国際離婚ならではいろいろ考えたり気を付けることがあるので、ここで徹底的に専門的弁護士(松野絵里子)が解説します。
Contents
- 1. どこで裁判ができるのか?
- 2. 注意:国際離婚では協議離婚はするべきではない!(ことが多い)
- 4. 準拠法とは
- 5. 具体的ケースでの離婚の準拠法について
- 6. 国際離婚の手続の進め方
- 7. 国際離婚と外国送達
- 8. 離婚そのものが認められない国があるので注意(配偶者がフィリピン国籍の場合)
- 9. 国際離婚の離婚後の手続き
- 10. 日本での離婚は、海外でも通用するのか(離婚として認められるか)
- 11. 国際離婚後の再婚は問題がないか?
- 12. 国際離婚後の相手のビザはどうなるのか?
- 13. 子どもの親権・養育費はどう扱えばよいのか
- 14. 日本の裁判所での親権・養育費・財産分与の準拠法はどうなっているのか?
- さいごに:国際離婚について、専門的な弁護士に相談するメリット
1. どこで裁判ができるのか?
国際離婚である場合、多くの場合は配偶者が外国人であったり、貴方自身が日本時ではない場合、または、夫婦が日本に住んでいない場合、どこで離婚裁判ができるのかということがまず問題になります。
裁判所なんていらないのではないか、協議して離婚ができるの状態であれば、日本に住んでいる場合、協議離婚が簡単なので選択肢となると思いますが、これには注意が必要です。
2. 注意:国際離婚では協議離婚はするべきではない!(ことが多い)
日本人は9割近くが協議離婚で離婚をしているので、離婚届を出すだけの離婚をしたいという国際結婚をしたカップルが多いようです。しかし、これは予想もしない結果となることがあります。国際(渉外)離婚特有の問題ですが、協議離婚は原則として避けたほうがよいでしょう。
海外では、協議による離婚を認めず、裁判離婚のみ有効とする国のほうが多いのが実情です。このため、日本で協議離婚をすると、戸籍には離婚が記録できますが、日本人ではない人には、戸籍はありませんから、海外で離婚を立証することが困難であるだけでなく、本国では協議離婚という離婚が無効であることも十分にあり得るのです。
裁判離婚のみ認める国で有効とするため、調停調書に「確定判決と同一の効力を有する」との文言を記載してもらうことがよくあります(東京家調停昭和49年8月13日家月27巻6号98頁)。よって、調停離婚か審判離婚・離婚訴訟を利用することがよいでしょう。
というわけで、日本の裁判所を使えるかどうかの確認をする必要がありますが、それは日本に国際裁判管轄があるかという問題になります。以下の記事をご覧ください。
4. 準拠法とは
国際離婚のように国をまたぐ法律問題を考えなければいけないケースでは、国際裁判管轄の問題とは別に、いったいどこの国の法律を離婚に適用するのかという問題がでてきます。
たとえば、貴方がオーストラリア人の夫をもっているような場合、オーストラリアでは、原則として、1年の別居を経てから離婚をしなければならない法制度であります。オーストラリアの離婚法では、夫婦が1年以上別居していると夫婦生活が完全に破綻していて、将来的に夫婦生活が修復する見込みが認められないことと判断されて、有責配偶者がだれかという判断はなく、裁判所が離婚を認めます。また、離婚時に子供の監護や養育費について取り決めをすることも求められています。
しかし、日本では夫婦が離婚すると決めればすぐに協議離婚や調停離婚ができますし、反対に1年別居していても片方が「夫婦はやり直せるから離婚しない」という考えでいると簡単には離婚ができません(裁判官に破綻したのか判断をしてもらう必要が出てきます)。また、不貞をして家を出て、子どもを顧みることもなく、不貞相手と暮らし始めているような相手であれば有責配偶者ということで、離婚を求めることができないという判例ルールもあります。よって、オーストラリア法と日本法は、離婚ができるかどうかという入口から相当に異なります。
アメリカは州法により離婚法が定められますが、かなりオーストラリアに似たような法体系です。日本が先進国ではかなり特殊な法体系であるといえるでしょう。
国際的な事案で適用される法律は「準拠法」と呼ばれており、日本では「法の適用に関する通則法」によって、離婚に関する準拠法は定められています。
日本の裁判手続きを利用する場合に、この通則法が適用されるのですが、その法律で27条、25条から、以下のようなルールがきまっています。
<国際離婚の準拠法のルール>
① 夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、日本法による。(27条但書)
