離婚の際には、婚姻していたときに形成した財産を2人で分ける「財産分与」という手続をすることになります。財産分与の対象となるもの・対象外のものについてここにまとめました。富裕層では、相続したものや贈与されたものなどが多く、また、経営者であれば婚姻前から経営している会社の株式があることが多いです。企業経営者・クリニイク経営者や富裕層の離婚ではいろいろな問題があり得るため、正確に判断するのは難しいので、早めに弁護士に相談しておきましょう。
離婚時には、婚姻期間に形成した財産を2人で分ける必要があり、これを「財産分与」と言います。財産分与の対象になる物は何か、どのような割合で分けるのが正しいか、離婚訴訟では複雑な問題となる事象です。離婚訴訟にまでならなくても、話し合いでも訴訟のルールが適用されることが多いので、法的なルールを知っておくと、有利な(正当な)財産分与が実現できると思います。
Contents
1. 財産分与の種類
財産分与は、主に3つの種類に分けることができると整理されています。
1-1. 清算的財産分与
離婚時の財産分与と言えば、一般的に「清算的財産分与」のことです。
婚姻期間において、夫婦が2人で形成して、維持してきた財産に関しては、きちんと2人で分けて清算するという趣旨の財産分与です。
清算的財産分与の特徴は「2人で平等に分ける」というところがポイントとなります。そのため、不倫などの不貞行為があった方が不利になるなどは離婚訴訟ではなく、離婚の原因が夫・妻のどちらにあったかは関係は、ありません。あくまでも「2人できちんと分ける」ことになります。その割合は50対50となるのが通常ですが、企業経営者や相続などが絡んでいる富裕層で単純に半分ということにはなりません。婚姻前に多くの財産を貯蓄していた人がいる場合も同様です。
1-2. 扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚後に何らかの理由で生活が困難になる側に、生活を補助する意味で分与する財産のことです。例えば、病気で仕事ができない、今まで専業主婦だったので離婚後の生活が不安定になる、介護が必要な両親がいて働けないなどの理由が当てはまります。この場合には、経済力がある側が経済力のない側を扶養するという意味で、一定額を定期的にしばらくの間支払うケースが多いです。しかし、清算的財産分与が一定金額以上あったり、離婚後も安定した収入を得られる場合では、扶養の必要がないと判断され、扶養的財産分与は行われません。現実には、家庭裁判所が扶養的財産分与を命じるケースは多くはありません。
1-3. 慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与は、その名の通り「慰謝料」として分与される財産のことです。これは離婚慰謝料といわれる金額を財産分与として認めるというものであって、暴力とか浮気といった個別の不法行為による慰謝料は別に慰謝料として請求することになります。
素T叴コTを日手諫y量校により言ったてが認められます。慰謝料は財産分与と別に請求することが可能ですが、財産分与として請求することもできるものです。
そうすると離婚慰謝料を加味して裁判所が財産分与を決定するべきなのか、不明確になるという問題があります。そこで、別に慰謝料請求を個別の行為についてしている場合には、財産分与に離婚慰謝料を含まない趣旨で別に慰謝料を請求しているということを裁判所で明確に理解し、別に慰謝料請求をしていない場合でそれを除く意向が明確ではない場合、離婚慰謝料も加味しているのが裁判実務のようです。離婚慰謝料は離婚自体慰謝料と言われるもので、有責の相手の行為により離婚に至った精神的苦痛に対して認められます。これは離婚までの行為を一体として評価していることが多いようです。もっとも、相手の有責を主張する方は特に弁護士が整理して主張をする場合、通常は、個別行為による慰謝料を求めているので、離婚慰謝料を加味されることはあまり実務的にはないようにおもわれます。もっとも、清算的財産分与では適切な分与ができないと思われるときに補足的に慰謝料的財産分与を認めるというような場合も、過去の判例にはあるようです。
慰謝料の金額は、富裕な夫に高くなる傾向がありますので、慰謝料を不当に認められないように反論が有る場合には、証拠とともに反論をする必要があります。
2. 財産分与の対象となる「共有財産」について
財産分与では「夫婦の共有財産」を清算するために、2人で分けることになります。
どのような物が共有財産になるのか、富裕層や会社経営者・クリニック経営者では明確ではないことが多く、離婚訴訟では弁護士は「わけるべき共有財産は何か」という点に時間をかけることがよくあります。
まずは、大きなルールをお話ししましょう。
2-1. 現金や預貯金
金庫やタンス貯金をしていて手元にある現金や、銀行に預けてある預貯金は共有財産になります。例えば、夫が生活費をすべて払っていて、妻がパートの給与を妻名義の口座に貯めているような場合、婚姻中にパートをして稼いだお金は夫婦で分けるべきものですので、共有財産です。
夫の給与を自分の口座に移しているような場合も、同様に預金は共有財産です。
