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1. 遺産分割(相続)で他の相続人に会いたくない場合とは?
遺産分割は比較的、急いで解決が必要ですし、相続税の申告も必要です。でも、相続人で集まって話をするのはできない、いやだ、そういう気持ちのひとはたくさんいます。
なにか過去の事件などがあって兄弟姉妹で集まって相続の話をしたくない、不動産の相続登記も義務になっているしなんとか問題を解決したいが、従妹などは全くこれまで疎遠にしていたので、お金のことについてどう話をしてよいかわからない、税理士に頼もうとしたらできないと言われて困っている、そもそも相続人といっても面識がないし、相続財産もよくわからないので何から手を付けてよいかわからない・・・などなど、いろいろな状況の方がいるでしょう。
そういった方に解決方法を弁護士松野絵里子が説明します。
2. 遺産分割調停・遺産分割協議書の作成
遺産分割調停とは、被相続人(亡くなった方)の遺産の分け方について、家庭裁判所での話し合いで、相続人全員による合意を目指す手続きです。ですので、これは裁判ではありません。あくまでも遺産を整理して理解して、法定相続に沿って分け方を考えて解決する手続きです。この方法で、他の人は会いたくないけど相続の問題を解決したいという方は、問題が解決できて遺産がもらえるのです。
この手続きでは、弁護士を代理人にすることで、貴方自身は全く家庭裁判所にいかないで問題の解決ができます。また、遺産分割協議書を協議によって作成する場合でも、弁護士に依頼すると貴方は他の相続人とは全く接触をしなくても解決が可能です。
もっとも、遺産が多いとき(不動産や預金、有価証券が数千万以上あるとき)や相続人が多い時には、遺産分割協議ではなくて、遺産分割調停がもっとも迅速にかつ安心して、問題解決をできるので、以下は調停の説明をします。
3. 遺産分割調停の流れ
調停は、1名の担当する裁判官と2名の調停委員(民間の有識者)が調停委員会を構成しています。調停委員会は、家庭裁判所で申立人(調停を申し立てた方)と相手方(調停を申し立てられた方)の双方から意見を聞きます。この場合、WEB会議方式も取れますので、WEBEXなどのアプリケーションを使って話を聞いてもらうことができます。これを調停期日と言いますが、この期日にもあなたは行かなくてかまいません。
相続人が話合いをしようとしても互いに反発をしてしまったり、不信感が芽生えたりして速やかな解決がなかなかできないことがあるので、家庭裁判所では、遺産についてみなさんで話し合って主体的に解決をしようとしています。調停での話合いにあたっては民間から選任された二人以上の調停委員が相続人から、それぞれの考えや言い分を聞いていきます。このような言い分について、代理人弁護士がいると過去の審判例を見ながら、有利に整理をして、有利に運ぶように言い分を出していくこともできるので、有利に問題解決ができる可能性が高まります。
遺産分割調停は、相続人が協議を行ってもうまく解決しない時に、活用されるのが原則であるものになりますが、現にどこかで集まったりしたくないとか、遠方に住んでいる相続人が集まらせることが難しい、感情的なしこりから議論ができない、相続人の中に暴力的な人がいる、というようなときにも便利です。
遺産分割調停は、原則として被相続人の法定相続人全員が当事者となるので、全員を集合させないとなりません。そして、遺産分割調停を始めるために、対象の遺産が存在してそれを当事者となったみなさんが「遺産」として確認する必要があります。もっとも、今、存在するとわかっている資産だけを対象とすることができるので、見つかってないものは後回しにできます。
4. 遺産分割調停での解決がなぜできるのか?遺産分割調停調書の作成による最終解決
申立人と相手方(相続人全員)が、遺産分割の内容について合意できると家裁の裁判官が合意内容を確認し、調停条項の案としてまとめていきます。そして、全員が調停条項の案に合意すると、調停調書が作成されます。この調書は、裁判の最終判決と同じ効力があるので、約束を守らなかった人がいると、法的手続をとることができます。また、金銭の支払い義務などは、債務名義とするので違反の際には、すぐに強制執行をすることができます。
5. 相手に全く会わない・で接触もしないで解決できる「遺産分割調停」のメリット
会って話し合いたくないという場合に、遺産分割調停を利用し、代理人弁護士をたてて相続問題を解決するメリットは、以下のようなものです。
<誰にも会わないで相続を解決できる遺産分割調停のメリット>
- 相手方と全く会わないし接触もしなくてよい
- 代理人弁護士がいる場合、自分に有利になるような点を教えてくれるので、法的知識を有利に使える
- 家庭裁判所が関与し、調停委員という第三者が話し合いに入ることで、資料を基に冷静な話し合いが迅速にでき、不当な条件をのまないで進められる
