老人虐待・囲い込み

高齢の親に会えない!兄弟姉妹に親との面会を妨害されて会えない場合どうしたらよいか?東京の弁護士松野絵里子が説明します。

1. 高齢な親と会えなくなる問題の背景

親が高齢になり認知症が進行していると心配していたら、兄弟や姉妹がその親をどこか(施設など)に連れて行ってしまったり、自宅に住まわせてしまって、自分は全く会えないというような事態が、増えています。

これを高齢者の囲い込みの問題といいます。

このような事態が起きるの、その背景としては、その親の遺言を巡って親族間で潜在的な争いがあり、遺言を書き換えられたくないとか、他の親族から成年後見の申請をされたくない親族が、高齢の親と他の親族を連絡させないようにする、という状況があります。あるいは、他の親族に自分が構成者の資産を使い込んでいることを非難されたくない者がそういうことをすることもありえます。また、介護施設とかサービス付き高齢者用の住宅に入る高齢者のサポートをする親族が、、親の入所した施設の情報を一切教えないことで、親の居所を隠してしまうというもよくあります。こういったことが起きると、被害にあっている親族は、親と連絡を取ることができず、様態も確認できません。 

2. 仮処分による解決が可能

このような高齢者の囲い込み問題に関しては、仮処分での対応が可能です。

そもそも成人した子が親に会うことは権利でしょうか?

東京地方裁判所(平成30年4月11日判決)は、そういう場合の親に面会して交流することは「法律上保護された利益であり、これを侵害することは、正当な理由のない限り、民法上の不法行為に当たる」と判断しました。

この事案は、長期間親とある親族が面会できないように、自宅への訪問を拒絶し続け、親と面会交流する利益を侵害した事案でした。この事案では、加害者は、親の容態悪化を知らせずに面会の機会を与えなかったことから、その行為は、親と面会する機会を永遠に奪っており親と面会交流する利益を侵害する行為は不法行為を構成すると判断されています。では、現実に面会交流を実現するにはどうしたらよいかですが、裁判所は親族の面会妨害を禁止する仮処分を発出することができます。よって、この仮処分を求めることが有効です。

3. 仮処分が認められた判例の詳細

平成30年7月20日横浜地裁決定において、この仮処分が認められており、同様の仮処分は取得可能と考えられます。

横浜地裁の事案は、保全異議申立事件という、仮処分が出た後それを認可するか取り消すかが争われたという事件ですが、裁判所は、子と施設(老人ホーム)に入居する両親との面会の妨害を禁止する仮処分決定、横浜地方裁判所平成30年(ヨ)第244号面会妨害禁止仮処分命令申立事件、に対し異議が申立てらたれところ、そもそもの決定を認可したのです。

<どんな事案か>

自分の父と母(「両親」)が入居している老人ホームと自分の妹が、自分(長男)と両親との面会を妨害していると主張して、人格権を被保全権利(守るべき利益という意味です。)として、妹と老人ホームを経営する会社に対して仮処分を申立てたのです。具体的には、自分と両親とが面会することを妨害してはならないとの仮処分命令を求めて、申立てました。そして、横浜地方裁判所が、それを認めたところ、妹が不服をもって、保全異議という不服の申立てをしたものです。

<争点>

争点としては、申し立てた方に、まず守るべき権利(被保全権利)があるのか、が問題になりました。長男は、被保全権利については、妹が両親を連れ去って老人ホームにいれて、その所在を明らかにしないようにして、長男/両親が面会する権利を著しく侵害している、長男には、人格権等により導かれる、「親族である両親との面談を不当に妨害されないという地位に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権が存する」と主張しました。

そして、本案判決の確定を待っていては、妹の妨害により損害が拡大し、回復困難となる危険性が高いことから、保全の必要性が認められる(仮処分を出すような緊急性が認められる)とも、主張しました。

妹はこれに対して、両親から懇願されたため両親を横浜に連れてきたにすぎない、連れ去ってはいない、両親が長男との面会を拒絶していることから、その意向に沿って施設にその旨を伝えたから長男に対する権利侵害はないと主張していました。さらに、両親は平穏な生活を送っており、長男が施設に来ることに怯えている状態にあり、保全の必要性も認められないと主張しました。

<経緯>

この事件は、以下のような経緯ですすみました。

1)父は、平成25年9月10日から通院している医院で、アルツハイマー型認知症と診断され、介護認定審査会において、要介護1に該当すると判定されている。母は、平成27年12月21日にアルツハイマー型認知症との診断を受け、平成29年4月25日、前記審査会において、要介護状態の区分を要介護2と旨判定されている。

2)この両親は、長男住居の近隣に住んでいたが、平成29年6月20日、妹が両親を連れて自宅から横浜市に移動したことで自宅を退去したが、両親が退去する旨の連絡は妹から長男になかった。

3)9月29日頃、妹と両親を相手方として横浜家庭裁判所に、長男が「親族間の紛争調整の調停」を申立てたが、その第1回調停期日(同年11月8日)に相手方は双方、出頭せず、裁判所が調査を実施するので同月20日に裁判所へ出頭することを求めたものの、妹は、調査官に対して「調停には一切出席しない」「両親の希望で自分が両親の介護の責任を持っている」「自分は、両親に代理して両親の回答をしている」「調停には応じる考えはない」などを電話で伝えた。この調停は、第2回期日にも相手方双方が出頭せず、不成立となった。