富裕層では、預金が実は親からの「隠れた贈与であった」と言うこともよくありますが、そういう場合には送金の記録とか、親が口座から出金した証拠を出して、立証していくことになります。また、毎年、非課税の金額で贈与をしているようなケースも贈与をきちんと立証することで、分与の対象から控除することができます。
2-2. 不動産(家・マンション)や車
家などの不動産や車も、共有財産です。それぞれ名義人が夫や妻のどちらか一方であっても、婚姻中に購入した物は夫婦2人の財産として、財産分与となります。
もっとも、婚姻前に購入した家・マンションや車は、夫婦の共有財産にはなりませんので分与の対象になりません。
富裕層のよくある「親の資金で購入した不動産」がある場合、共有財産ではありません。その名義が、夫や妻になっていてもその資金が親の贈与であった場合には、丁寧に立証することで財産分与の対象から除くことができます。しかし、立証が不十分であると共有財産とされますので、気をつけましょう。購入時の資料をとっておいて、それを証拠としてだすのが有用です。税理士さんなどに確定申告をしてもらっている場合、税理士さんが資料を保存していることもありますので、確認が必要です。
2-3. 保険
保険に関しては積立タイプのもののみ、別居時における返戻金の金額が財産分与の対象となります。掛け捨てタイプは財産価値がないから対象にならないと判断されます。生命保険の返戻金や学資保険も対象となることがあります。
弁護士によりきちんと開示をさせる必要があります。離婚訴訟では保険会社に返戻金を照会するなども可能ですので、相手が開示しなくても情報を得ることができます。
富裕層の場合、保険を節税につかっているようなこともあり、会社経営者は会社の資金で保険金を払っているような場合もあります。そういう場合には、分与の対象とされる共有財産とされるのかは、ケースバイケースとなります。
2-4. 退職金
退職金も、財産分与の対象になることがあります。退職金はすべての人がもらえるものではないので、場合によると思っておきましょう。
財産分与の対象となるには「退職金が支払われる時期がおおむね10年以内であること」「支払われる見込みがあること」などといわれることもありますが、上場企業では別居時にもし自主退職したらどのくらいの退職金がもらえたかという金額が明確になることが多く、それを基準として計算をすることが多いです。
会社が倒産して退職金が出ない可能性が高い場合、特に社内規定がないのでもらえるかわからない場合、対象とならない場合があります。
一方で、高収入の富裕層の場合、確定拠出年金がかなりの金額となることもあります。これも夫婦の同居期間における部分は分与の対象となりますので、専門弁護士に計算をしてもらう必要があります。確定拠出の情報を開示しない場合、離婚訴訟では調査嘱託により開示を証券会社に求めることができます。
会社経営者の場合、会社そのもの(株式)が共有財産となるので、退職金について別に議論することは少ないのですが、退職金規程があるような場合には別でしょう。
2-5株やNISA口座の有価証券(投資信託)
株や投資信託・出資金も共有財産となり、財産分与の対象です。
離婚時ではなく、別居時に有していた有価証券が対象となります。
価格は、口頭弁論終結時に近い時期の時価とすることが、訴訟では通常です。
3. 財産分与の対象外となる「特有財産」について
財産分与の対象とならない財産を「特有財産」と言います。特有財産とはどのようなものがあるのか、こちらも大まかな構造を知っておきましょう。富裕層では相続や贈与が多いので、特有財産が多い傾向がありますが、それを別に保管していないような場合が多く投資や運用にまわしている場合、どこまでが共有財産でどこまでが特有財産かの立証については、弁護士が資料を使って丁寧にしていく必要があります。
3-1. 贈与や相続で得た物
父母などからの贈与や相続で得たお金や物は、財産分与の対象とはなりません。なぜかというと、贈与や相続で得た財産は「夫婦2人で築いた財産ではない」と判断されるからです。
もっとも、もらったお金と自分のお金を合わせて株を買った、マンションを買ったと言うことも多く、そういう場合には弁護士が詳細に分析し、どの程度が共有財産かを立証していく必要があります。これは、難解・複雑な立証手続となることも往々にしてあります。
3-2. 子供名義の物
お子さんの名義で貯蓄をしている夫婦もいますが、この場合は「子供の財産である」ので「夫婦の財産ではない」ことになりそうですが、夫婦が形成していた財産から積み建てたのであれば親権者が管理している資産でありますし、財産分与対象となることが多いです。
祖母からもらったお金で構成された預金であれば、特有財産とされることが通常ですが、祖母のお金が送金されていたことを立証しなければならないこととなります。
3-3. 独身時や別居後に得た財産
独身中や別居後に購入した物や預貯金は特有財産です。財産分与は婚姻中に築いた財産のことなので、これらは財産分与の対象外になります。別居中はまだ婚姻中なのだから財産分与の対象となると思うかもしれませんが、別居した時点で婚姻関係が破綻していると判断されるので、別居後に得た物に関しては財産分与の対象になりません。
よって、ローンも別居してから払ったことにより債務が減りますが自分の債務が減ってもその分、相手に渡す財産が増えることはないので、別居してからのローン支払いで損をすることにはなりません。
4. 負債は財産分与の対象?
