はじめに
共有不動産に関しては、共有者間の関係悪化により引き起こされるトラブルが散見されます。共有者が親族など特別な関係であることが多いので合理的な話し合いができず長期化する傾向もあります。
他の記事では、共有関係を保ったまま紛争を解決する方法と、共有関係を解消して解決する方法を述べました。本記事では、その他の論点について解説します。また、共有関係を解消することによって根本的に紛争を解決した場合に払うべき、税金とは費用についてもご説明します。
大きな負担になる可能性もある課税は、紛争解決の見通しの検討・判断の段階で把握しておくべきです。
また、ここでは、共有物分割と類似する遺産分割や財産分与との関係について、それから税金の問題も解説していきます。
Contents
- 1. 共有物分割と遺産分割や財産分与との関係はどのようなものでしょうか?
- 2. 相続分放棄と相続放棄、相続分譲渡はどのような違いがあるのでしょうか?
- 3. 相続人は、自分の法定相続分を超える部分の権利の承継を第三者に対抗するために、登記が必要でしょうか?
- 4. 相続のとき、遺留分を侵害されたら、どうしたらよいのでしょうか?
- 5. 共有物分割請求の際、権利の濫用と判断されるのはどのようなものでしょうか?
- 6. 共有物分割の際に、共有不動産にどのような税金がかかるのでしょうか?
- 7. 共有物分割の手続きのための費用はどのようなものがありますか?
- 8. 不動産共有の解消で払うべき、不動産取得税とはどのようなものでしょうか?
- 9. 共有物分割に伴う「登録免許税」とはどのようなものでしょうか?
- 10. 共有持分放棄とはどのようなものでしょうか?
- 11. まとめ
1. 共有物分割と遺産分割や財産分与との関係はどのようなものでしょうか?
相続に伴う遺産分割と、離婚に伴う財産分与という手続きは、「財産を分ける」という点で、共有物分割と似通っており、これらの中の複数の手続きが使える状況もあります。
遺産共有(遺産分割前の法定相続人で共有している状態のこと)は、物権共有(通常の共有している状態のこと)と同じ性質であると判例で示されています(最高裁昭和30年5月31日判決)。ただ、遺産共有の分割手続きは、共有物分割ではなく、遺産分割に限られます(最高裁昭和62年9月4日判決)。
夫婦が離婚すると、所有する不動産は財産分与として清算されますが、共有である場合には、共有物分割の対象となります。このように、財産分与と共有物分割の二種類の方法がある状態となります。
共有者が夫婦であっても、共有物分割請求は可能です。財産分与請求が可能である場合でも同様です(民法第758条3項、東京地裁平成20年11月18日中間判決)。ただし、権利の濫用など特殊な事情があるときには、共有物分割請求が否定されることもあります。大阪高裁平成17年6月9日判決では、原告の負債整理という主張や、妻や長女への攻撃的な意図があるため、権利の濫用にあたり、共有物分割請求は認められないとしました。
遺産共有の状態で、相続人が共有持分を譲渡したようなケースでは、物権共有と遺産共有が混在することもあります。
遺産の中の特定財産の処分は、民法の条文や判例、一般的な学説も認めています。しかし、否定した判例もあります。そのような場合は、以下の解釈論を丁寧に主張する必要があります。
民法第909条但書は、遺産分割前に譲渡を受けた第三者を保護しています。また、民法第906条の2(平成30年改正)でも、遺産の処分を認めています。最高裁昭和38年2月22日判決では、遺産の譲渡を認めています。大審院大正5年12月27日判決では、遺産の中の特定財産の共有持分を放棄することについても認めています。
2. 相続分放棄と相続放棄、相続分譲渡はどのような違いがあるのでしょうか?
「遺産の中の特定財産の共有持分を放棄すること」と似ている手段として、相続放棄と相続分放棄があります。
相続分放棄は、特別な手続きは必要ありませんが、意思表示(通知)によって相続人としての地位は維持しつつ、遺産分割の当事者からは脱するものです。相続放棄は、相続開始があったことを知った日から、3ヶ月以内に家庭裁判所に申述をしなければなりませんが、相続人でない扱いとなります。
相続分譲渡は、自分の相続分を他の共有者や第三者に譲り渡し、相続人の地位を移転させることになります。
相続分放棄や相続放棄、相続分譲渡は、相続人ではない扱いとなるので、遺産分割協議に参加しなくてよくなります。
一方、相続人が共有持分を第三者に譲渡したり、共有持分放棄をしたりしても、相続人であることには変わらず、遺産分割協議にも参加しなくてはなりません。
3. 相続人は、自分の法定相続分を超える部分の権利の承継を第三者に対抗するために、登記が必要でしょうか?
