違いがあります。不法行為は悪いことをした場合の被害者の救済の仕組み、不当利得は理由なく利得を得ている人がいる場合にそれを返還させて調整するというしくみです。
両者の主な違い
1)時効の違い
2)弁護士費用が請求できるか
1. 時効の違い
不当利得の場合には、権利を行使することができるとき(基本的には引き出したとき)から10年で、時効となっていたのですが、平成29年に民法の改正がって、改正後は、権利を行使することができるときから10年または権利を行使することができることを知ったときから5年の早い方で時効となっています。
他方、不法行為の場合には、損害及び加害者を知ったときから「3年」で時効となります。よって、亡くなってから相続の申告時に気がついたというのであれば、その申告の作業のときからになるでしょう。よって、不法行為での賠償を求めるには、判明してから、早い対応が必要です。
2. 弁護士費用が請求できるか
原則として不当利得の場合には請求できませんが、不法行為の場合には請求ができるので大きな違いです。ただし、実際にかかった弁護士費用をそのまま請求できるわけではないですし、和解で終了する場合には、不法行為でも弁護士費用を含めずに解決することが多いでしょう。不当利得返還請求と不法行為といずれも書いて、提訴することが多いです。
7. どんな資料が必要か?
相続人のうちの1人が使い込んだと疑われる場合であっても、証拠が無ければ裁判所で認めてもらうことはできません。そこで、使い込みを裏付ける証拠を収集する必要があります。ここでは以下、遺産の使い込み(横領)の責任追及のため、どんな証拠が必要となるかご説明します。
1. 戸籍謄本
まずは自分が相続人であることを明らかにする必要があります。相続人の確定のためには、少なくとも被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。
2. 銀行の取引履歴・銀行伝票
実際にお金を引き出した人を明らかにする必要があります。伝票があれば、その筆跡から、払戻しのとき、誰が窓口で手続をしたのかということが分かり得ます。
もっとも、最近ではATMで引き出しされていることも多いです。ATMでは誰が引き出したかはわかりませんが、例えば通帳などを管理していた相続人の自宅近くのATMで引き出しされていれば、その相続人による引出であると認められる場合もあります。
3. 被相続人の判断能力に関するカルテ・介護記録・診断書、介護認定記録
被相続人の判断能力は、非常に重要な問題です。たとえば、重度の認知症と診断されており、判断能力を欠く状況であった場合は、預金の引き出し時に、被相続人から同意を得ることは不可能であったといえます。また、被相続人が、引き出したお金を受け取って、自分で使ったという可能性も否定され得ます。
介護認定記録(要介護認定申請に関する記録)には、認定調査員が調査した被相続人の認知機能の状態などが記載されています。生活状況に関する詳細な記載があり、判断能力について主張する際に役に立つことが多いです。
他にも色々ありますが、代表的なものは、以上です。
8. どのような手続か?
まずは、上記の通り弁護士から丁寧に相手に説明を求め、その説明が合理的かどうか、証拠があるかを確認し、相手が説明をできない場合、不合理な説明しかしない場合は、請求額を明確にして提訴を行います。訴状は弁護士が証拠を精査して、いくらの請求をするか検討して作っていくのが通常ですので、よく話し合って進めるのが良いでしょう。時効の問題がありますので、迅速な対応をする弁護士を選ぶことも大切です。
9. 使途不明金や使い込みの場合、刑事事件になるか?
1. 刑法の何罪になるのか?
高齢などの理由で判断能力が低下した人の財産管理を、親族が任されている場合に、相続人によって、相続人である親族が、管理を任された財産を勝手に使ってしまうことが、横領などの刑事事件となり得るでしょうか?
