高齢の親の囲い込みは、他の親族とのつながりを排斥することによって、親の資産を使い込んでしまったり、不動産を売ってしまったり、自身に有利な遺言書や生前贈与をさせるなど、ひどいことをしてしまう方がいるという相続トラブルで、大変に増えています。
また、高齢の親にとっては子どもにあえなくされ、人権侵害の状況であり、精神的苦痛が大きいため、早期の解決が求められます。
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1. 高齢者の囲い込みトラブルは増えている
遺産相続においては、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。その一つでもある「高齢者の囲い込み」とは、被相続人の生前に起こるトラブルです。
1. 囲い込みとは?
囲い込みとは、相続人の一人が、他の相続人や親族を被相続人と面会させないように妨害するというトラブルです。
多くの場合、囲い込みをする相続人は、被相続人と同居して面倒を見ていたり、生活のサポートをしている傾向がありますが、必ずしもそうとは限りません。相続人となる子の一人が、自分にとって有利になるように遺言書の作成を促し、生前贈与をお願いするなど、被相続人が亡くなった後に大きなトラブルへと発展することも少なくありません。
また、囲い込みの中には、認知症を患った高齢の親を、子供の一人が他の親族の了解なしに介護施設へ入居させ、他の親族との面会させない、というケースもあります。
トラブルが大きくなる前に対策が必要でしょう。
2. 囲い込みの目的は?
囲い込みの目的は、自分にとって有利な遺産相続です。高齢の親の介護を理由に親と同居し、他の親族との交流を経つことで、親が残す遺産を有利に相続しようというのが、多くのケースで囲い込みの理由となっています。
子の一人とか同居親族とか世話をしているひとが、親(老人)の他の家族に会わせなくする
・子の一人とか同居親族とか世話をしているひとが、親(老人)の他の家族に会わせなくする
・老人ホームにいつのまにか入れられていて、どこにいるかわらかない
・連絡をとろうとしても、「怖がっているから会わせられない」などと同居の他の子どもが親に会わせてくれない
・病気のお見舞いに行こうとしたが、他の親族が入院先を知らせず連絡できない
・親は認知が進んでいるのに、同居している兄弟姉妹が後見人をつけることを拒否する
・老いた親の財産管理がどうなっているのか、同居の親族が隠す
・老いた親が「お金がない」(同居の子どもに使われてしまっている)と相談をこっそりしてくる
・老いた親が、不動産を知らないうちに理由がないのに売ってしまっている
こんなことがあったら、囲い込みが疑われます。
高齢の親と同居することによって預貯金の管理を自身が行い、それによって使い込んでしまうというケースが多く、不動産を売らされていることも、あります。そして、親が亡くなって遺産分割協議を行ってみたら、使途不明金が多く出てきて、4000万円あった預金が100万円になっていた!などということから、親族間で大きなトラブルに発展してしまうこともあります。
3. 囲い込みはどうして起こるのか?
高齢者の囲い込みが起こる理由は、様々です。
高齢の親と同居する子供にとってみれば、介護を含めて自分自身が老後の面倒を見ているのだから、遺産を有利に相続する権利があるはずだという自負があるかもしれません。あるいは、親の資産がたくさんあるので、自分の子どもの学費に使いたいというような特定の理由があることもあります。
実際には、親が同居の子とか孫に、きちんと「贈与をしている」ので何ら問題がないこともあります。
高齢の親と同居することは、決して簡単ではなく、日々のサポートや体調管理などがあり大変です。
親と同居したら、皆さんが、囲い込みをするわけでもありません。多くの方は献身的にサポートをしています。しかし、高齢の親と同居することによって、親の資産を搾取する行為をする方もいるのです。そうした行為が他の親族にバレないように交流を排斥するという場合もあるのです。
そういったことは、決してやってはいけないことです。
2. 高齢者の囲い込みが起こったら、どうすれば良い?
もし、自分の親が囲い込みをされているとしたら、自分は何をすれば良いのでしょうか?