② 夫婦の本国法が同一の場合は、同一法による。(25条1文)
*この本国とは、国籍がどこかということを意味しています。国籍を有する国の法律が本国法です。夫婦の国籍が同じであれば、その国の法律が本国法として準拠法になります。フランス人夫婦ならフランス法が適用されるというわけです。
③ ②に該当しない場合は、夫婦の常居所地法による。(25条2文)
④ 夫婦の常居所地法が異なる場合、夫婦に最も密接な関係がある地の法律による。(25条3文)
常居所とは、裁判所では、常時居住している場所で、相当長期間にわたって居住する場所である必要があるとしつつ、それは、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に勘案して認定するとしています。当面(数年以上)ここに住もうとして、常時住んでいれば、そこが常居所となることが多いでしょう(東京家庭裁判所 令和元年11月29日決定参照)。
最も密接な関係のある地というのは、これまでの夫婦の常居所がどこにあったか、子や親族の常居所はどこであったか、使っていた言語、生活スタイルなどを総合して決めます。
判例ではこのような判断をしているものがあります。
<水戸家庭裁判所 平成3年3月4日審判>
「相手方は、・・・・日本との関わりを持ち,1963年に初めて日本に来てからは,その後1967年から3年,1971年から約7年,1979年から3年半余日本に滞在して語学教師等をして生活し,日本を離れていた時は,殆どヨットで世界を転々と巡りながら生活してきており,ここ20年間は日本以外には落ち着いて生活したことがないような生活状態であった。以上であるとすれば,少なくとも現時点においては,相手方は法例14条及び16条にいう常居所を日本に有するということができ,その他の前記の日本と相手方との関わり具合及び申立人も今後日本に引き続き居住し,日本人と早期に婚姻する予定であること等を勘案すると,夫婦に最も密接な関係にある地の法律は本件においては,日本法に他ならないということができる。」
このように夫婦が居住したきた国がどこかが、夫婦に最も密接な関係のある地の法律の判断では、大きな判断要素となるでしょう。
5. 具体的ケースでの離婚の準拠法について
1) 外国人の配偶者も日本に住んでいる場合
夫婦の双方が日本に住んでいる場合では、準拠法は国際離婚でも、日本法になります。
2)夫婦が海外に住んでいる日本人夫婦の場合
日本人夫婦で双方が国外に住んでいても、日本人の夫婦なので、日本法になります。
3)双方ともに日本人ではないが日本に住んでいる場合
夫婦の国籍が同じならその国の法(ドイツ人夫婦であればドイツ法)
国籍が異なるなら、双方が日本に住んでいるので日本法
4)双方ともに日本人ではなく、相手が手続き時にはすでに海外に住んでいるような場合
この場合、密接な関連のある国の法律(アメリカ人の場合その人が住んでいるアメリカの州の法律)となりますので、裁判所がその国の法律がどこかを判断します。
5)注意:アメリカ国籍の方の場合の本国法・準拠法の考え方(不統一国の場合の準拠法)
アメリカでは、州によって適用される法律の内容が異ななりますので、このような国の法を「不統一国法」といいますが、その準拠法については、通則法38条3項が「当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。」とされています。よって、配偶者が例えばニューヨーク州に住所を有しているような場合、その人の本国法は、ニューヨーク州の法を本国法と考えます。
6. 国際離婚の手続の進め方
国際離婚の手続きは、まずはどこの裁判所で手続ができるかを理解してから、準拠法にしたがって進めていくことになります。国際裁判管轄があるかどうかについては、以下の記事をご覧ください。
離婚の国際裁判管轄の概要
- 相手(被告)の住所が日本にあるとき
- 双方が日本国籍のとき
- 原告が日本に住所があって訴訟を提起し、夫婦が最後に同居していた場所が日本国内である場合
- その他:日本の裁判所で裁判することが公平性を確保し、適切かつ迅速な審理の実現につながると判断されたとき(相手からDVで遺棄された場合、相手が行方不明の場合、DVを受けて逃げてきた場合など)
*具体的にそういった事情があれば、例外的に日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるので専門弁護士にご相談ください。
一方で、外国籍の相手がずっと外国に住んでいる場合や、夫婦ともに日本人ではない場合で外国に住んでいる場合は、原則として外国の裁判所を利用することになるでしょう。