- 非公開の手続きであるので、第三者に見られずプライバシーが守られる
- 調停調書に、確定判決と同一の効力が認められるために確実に財産が取得できる
- 誰かが同意しないために調停が成立できない時、裁判官が最終の判断をしてくれるのでだらだらと解決できないまま続くことはない
調停期日では、裁判所において、調停委員が間に入って話し合いをしますから、直接には関係者に会って交渉する必要がありませんし、弁護士を付けていれば、出すべき書類も弁護士が書いて出しますし、調停委員への口頭での説明も弁護士がします。つまり、代理人が出席すれば、自分は何もしなくてもよいですし出席をしなくてよいのです。
遠方であれば、そもそも裁判所に行く必要がなく、オンラインで期日に参加できます。
また、遠方でない場合に家裁の調停期日に出頭する場合でも、別室で待機することになっていますし、恐怖感とか理由があるのなら代理人弁護士に頼んでおけば、相手方とは全く別の階にいるような配慮もされます。退出してから尾行されるような心配があれば、それがないよう、一定の配慮も裁判所がしてくれます。よって、どうしても会いたくない人とは全く接触はしなくてよいですし、郵便物のやりとりさえ不要です。
特に、弁護士に依頼している場合、弁護士の事務所からオンライン会議によって調停期日に参加でき、上記に書いていますが、書類も自分で作成する必要がなく、相手からの郵便物も弁護士事務所に届きますので接触はゼロにできます。相手方と同じ裁判所にいる機会をなくせることは、相手に会いたくない、接触したくないという方には朗報です。
6. 調停委員会が介入:適切な結果を志向して、冷静な話し合いができる制度
当事者のみで、遺産分割の話し合いをしようとしてもないから整理してよいかわからないと思います。それぞれが言いたいことをいったり、相手と接触したくないというから自分の意見を示さない人がいたり、理論的に破綻したことを言い続ける人がいたり、あまりに遠方で連絡を取るのもむずかしし、そもそも疎遠で話をしたことがないので交渉が始められない・・・・などなど多様な問題があります。
疎遠であってもむしろ関係が深くても、いろいろな感情とかそれぞれの戦略があり進まないことも往々にあります。そもそも、指揮者がいないのでまとまりようもないのです。
しかし、調停では、調停委員会があり、そこには裁判官が入っていますし、裁判所のルールで争点を整理していくので、上記のようなカオスが続くことはありません。調停委員会では、調停委員ふたりが、申立人と相手方の双方から、意見をよく聞いた上で、「当事者全員から納得が得られるような合意形成をしよう」と工夫します。
また、あなたに専門的な弁護士がついていれば、自分に有利な主張をしてくれ、特別受益や寄与分の証拠を整理して出してくれるので、裁判所に対して説得的な活動ができます。結果も大きく有利になることも多いです。
調停委員は、その言い分が法的に認められるのかについて大きな見通しは教えてくれて、法的に認めてもらうための資料提出を求めてきますが、具体的にこれを出すと有利になりますというような「あなたに有利な戦略」は決して教えてくれませんので、それは注意しましょう。あくまでも中立的な人たちです。
実務的な考えの大枠は教えてくれても、自分にとって有利な学説とか、裁判例を探してくれるようなことは、調停委員はしませんので、そういったことは専門的弁護士に依頼して、自分のためのサービスをうける必要があります。
調停委員会は、それぞれの主張と資料がでそろった段階で、合意ができそうな場合には、調停委員会の案を示すこともありますが、それができそうもない場合には示しません。
また、代理人が双方についていて、専門的知識が深ければ、審判が出た場合の予想をしつつ、調停の案をまとめるという活動をするので、早期の解決が可能となることが多いです。もっとも、代理人が通常は相続事件をあまり専門的にしていないような場合には、単に横にいるだけの存在となることもあるようですので、気を付けましょう。
7. 調停によるプライバシー確保
調停では公開法廷での尋問がありませんので、通常裁判とは異なってプライバシーが守れます。調停委員には守秘義務がありますから、そで知ったことを外部に流すことはありません。
そのため、調停ではプライバシーが守られるので安心感があります。
そうはいっても、主張書面に相手の名誉を棄損するようなことを書くことは、名誉感情を傷つけて問題に発展することもあるので、礼節をわきまえた主張をする必要があり、代理人弁護士がいれば、そういうルールは教えてくれます。
8. 調停証書の効果:確定判決と同一の効力
調停が成立したときつくられる成立調書には、確定判決と同一の効力が認められていますので、通常の遺産分割協議書より効力があります。