親と直接コミュニケーションが取れず、電話でも対面でも会話ができない状況になってしまうと、どうすることが高齢の親にとってベストなのかが分からなくなってしまうかもしれません。できることを早くする必要があります。
1. 高齢の親は囲い込みをされても何もできない
高齢の親は囲い込みをされても、自ら行動を起こしてその状況から脱出することはできません。子どもが同居を解消してしまう不安感や、一人で身の回りの世話ができるか分からないという心配があるため、子供が囲い込みをしていると知っていても、なかなか対峙しづらいのです。
あるいはすでに施設に入れられているので自分が酷いことをされたという自覚がないかもしれません。他の子どもがなぜきてくれないのか?捨てられているように感じていることもあります。認知症ですべて自分に自信がなくて鬱状態になっていることもあります。
他の親族と全くコミュニケーションが取れないことは、高齢の親にとっては精神的に大きなストレスであり、不安のはずです。そのストレスを抱えたまま毎日生活しているその当事者の高齢者を救う必要があるでしょう。
また、そうした状況にあっては、高齢の親が虐待を受けていても、周囲は親族のことなので、なかなか気づくことができません。本人が、外部へSOSを出すこともできないため、周囲が全く知らないまま状況が悪化してしまう可能性もあります。
2. 囲い込みをされている親に後見人を付けることはできる?
高齢の親に囲い込みをするケースの多くは、親の預貯金を使い込んだり、不動産を売って贈与を受けたり、自身に有利な遺言書を書かせるなど、金銭的なメリットが関係しています。
もしも、親に成年後見人を付けることができれば、親の資産の勝手な使い込みを阻止できますし、遺言書の書き換えなども未然に防ぐことができるでしょう。
財産上の問題の対策 = 成年後見人をつける(認知症などの場合)
→ これは、弁護士に依頼するとスムーズです
→ これにより、財産管理を第三者が中立かつ公正にしてくれます
後見人の手続は、まず家庭裁判所へ申し立てをする手続きから始めることができます。その際には、添付書類として本人の精神状態に関する医師の診断書が必要となりますが、囲い込みをしていて自宅から出られない高齢者にとっては、病院に行って医師の診断書をもらうという作業は、現実的に困難です。
囲い込みをしている親族が協力すれば、もちろん診断書を手に入れることは可能ですが、拒否されることは珍しくありません。その理由は、その後の使い込みを阻止され、親の預貯金へ自由にアクセスできなくなってしまうことに強い抵抗を感じるからです。そのため、囲い込みをされている高齢の親に対して後見人を付けることは、実際にはとても難しいのです。
よって、弁護士に依頼して申立てをしてもらうのが良いでしょう。
3. 囲い込みを解決することはできる?
高齢の親の囲い込みを解決するためには、どんな方法があるのでしょうか?
囲い込みをしている親族に直接対峙して、面会することに同意してくれればよいのですが、当事者同士の話し合いだけで円満に解決できるケースは、それほど多くはありません。その場合には、弁護士に相談して法的な解決をすることができます。
囲い込みの人格権問題解決 = 仮処分を申し立てる
→ これは、弁護士に依頼しなければできません
→ これにより、排斥された状態を解決できます
1. 面会妨害禁止の仮処分
親の囲い込みを解決するためには、裁判所に申し立てをして、面会の妨害を禁止しないようにという仮処分を出してもらうことができます。
正式に裁判を起こした場合、判決が出るまでには1年程度の期間がかかってしまいますが、老人となっている親の囲い込みにおいて、1年も時間をかけていたのでは、その間に親の預貯金が食い尽くされてしまうリスクがありますし、親の精神衛生上も迅速な救済が必要です。
そのため、正式な裁判による処分を待つのではなく、とりあえず「仮処分を出してもらう」という法的な解決方法です。
ただし、裁判所に面会防止禁止の仮処分の申し立てをすれば、無条件で認められるというわけではなく、困難な事件となります。
平成30年に実際に起こった事例では、面会防止禁止の仮処分を出す前に家族が他の手段で面会できるように試行錯誤する必要があるという判決が出されました。具体的には、自治体が提供する地域包括センターへ問い合わせたり、親族間のトラブルを解決するための紛争調整調停を申し立てたり、また成年後見人を申し立てるなどの対策をした上で、解決できない時には最後の手段として面会妨害禁止の仮処分を出しましょう、という判断となったのです。
<平成30年決定の紹介>