*ハーグ条約について
子どもを連れて海外から日本に移転する場合には、原則として、他の親の同意や裁判所の許可が必要です。これについてはハーグ条約上の不法な子の奪取とか留置という結果になることがあるので、気を付けましょう。未成年の子を連れて、日本に戻ってくるときには配偶者や元配偶者と話試合をして、同意をもらいましょう。同意がもらえない、現地の弁護士の使い方がわからない、DVで逃げてきたい・・・というようなご相談については、無料相談をお申込みください。
ハーグ条約については以下の記事をご覧ください。
以下は、日本に国際裁判管轄がある場合を前提としてご説明します。
国際離婚の手続①:協議離婚
日本の法律のように、関連する他の国でも協議離婚が認められている場合は、協議離婚の成立を目指すことになりますが、その場合は、非常に限られています。また、夫婦で、財産分与・親権・養育費などの取り決めを行うのは簡単ではないことも多いので、調停離婚を目指すのが国際離婚ではほとんどです。
協議離婚ではなく調停をするというのであれば、家庭裁判所に調停を申し立て、豊富な知識・経験をもつ弁護士と調停に出頭するのがベストでしょう。また、子の親権が問題になる場合、相手配偶者には調停は話し合いの場であること、調停期日以外にも弁護士を介して話し合いをすることを伝えて、お互いが攻撃的にならないような工夫をすることが良いと思われます。
調停での話し合いできるとそれは調停調書において内容が記録されます。調停調書は確定判決と同じ効力を持っているので、海外でも離婚判決とおんなじ効力のあるものと認められるのが通常です。
国際離婚の手続②:調停離婚・審判離婚
調停は家庭裁判所で合意を形成する手続きです。日本の中の管轄家庭裁判所(通常は、相手方の住所地の裁判所ですが合意により東京家庭裁判所などとすることができます。)に調停申立てをして開始します。
調停申し立てでは、戸籍を出したり、国籍のわかる資料、住民票、準拠法に関連する資料などを添付する必要があります。
日本の家事調停では、裁判官と調停委員二名が間に入って話合いをまとめていきますが、双方に代理人がついていることが多いので、当事者は弁護士とともに出席します。ここで合意ができないと、調停は不成立となって終わります。まとまれば、合意内容を記載した調停調書が作成されますが、これには「確定判決と同一の効力」が与えられており海外の多くの国で認められます。
日本人が含まれる離婚では、離婚が成立した後、市町村役場に戸籍の届出をします。届け出義務は申し立てをした方にありますが、相手方も届をだすことは可能です。
*.審判離婚とは
審判離婚は、調停のなかで合意形成が進んでから「調停に代わる審判」(家事事件手続法284条)という審判(裁判所の決定のようなもの)を双方に送付する方法です。これは、合意はほぼできているが、裁判所に出頭ができないような場合に使われることが多く、例外的な場合に使われています。また、国際離婚では、遠方から期日にきてもらうのが大変であるという理由から利用されることがあります。当事務所では、国際離婚では出頭を何度もできない海外に住む当事者のためにこのような審判もよく利用しています。
さらに、他の国の準拠法では裁判離婚しか認められない場合、審判離婚であれば裁判離婚の一種に近いのでおの国でも有効となることが多いことから、審判離婚を利用することがあります。
国際離婚の手続③:裁判離婚
これは原告が訴訟を提起してはじめる訴訟形式での離婚です。
協議や調停では合意ができなかったときに、とられるもので、原則として調停をすませておく必要があります。これを調停前置主義といいます(家事事件手続法257条1項)。
しかし、相手が海外に住んでいて日本の調停に出頭ができないような場合には、調停を前置しなくても提訴ができます。
訴訟では、法適用で結果の判断がされますので、準拠法をまずは主張してから、その準拠法にあわせて、離婚原因の主張をしてそれを立証していくことになります。
7. 国際離婚と外国送達
日本で裁判所の手続を利用するとき、相手が海外に住んでいる場合には、注意しなければならないのが「外国送達」をどうするかという問題です。
送達とは、裁判所から訴状を被告に正式に送り届けることで、これが正式にできないと訴訟が始まらないのです。そのため法律で要件や手続が厳格に定められています。国内であれば特別送達という郵送でできますが、被告が、海外に住んでいる場合、国際裁判管轄の問題をクリアして日本で裁判ができる次のネックとなる問題は送達なのです。送達には4か月から1年と非常に時間がかかるのが通常で、訴状や証拠の翻訳が必要とされることが多いので、この点は専門的弁護士に相談をする必要があります。
