共有不動産

共有不動産のお悩みに関して、解決方・必要な知識を専門的弁護士が説明します!

1. はじめに

不動産共有に関しては、いろいろな争いが発生しやすいものですが、その中でも「共有不動産」については非常に解決策が込み入っており、多岐にわたります。

不動産(土地や建物など動かすことのできない財産のことです。)の所有者は、通常、自由に使用・収益・処分することができます。ただ、それが「共有不動産」になると、1つの不動産を共有(複数の者が一つのものの所有権を保有している状態のことです。)しているので、民法のルールも多く、その解釈は大変複雑です。専門的弁護士でなければ、解決ができません。

一方で、相続によって共有不動産をもっている人は増加しており、最近では相続登記が義務化されたので、登記はしないといけないし固定資産税はかかるのに、有効利用できてないで困っている方が増えております。

当事務所では、共有不動産について相続(遺産分割協議や調停)において解決を目指しておりますが、それでも解決ができない方のために、共有不動産の法律う関係をご説明します。

共有不動産についての法律問題の考え方や、その際に考慮すべき事項をまとめて経験の多い弁護士松野絵里子が、説明しています。

また、共有状態を継続したまま、解決する方法についても整理していますので、どうか参考にされてください。共有関係を解消することによる紛争解決については、別途取り上げます。

紛争の解決において有益な情報を本書では実務的な観点で述べていきますので、現実の紛争解決に役立たせていただきますようにお願いします。

<無料相談について>

当事務所では共有物に関するご相談を無料でさせていただいていますので、ご相談の予約をお取り下さい。日本全国の不動産についてオンライン相談もしております。

2. 共有不動産を使用・収益・処分する際には、共有者のどれだけの賛成が必要でしょうか?

財産を所有すると、持ち主はそれを使用・収益・処分することが可能になります。同様に、財産を共有しても、使用・収益・処分することは可能ですが、所有権を持っている人が複数いることから、行使する決定権をもつ人も複数いることになります。よって、共有不動産を使用・収益・処分するためには、共有者間での一定の持分割合が必要であることから、協議や協力が必要になります。

共有不動産においては、共有者間で協議し、合意すべき事項が多く存在します。例えば、賃貸や建て替えの有無などです。特に、第三者に賃貸し、収益化することにした場合は、その条件を考えたり、入居者を審査したりするなどの多くのことがあります。相続したアパートなどで、この問題は深刻ですね。誰かが一人でアパートの賃料を独り占めしてしまうこともよくあります。

民法では、共有物の使用・収益・処分の意思決定に関する規定があります。令和3年に共有に関する規定の一部の民法が改正され、令和5年4月1日に施行されました。この改正民法では、共有物の「管理」の範囲が拡大され、明文化されました(民法第251、252条)。旧民法251条で規定されていた「変更」を「軽微変更」と「(それ以外の)変更」に分け、「軽微変更」の場合は、共有者全員の賛成が不要になりました。

以下が、どういうルールで共有物を使ったり売ったりするかのルールです。

<変更>

 共有物を変更(軽微変更を除く)する場合は、共有者全員の賛成が必要です(民法第251条1項)。変更とは、共有物の主要な性質や用途を変更させる行為です。例えば、建物を取り壊すことや、共有物全体を第三者に売却することなどです。

<軽微の変更>

 共有物の形状や効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)の場合は、共有持分の過半数の賛成が必要です(民法第251条1項)。形状とは、共有物の外観や構造などのことであり、効用とは、共有物の機能や用途などを指します。例えば、砂利道をアスファルトに舗装することや、防水のために屋上や外壁を大規模修繕工事することなどです。このような軽微な変更でも、旧民法では、共有者全員の賛成が必要でしたが、新民法では、共有持分の過半数の賛成で決定できるようになりました。

<管理> 

 共有物を管理(狭義)する場合は、共有持分の過半数の賛成が必要です(民法第251条1項)。狭義の管理行為とは、共有物を利用したり改良したりする行為です。例えば、建物を改装したり、宅地を整地したりすることなどです。アパートのリフォーム工事もこれです。

<保存>

共有物を保存する場合は、共有者単独で行うことができます(民法第251条5項)。保存とは、財産の現状を維持することです。例えば、建物の修理などです。アパートのなかの給湯器が壊れた、エレベーターが壊れたというようなときの修理もこれにあたりますから、単独でできます。

3. 建物の取り壊しや売却というような、共有物を変更するときに、共有者全員の同意を得ることができない状況の場合はどうすればよいでしょうか?