4)11月頃、地域包括支援センターに、長男が問い合わせたところ、両親は施設に入所中で、妹から施設名を教えないように言われているという回答を受けた。

5)長男は12月頃、横浜家庭裁判所に対し、両親の成年後見開始の審判を申し立て、家庭裁判所調査官による親族調査の際に、妹は親の所在については明らかにしたくないとの意向を示した。両親が入居していると想定される施設へ問い合わせをしても、調査官も入居しているか否かについて回答を得られなかった。そのため、審判申立事件について精神鑑定を実施して判断能力の程度を判定することができないでいる。

6)両親は、妹が包括支援センターに相談をするなどして、10月1日頃から老人ホームに入居していたが、11月頃、ある老人ホームに転居し、今もそこに入居しているとわかった。

7)保全処分の審尋期日において、長男は、両親と面会することにつき妹が応じないのであれば、家庭裁判所調査官と両親が面会することで、妹に成年後見開始審判申立事件に協力することを求めたが、妹は家庭裁判所調査官の調査にも応じるつもりはないと、述べた。

<裁判所の判断>

被保全権利の存否について

 両親はいずれも高齢で要介護状態にあって、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、長男は両親に面会をする権利を有するものといえると判断しました、さらに、長男が両親と面会することが両親の権利を不当に侵害するような事情は認められないことから、被保全権利は疎明されたと判断しました。

*疎明とは、仮処分のために必要な事実を資料によって明らかにすることであり、証明よりは軽い立証でよいと言われています。その事実を、「一応確からしい程度まで」証明することです。

保全の必要性について

 前記認定事実によると、両親が現在入居している施設に入居するに当たり妹が関与していること、妹が長男に両親に入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、長男が家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てる方法を面会交流の問題を解決しようとしても、妹は、家庭裁判所調査官に対し両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否し、この審尋期日でも、妹は、長男と両親が面会することについて協力しない旨の意思を示したので、こういった事情を総合すると、妹の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、長男が現在両親に面会できない状態にあるものといえ、妹の従前からの態度を考慮すると、上記の状況が改善する可能性は乏しいものといえ、今後も、妹の妨害行為により長男の面会交流する権利が侵害されるおそれがあるものといえると判断したのです。そして、妹は、両親の意向を尊重しているだけで、妹が長男と両親との面会を妨害している事実はないと主張するけれど、妹の行為が、長男が両親と面会できない状況の作出に影響していることは否定できないとして、「長男が両親に面会することにつき、妹の妨害を予防することが必要である」ということから、本件保全の必要性も認められるとしました。

4. 慰謝料を求めることも可能

慰謝料請求が認められた事例もあります。令和元年11月22日東京地裁判決です。この判決では、親族である被告が親(A)と原告との面会を拒絶する態度は極めて頑ななものであり、親が独力で移動することができない状況であることなどから、「原告は、被告らによるAとの面会拒絶等により、Aと面会をし、交流をするという機会を奪われる状況に置かれている」と判示しました。

また、「たとえ子が成人に達した後であっても、子が親を思い、親と面会し、交流をしたいと願うことは、子の自然な思いとして、我が国の法秩序においても尊重すべきものであり、また、親が会いたくないという意向を有しているといった事情でもない限り、親と面会をし、交流をすることは、本来自由にされるべきものと考えられる。

そうすると、親と面会をし、交流をするという利益は、それ自体が法的な保護に値するということができる(これに反する被告らの主張は採用することができない)から、合理的な理由もないのに、親と会って交流をするという子の機会を奪い、同感情等をいたずらに侵害することは、社会的相当性を逸脱するものとして、不法行為を構成するものと解すべきである」との判断がなされて、囲いこみが不法行為であると認定されているのです。

この判決の結論としては、被告らが長期にわたり親との面会を拒絶してきたことから、原告の被告らに対する慰謝料請求を認めたのです。

5. 親の囲いこみと戦うには?

親の囲い込みに関する裁判では、面会を拒絶する親族の行為や、それまでの事実経過等について様々な事情が考慮されます。

そのような親の囲い込みに関する事案では、親がすでに高齢であり事態の一刻も早い解決が望まれることに加え、親族間での衝突が大きいこと、囲い込みを行う親族による親の財産の使い込みがあり老人虐待が起きていることもあること、さらには、その後には、相続紛争が起きる場合が、多くみられます。

また、親の認知症が進行しているケースでは、成年後見の問題も併せた対処の必要が生じてきます。

老親が生きている期間に親との関係が断絶されてしまうと、悔やんでも悔やみきれない結果になるのでできるだけ早い対応が求められる事案です。

事案の性質から、保全手続を適切に利用することが、重要ですので、当事務所では、親の囲い込みの問題に関する裁判手続について相続紛争に経験豊富な弁護士が親身にご相談をさせて頂き、問題解決に向けた迅速な対応を心掛けています。

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