8. 離婚そのものが認められない国があるので注意(配偶者がフィリピン国籍の場合)
フィリピンには離婚という制度は存在しないので、注意が必要です。
現在は、外国籍の配偶者とフィリピン国外において有効に離婚が成立した場合は、フィリピン国籍者はフィリピン法の下で再婚の資格を有する状態となるとされているようです。もっとも、再婚をする前に、フィリピンの裁判所で外国で成立した離婚の承認を得る必要がありますので、日本の裁判離婚をしたことの証明が必要でしょう。
最近の最高裁判例で、日本での協議離婚について、フィリピン家族法第 26 条第 2 項の適用範囲内であってフィリピンで国内承認されうると判断した判決がでているそうです。外国で合法的に取得された離婚を認めないと、フィリピン人の配偶者が婚姻関係に縛られ続け、外国人配偶者は再婚の自由を享受するという不公平な状況が結果となるので、家庭法第 26 条第 2 項により、このような矛盾を解決するべきであるという考えが基礎であるようです。
よって、日本で協議離婚や裁判離婚が成立したあとに、フィリピンで「リコグニッション」(国内承認)の手続が必要になります。
フィリピン共和国大使館の説明(2025年4月現在)
フィリピンには離婚という制度は存在しませんが、外国籍の配偶者とフィリピン国外において有効に離婚が成立した場合、フィリピン国籍者はフィリピン法の下で再婚の資格を有する状態になります。ただし、フィリピン法で再婚をする前に、フィリピンの裁判所にて外国で成立した離婚の承認を得る必要があります。
そして、フィリピンの裁判所の判決が民事登録書類の注釈に反映されます。
下記は、フィリピン総合民事登録局(The Office of the Civil Registrar General)において、フィリピン国外で成立した離婚に関する判決を民事登録書類の注釈に反映させる為のガイドラインです。
フィリピン国外で成立した離婚は、フィリピン国内の地方裁判所(The Regional Trial Court/RTC-Phil)において民事訴訟を起こし、法的に承認させなければなりません。
裁判所による判決は、当該裁判所管轄内の地方民事登録局に登録されます。
登録された書類は、結婚が成立した地方民事登録局へ転送されます。結婚がフィリピン国外で成立した場合は、マニラ市役所内の民事登録局に転送されます。
マニラ市役所内の民事登録局において下記の書類を提出し、民事登録書類に離婚判決の注釈を付ける手続きを行います。
フィリピン国外で成立した離婚の審判書またはマニラ市役所内民事登録局に登録された判決書(原本または謄本)
地方裁判所(RTC-Phil)の判決確定書(原本または謄本)
地方裁判所(RTC-Phil)の判決が地方民事登録局に登録されたことを示す証明書
地方民事登録局にて注釈が付けられた後、注釈付き書類とその他の必要書類をマニラにある総合民事登録局に提出します。
注意:日本国内において作成、発行された書類をフィリピン関係機関に提出する場合、在京フィリピン大使館または在大阪フィリピン総領事館にて認証手続き(書類に押印された日本外務省印や署名の認証)を行う必要があります。
9. 国際離婚の離婚後の手続き
日本以外で離婚が成立した場合は、その国の日本大使館・領事館などで日本の離婚届での手続きを忘れずにおこないましょう。離婚届を出すことは、義務です。例えば、判決で離婚をした場合、和文訳をつけて離婚判決の謄本などを役所に提出する必要があります。
10. 日本での離婚は、海外でも通用するのか(離婚として認められるか)
日本で協議離婚をして離婚届を提出しても、それは外国人との結婚を終わらせることは国内ではできますが、多くの外国では協議離婚を認めないので、そのような協議離婚が成立して戸籍上の離婚を証明できても、通常は、外国には効力が及びません。
そうすると、有効にするために他の国(配偶者の本国)では婚姻が継続してしまうため、その国でも離婚手続をおこなう必要があり、複雑なことになりえます。また、一度離婚が日本で成立した以上、日本での調停離婚・審判離婚は利用できませんので海外での手続きを模索する必要が出てきます。フィリピンでは準拠法において離婚そのものを禁止しているので、離婚手続きはできません。離婚無効の手続きを考えるしかないです。
調停離婚・審判離婚・裁判離婚であれば、海外でも離婚として認められることが通常ですが、その海外の国が、日本の判決を「外国判決の承認」をして認めるかという点に関連してきます。
11. 国際離婚後の再婚は問題がないか?
