誰も身寄りのいない方がなくなった場合、その相続財産は国が受け継ぎますが、行政ではできる限り縁故者への相続を望んでいます。そこで内縁者や世話人が特別縁故者として相続人となり、故人の財産を相続することがあります。
単身の高齢者の方には、戸籍上の配偶者や実子がいないなど、法定相続人(親・兄弟や祖父母)が存在しないことがあります。なお、故人が遺言書を残さなかった場合、法的に受け取り手が不在の遺産は国が受取ることになります。
ですが、もし亡くなられる間際まで身の回りの世話をしていた方がいれば、あるいは生前に内縁の妻や夫、内縁の子がいたらどうでしょうか?
実はこのような場合に、内縁者が遺産を受け継ぐことが可能になります。正式に戸籍に入っていない縁故者のことを特別縁故者と呼び、相続人が不在の際は遺産相続権が与えられます。
1. 特別縁故者に相続の権利が付与されるとは
遺産相続に関しては、まず故人の意思が最優先されます。遺言の形で財産分与が明記されていれば、それに従って遺産は受け継がれます。なお、遺言がなければ相続人が協議して遺産を分配することが可能です。この際に、国が定めた法定相続の法律に基づいて遺産分けをするケースが多いです。
ですが、遺言もなく、法定相続人となる身内もいない状態で亡くなられてしまった場合、残された遺産がとうなるのかについては問題が残ります。もちろん、そのような財産については、国が引き受けて行政で利用されますから、決して無駄になることはありません。
ですが、できれば故人の関係者に相続してもらいたいというのが民法の基本です。そのための手段として、特別縁故者制度が設けられています。
特別縁故者制度の概要は次の通りです。
法的に受け取り手が存在しない相続財産については、家庭裁判所が選任した相続財産管理人によって財産の清算を行います。つまり故人に残された債務があれば、相続財産管理人が代理で負債整理を行うのです。
こうして確定した相続財産に関しては、裁判所で故人と特別な関係にあった縁故者の有無を確かめ、もし該当者がいればその人を特別縁故者と認定して、相続財産の全部、または一部を相続させるように手配します。
ちょっと固い表現で分かりにくいかもしれませんが、家庭裁判所はまず負債整理を行った後、財産が残っていれば故人と特別の関係になった人(内縁者や世話人)へ遺産相続させるということです。
特別縁故者になれる人の条件は次の通りです。
家庭裁判所が特別縁故者に遺産の相続権を付与する法的に正当な相続人がいない場合に限ります。また、正当な相続人がいないからといって、自主申告で特別縁故人になれることもありません。
あくまでも裁判所が特別縁故者と認めた場合にのみ、遺産の受け取りが可能となります。具体的には次のケースが該当者となります。
まず、故人と生計を共にしていた人(内縁者)に相続の権利が受け継がれます。特別縁故者と認められる条件としては、故人の生前中、生活を共にしていた時期があることがあげられます。たとえば内縁の妻(夫)がそれにあたります。故人の戸籍には入っていなくても、内縁の関係で生活を共にした人は該当します。同じ意味で、内縁の相手との間に生まれた子(認知を受けていない子)や認知を受けていない配偶者の連れ子も特別縁故者として認められます。
このように、法律上において血縁関係にない身内の方が特別縁故者と見なされます。たとえ婚姻が成立していなくとも、同棲生活の関係だったとしても、故人と一時期を共に生活していた事実があれば認められます。
内縁の相手との間に生まれた子や、連れ子に関しては、故人と養子縁組がなされていれば法定相続人となります。
具体例1:戸籍上は単身者の内縁の夫が亡くなったが、夫には親族がおらず、法的な相続者が不在である場合。この内縁の妻は特別縁故者とみなされる。
具体例2:同棲生活をしていたふたりの間に生まれた自分だが、父と母は内縁関係で自分も認知されていなかった。その父が亡くなり相続が始まったが、自分には法的に相続権がなかったという場合。