平成30年の民法改正によって、民法第899条の2が新設されました。相続人が遺言や遺産分割によって、権利を承継した場合、当該相続人は、自己の法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ対抗できないとしたものです。例えば、共同相続し、持分が譲渡され、移転登記が行われていた場合、遺言があったとしても、登記をしていなければ、対抗できなくなりました。つまり、「共同相続→持分譲渡→所有権移転登記」と「遺言→所有権移転登記」の早い者勝ちになってしまったのです。今後、このことによる相続の現場での混乱も予想されます。
4. 相続のとき、遺留分を侵害されたら、どうしたらよいのでしょうか?
相続に際して遺留分(法定相続人が最低限相続できる遺産の割合のこと)の侵害がある場合は、相続開始の時期(令和元年7月1日以降かどうか)によって是正方法が異なり(遺留分減殺請求、または遺留分侵害額請求)、その後の状況も異なります。
令和元年7月1日より前に開始した相続には、旧民法が適用されます。遺言内容が遺留分を侵害している場合には、侵害された相続人が遺留分減殺を請求すると、遺産の共有持分を取得するので、共有の状態になります(旧民法第1031条)。ただ、この状態は、良好ではないため、共有の解消を望みます。この時点で、遺産分割後の共有の状態であるため、物権共有になっています(最高裁昭和51年8月30日判決、最高裁平成8年1月26日判決)し、分割は、遺産分割ではなく、共有物分割となります。
令和元年7月1日以降に開始した相続には、平成30年に改正された新民法が適用されます。民法1046条1項では、遺留分を侵害された相続人が金銭の支払いを請求できることになりました(遺留分侵害額請求)。そのため、この請求では、共有になりませんので、さらに改正前のような解決手続きが必要になることもありません。
5. 共有物分割請求の際、権利の濫用と判断されるのはどのようなものでしょうか?
通常、共有物分割請求をすると、裁判所は共有を解消し、単独所有を実現してくれます。ただ、共有物分割請求をすること自体が権利の濫用や信義則(相手の信頼を損なわないように、誠実に行動すべきであるという原則、民法第1条2項)違反にあたるとして、特殊な事情がある場合には、裁判所が分割を認めないこともあります(棄却判決)。共有物分割を請求された共有者の立場で共有解消を阻止するには、権利濫用などの一般条項を主張するしか手立てがないということになります。実務でも、共有物分割訴訟の被告が権利の濫用を主張することは多くみられます。
それでは、共有物分割請求が権利の濫用にあたると判断されるのは、どのような事案なのでしょうか。具体例をまとめました。
1. 遺産分割を終えてもなお共有であり、関係に問題が生じた場合
遺産分割を終えた後、建物が共有となり、共有者の1人が建物に居住しているようなケースです。関係が悪化すると、居住しない共有者が共有物分割を請求することがよくあります。このような場合、状況によっては、共有物分割請求が権利の濫用になります。
2. 夫婦間で不動産が共有である場合
離婚が成立するような状況では、共有物分割と財産分与が重なっている状態であり、理論的には、共有を解消するにはどちらの請求も可能です。ただ、共有物分割請求について、特殊な事情がある場合には、権利の濫用として認められないことがあります(大阪高裁平成17年6月9日判決)。
3. 共用の通路が共有の場合
住宅街の通路として使用している私道が共有になっていることがありますが、これは、半永久的に使用しなければならないので、共有物分割にはなじみません。このような場合、共有物分割請求が権利の濫用にあたることが多くなります。
4.共有不動産がオーバーローン状態で、換価分割の判決となる見込みの場合
その後の形式的競売において無剰余取消になることを理由として、権利の濫用を主張するケースが考えられますが、競売による売却ができないとは限らないので、否定されています(京都地裁平成22年3月31日判決)。
6. 共有物分割の際に、共有不動産にどのような税金がかかるのでしょうか?