調停離婚などで相手国でも離婚が認められていれば問題なく再婚できますし、それができていなくても、日本の戸籍上で離婚が成立していれば、日本での再婚は可能です。戸籍上に再婚を登録できます。
ただし、外国人配偶者の国で離婚ができていないと、その人が再婚したときに「違法な重婚状態になる」といったトラブルが発生したり、その国ではあなたは離婚していないから、離婚前の親権状態が継続するという問題もあり得ます。よって、関連する国でも認められるような手続きを選ぶことが望ましいのです。
12. 国際離婚後の相手のビザはどうなるのか?
配偶者が外国人であると、離婚成立後は配偶者ビザの更新ができなくなるでしょう。離婚成立後も変わらず日本に滞在する場合は、そのひとは、在留資格の変更手続が必要となりますが、過去の婚姻実績があり、子の監護をしている場合や安定した収入がある場合には、定住者としてのビザを取得できる可能性がかなりあります。親権を維持できていれば、定住者ビザを得られる可能性は高まるでしょう。
外国人のなかには配偶者ビザを維持したくて、離婚に応じない人もいますが、子がいる場合、共同親権を選ぶことが令和7年春からできますので、親権者として定住ビザを取得する方向が解決策になりえるかと思います。
もっとも、離婚訴訟で判決で離婚できた場合、相手のビザについてまで協力をしなければならないという義務はありません。
13. 子どもの親権・養育費はどう扱えばよいのか
国際離婚では、親権・養育費の問題については、どの国の法律を適用するのか(準拠法)についてまず、理解しなければなりません。準拠法についてはすでに上述のとおり、ある事象について裁判所がどの国の法を適用するかという問題であり、その国の法がルールを定めているのです。
日本の通則法では、基本的には、父母のいずれかと子どもの国籍が同じであれば、その国籍を適用します。日本に住んでいる国際結婚の方では、通常父母がいずれか日本人であり、子が日本国籍を持っていることが多いのですが、その場合日本法が適用されます。よって、日本の法律にしたがって親権や養育費の取り決めを調停で合意していくとか、裁判離婚で判決をもらうことになります。また、裁判離婚の手続きでも和解が可能です。
裁判離婚では判決とともに、養育費について決定をもらうことができるので、専門的弁護士に依頼して訴訟の手続きを任せるのが良いでしょう。
14. 日本の裁判所での親権・養育費・財産分与の準拠法はどうなっているのか?