次に、故人の療養看護をした人に、相続の権利が受け継がれます。身寄りのなかった故人の世話をしてくれていた人、病気の看護をしてくれた人も特別縁故者とみなされます。ただし、家政婦や介護士のように、有償のサービス契約をしていた場合はこの条件に該当しません。
ただし、契約した家政婦などでも、遺言によって相続権を得ることがあります。
具体例1:身寄りのない親戚のおじさんが要介護の状態になって困っていたので、近所にいる自分が身の回りの世話をしていた。亡くなるときまで介護を行なってきたが、最後まで親族は現れなかった場合。
具体例2:孤児の自分を親代わりに面倒見てくれた恩人が、思い病気に罹って亡くなった。身内は誰もおらず、自分が介護から身の回りの世話を行なった場合。
他にも、親族のいない人同士で共同生活をしていて、『どちらかが死んだら財産を譲り合おう』と約束をしていた場合など、故人の生前中に特別な関係にあった人は財産相続の権利を与えられることがあります。
2. 特別縁故者であることを証明するには
自身が特別縁故者であることを証明するには、家庭裁判所で承認を受ける必要があります。あくまでも法的解釈が優先しますので、自己判断とは違う判断をされることがありますので注意してください。そこで、確かに故人と生活を共にした事実があるのであれば、その事実をどう証明するか、専門の弁護士などにサポートしてもらうと良いかもしれません。
法的な証拠と言われても、一般の人にはよくわからないことがあります。過去のどんな資料が証拠になるのか、弁護士であれば的確に指摘してくれますし、証拠を探し出す手伝いもしてくれるでしょう。
そこで、故人と生計を共にしていた証拠は、次のようなものを用意します。最も信頼のおける証拠としては、当時の住民票が最適です。故人が亡くなった時まで住居を共にしている場合は、そのまま現在の住民票を取ればOKです。ただし、過去に同棲していた事実が確認できる住民票となりますと、ちょっと手間暇がかかります。
現在より住民票を辿っていくことは可能でして、同居していた地域の役所へ出向き、住所履歴の戸籍附票を発行してもらいます。ただし、戸籍附票の保管期間は5年(地域によっては10年間)で、それ以前の履歴は発行してもらえないので注意してください。
また、療養看護に努めた事実の証拠も用意しなければなりません。療養看護を務めると言っても、賃金をもらっておこなう看護や介護は対象外ですので、病院などの施設入院・通院の周辺サポートを行っていたという事実を証明することになるでしょう。あるいは、自宅で医療活動以外の介護や看護を行なった事実を証明する必要があります。
このような縁故関係を証明するには、次の書類が証拠となります。
- 医療費や介護費用の領収証(支払いを代行していた事実となる)
- 療養看護における交通費の領収証(通院や入院の付き添いの事実となる)
- 故人宅で介護や看護の時に撮った写真
- 療養看護をしている際に取り交わしたメールやSNSなどのやり取り
その他にも、故人と親密な関係にあったことを示す写真や手紙、メール、日記・ブログなども証拠となります。特に故人が財産を譲る意思があったことを伺わせる記録があれば、すべて用意しておきましょう。
3. 特別縁故者として相続を受けるまでの流れ
特別縁故者として遺産相続を受けられるようになるまでに、大まかに1年以上かかります。まず、故人の最終住所を管轄する家庭裁判所へ、故人の財産を法的に相続処理するための「相続財産管理人選任の申立て」をします。次に「債権者・受遺者へ申出の公告」で、債権者と受遺者(遺言で受取人になっている人)へ官報で公告します。
もし債務整理や受遺者の相続で財産が残らなければここで終了します。その後も財産が残っていれば、先のステップへ進みます。
裁判所は戸籍などをもとに「相続人の捜索」を半年以上かけて実行します。該当者がなければ「相続人不存在」が確定され、「特別縁故者への審判」を経て「特別縁故者の認定」がなされます。これで遺産の相続権が得られます。
以上が大まかな流れですが、法的に難しい手続きが多く時間もかかります。そこで専門の弁護士に相談してみましょう。全面的に手続き依頼をすれば、費用はかかりますが、安心して結果を待っていられます。