相続分の放棄と相続放棄は違うものです。一見すると同じものに感じられて、間違えやすいです。この違いを知っていないと、大きな不利益を被ることになりかねません。ここでは、弁護士が解説します。正しく理解しておきましょう。
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1. 相続分の放棄とは?
相続に関係する法律や専門用語というのは複雑で、似通って見えるものがありますね。弁護士でも間違えることもあり、誤解したままだと思わぬトラブルを引き起こすことがあります。その一つが、「相続分の放棄」というものです。別の相続人の弁護士などから、相続分の放棄について打診があった場合などは、まずはその内容をしっかりと把握した上で、決定を下しましょう。
1-1. そもそも、相続分とは?
相続に関係する要素の中で、相続分という言葉はよく使われます。これは相続人が受け取る権利を持っている財産のことなのですが、積極財産と消極財産の両方を含みます。つまり、故人が預貯金や不動産などのプラスとなる資産を持っていた場合は、当然それを受け継ぐことができるのですが、ローンなどの借金を抱えていた場合、それもマイナスの財産つまり消極財産として、一緒に受け継がないといけなくなります。
法律の規定では、どちらかだけを選択的に受け継ぎ、片方を放棄することはできないとなっています。預貯金などプラスの財産をもらうのであれば、故人が残した借金も支払わなければならないということです。このように、相続分と言った場合、必ずしも自分にとって利益になる財産だけでなく、借金も含まれていることがあるということを理解しておきましょう。
相続ではマイナス財産も受け継ぐことになります。
1-2. 相続分の放棄の考え方
「相続分の放棄」と言った場合、自分が受け取るはずだった相続分はいらないと意思表示をすることを指します。ただし、この行為自体は、明確に法律に規定されている制度ではありません。そのため、事案によって、その後の取り扱い方が変わることがあります。自分が本来受け継ぐはずだった遺産を「放棄する」わけですから、その分は他の共同相続人に回されることになります。
この場合、放棄した相続分が均等にそれぞれの相続人に割りふわわれることもありますし、場合によっては、自分が被相続人となったと仮定した場合の、別系統の相続人に財産が渡されることもあります。
これには、いくつかの考え方があるので、合意書に財産の分け方を記すといった解決ができるので、複雑になりがちです。相続分の放棄をする時は、問題なく解決するために、相続に強い弁護士の助けを得て決定しましょう。
2. 相続放棄と相続分の放棄は同じではない
相続分の放棄と非常に似たものに、「相続放棄」があります。一見すると、どちらも自分がもらうはずだった遺産をもらわない、ということで、全く一緒の行為に思えます。しかし、両者には明確な違いがあります。そして、この違いを理解していないと、大きな不利益を被ることもあります。正しく理解した上で決定しましょう。
2-1. 相続分の放棄は、あくまでもプラスの財産に適用されることがほとんどです
相続分の放棄をする目的としては、自分がもらうはずの遺産がとても大きいとか、そもそも遺産がなくてもやっていけるので、他の相続人に渡してほしいというものが多いです。そのため、相続分の放棄をする場合、プラスの財産を受け取らないという考えがとても強いと言えます。いわば、積極的な動機から遺産の受け取りを放棄して、別の家族や親族がより多く遺産をもらえるようにするというわけです。こうした性質がありますので、基本的に相続分の放棄をする場合、積極財産つまりプラスの財産に適用することになります。
相続分の放棄は、法律の条文に定められている「正式な制度ではない」ということもあって、すべての相続分を放棄するわけではないということにも注意すべきです。相続分の中には、プラスの財産もあれば、マイナスの財産もあります。相続分の放棄をした場合、相続の権利自体は持っているのですが、単に自分が積極財産を受け取らずに、他の人に回すというだけです。そのため、プラスの財産は拒否できても、マイナスの財産つまり借金を受け継ぐことは拒否できません。
マイナスのみが残ってしまいます。
2-2. 相続放棄はすべての財産の放棄という制度(マイナスも承継しない)
このように、相続分の放棄をしても、プラスの財産だけを受け取らないということだけになります。しかし、相続放棄という制度を用いると、すべての相続分を放棄することになって、つまり、プラスの財産だけでなく、借金も受け継ぐことがなくなります。相続権そのものを放棄することになりますので、選択権がなく、プラスもマイナスもすべての財産を受け取らなくなるわけです。
相続放棄をする目的の多くは、「借金を受け継がない」ということです。
故人が遺した財産を改めて計算してみると、預貯金や不動産などのプラス分よりも、トータルでは借金の方が大きくなってしまうケースも見られます。そうなると、相続をしても借金を抱えるだけになってしまいますので、総合的には不利益となります。そのため、最初から何も受け取らないということにして、相続放棄をするわけです。
このように、相続分の放棄と相続放棄では、放棄する相続分の内容、相続権自体の有効性、そしてそれを行う主な目的が違います。
2-3. 相続人の数に影響する
相続分の放棄と相続放棄の違いとして、もう一つ覚えておきたいのが、法定相続人の数に影響するということです。相続放棄をした場合、相続権そのものを放棄しますので、法定相続人としていわば存在しないという扱いをされます。たとえば、故人の配偶者と3人の子どもがいた場合、通常だと4人の法定相続人が存在します。しかし、1人の子どもが相続放棄をした場合、法定相続人の数は3人となります。そのため、この3人で遺産を法律に従って分けるわけです。
一方で、相続分の放棄では、相続権そのものは存続します。そのため、この例で言うと、法定相続人の数は4人のままということになります。遺留分などの考えに従って均等に分ける場合、4人で遺産を分けることになります。その上で、相続分の放棄をした人が、本来もらうはずだった財産を他の人に回すという形で実行されます。
2-4. 借金だけを受け継ぐことがあるので注意!弁護士のサポートを受けましょう。
相続分の放棄と相続放棄では、目的や受け継ぐ遺産の範囲に違いがあることが分かります。これを明確に理解していないと、問題に発展することもありますので注意しましょう。たとえば、故人がプラスの財産だけでなく、借金も残していたというケースです。不動産を相続することになっていますが、そこにはローンがまだあり、残債が相当金額存在しているといったことがあります。
ここで相続放棄をすれば、不動産自体も借金も相続することはありませんので、少なくとも金銭上の不利益を被ることはありません。しかし、「相続分の放棄」となると話は別です。この場合、不動産は他の相続人が受け継ぎますが、借金は自分の負担となる可能性が出てくるのです。そのため、財産を受け継げず、借金だけを抱えてしまうという最悪の結果になってしまう恐れがあり、大きな不利益を被ってしまいます。
相続に関係する手続きや考え方というのは専門家の助けが必要なところがあり、ちょっとした勘違いで大きな不利益をもたらすことがあります。相続に詳しい弁護士の助けを得て、それぞれの行為がどんな意味を持っているのか、自分にとって利益となるのかということを確認しながら進めていくことが非常に重要になってきます。良かれと思ってしたことが、逆にマイナスの結果をもたらすことがないように慎重に調べ、判断を下すようにしましょう。