共有不動産

共有不動産の独り占めに対する他の共有者の法的手続き

複数人で一つの不動産を共有しているときは、すべての共有者にその不動産を使用・収益する権利が認められています。ところが、不動産を共有者の1人が独占して使用・収益している場合もあり、そうすると、他の共有者は不公平に感じてしまいます。この場合、他の共有者が取れる手段はどのようなものでしょうか。ここでは、独り占めしている共有者にどのような請求ができるのか、また、共有状態を解消する方法についてもみていきましょう。

1. 共有者の1人が共有不動産に居住する場合、他の共有者はどのようなことができるのでしょうか?

一つの不動産を共有(複数人で共同して所有すること)している場合には、各共有者は共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(民法第249条)と規定されており、共有者の持分割合に関係なく、共有物全体を使用することができます。ただ、共有不動産は、共有者全員で占有・使用していることは少なく、その中の1人が居住(占有・使用)しているケースがよくみられます。

通常、共有者は、親族などの特別な関係であることが多いので、関係が良好であれば、問題は特に生じませんが、一度悪化すると、1人が占有・使用している状態を他の共有者は不公平であると感じてしまいます。よって、共有者間で、事前に協議をしっかりと行い、意思決定をすることが理想です。しかし、実際には、協議行っていないことも多く、明確な意思決定がなされておらず、共有者間の意見の相違により紛争となります。このような場合に、他の共有者はどのような方法をとればよいでしょうか。

1-1. 明渡請求

民法第249条では、共有者の持分に応じた共有物の使用を認めているので、それに基づいて、明渡請求をすることが考えられます。ただし、判例では、明渡請求は否定され、金銭の請求のみが認められる傾向にあります。

最高裁昭和41年5月19日判決では、「共有物の持分の価格が過半数をこえる者は、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない」としました。しかし、これらの判断には、背景にある特殊事情が大きく影響しますので、注意が必要です

共有者の1人が占有・使用している場合には、その共有者は、共有持分権により、共有不動産全体を占有・使用する権限がありますが、それと同時に、他の共有者も共有持分権を持っているので、それを侵害していることになります。よって、その占有・使用には一定の制約があり、違法な部分と適法な部分が混ざり合います。判例では、一部の共有者が共有物をほしいままに単独で使用・収益している場合でも、他の共有者は当然には共有物の全部引渡しを求めたり、独占的な使用収益行為を差止めたりすることはできないとし、協議が成立するか、共有物を分割するまでは、不法行為又は不当利得に基づく金銭賠償によって救済を求めるしかない旨を示しています(東京高裁昭和58年1月31日判決)。

ただし、明渡請求が認められたケースもあります。

実力行使をし、共有物を占有した事例

仙台高裁平成4年1月27日判決

長年、平穏に共有建物を占有・使用してきた共有者の建物に荷物を勝手に運び入れ、仏壇を取り壊そうとし、神棚を取り払い、遺影を取り去り、生活用品や着物などを家の外に出し、物置の鍵を取り換えたケースです。控訴人を「実力で排除するに等しいものであり、控訴人に同建物の共有持分権があっても右は権利濫用と評価されてもやむを得ないものであって、このような事情が存在する場合においては多数持分権者である被控訴人らの少数持分権者である控訴人に対する同建物の明渡請求は許されると解するのが相当である」として、請求を認めました。

他の共有者が使用できないように妨害したケース

横浜地裁平成3年9月12日判決

持分割合が各2分の1の共有通路に共有者の1人が自動車やスクーター、自転車、植木鉢を放置し、通行を妨害していたケースです。被告は、原告が「通行するのを妨害したことがあり、今後も妨害するおそれがあると認められるから、被告に対してその妨害禁止を命ずるのが相当である」としました。また、「被告所有の竹木の枝が」「かなりの規模で」「張り出し、越境していて」、「出入りする右賃借人、駐車場借主等の自動車の円滑な進行を妨げているが、そのままに放置していることが認められ」、「被告の持分に応じた使用の範囲を超えて、原告の持分権を侵害するものと認められるから、被告は右竹木の枝の剪除をすべきである」としました。