確定判決と同一の効力を持つということは、そこに記載された約束を守らない場合には、判決を守らないのと同じことになるということです。多くは、債務名義となるように記載がされるので、支払いをしない、明け渡しをしない、動産を引き渡さない、名義書換えをしないというような場合、強制執行が可能となります。また、遅延損害金の支払いをさせることもできるので、この約束を守ってもらえる可能性は極めて高いものです。
9. 遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停のデメリットは、オンライン調停が可能となっている今では、あまりないように思われますが、申立時の書類の準備が一般人にはかなり面倒であるということがあるでしょう。また、期日が毎月ありますので、代理人を付けていないとこの日にオンラインであっても参加をする必要がありますため、仕事を休む必要があるでしょう。
調停は、公的機関である裁判所が介在するので、毎回、やるべきことが決まっておりそういういわば宿題をやらないと調停委員の印象が悪くなり、審判に移行した時に不利になるということはデメリットでしょう。
話し合いの場である以上は、当事者間で主張が折り合わない場合、調停は成立しないので解決できないというデメリットはありますが、それは、単に話し合いをしている場合にもあることです。
調停が不成立となるとそれで終わってしまうのではなく、あなたの言い分が正当なものか、相手方の言い分が正当なのか、裁判所が最終的に判断をします。つまり、不成立となっても、自動的に審判手続になるので、何らかの解決ができるという点は有益ですから、時間がかかるというデメリットがある以外は、デメリットはないように思われます。
協議をしてみて到底まとまらないことがわかったら、すぐに調停申し立てをすることが、最も迅速な解決となるでしょう。
10. 遺産分割調停では時間がかかるのか?
遺産分割調停は平均的にいうと1年以内で終る場合が多く、相続人が3人以上いる場合、協議でも1年以上かかることが多いしそれでも合意ができないこともあるので、そういう解決よりも、一般的には早く解決するものといえます。
11. 遺産分割調停の流れ
家庭裁判所の資料ではその流れを以下のように説明しています。
遺産分割調停は、5個のステップで進みます。
1)相続人の範囲の確定
相続人全員で合意しなといけない制度なので、誰が相続人であるかを最初に特定します。相続人を特定するためには、申立人が提出した戸籍謄本から確認します。
<争いがある場合とは>
・戸籍の記載が真実の親子関係とは異なるというような場合
・養子縁組や結婚が無効の場合
こういった争いがある場合には、人事訴訟や訴訟に代わる調停をして戸籍を訂正するとか、縁組や結婚の有効・無効を確定させてから遺産分割をする必要があります。
提出した戸籍謄本が足りていないようなこともありますが、弁護士が代理人として申し立てる場合は、そういった不備があることはまずありません。スムーズに進めます。
2)遺言書・遺産分割協議書の有無の確認
遺産分割の内容や方法を定めた法的に有効な遺言書があるなら、遺言書の内容に従って分割していくのが、原則となります。相続人全員の合意で、しかし、別の内容の分割をすることができますし、遺言で対象とされていない遺産があるような場合は遺産分割協議が必要になります。遺言書の効力につき意見が分かれた場合,原則として、民事訴訟においてその有効性を確定させてから遺産分割をする必要があります。
3)遺産の範囲の確定
遺言書・遺産分割協議書の有無を確認した後、次は分割の対象となる遺産がなないかを確認する段階になります。申立人がだしている目録に対して他の相続人から「他にも遺産があるはずだ。」という意見が出てその資料が出たらそれも加えていくことになります。遺産の範囲確定に必要なこと:財産調査遺産の範囲の確定には調査をしておく必要がありますが、以下簡単に、それぞれの調査方法を説明しておきます。
預貯金
相続人であれば、戸籍謄本等によって自分が相続人であることを銀行に示すと預貯金の有無を問い合わせができます。
被相続人(亡くなった方)名義の預貯金があった場合は、残高証明書がもらえ、申請時点から10年 以内の、預金の入出金履歴等を取得することができます。これを見て他に証券口座があるなどというようなことがわかることがあるので、これもぜひ取得しましょう。これをどう分析するかわからないときには専門的弁護士に相談しましょう。どこの支店にお金があるかわからないときは、「全店照会」を依頼することができますので、やってみましょう。
不動産
不動産は登記をみるとローンがあるのか、抵当権がついているかなどがわかります。また、「名寄帳(なよせちょう)」を調べると、課税の対象となっている固定資産(土地・家屋)が一覧表になっているので資産がどこにあって、課税標準額がいくらかなどがわかります。名寄帳は、不動産の所在地を管轄する市役所などで作成されているので、不動産が複数の市町村に所在するときは、各市町村ごとに、申請して確認しましょう。