1)現物分割の場合
共有物分割とは、共有持分の譲渡に該当し、元々共有者複数人に分かれていた所有権が分割されたといえ、この法的性質は現物分割に当てはまっています(最高裁昭和42年8月25日判決)。このような場合には、共有資産の同一性が失われたり、値上がりによる利得を得たりすることがないため、原則として、課税はされません。ただし、共有物割合を逸脱するような分割をした場合には、課税されることがあります。
現物分割に伴う課税関係の原則として、法的性質が交換あるいは売買であるため、譲渡所得税がかかるはずです。しかし、これは実態と合わないため、税務上は、共有物分割の基本通達と、固定資産の交換の特例という二つの例外的な取扱いがあります。これらは、どちらを適用してもよいとされています。
共有物分割の基本通達は、譲渡所得税に関して、①共有持分に応じた現物分割について、譲渡はなかったものとして取扱い(所得税法基本通達33‐1の6、法人税法基本通達2‐1‐19)、②おおむね共有持分に応じた現物分割について、譲渡はなかったものとして取り扱うものです (所得税法基本通達33‐1の6注2)。
固定資産の交換の特例は、一般的な規定ですが、共有物分割の際にも適用されます。まず、①固定資産の交換について、一定の範囲で、譲渡所得税に関して、譲渡はなかったものとして取り扱うものです(所得税法第58条、法人税法第50条)。そして、②交換差金(金銭以外の財産を交換する場合に、譲渡する財産の価額と、取得する財産の価額が同額でないときに、その差額を補うために授受される金銭のこと)がある場合でも、交換差金が、交換した資産のうち大きい方の20%相当額を超えない範囲で適用され、その交換差金だけが所得税の課税対象となります。このことは、共有物分割後の譲渡所得税の課税にも影響を及ぼします。共有物分割について、譲渡がなかったものとする場合には、所有期間の判定に関して、共有物分割の前後を通算して期間を算定します。一方、譲渡があったとする場合には、共有物分割の時点が起算点となります。
現物分割の際、金銭の授受を伴う場合があります。現物分割と価格賠償を組み合わせた分類類型で、賠償金の支払いが生じる事例です(最高裁昭和62年4月22日判決)。賠償金(調整金)は、譲渡所得税の対象となります。
共有物分割の基本通達については、調整金がある場合には適用されません。一方、固定資産の交換の特例については、調整金があっても要件を満たせば適用されます。適用される場合は、調整金の部分が交換差金としての譲渡所得税の課税対象になります。
共有持分の割合を超えて分割がなされた場合は、原則通りの課税関係となり、譲渡所得税などの課税が生じます。また、共有持分取得の対価を支払わないことから、贈与税が課税される可能性もあります(相続税法第9条)。
2)換価分割の場合
換価分割の課税関係は、一般的な不動産の売却と同様になり、譲渡所得税が生じます。分割により不動産が金銭に換わるため、資産の譲渡に該当します。
3)全面的価格賠償の場合
全面的価格賠償の課税関係は、共有者同士の売買と同様になり、譲渡所得税が生じます。実質的な共有持分の処分を伴うため、資産の譲渡に該当します。
7. 共有物分割の手続きのための費用はどのようなものがありますか?
共有物分割のための手続きには、一定の費用がかかります。
例えば、測量費や登記費用などを支出したら、個人の場合は、必要経費に算入したものを除き、将来の譲渡所得の算定において土地の取得費に算定します。法人の場合は、法人税の算定において当該事業年度の損金に算入できます。
8. 不動産共有の解消で払うべき、不動産取得税とはどのようなものでしょうか?
不動産取得税とは、不動産を取得したときに課される税金です(地方税法第73条の2第1項)。不動産の移転する場合に課され、現実的な利得とは関係ありません(所得税や収益税は利得と関連しています)。
共有物分割の際には、原則として不動産取得税は生じません。かつては、共有物分割の際に、不動産取得税が課されていましたが、平成11年の地方税法改正により、現在は、原則として否定されています。共有不動産を共有持分に応じて分割する場合には、新たに不動産を取得するわけではないので、不動産取得税の対象とはなりません(地方税法第73条の7第2号の3)。共有物分割に関する不動産取得税の課税については、例外規定があり、会社分割による不動産の取得の場合は非課税になります。
9. 共有物分割に伴う「登録免許税」とはどのようなものでしょうか?
不動産登記に要する登録免許税の税率は、原則、1000分の20です。ただ、一定の要件を満たすと、1000分の4に軽減されます。
実務では、共有物分割の合意書の記載で税務上の認定が変わることがあります。
10. 共有持分放棄とはどのようなものでしょうか?
共有持分放棄とは、共有者の1人が不動産の共有持分を放棄して、他の共有者に帰属させる手続きのことです(民法第255条)。対価は得られませんが、共有関係から離脱する手段としては、非常に有効です。法的な効果は、通知のみで生じます。実際には、共有持分を放棄した後、登記申請をする際、他の共有者の協力を得られないことがよくありますが、移転登記が済むまでは、固定資産税の課税が生じてしまいます。また、土地工作物責任(土地の工作物に欠陥があり、他人に損害を与えたときには、賠償責任を負うこと、民法第717条)が生じる可能性もあります。このような場合には、登記引取請求訴訟を利用します(最高裁昭和36年11月24日判決)。
11. まとめ
共有物分割の手続きは、付随する問題も多く、複雑化する傾向があります。紛争解決の見通しを判断する段階から、課税等にも気を配り、利用できる手続きの種類とその判断基準をしっかりと把握することが大切です。