管理方法の協議に応じないケース

東京地裁昭和35年10月18日判決

債権者が長年建物に居住していたのにもかかわらず、意思に反して立ち退きを余儀なくされたり、債権者の同意なく共有物の変更を加えようとしたりするケースです。これについて、裁判所は、「債権者等および債務者」は「各々本件土地建物の全部につき持分に応じた使用収益権を有する。しかし、民法第二四九条の権利は、共有者の内部関係において、未だ抽象的な権利であつて、それに基いて直ちに、共有者の一人が他の共有者に対し、自己の意図する管理方法により使用収益すべきことを強制し得るものではない。さらに、これを具体化し、共有物を使用収益するについては、共有者全員の協議の上持分の価格の過半数により定めることを要し、右決定に基き一人の共有者が使用収益することを他の共有者が妨害した場合でなければ、その共有者に対し妨害排除を請求し得ないものといわなければならない。しかし、共有者の一人が他の共有者の共有持分を否定し、全く、他の共有者の使用収益を認めず、管理方法についての協議にも応じないで自ら共有物を使用しているような場合には、共有物に対する不法占有者と同視すべぎであるから、他の共有者は共有物を占有する共有者に対し、民法第二四九条の共有物の持分にもとづぎ、その妨害排除として共有物の引渡を請求し得ると解するを相当とすべく」、本件において、債務者は、「単に共有持分にもとづいて本件建物を保管するものでなく、債権者等の共有持分にもとづく使用収益権を全面的に否定して、管理方法の協議を拒み、恰も単独所有権者であるかの如く本件土地建物を専用しているものであつて、債務者」「と共同使用中の債務者」「についても同じことをいいうべく、結局債務者等は債務者等の持分自体を争うと同様の態度でその使用収益を妨害しているものというべきである。したがつて、特別の事情がない限り、債権者等は、債務者等に対し共有者の共有物に対する管理権にもとずく本件土地建物の妨害排除として、その明渡を求めることができるものといわなければならない」として、明渡請求を認めました。

1-2. 償還請求 (民法第249条2項)

令和3年の改正で、償還する義務が民法に規定されました。共有物を使用する共有者は、自分の持分を超える使用については、対価を償還する義務を負うというものです。それまでは、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求といった構成によって、金銭を請求し、共有者間の公平を図っていましたが、民法が改正されたことで、共有物の使用対価の償還義務が明文化されました。使用の対価を無償とするなどの別段の合意がない限りは償還請求することができます。使用の対価は、賃料を基準に算定することが一般的です。共有者が家賃収入を独占しているのなら、その家賃を基準にします。また、共有者が居住している場合には、周辺の家賃相場を基準に、持分割合を掛けて算出します。

1-3. 不当利得返還請求(民法第703条)

共有不動産の賃料収入は共有者全員に受け取る権利があるので、それを独占している共有者は不当に利益を得ていることになり、他の共有者は共有持分に応じて請求することができます。最高裁平成12年4月7日判決は、相続した共有不動産の持分に応じた使用が妨げられているケースですが、「不動産の共有者は、当該不動産を単独で占有することができる権原がないのにこれを単独で占有している他の共有者に対し、自己の持分割合に応じて占有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することができる」としました。法的な理由なく利益を得て、それによって他人に損失を与えた場合に請求できます。不当利得返還請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に発生した場合は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年です。2020年3月31日以前に発生した場合は、権利を行使できる時から10年です。

1-4. 不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)

共有不動産を独占している共有者に対して、共有持分の侵害による不法行為に基づき損害賠償請求を行うことができます。他の共有者は共有持分に応じて請求することができます。故意または過失により他人の権利や利益を侵害し、損害を与えた場合に請求することができます。不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年です。

2. 不当利得返還請求をした賃料収入に税金はかかるのでしょうか

賃料収入は、「不動産所得」になるので、年間20万円以上を超える場合には、確定申告が必要です。家賃収入から維持管理費などの経費を差し引いた金額が課税対象額となります。

3共有不動産にかかる費用負担は?