この事案では、父母が認知症であり、福岡県の自宅に住んでいたところ横浜市に住む長男が、福岡市に住む長女に連絡することなく連れ出して老人ホームに入所させて、長女の両親との面会を妨害していた事案でした。平成30年6月27日に、横浜地裁は面会妨害禁止仮処分決定を出しました。それに異議申立がされたところ、原決定を平成30年7月20日に横浜地裁が認可しました。
決定は「債務者(長男)の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、債権者(長女)が現在両親に面会できない状態にあるものといえる。また、債務者の従前からの態度を考慮すると、上記の状況が改善する可能性は乏しいものといえ、今後も、債務者の妨害行為により債権者の面会交流する権利が侵害されるおそれがあるものといえる。」として認可しました。
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主要な争点及び当事者の主張
本件の主要な争点は、被保全権利の存否及び保全の必要性があるかでした。
被保全権利というのは守るべき権利というような意味ですが、長男は、両親から懇願されたため両親を横浜に連れてきたのであり、連れ去りの事実はなく、また、債務者は、両親が債権者との面会を拒絶していることから、その意向に沿って施設にその旨伝えているにすぎず、面会妨害の事実はない意図反論していました。
この事案では、家庭裁判所調査官による親族調査の際に、長男は親の所在については明らかにしたくないとの意向を示した。また、同調査官が、両親が入居していると想定される施設へ問い合わせをしても、入居しているか否かについて回答を得られませんでした。また、長女は、親について後見申立てをしたが、精神鑑定を実施して判断能力の程度を判定することができませんでした。
「債権者(長女のこと)は、両親の子であるところ、前記認定事実のとおり、両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有するものといえる。」と裁判所は、子が両親に面会をする権利を有すると判断しました。
保全の必要性という要件(保全命令を出すような権利侵害の危険があるか)については、「両親が現在入居している施設に入居するに当たり債務者が関与していること、債務者(長男のこと)が債権者に両親が入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、債権者が両親との面会に関連して、家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てる方法をとってもなお、債務者は家庭裁判所調査官に対しても両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと、本件審尋期日においても、債務者は、債権者と両親が面会することについて協力しない旨の意思を示したことが認められる。これらの事情を総合すると、債務者の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、債権者が現在両親に面会できない状態にあるものといえる。また、債務者の従前からの態度を考慮すると、上記の状況が改善する可能性は乏しいものといえ、今後も、債務者の妨害行為により債権者の面会交流する権利が侵害されるおそれがあるものといえる。」と判断して、長男が、長女が両親に面会することにつき、妨害することを予防することが必要であるとして、保全の必要性を認めました。
そのため、もしも高齢の親が囲い込みをされている場合には、今すぐにさまざまな法的な手段で囲い込みを解除するための対策を弁護士とともに、スタートすることが必要です。
2. 親族間の紛争調整調停とは?
高齢の親を、子供の一人が囲い込みしていて、他の親族との面会を拒絶している時には、家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てるという解決方法が、あります。
これは、親の財産管理をめぐって親族同士がトラブルになり、感情的な対立で解決できない時に適用される調停です。ただし、調停員が間に入るとはいえ、調停は当事者同士の話し合いで解決しなければいけません。必ずしも和解という結果にならない点は、理解しておきましょう。
3. 損害賠償請求という解決方法もアリ
高齢の親の囲い込みを根本的に解決できる方法ではありませんが、面会できない精神的苦痛に対する損害賠償請求を申し立てるという解決方法も、選択肢の一つです。親と自由に面会できる権利は、法的に守られているため、その権利を侵害したことに対して、損害賠償請求という民事裁判を起こすことができます。これは施設を相手にすることもできるでしょう。もしも請求が認められれば、施設が囲い込みを助けることを、止めさせるきっかけとなるかもしれません。