借金がある場合、借金も2人で分けなくてはいけないのかというと、状況によって変わります。
4-1. 婚姻中の生活のためにした借金などは対象
婚姻中の生活が苦しく、結婚式や葬式などで出費がかさんで仕方なく借金をした、などの場合は借金も2人で分けます。「婚姻中、2人の生活のためにした借金」であるからマイナスの共有財産となります。マンションのローンも二人の形成した財産で買ったマンションであればそのローンも夫婦の借金となります。マンションが独身時に買ったものであればその住宅ローンは、マイナスの共有財産になりません。
4-2. どちらか一方が遊ぶ金欲しさにした借金は対象外
夫がギャンブルにはまって借金をした、妻が欲しい物を買うために借金をした、などの理由でした借金は、財産分与の対象外です。婚姻中の生活には全く関係ない借金であった、と判断されます。
5. 財産分与は半分ずつが基本?
財産分与は、基本的に「2分の1ずつ」という割合にする実務上のルールがあり民法改正でそれが明記されました。
これは妻(または夫)が、専業主婦(専業主夫)の場合でも同じです。
5-1. 専業主婦でも2分の1ずつというのが認められている理由
専業主婦の場合、家にいて仕事をして稼いだわけではなく、あくまでも「夫が稼いできた金で得た財産」であるのに、離婚後2分の1ずつ分けるのはおかしいと思うかもしれません。これにはきちんと理由があります。どちらか一方が稼いで、もう片方が主婦として稼いでいない場合でも「一方が金を稼ぎ、もう一方が家のことをして支えたおかげで財産を築けた」と判断されるため、「win-win」の関係となり、2分の1ずつ分与するという決まりです。また、妻の方が、収入が少ないという場合でも、収入に関係なく「2分の1ずつ財産分与をする」ことになっています。
専業主婦が夫の給与を管理して、自分の名義で口座を持って株や投資信託を買っているような場合にはその株も共有財産となります。ブランド品のバックで価値があるものを買った場合も、そのバックが対象になります(中古品の価格を分与対象にします)。
6. 財産分与は離婚後2年以内に行う決まり
財産分与は離婚後いつまでにやるのかというと、離婚から「2年以内にする」という決まりになっています。2年というととても長く感じるかもしれませんが、離婚をするとなると、引っ越し、苗字を旧姓にする、クレジットカードや免許証の名義変更など、やることがたくさんあるものです。
いろいろやっているうちに、2年なんてあっという間に過ぎます。2年あるから余裕だろうと思わずに、離婚が決まったら早めに財産分与でやることを進めておきましょう。
7. 財産分与は弁護士にお願いするのが間違いない
ここまで読んで、財産分与について初めて知ったという方もいるでしょう。財産分与は対象となるものがなにか、その評価金額についていろいろなルールがあり、素人では判断が難しいものです。
特に富裕層では、財産が多岐にわたり海外にあることもあったり、特有財産が多くありますので、有利に分与するためには、弁護士にお願いして証拠をきちんと集めて、特有財産が分与対象にならないようにしたり、もらう側の場合には、相手が財産を隠さないようにする必要があります。
よって、早めに専門の弁護士に財産分与について相談しておきましょう。当事務所では、特に相続が絡んでいる複雑な財産分与や収益不動産がある場合や、不動産所有形態が複雑な財産分与を、海外に資産がある場合を得意としており、日本全国の方の無料相談をお受けしています。ぜひ、予約をお取りください。気軽なオンライン相談もできます。