共有者の行方がわからない場合や、相当な期間に賛否を明らかにしない場合は、他の共有者の同意を得て変更できる旨の裁判を行えるという規定ができました(民法第251条1、2項)。以前は、そのようなケースにおいては、手つかずの状態でしたが、この条文ができたことで、共有物の変更が可能となります。

4. 共有物の変更や処分は、共有者単独では行えませんが、実際に行ってしまった場合には、どうなるのでしょうか?

仮に勝手に建物を解体してり、売ってしまったらどうなるかですが、最高裁の判例があります。

<最高裁昭和43年4月4日判決>

共有の農地を権限なく共有者単独で売買したケースです。判例では、売買契約は有効に成立し、自分の共有持分については、履行の義務を負うとしました。共有持分を超える部分は他人の権利の売買であるとし、所有権は移転しないとしました。

実際に意思決定する場合には、後々紛争にならないようにするためにも、共有者間の連絡や通知の仕方に工夫が求められますので、弁護士に相談して他の共有者に連絡をするなどしましょう。また、裁判での解決が可能ですのでそれも検討しましょう。勝手に処分するなどしたら、後で損害賠償請求をされます。

5. 共有不動産の使用・収益・処分の意思決定後に共有者が変わったとき、意思決定の内容は承継されるのでしょうか?

共有不動産を使用・収益・処分するという意思決定をした後で、相続や共有持分の譲渡があるような場合、どうなるのかということです。

これについては、非常に限定的な分割禁止特約の登記(民法第256条、不動産登記法第59条6号)という公示制度しかありません。共有不動産について、最長5年間の分割を禁止する旨を登記できるというものです。共有者全員の合意に基づいて、共有不動産の分割請求権を制限するものです。この登記をすることで、第三者に対して分割禁止を主張できます。

これ以外には約束を他の人に承継させることができません。

6. 共有者の1人が共有不動産に居住する場合、他の共有者はどのようなことができるのでしょうか?

共有不動産は、共有者全員で占有・使用していることは少なく、その中の1人、あるいは1世帯のみが居住(占有・使用)しているケースがよくみられます。

通常、共有者は、親族などの特別な関係にあることが多いので、関係が良好であれば、問題は特に生じません。でも、一度関係が悪化すると、1人が占有・使用している状態を他の共有者は不公平であると感じてしまいます。そうして問題が起きます。

こういうときには、共有者間で協議をしっかりと行い、意思決定をすることが理想です。しかし、実際には、協議が行えていないことも多く、勝手に住んでいる人に対して不満が高まり、紛争となります。

このような場合に、他の共有者は何かできることはあるのでしょうか。これについては、いくつかの方法が考えられます。

1)明渡請求

民法第249条では、共有者の持分に応じた共有物の使用を認めているので、それに基づいて、明渡請求をすることが考えられます。ただ、判例では、明渡請求は否定され、金銭の請求のみが認められる傾向があります。

最高裁昭和41年5月19日判決では、「共有物の持分の価格が過半数をこえる者は、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない」としました。しかし、これらの判断には、背景にある特殊事情が大きく影響しますので、注意が必要です。

共有者の1人が占有・使用している場合には、その共有者は、共有持分権により、共有不動産全体を占有・使用する権限がありますが、それと同時に、他の共有者も共有持分権を持っているので、それを侵害していることになります。よって、その占有・使用には一定の制約があり、違法な部分と適法な部分が混ざり合ってしまいます。

判例では、一部の共有者が共有物を勝手に単独で使用、収益している場合でも、他の共有者は当然には共有物の全部引渡しを求めたり、独占的な使用収益行為を差止めたりすることはできないとし、協議が成立するか、共有物を分割するまでは、不法行為又は不当利得に基づく金銭賠償によって救済を求めるしかない旨を示しています(東京高裁昭和58年1月31日判決)。つまり、家賃相当額を請求するなどの金銭賠償によって救済を求めることはできます。

2)償還請求 (民法第249条2項)

令和3年の改正で、民法に規定されました。共有物を使用する共有者は、自分の持分を超える使用については、対価を償還する義務を負うというものです。それまでは、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求といった構成によって、金銭を請求し、共有者間の公平を図っていましたが、民法が改正されたことで、共有物の使用対価の償還義務が明文化されました。つまり家賃相当額を請求できることが明文化されたのです。家賃相当額を払ってもらえずお困りの方は、ぜひご相談ください。

7. 共有不動産の使用・収益・処分の意思決定の際、少数持分権者の意向はどうなるのでしょうか?

共有者の意思決定には、前述のように、多数決を用いることがありますが、そのような場合、少数持分権者(持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者)の意向は反映されないことになってしまいます。

そこで、少数持分権者にはどういう対抗策があるかですが、少数持分権者については、保護規定はないのですが、現実に使用できないことから、使用対価の償還請求を利用できるのです。

8. 共有者不動産の経費を共有者の1人が負担したら、他の共有者にどのようなことをすればよいのでしょうか?