共有不動産の固定資産税は、共有者全員が連帯して全額納付する義務があります (地方税法第10条2項)。また、修繕費などの維持管理費は持分割合に応じて負担する必要があります。請求者がそのような費用を負担してこなかった場合には、賃料収入と相殺することになります。

4. 不当利得返還請求をする場合の手続きの流れをみていきましょう

〇内容証明郵便の送付

共有不動産を独占している共有者に内容証明郵便で賃料の支払いを求める通知を送ります。

↓応じない場合

〇調停の申立て

相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に民事調停を申立てます。当事者間で合意がある場合は、地方裁判所または簡易裁判所に申立てます(民事調停法第3条)。裁判官と調停委員が間に入って話し合います。

↓調停が不成立の場合

〇訴訟の提起

☆地方裁判所(請求額が140万円を超える場合)または簡易裁判所(請求額が140万円以下の場合)に不当利得返還請求訴訟を提起します。

↓約1ヶ月

〇裁判期日

証拠や書面を提示し、主張します。

↓約10か月

〇判決

↓判決に従わない場合

〇強制執行の申立て

確定判決を債務名義(請求権の存在と範囲を公的に証明する文書)として、強制執行を申立てることができます。

〇強制執行

相手方の財産を差し押さえることができます。

5. 共有関係を解消する手続きには、どのようなものがあるのでしょうか

共有者が独占して使用している場合、共有状態を解消するという手段で、トラブルを収めることも考えられます。

5-1. 他の共有者に共有物分割訴訟を提起

裁判所に共有物分割訴訟を起こし、判決により、共有不動産を分割し、共有を解消する方法です (民法第256条1項)。

5-2. 共有者間で共有持分を売却

共有者の1人が他の共有者の持分を買い取り、単独名義にする方法です。

5-3. 共有者全員が共有不動産全体を売却

共有者全員の同意を得て、不動産全体を売却する方法です。

5-4. 自分の共有持分を第三者に売却

自分の持分を第三者に売却して、共有関係を解消する方法です。共有者の同意なく、共有関係から離脱することができます。

5-5. 自分の持分を他の共有者に売却

共有者側に買い取る意思が必要となります。

5-6. 他の共有者の持分をすべて買い取る

持分をすべて買い取ることによって共有名義を解消し、単独名義にします。

5-7. 自分の共有持分の放棄

自分の持分を放棄する方法であり、その持分は共有者に帰属します(民法第255条)。持分の放棄による所有権の移転を第三者に対抗するためには、所有権移転登記が必要です(最高裁昭和44年3月27日判決)。

5-8. 共有の土地を分筆する

共有の土地を切り分けて、それぞれ単独名義にする方法です。ただし、共有不動産が建物の場合はできません。

6. 共有物分割とはどのようなものでしょうか

「共有関係を解消する」ための手続きはいくつかありますが、その中でも代表的なものは、共有物分割です。共有者分割の目的は、共有状態を解消し、単独所有の状態にすることです。共有物分割をするには、共有者全員で協議をすることが必要です。ただ、共有者間で協議ができないときや、協議が不調に終わったときには、訴訟を提起し、裁判所が分割類型やその内容を決定します。

令和3年の民法改正により、今まで、判例で許容されていたに過ぎなかった全面的価格賠償が条文化され、現物分割と並列に規定されました。これらの二つが行えない場合は、換価分割されることになります。

〇分割類型

6-1. 全面的価格賠償

共有者のうちの1人が他の共有者の共有持分を買い取る方法です。共有者の1人が対象の不動産を使用している場合には、この方法が一般的に用いられます。令和3年の民法改正で、民法第258条2項に明文化されました。それまでは、共有物を分割する場合においては、共有者のうち特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、共有物を取得する者に支払い能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させるとしても他の共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、全面的価格賠償の方法によることも許容されるとした判例(最高裁平成8年10月31日判決)が出されていたので、実務で活用されていました。

6-2. 現物分割

不動産そのものを分断して、エリアごとに単独所有する方法です(民法第258条2項)。

6-3. 換価分割

不動産を第三者に競売で売却し、その代金を分ける方法です(民法第258条3項)。ただし、競売なので、売却金額がどうしても低くなってしまうというデメリットがあります。全面的価格賠償と現物分割のいずれもできない場合や、分割によると共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合には、換価分割が行われます。

7. まとめ

共有不動産に共有者の1人が居住している場合や賃料を独占している場合には、他の共有者は不公平感からその状態を是正したいと考えるのが自然です。不当利得返還請求などを活用したり、共有関係を解消したりするなど、いろいろな方法が考えられるので、トラブルを解決するために、一度弁護士に相談するとよいでしょう。

記事監修者 弁護士 松野 絵里子
記事監修者 弁護士 松野 絵里子

記事監修者: 弁護士 松野 絵里子

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