株式
取引している証券会社が分かっていれば、証券会社に直接照会を行います。もし、取引している証券会社が分からない場合には、「証券保管振替機構(ほふり)」で照会請求ができます。これで口座がある証券会社が明らかになります。そうしたら、その証券会社に対し、取引内容の開示を求めることが相続人であればできます。
こういった調査を弁護士事務所に依頼することも可能です。
4)遺産の評価の確定
遺産の範囲が確定できたら、それぞれの遺産の評価を合意する段階になります。現金・預貯金は評価が問題になりませんが、不動産とか未上場株式は・骨董品等は争いが起きやすいです。
不動産の評価
不動産の評価にはいろいろな種類がありますが、裁判所で使うのは遺産分割については市場価格です。それは、不動産業者に作ってもらった「査定書」を証拠として提出することが多いですが、不動産鑑定士の鑑定のほうが信用性は高くなります。審判では、裁判所が鑑定人を選び、鑑定人が価格を調査するのが通常ですが、費用が必要になります。鑑定費用は、数十万から数百万円かかる場合もあります。相続税評価額を基礎にして合意をするような場合もあります。調停であれば、合意ができればよいので、その資料は何でも構いません。
株式の評価
株式が上場株式の場合は、毎日、その価格は公表されています。遺産分割協議ではある一定の日の価格で合意をすることが通常です。その後の変動は関係ないものとしないと最終の合意ができないからです。上場株式を売却してしまってお金に換えてから売却利益を分配するということも可能ですが、そういう場合には家裁で中間合意をすることが多いです。しかし、非上場株式の場合、換金は簡単ではなく、評価も難しくなります。株式について評価額が合意できない場合、裁判所が鑑定人を選任して、価格を評価してもらうために鑑定書を作ってもらいますが、その費用は百万円を超える可能性もあります。未上場株式の場合、決算書から純資産価格がわかるのでこれを基礎とすることもあります。
動産の評価(宝飾品や骨董品・自動車等)
動産には、宝飾品や骨董品とか自動車があります。中古品になると値段がつかないものもありますし、着物などは欲しい人がいる場合もあります。評価価格について合意ができない場合、専門家による評価が必要ですが、専門家の間でも評価が異なるため予想ができないので、リスクがあります。たとえば、着物は欲しい人が一人いるような場合、20万円で買い取るなど合意ができればそれはその人に譲渡したこととして換金ができます。
5)遺産の分割方法の合意
このようにして遺産が確定し、評価額も合意できたら、遺産の分割方法を決める最終段階に進めることになります。誰が何をもらうかを決めるのです。
不動産が大きな割合を占める場合、欲しいという人が買い取ることが有用です。そういう人がいないなら、換価することも後で分ける資金ができるので良い解決です。
不動産を売却して現金に換え、各相続人が法定相続分に応じて取得する方法を換価分割といいます。
そして、今住んでいるのでこの家が欲しいというような一人が、不動産を単独で取得する代わりに、他の相続人に対して、法定相続分に相当する金額を支払う方法を代償分割といいます。
こういった方法は合意をすれば現実に取ることができます。株を誰がもらい、預金を誰がもらうのか、不動産は誰がもらうのかなどを決めることで、最終の調停調書が作成できます。現実の合意をするまで、弁護士がいろいろな考えを検討し、案を作ってそれぞれの意見を集約していってどうやったら合意ができるのか検討することが重要です。いろいろな方法を考える中で、合意できる方法が見つかっていくものです。よって、経験豊富でクリエイティブに解決方法を模索する弁護士がよいでしょう。
それでも、合意ができないときには、裁判所が審判という決定をして分割方法を決めることになります。
12. まとめ
このようにして、遺産分割調停では接触したくない人とは、会うことなく、弁護士がいれば郵便物の交換もしないで遺産を分けることが可能です。
書類作成も調査も、すべて弁護士に依頼する方法もあります。忙しい方とか、海外にいる方には人気がある方法です。
相続人が粗暴であるとか、精神疾患があって話をするのが難しい、DVの過去があるような場合には、相続人に会いたくない、接触しないで解決したいということが多くなります。また、そもそも全く面識がないのでお金の話をしたくない・・・というようなこともあって、多様な理由で相続人と接触しないで解決したいという多数の方が、当事務所に日々、ご相談にいらしています。
貴方も遺産分割について、そういう心配があるのであれば、当事務所の無料相談を予約されてはどうでしょう?当事務所は日本全国の裁判所における遺産分割調停をお受けできます。海外にいらっしゃる方の相続事件も受任しています。