たとえば、高齢の父から、「生活や医療費を引き出してきてほしい」と依頼されていたのにが高額な自分のための商品を購入するために勝手に引き出した場合には、刑事事件として「横領」になります。また、勝手に引き出して海外旅行に、使ったり、自分の貯金にしたような場合もそうです。
では、そういう場合に、被害者が刑事告訴できるかですが、このように使い込みには、横領罪が成立したり、あるいは委託を受けていないのに家にある金銭を盗んでいれば窃盗罪が成立する可能性があります。つまり、財産管理の委託があった場合には刑法252条の横領、委託もないのに勝手に金銭とか高価なものを取って、自分のものにしたり売ったりしたら、窃盗(刑法235条)になりえます。
誰が告訴できるかというと、刑事事件の被害者は、だれでも加害者に対して刑事告訴ができ(刑事訴訟法230条)、被害者が亡くなっている場合、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹による告訴が可能となっていますので(刑事訴訟法231条2項本文)、被害に遭った亡くなった方のためにその子や兄弟姉妹などが、告訴をすることはできます。しかし、親族間での横領・窃盗の場合、刑が免除されるという制度があり、そのために警察がなかなか動いてくれないという問題があります。
2. 直系血族・同居親族の場合の犯罪
窃盗罪や横領罪に「親族間の犯罪に関する特例」がありますので(刑法244条、255条)、この特例では、「配偶者(夫とか妻)」「直系血族(親子)」「同居の親族」との間で窃盗や横領をした場合には、刑が免除されてしまいます。刑法244条1項でそのようになっています。このような免除規定にしては、老人虐待を助長するというようないろいろ批判がありますが、現行法は免除になってしまうのです。
配偶者や直系血族でなくても、同居していた親族であれば、同様で、同居している兄弟姉妹が遺産を横領した、使い込んでいた、勝手に売っていたとしても、刑罰は科されないのです。よって多くの場合は、この特例が適用されそうです。そうなると、刑事告訴して刑罰を求めることはできません。(内縁の配偶者については特例が適用されません。)
特例によると告訴ができるのは、遺産を使い込んだのが「兄弟姉妹」とか「相続人の妻や夫」であったケーになりますが、いずれも、同居していないことが条件です。
つまり、「子」が使い込んだ場合「直系血族」のため刑が免除されますが、「子の妻」が使い込んだ場合、同居していない限り罪に問えるのです。このとき「子の配偶者」が親族に該当するため、刑罰を科すには刑事告訴が必要です(親告罪であるからです)。
「法は家庭に入らず」という考えによりさだめがされています。親族間の財産犯罪については、国家が介入して刑罰権を行使するよりも、親族での解決に任せるという古い考えです。
なお、後見人が横領をした場合には、業務上横領罪が成立する可能性があります。
3. 横領罪
横領罪は、「他人から管理を任された財産を自分の物にする」場合で、管理を委託されて手元にあった財産を、自分の物にした場合に既遂となって、成立します。たとえば「10万円引き出して欲しい」と親から頼まれて、通帳、印鑑、キャッシュカードを預かった場合、「管理を任された」と言えますので、横領となる可能性があるのです。渡された通帳等を利用して、100万円を引き出して自分の金庫に入れると、子が自分の物にしたので、横領罪が成立します。90万円は別の医療費のために使おうと親の金庫に入れておいたら、成立しないでしょう。横領罪の刑罰は「5年以下の懲役」で刑罰が重い犯罪です(刑法252条1項)。
4. 業務上横領罪
横領の一種ですが、成年後見人に就任していた親族が、使い込みをした場合は、業務上横領罪というより重い罪が成立します。業務上横領罪は、業務上占有していた他人の財産を自分の物にするという犯罪で、典型例は、会社の経理担当者が会社の財産を着服するような場合といわれます。「業務」は、後見人となってしている反復・継続して行っている事務も含まれますので、後見人になった親族が、遺産となる預金を使い込んだ場合にも、業務上横領罪となります。親族であっても罪が問えるのです。
業務上横領罪の刑罰は「10年以下の懲役」(刑法253条)となっており、通常の横領よりもずっと刑が重くなっています。後見人が横領行為をした場合には、そのひとが親族であったとしても「親族間の犯罪に関する特例」は適用されませんから、刑事告訴をして刑罰を求められます。
5. 窃盗罪
管理を委託されていないのに、勝手に取ってしまったような場合、窃盗罪が成立します。窃盗罪は、他人が占有している財産を自分の物にする犯罪で、横領とは委託がないことが異なります。親族が財産を勝手に取ってしまった、もらってしまったという場合、親が通帳等を管理しているのに、子が無断で持ち出して預金を引き出したような場合が窃盗罪となります。窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」で、被害額や情状により科される刑罰にはかなりの幅があります。
10. まとめ
このように遺産の使途不明金・横領の問題の解決は、話し合いで解決できる場合、遺産分割調停で解決できる場合、切り分けをして調停と訴訟を利用する場合の三つがあり得ます。また、刑事事件となる場合は非常に限定的な場合になります。
現実的な迅速な解決のためには、まずは、簡単に解決する方法で試し、だめなら次のステップに行くという必要があります。が、時効の問題があるので、そのステップごとに、迅速に進めてくれる弁護士に依頼することが、解決の糸口になるでしょう。
11. 当事務所の取り組み
当事務所では、使途不明金・遺産の横領問題については、話し合いや調停で解決できる場合には、5%の報酬という非常に低い報酬体系としていますので、気軽にご依頼が可能かと存じます。WEBでの無料相談も可能です(夜9時までの相談予約がが可能です)ので、お気軽にお問い合わせください。