離婚について日本の裁判所に国際裁判管轄が認められれば、日本で離婚裁判ができたり、審判・調停の手続きが利用できます。
しかし、そのとき、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるからといって、親権とか養育費・財産分与について当然に日本法が適用されるわけではありません。どこの国の法律が準拠法になるかは「法律関係ごと」に判断されるので、養育費の準拠法、財産分与の準拠法、親権の準拠法は個別に考えなければならないのです。
離婚は日本法が適用されるが、親権には外国法が適用される場合がありえます。
1) 国際離婚の親権の準拠法
親権については、通則法32条が「親子間の法律関係」を、以下のように定めています。
<通則法32条>
・子の本国法が父または母の本国法(父母の一方が死亡し、または知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法による
・その他の場合には子の常居所地法による
よって、日本人が外国人と結婚していて、子が日本国籍を有している場合の準拠法では
日本法になります。しかし、夫婦が外国人夫婦の場合には、状況によって、準拠法は異なります。子の本国法がフランスで、父母はフランス人とアメリカ人であれば、フランス法が準拠法になります。父・母の本国法と子の本国法が異なる場合、子が日本に住んでいるのなら、日本法になります。
2) 国際離婚の財産分与の準拠法
財産分与(民法第768条参照)に関する問題は、夫婦財産制の準拠法(適用通則第26条)によるとする見解もありますが、争いがあります。しかし、通説的な考えは、この26条は財産の確定や帰属に関する問題にのみ適用され、離婚時の共有財産の財産分与については、離婚の準拠法と同じとする見解ではないかと思います。
よって、この通説によると、日本の裁判所で離婚の準拠法が日本法となっている夫婦では、日本法のルールで夫婦の共有財産を清算するため財案分与 をしていくことになります。特有財産になにが属するかも日本の家事実務(日本法とその判例法)によることになります。
<法の適用に関する通則法25条・26条(参考)>
第25条
婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
第26条
1 前条の規定は、夫婦財産制について準用する。
2 前項の規定にかかわらず、夫婦が、その署名した書面で日付を記載したものにより、次に掲げる法のうちいずれの法によるべきかを定めたときは、夫婦財産制は、その法による。この場合において、その定めは、将来に向かってのみその効力を生ずる。
夫婦の一方が国籍を有する国の法
夫婦の一方の常居所地法
不動産に関する夫婦財産制については、その不動産の所在地法
3 前二項の規定により外国法を適用すべき夫婦財産制は、日本においてされた法律行為及び日本に在る財産については、善意の第三者に対抗することができない。この場合において、その第三者との間の関係については、夫婦財産制は、日本法による。
4 前項の規定にかかわらず、第1項又は第2項の規定により適用すべき外国法に基づいてされた夫婦財産契約は、日本においてこれを登記したときは、第三者に対抗することができる。
3) 国際離婚の養育費の準拠法
この問題については、「扶養義務の準拠法に関する法律」があり、その第4条第1項に基づき、離婚について適用された法によるとなっていますので、離婚の準拠法が日本法なら日本法に従って判決がだされます。調停での合意も通常は、日本法の方法を使って合意をしていきます。もっとも、インターナショナルスクールにいっているお子さんについては、一方(多くは外国人の父)にてすべて払うというような合意がなされることもよくあります。
さいごに:国際離婚について、専門的な弁護士に相談するメリット
国際的な側面がある場合の離婚では、専門性のある弁護士へのご相談をおすすめします。国際離婚について弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあるからです。
(1) 国際裁判管轄があるかを正確に理解できる
これまで解説したように、国際離婚について離婚訴訟を提起する際には、国際裁判管轄と準拠法に関する検討を避けて通れません。
(2) 日本の裁判所を用いる場合に、準拠法が日本かどうかが、わかる
準拠法に関するルールは、一般の方にはあまりなじみがないものでしょう。
その一方で、ルールの適用の仕方を間違えると、管轄違いによって離婚訴訟が大幅に長引いたり、検討の不備が生じたりする事態になりかねません。
専門的弁護士にご相談いただければ、国際裁判管轄と準拠法に関するルールを正しく適用し、依頼者が不利益を被ることがないようにご対応いたします。
(3) どこで手続きをするのが、良いのか戦略がたてられる
国際離婚訴訟では、相手方と国籍や住んでいる国が異なることから、手続きを日本でするべきかどうかという点も、戦略的に考えるべき場合があります。
そのため、ご自身だけでそういった戦略を考えることは無理でしょう。専門的弁護士なら、海外の弁護士とも連携して進めることができます。
国際離婚では、すでに海外での手続きが開始されてしまっている場合もありますので、そういうときには海外の弁護士も必要になるでしょう。
国際離婚訴訟で問題になる事項は、財産分与・慰謝料・親権・養育費・面会交流など通常の訴訟と同様の問題があるのに加え、裁判管轄や準拠法、他の国の弁護士との連携というような複雑な問題が出てきます。国際離婚事件に関する経験を豊富に有する専門弁護士からは、一般的な離婚事件しか扱っていない弁護士にはできないアドバイスが得られるでしょう。