不動産は、所有しているだけで、固定資産税や維持管理費などのコストが生じます。不動産を共有する場合には、そのコストを持分割合に応じて共有者全員で負担することが規定されています(民法第253条)。実際には、共有者のうちの1人が一旦立て替え、他の共有者に請求すること(求償)が多いでしょう。

ただ、求償したのにもかかわらず、立て替えた経費を他の共有者に支払ってもらえないといったケースがよくみられます。このような場合には、支払わない共有者の共有持分を強制的に買い取ることができる(共有持分買取権、民法第253条2項)という規定があります。この規定により、共有者への請求から1年経つと、強制的に持分を買い取ることができます。これは、固定資産税を払ってきた人にはよい制度ですね。

共有持分買取権は、共有持分を取得する意思表示によって行使します。この意思表示のときに、共有持分の代金の提供が必要になると考えられています。原則として、現実の提供が必要ですが、債務者(共有持分買取権の相手方である共有者)が代金の受領を拒絶している場合には、口頭の提供(準備ができたことを通知することだけです。)で、足ります(民法第493条)。

この制度は、相続したアパートとか建物の管理をしてきた人や経費を払ってきた人には、良い制度です。しかし、経費を支払わない共有者が他の債権(家賃の分配を受けていないなど)を主張することが多いので、専門的弁護士に相談して進めましょう。特に、共有者は、親族関係があることが多く、相続でもめた人が多いので、冷静になれず複雑化しやすいのです。

9. 収益不動産を共有する場合に、賃料の分配はどうなるのでしょうか?

共有不動産には、賃貸アパート、賃貸マンションやテナントビル、賃貸している戸建てなど、収益不動産であることが多いです。

共有不動産で得た収益は、共有者で分配します。この場合、例えば、メンテナンス料や賃料、入居者の審査など、共有者の間で決定すべきものが大変多くなります。共有者間の関係が良好な場合は良いのですが、悪化してしまうと、合意ができず、管理や運用ができなくなります。また、収支の配分について、激しい対立に発展することもあります。

<最高裁平成17年9月8日判決>

この判例は、共同相続された不動産に関するケースです。遺産は相続開始から遺産分割までの間は、共同相続人の共有であるので、共有不動産の賃貸によって得られた賃料は、各共有者が共有持分割合に応じて、分配されるとしました。

共有不動産による収益は、共有持分割合に応じて分配されますが、収益を手にした共有者の1人が他の共有者に分配せず、独り占めしてしまうことがあります。このような場合には、他の共有者は、独占した共有者に不当利得返還請求(本来受け取るべき賃料の返還を求める請求)ができます(民法第703条)。

10. 共有不動産を賃貸する際に、賃貸借契約書上で注意すべきことはどのようなことでしょうか?

共有不動産の賃貸においては、賃貸借契約を交わす上で、賃貸人を誰にするのかという問題もあります。賃貸借契約書の記載におけるわずかな差異で法律的な大きな違いが生じることもあります。

共有不動産を賃貸し、収益化する場合、共有持分の過半数の賛成が必要です。この場合、収益化に反対している少数持分権者も決定内容に拘束されるので、賃貸人になります。賃貸契約書を作成する際に、反対している共有者を賃貸人から除外してしまうケースがあります。ただ、このようにしてしまうと、共有者間で意思決定の過程を経ていないとされることや、共有者の一部が勝手に契約したと誤解されることがあります。よって、反対している共有者も賃貸人に加えることを忘れないようにしましょう。

11. まとめ

共有不動産に関しては、共有者同士の関係悪化により引き起こされるトラブルが散見されます。共有者が親族など特別な関係にあることが多いので、問題が複雑化してしまいがちです。この記事では、共有関係を保ったまま紛争を解決することを念頭に置き、紛争が起きやすいケースや解決するためのポイントを述べました。共有関係は継続されたままであるため、解決したあとで、再び紛争が生じることも考えられます。そのようなことがないようにするために、根本的に解決する方法もあります。それは、「共有関係を解消すること」です。この方法については、別の記事で改めて述べることにします。

弁護士 松野 絵里子

プロフィールはこちら >>

◆ 海外案件の経験が豊富
━━━━━━━━━━━━
国内最大手での経験を生かし、得意な語学力で複雑な家事事件から英文契約の確認などの企業法務まで経験豊富です。

◆身近で高品質な法律事務所
━━━━━━━━━━━━
高水準の品質の法律サービスを、リーズナブルに提供いたします。

◆依頼者の立場にたち共に最適な解決の道
━━━━━━━━━━━━
依頼者の立場にたち、共に最適な解決を目指して日々研鑽しております。

Home
Mail
相談予約
Search